Vtuber――近年において、もはやこの概念はそう珍しいものではない。
以前まではその稀有にして奇抜なジャンルということもあり、風当たりが強かったが、先人らの活躍によって今や、10000人以上をも上回るVtuberが世に排出された。
V――Virtualの利点は、己の姿を人前に晒す必要がないということ。
配信してみたい、が自分の姿を晒すのはちょっと……、とこう思う輩はごまんといよう。
特に容姿に対し強いコンプレックスを持っているものならば特に、この心情は強い。
しかし、Vtuberだとコンプレックスは一切関係なくなる。
自分が思い描く理想の姿で活動できる、これが最大の利点と言って他ならないだろう。
巨乳でも人外娘、イケメンでも……などなど。すべてが己の思い描くがまま。
理想とする姿で活動できるのだから、これほど画期的なジャンルはまず他にはあるまい。
つい最近では、男性もかわいい女性のアバターを用いて活動することも多々見られるようになった。
かつてならば安いボイスチェンジャーで、明らかに中身が男だと容易にわかってしまうが――それが逆に面白いとして、捉える輩もむろんいる――近年ではそちらの技術も向上して今や、性別がどちらかが区別するのが極めて難しくなった。
とにもかくにも、Vtuberというジャンルは現代社会において欠かすことができない一種のエンターテイメントなのはもはや言うまでもなく、かく言う彼もまたそのエンターテイメントを楽しむ一人のリスナーだった。
『みんなーおはようでござるぅぅぅ……うぅ、眠たい』
「朝早くからご苦労だなぁ、この人」
画面越しの彼女――赤備えの甲冑を纏う姿は正しく侍そのもの。
もっとも、草摺はスカートのような形状になっていて、二の足を晒すというなんとも現代日本人向けな出で立ちであるが。濡羽色のポニーテールに黄と緑というオッドアイが特徴的なVtuberを彼――和泉雷志が知ったのは、本当に偶然によるものだった。
たまたま、metubueを起動させたらオススメに彼女があがっていた。
ライブ配信をしていたから、少し顔を出してみた。以上。
なんとなく、という実に曖昧すぎる理由で入っただけにすぎない。
『みんなはこれからお仕事でござるかぁ? 某も今からお仕事……あふぅ』
「めちゃくちゃ眠そうだな……こいつ、夜きちんと寝てないのか?」
何気なく、コメント欄の方を見やった。
彼女は――どうやらかなり人気のVtuberであるらしい。
チャンネル登録者数も、後少しで80万人を迎えつつある。
平日の朝ともあって、これから学校や仕事とあるだろうに視聴者数も7000人を突破していることから、このVtuberがどれだけ人気かは一目瞭然だ。
それだけ人気とあれば、コメントの流れが緩やかははずもなし。
《これから仕事だよ!》
《学校……行きたくない( ;∀;)》
《今日は休みー(^O^)》
《ニートですが何か?》
いや速すぎるだろう、と雷志は思った。
辛うじて読めたのはそれだけで、認識したころにはもう遥か上部へと流れていってしまう。
(本当に人気があるVtuberなんだな、この娘……)
最初は、単なる好奇心でしかなく、彼自身もどうせすぐにブラウザバックするだろうと自覚していた。
というのも、満足にこれまで特定の人物を応援したことがこの男には一度としてない。
飽き性だから、というわけでもなければ他人に興味がまるでない――多少は、そうかもしれないが――と、いうわけでもない。
強いて理由をあげるとすれば、入室した時と同様、なんとなくにすぎなかった。
そう言う意味では今回、雷志の中ではかなり長居している方だと言っても過言ではない。
加えてだんだんとこの少女侍Vtuberについて、興味を持ちつつあった。
『みなもお仕事に学校、大変でござるなぁ。だけどみんな、無茶はしてもいいけど無理をしたら駄目でござるよ? これは某とのお約束でござ――え? “この前朝の4時までゲーム配信してたじゃん”? それは……アレでござるよ。そう、アレ。負けられない戦がそこにあったがため、某は逃げることなく戦ったまでにすぎんでござる。敵前逃亡は某の配信じゃ打ち首獄門にござるよ、みなのもの』
《ありがたきお言葉じゃあ……( ノД`)シクシク…》
《大将も無理はしないでね!》
《これで今日も頑張って乗り切れますありがとう!》
《これからも足軽として応援していくから! 足軽サイコー!\(^o^)/》
『ふふふ、足軽のみなありがとうでござるぅ……ふわぁぁ』
「本当に眠そうだな……でも、いかに人気なのかがよくわかった」
Vtuberは、今やちょっとしたアイドルのようなものと言っても過言ではあるまい。
日々多忙な毎日よって心身共に多大なストレスを抱える現代日本人を癒す。
少なくとも雷志の中にはこのイメージ像が強くあったし、それは誇張表現だとも断言するのもやや早計だろう。
事実、大手Vtuber事務所が幕張メッセなどでライブをした、という事例がきちんとある。その際の入場数は国内問わず、遠路はるばるわざわざ海外から来訪したファンまでいるぐらいだと、雷志は小耳にはさんでいた。
個人勢か企業勢か、彼女がどちらに組するかは、路傍の石に等しき疑問である。
どちらにせよ、数多くの支持者がいる。雷志には、その事実さえあれば十分に事足りた。
『それじゃあ、某そろそろお仕事だから朝の配信はこの辺りで終わるでござるね~。みなのもの、また夜に配信すると思うからまた……いや、必ず招集に応じてほしいでござるよ。それじゃあ、おつかね~』
「――、っと。もうこんな時間か。俺もそろそろいくか……その前に」
雷志はチャンネル登録のボタンをトンッ、と軽くタップをして配信から退室した。
(そう言えば、名前ちゃんと見てなかったな……。まぁ、後で見りゃいいか)
彼女のことはこれからもっとたくさん知っていけばよかろう。
なかなか有意義な一時だったな、と雷志は思った。
以前まではその稀有にして奇抜なジャンルということもあり、風当たりが強かったが、先人らの活躍によって今や、10000人以上をも上回るVtuberが世に排出された。
V――Virtualの利点は、己の姿を人前に晒す必要がないということ。
配信してみたい、が自分の姿を晒すのはちょっと……、とこう思う輩はごまんといよう。
特に容姿に対し強いコンプレックスを持っているものならば特に、この心情は強い。
しかし、Vtuberだとコンプレックスは一切関係なくなる。
自分が思い描く理想の姿で活動できる、これが最大の利点と言って他ならないだろう。
巨乳でも人外娘、イケメンでも……などなど。すべてが己の思い描くがまま。
理想とする姿で活動できるのだから、これほど画期的なジャンルはまず他にはあるまい。
つい最近では、男性もかわいい女性のアバターを用いて活動することも多々見られるようになった。
かつてならば安いボイスチェンジャーで、明らかに中身が男だと容易にわかってしまうが――それが逆に面白いとして、捉える輩もむろんいる――近年ではそちらの技術も向上して今や、性別がどちらかが区別するのが極めて難しくなった。
とにもかくにも、Vtuberというジャンルは現代社会において欠かすことができない一種のエンターテイメントなのはもはや言うまでもなく、かく言う彼もまたそのエンターテイメントを楽しむ一人のリスナーだった。
『みんなーおはようでござるぅぅぅ……うぅ、眠たい』
「朝早くからご苦労だなぁ、この人」
画面越しの彼女――赤備えの甲冑を纏う姿は正しく侍そのもの。
もっとも、草摺はスカートのような形状になっていて、二の足を晒すというなんとも現代日本人向けな出で立ちであるが。濡羽色のポニーテールに黄と緑というオッドアイが特徴的なVtuberを彼――和泉雷志が知ったのは、本当に偶然によるものだった。
たまたま、metubueを起動させたらオススメに彼女があがっていた。
ライブ配信をしていたから、少し顔を出してみた。以上。
なんとなく、という実に曖昧すぎる理由で入っただけにすぎない。
『みんなはこれからお仕事でござるかぁ? 某も今からお仕事……あふぅ』
「めちゃくちゃ眠そうだな……こいつ、夜きちんと寝てないのか?」
何気なく、コメント欄の方を見やった。
彼女は――どうやらかなり人気のVtuberであるらしい。
チャンネル登録者数も、後少しで80万人を迎えつつある。
平日の朝ともあって、これから学校や仕事とあるだろうに視聴者数も7000人を突破していることから、このVtuberがどれだけ人気かは一目瞭然だ。
それだけ人気とあれば、コメントの流れが緩やかははずもなし。
《これから仕事だよ!》
《学校……行きたくない( ;∀;)》
《今日は休みー(^O^)》
《ニートですが何か?》
いや速すぎるだろう、と雷志は思った。
辛うじて読めたのはそれだけで、認識したころにはもう遥か上部へと流れていってしまう。
(本当に人気があるVtuberなんだな、この娘……)
最初は、単なる好奇心でしかなく、彼自身もどうせすぐにブラウザバックするだろうと自覚していた。
というのも、満足にこれまで特定の人物を応援したことがこの男には一度としてない。
飽き性だから、というわけでもなければ他人に興味がまるでない――多少は、そうかもしれないが――と、いうわけでもない。
強いて理由をあげるとすれば、入室した時と同様、なんとなくにすぎなかった。
そう言う意味では今回、雷志の中ではかなり長居している方だと言っても過言ではない。
加えてだんだんとこの少女侍Vtuberについて、興味を持ちつつあった。
『みなもお仕事に学校、大変でござるなぁ。だけどみんな、無茶はしてもいいけど無理をしたら駄目でござるよ? これは某とのお約束でござ――え? “この前朝の4時までゲーム配信してたじゃん”? それは……アレでござるよ。そう、アレ。負けられない戦がそこにあったがため、某は逃げることなく戦ったまでにすぎんでござる。敵前逃亡は某の配信じゃ打ち首獄門にござるよ、みなのもの』
《ありがたきお言葉じゃあ……( ノД`)シクシク…》
《大将も無理はしないでね!》
《これで今日も頑張って乗り切れますありがとう!》
《これからも足軽として応援していくから! 足軽サイコー!\(^o^)/》
『ふふふ、足軽のみなありがとうでござるぅ……ふわぁぁ』
「本当に眠そうだな……でも、いかに人気なのかがよくわかった」
Vtuberは、今やちょっとしたアイドルのようなものと言っても過言ではあるまい。
日々多忙な毎日よって心身共に多大なストレスを抱える現代日本人を癒す。
少なくとも雷志の中にはこのイメージ像が強くあったし、それは誇張表現だとも断言するのもやや早計だろう。
事実、大手Vtuber事務所が幕張メッセなどでライブをした、という事例がきちんとある。その際の入場数は国内問わず、遠路はるばるわざわざ海外から来訪したファンまでいるぐらいだと、雷志は小耳にはさんでいた。
個人勢か企業勢か、彼女がどちらに組するかは、路傍の石に等しき疑問である。
どちらにせよ、数多くの支持者がいる。雷志には、その事実さえあれば十分に事足りた。
『それじゃあ、某そろそろお仕事だから朝の配信はこの辺りで終わるでござるね~。みなのもの、また夜に配信すると思うからまた……いや、必ず招集に応じてほしいでござるよ。それじゃあ、おつかね~』
「――、っと。もうこんな時間か。俺もそろそろいくか……その前に」
雷志はチャンネル登録のボタンをトンッ、と軽くタップをして配信から退室した。
(そう言えば、名前ちゃんと見てなかったな……。まぁ、後で見りゃいいか)
彼女のことはこれからもっとたくさん知っていけばよかろう。
なかなか有意義な一時だったな、と雷志は思った。