俺はまた学校へ行かなくなった。
でもみんなにメールを返すようにしてる。
「心配だよ?早く来てね♡」と送ってきた花岡には『ありがとう。頑張るよ』と思ってもない事を。
「どうした?」と送ってきた陽飛には『何でもない』と当たり障りのない事を返信した。
1番メールが来て欲しい人からはこなかった。
もちろん自業自得。
でもやっぱり会いたくて心が音羽さんを求めている。
きっと拒絶されるに決まってるのに。
忘れろ。お互いに忘れなきゃいけない。
なのに、何で俺の1番の秘密を話してしまったんだろう。
その答えは分かる。
彼女なら認めてくれそうだったから話したんだ。
小さい頃は心が見える事が普通だと思っていた。
だから人前で話していたりしていた。
百発百中で思ってる事を言い当てるから親戚や友達からは気味が悪い子として扱われた。
『とうや、怖ーい!おばけだー!!』
そんな言葉をたくさん聞いた。
気味の悪い俺を両親だけは俺を受け止めてくれた。
でも父さんは受け止めてくれてはいたけどそれには理由があった。
父さんは俺を金儲けに使おうとしたのだ。
人の顔を見るだけで本音がわかる自分の子供を商売道具として扱った。
老若男女問わずたくさんの人の本音を見てきた俺は幼いながらに人間不信になった。
血の繋がっている父さんだって俺を息子として見ていなかったから。
お腹が空いたと言えば殴られ、それで泣けば泣き止むまで蹴られた。
父さんは俺の能力を知ってからヒトが変わったようになった。
俺の能力で稼いだお金を使いお酒を買い、何本も飲み、母さんと俺に暴力を振るった。
母さんは俺を商売道具にするな
殴るな、蹴るな、お金を使いすぎるなと言ってくれた。
でもその度にDVを受けた。
小学4年生の冬、隣の家の人の通報のおかげで俺と母さんは保護され母さんと父さんは離婚した。
それで安心かと思いきや、母さんは父さんに車で轢かれた。
父さんからは頭が痛くなるほどの恨みや怒り、憎しみが見えた。
母さんは病院に運ばれて一命は取り留めたものの、下半身麻痺になり
車椅子が必要不可欠な生活を送る事になった。
一方、父さんは逮捕されて今はどこにいるのかすらわからない。
母さんにはその能力を誰にも言うなとキツく教えられてきた。
俺自身も能力のせいで散々な目にあってきたから誰にもバレないようにした。
それでもやっぱり口が滑ったりしてバレてしまった友達もいる。
いつも『キモい』『怖い』『おかしい』って言われてきた。
その度に母さんは俺に大好きだと言って優しく抱きしめてくれる。
母さんからの本音には嘘がない。
唯一安心できるんだ。
そんな母さんに似ている人が現れたんだ。
心が白くて本音に嘘がない。
それが音羽那月だった。
彼女は本当にいい人だった。
俺のせいで流れた噂の事も許してくれた。
俺は音羽さんが好きだ。
それは"母さんに似ているから"ではなくて1人の女性として好きなんだ。
音羽さんに好きだと言われて本当に泣きそうだった。
このまま「俺も」と言って付き合いたかった。
でも俺は変だから、異常だから彼女に迷惑をかけてしまう。
彼女は1度も汚されたことのない美しい純白だ。
そんな彼女にこんな俺は似合わない。
俺は音羽さんから傷つける前に離れるべきだ。
俺と音羽さんは住んでる世界が違うんだ。
最近、翔夜が学校に来ない。
メールしても『大丈夫だ』『何でもない』としか返ってこない。
本性がバレるのを極度に嫌がる翔夜が無断でサボっているはずがない。
きっと何かがある。
家に行ってみるか。
翔夜の家は一軒家だ。
とりあえずインターホンを鳴らすか。
ピンポーン
「はい」
猫かぶってない翔夜の低めの声。
「翔夜、あーけーてー!」
「無理、帰れ」
冷てぇな。ったくよぉ。
「じゃあいいや、この家の合鍵の場所知ってるし」
ガチャ
「来いよ」
久しぶりに見た翔夜は髪の毛が伸びて少しワイルドになった気がする。
「どうもどうも!開けてくれて嬉しいですわ!ちなみに本当は合鍵の場所知らないけど」
「チッ ふざけんなよお前」
怖いな。こっちはお前に元気を出してほしくて無理やり明るくしてやってんのに。
「ごめんて笑」
俺が謝るたび、翔夜はいつも困った笑顔をする。それは昔からある翔夜の癖だ。
「何で学校来ないんだよ。心配だ」
ここからが本題だ。
部屋が静まる。
「色々あんだよ」
だからなんだよ。
「俺には話せないのか?」
賭けに出るか。
翔夜は意外と優しくて人情深いんだ。
「そんなわけじゃねぇけど」
翔夜は困っていた。だからといって引くわけないけど。
「じゃあ何だよ。俺は信頼できないか?話してほしい」
「俺がどんな事を言っても友達のままでいてくれるか?」
翔夜は怯えたような目でこちらを見つめてきた。
「あったりまえだ!何なら親友になってやるよ」
胸を張って言う。
それでも翔夜は不安げだった。
とりあえず話してもらわなきゃな。
「話せよ」って言おうとしたら翔夜は自分から話し始めた。
「も、もし俺が人の心が見えるって言ったらどうする?」
面白い導入だ。さては国語点数高いな!
「今年の国語の点数は95点だったよ」
は...?
「導入なんかじゃない。俺は本当にここが見えるんだ」
え、すご。俺が思ってる事全部当たってる。
翔夜はバカみたいな表情をしていた。
そっか!これ全部思ってる事伝わってんのか!
やっほー!わかる?
「.....わかるよ」
すっげえ!アニメみたいだ。
自己紹介してよ!
「杉浦翔夜。血液型はB型で好きな食べ物はみかん」
天才だ....!
「お前すっげえな!!」
「子供かよ」
そう言いつつも翔夜は嬉しそうだった。
「お前、俺のこと軽蔑しない?」
翔夜はこれまで軽蔑されて否定され続けてきたんだな。それがわかる一言だった。
「あったりまえだ!ばか!」
そう言った俺の目からは大粒の涙がこぼれてきた。恥ずかしい。
「何で泣いてんだよ!」
お前も泣いてるけどな。翔夜。
「これからは俺ら親友な!」
「ありがとう。陽飛」
俺たちはハグをした。
それから俺は一言も喋らなかった。
けど、翔夜は楽しそうに1人で話していた。
翔夜の能力は案外便利だと思った。
他の人に聞こえずに一方的に意思疎通できるんだから。
今までよく頑張ってきたな。大変だったな。
お願いだから1人で抱え込むなよ。
何かあれば俺を頼れ。
「宮舘くんっ!」
久しぶりに学校に来た私は杉浦くんと仲のいい宮建くんと話していた。
「何?那月ちゃん」
「杉浦くんの家知ってたら教えてくれない?」
学校にも来ないメールも無理。
だったら家に行けばいい。
「いいよー、でも多分あいつ出ないと思う」
「何で?」
「だって那月ちゃん、避けられてんでしょ?インターホンのカメラで見た瞬間、居留守するよ」
確かに、それは考えていなかったな。どうしよう。
「あっ!じゃあさ......」
なにそれ!めっちゃいい!
「じゃあ協力よろしくおねがいします!」
「もちのろん!」
宮舘くんの提案してくれた作戦は今日決行する事になった。
成功するかな?少し不安だけど杉浦くんの親友が言うんだから大丈夫なはず!
まず下準備として「今日家行くね」とメールしておく。
もちろん宮舘くんのスマホで。
そしてインターホンを押す。これも宮舘くんが。
よし、チャンスは1回だけだ。
杉浦くんが玄関のドアを開ける。
その途端、私と宮舘くんはダッシュで玄関まで走る。
「ちょ、おいっ!」
宮舘くんが杉浦くんを押さえてる間に私は家の中に入った。
ちょっと手荒で乱暴なやりかただけど仕方ないだろう。
「何やってるのかしら?」
声の方を見ると車椅子に乗った女性がいた。
「母さん」
お母さん!?
修羅場だ〜。
「お友達?息子の翔夜がお世話になっています」
「こ、こんにちは!音羽那月と言います!」
やばい、この状況を見られたら好感度めっちゃ低くなっちゃうよ。
「とりあえず家の中入ってくださいな」
「「お邪魔します」」
後ろで杉浦くんがため息を吐く音がした。
お茶とお菓子が目の前に並ぶ机の周りに4人が座った。
「どうしてあんな事になったのか聞いていいかしら」
目の前に座る杉浦くんのお母さんは微笑を浮かべ聞いてきた。
ここは正直に言うしかない。
「翔夜くんに避けられていたんです。どうしても話したくてあんな事に」
初めて下の名前で呼んだ。「とうや」いい響きだ。
「あら、翔夜こんなに可愛い子を避けていたの?」
可愛いなんて!嬉しいな。
「ちがっ!それには色々事情があって」
杉浦くん、焦ってるのだろうか。声がうわずってる。
「ごめんねぇ、翔夜が中々話さないから話してくれるかな?」
え、これは話していいのかな。
「翔夜くんと私は仲良くて1度噂になったんです。それが悪質なもので私が翔夜くんの事を避けていたんです。
色々あって仲直りのようなものをしたのに翔夜くんは一方的に私に大切な秘密を打ち明けていなくなったんです」
わかりにくいかな?
「なるほどね、その大切な秘密というのは能力のことかな」
「は、はい!」
いきなり能力の話になったからびっくりしちゃった。
「いなくなったって言うのは?」
「学校に来ないしメールもブロックされて物理的に距離を置かれました」
杉浦くんはずっと下を向いていて宮舘くんはニコニコしている。
「翔夜、学校には行きなさい!」
さっきまで優しそうだったお義母さんが少し怖くなっている。
杉浦くんは怯えてる。可愛い〜!
「翔夜、そして那月ちゃんと陽飛くん。人と比べちゃダメ。自分は自分だから。特に翔夜は思い込みが激しすぎる。悪いところよ。心が見えるならちゃんとそれを活かして。さぁ後は3人だけで話しなさいね」
そういうとお義母さんは別の部屋に行った。
「......とりあえず俺の部屋行こう」
「うん」
初めての杉浦くんのお家は何とも言えない気まずさがあった。
変わらず私たちに間に沈黙と気まずさが流れた。
「........」
宮舘くんが口を開く。
「翔夜、もうちゃんと話したら?」
ちゃんと話してほしい。
「杉浦くん、教えて?話してほしい」
杉浦くんは困ったような迷っているような表情を浮かべていた。
「俺の存在で音羽さんを困らせた。だから避けて関わらないようにした」
そう話してくれた杉浦くんは悲しそうに目を伏せた。
「何で?私話してないよね?」
私は杉浦くんの能力を怖いって思ったことない。
杉浦くんの存在に困ったことも1度もない。
なのに何で一方的にそんな事をするんだろうか。
「.....ごめん」
「私、杉浦くんのこと好きって言ったよね?」
恥ずかしい。杉浦くんは恥ずかしい事を言わせる天才だ。
私も杉浦くんも顔が赤くなる。
「何で俺なんか....」
やっぱり杉浦くんは自己肯定感が低すぎる。
「俺なんか、じゃない!杉浦くんには何度も助けられたし救われた。だから好きになった。お願いだからそんな事言わないで」
俯いた杉浦くんを見つめていた私。
「だって俺がいたから音羽さんはからかわれてたんだよ。俺がいなかったら音羽さんは苦しまずに済んだんだ」
私には心が見えないけど杉浦くんは本気でそう思っている。そう感じた。
「私の心見て。見えるんでしょ?見てよ」
杉浦くんと出会ってから私は積極的になった気がする。
「私は、本気で杉浦くんのことが好きだよ」
杉浦くんに対して私は大好きという気持ちがどうしようもなく溢れてくるんだ。