" If " I could fly for you

「音羽さんがどれだけ外面良くしても俺に本音は隠せない。わかるんだ」
本当なの?
「この噂のことは本当にごめん、反省してる。だからもう関わらないようにする。ごめん。それじゃあ」
そう言って公園から出て行った杉浦くんには心が読めるのらしい。
冗談とか?
でも、彼があんな嘘をつくはずない。
彼に聞きたい事が多すぎて慌てて追いかけるけどもういなくて。
私は夕陽が差し込む中公園に1人、佇んでた。
公園に来た音羽さんは汗だくで息を乱していた。
走ってきてくれたんだ。嬉しくなる。
音羽さんは俺のことを心配してくれていた。
彼女の心には愛情があった。
「音羽さんは何してたの?」
わかってるはずなのにこの質問をした俺は卑怯だ。
「好きな人を助けるために飛んできたよ」
「好きな人って?」
困ってる音羽さんは頬を赤らめ「す、杉浦くん」と答えた。
やっぱり。正直嬉しい。
でもそれを表に出してはいけない。
彼女に心が読めることを話したい。
きっと怖がるだろう。俺から離れていくだろう。
それなら俺から離れてやる。
「何で?」
音羽さんの心の中に浮かんだ文字を声に出して読む。
「「好きだから」」
音羽さんは驚いて色々な事を考えていた。
声被ったよね?エスパー?って。
「俺はエスパーではないかな」
動揺してる音羽さんは『声に出ていたかな』とか思っていた。
「声には出てない、見えただけ」
言うのが怖い。否定されたくない。
でも音羽さんを傷つけた俺は否定されても、罵倒されても耐えるべきだ。
「音羽さんの好きな人は心が見えるみたいだ」
言った瞬間、音羽さんの考えている事がわからなくなった。
きっと何も考えられないくらい驚いているんだ。
さらに追い討ちをかけるように俺は言った。
「音羽さんがどれだけ外面良くしても俺に本音は隠せない。わかるんだ」
本当なの?
心の中でそう思っている音羽さんはその動揺を隠しきれず目に現れていた。
「この噂のことは本当にごめん、反省してる。だからもう関わらないようにする。ごめん。それじゃあ」
おかしいと思うけど。最低だけど。
もっと関わりたいと思っているけど。
そう言って公園から出た俺は涙を堪えながら家路についた。
家に帰った後、俺は自分のスマホから音羽さんに関するもの全てを消した。
音羽さんとのメール、音羽さんに教えてもらったラーメン屋さんのデータ。
それ以外にもたくさんあるけど全部捨てた。
悲しかった。泣きたかった。
でも俺に泣く資格はない。
大切な音羽さんを傷つけたんだから。
俺にこの能力がなかったらこんな事にならなかったのかな。
信じられなかった。
杉浦くんが心を読めるなんて。
でも真剣な眼差し。
真面目な彼の性格。
それだけで嘘ではないことは確かだ。
杉浦くんに聞きたいことがたくさんある。
いつからなのか。
どういう感じで見えるのか。
最初に見えた時どう思ったのか。
誰が知ってるのか。
私が杉浦くんのこと好きだと気づいたのはいつからなのか。
これを聞いたら杉浦くんは困ってしまうだろうけど気になってしまう。
私は心が見えないから杉浦くんの気持ちはわからない。
困っているなら力になりたいし、悲しんでるなら支えたい。
子供の言ってるようなことかもしれないけど心からそう思っている。
杉浦くんは今、何をしているんだろう。
夜、杉浦くんにメールをしようとしたけど杉浦くんの言っていた事を思い出した。
『この噂のことは本当にごめん、反省してる。だからもう関わらないようにする』
関わらないようにするってなんだろう。
もしかしたらと思い杉浦くんにスタンプをプレゼントしたらできなかった。
つまりブロックされたんだ。
どうしよう。何もできない。不安だ。
早く会いたい。
そういえば早羽からメールが来ていた。
内容はあの事に関する内容だ。
『那月!今日は本当にごめんなさい。嫌われてもいい事をしたし自覚もある。許してなんて言わないから謝らせてほしかった。本当にごめんなさい。これ見たら返信してほしいです』
私はすぐに返信をしようと文字を打ちこんだ。
『謝らなくても大丈夫だよ。もし謝るなら杉浦くんにね!この前の早羽がしたことは私の為だったし仕方ない。気にしないで今度杉浦くんに謝りに行こ!私も早羽に頼りっぱなしだったし心配させてごめんね』
書き終わって送ったらすぐ既読がついた。
『ありがとう!それとね、杉浦最近学校1日しか来てないよ』
え!?私はこの前のことがあり不登校気味になっていてわからなかったけど杉浦くんも学校来てないんだ。
『何で?』
『わからない、ごめん』
そっか。
『大丈夫!ありがと!』
なんか心配だな。
俺はまた学校へ行かなくなった。
でもみんなにメールを返すようにしてる。
「心配だよ?早く来てね♡」と送ってきた花岡には『ありがとう。頑張るよ』と思ってもない事を。
「どうした?」と送ってきた陽飛には『何でもない』と当たり障りのない事を返信した。
1番メールが来て欲しい人からはこなかった。
もちろん自業自得。
でもやっぱり会いたくて心が音羽さんを求めている。
きっと拒絶されるに決まってるのに。
忘れろ。お互いに忘れなきゃいけない。
なのに、何で俺の1番の秘密を話してしまったんだろう。
その答えは分かる。
彼女なら認めてくれそうだったから話したんだ。
小さい頃は心が見える事が普通だと思っていた。
だから人前で話していたりしていた。
百発百中で思ってる事を言い当てるから親戚や友達からは気味が悪い子として扱われた。
『とうや、怖ーい!おばけだー!!』
そんな言葉をたくさん聞いた。
気味の悪い俺を両親だけは俺を受け止めてくれた。
でも父さんは受け止めてくれてはいたけどそれには理由があった。
父さんは俺を金儲けに使おうとしたのだ。
人の顔を見るだけで本音がわかる自分の子供を商売道具として扱った。
老若男女問わずたくさんの人の本音を見てきた俺は幼いながらに人間不信になった。
血の繋がっている父さんだって俺を息子として見ていなかったから。
お腹が空いたと言えば殴られ、それで泣けば泣き止むまで蹴られた。
父さんは俺の能力を知ってからヒトが変わったようになった。
俺の能力で稼いだお金を使いお酒を買い、何本も飲み、母さんと俺に暴力を振るった。
母さんは俺を商売道具にするな
殴るな、蹴るな、お金を使いすぎるなと言ってくれた。
でもその度にDVを受けた。
小学4年生の冬、隣の家の人の通報のおかげで俺と母さんは保護され母さんと父さんは離婚した。
それで安心かと思いきや、母さんは父さんに車で轢かれた。
父さんからは頭が痛くなるほどの恨みや怒り、憎しみが見えた。
母さんは病院に運ばれて一命は取り留めたものの、下半身麻痺になり
車椅子が必要不可欠な生活を送る事になった。
一方、父さんは逮捕されて今はどこにいるのかすらわからない。
母さんにはその能力を誰にも言うなとキツく教えられてきた。
俺自身も能力のせいで散々な目にあってきたから誰にもバレないようにした。
それでもやっぱり口が滑ったりしてバレてしまった友達もいる。
いつも『キモい』『怖い』『おかしい』って言われてきた。
その度に母さんは俺に大好きだと言って優しく抱きしめてくれる。
母さんからの本音には嘘がない。
唯一安心できるんだ。
そんな母さんに似ている人が現れたんだ。
心が白くて本音に嘘がない。
それが音羽那月だった。
彼女は本当にいい人だった。
俺のせいで流れた噂の事も許してくれた。
俺は音羽さんが好きだ。
それは"母さんに似ているから"ではなくて1人の女性として好きなんだ。
音羽さんに好きだと言われて本当に泣きそうだった。
このまま「俺も」と言って付き合いたかった。
でも俺は変だから、異常だから彼女に迷惑をかけてしまう。
彼女は1度も汚されたことのない美しい純白だ。
そんな彼女にこんな俺は似合わない。
俺は音羽さんから傷つける前に離れるべきだ。

俺と音羽さんは住んでる世界が違うんだ。