この国には世界中でたった1本、とても不思議な木があるらしい。
それは1度にたくさんの果実を実らせ、最後の1つが落ちた瞬間にまたたくさんの果実が実る。
ただし、その最後の1つだけは絶対にもぎ取ってはいけない、自然に落ちるのを待たなければいけないと言い伝えられている。

わたしはその木を実際に見てみたいと思い、愛犬とともに旅に出た。
そして数年後、やっと見つけることができた。
地面にはたくさんの果実が落ちていて、木にはあと3つの果実がぶら下がっていた。
桃に似た形で良い香りのする果実を1つもぎ取り齧ってみた。
食感も桃に似ていて甘酸っぱくとてもおいしい。
食べている間に1つ落ちてしまったので、残りは1つ。
もう1つ食べたいと思ったが、これはもぎ取ってはいけない。
すると愛犬が木に飛びつき最後の1つを取った瞬間、木の幹に大きな穴があき愛犬が飲み込まれてしまった。
本当に一瞬の出来事で、わたしは一歩も動けなかった。
気付くと木にはすでにたくさんの果実が実っていて、その1つ1つから犬の鳴き声が聞こえる。

あの時果実を食べたわたしは年をとることなく200年ほどが経った。
今も果実からは犬の鳴き声が聞こえる。