その日から、わたしは自分を変えていった。

 何事にも一生懸命になることはなくなったし、努力することを諦めた。無理して笑わなくなったし、伯母さんたちに媚を売るのも諦めた。自分の体調に気を遣うことをやめた。夢を見ることもやめた。全部、やめた。諦めた。

 そうすることでわたしの身からはもう錆は出ない。
 出ない、はずだった。

 家でも学校でもどんどん孤立していくのを感じながら、わたしはどこかほっとしていた。


「あんた、地頭はいいんだからここに行きなさい」

 ある日、伯母さんが一冊のパンフレットを渡してきた。それはこの家から遠く離れた地にある、公立の進学校のものだった。

 これといった魅力も感じない学校案内に目を滑らせながら、そういうことか、と伯母さんが言わんとしていることを察した。
 もう、いい加減、厄介払いしたいんだ。


「わかりました」

 素直に受け入れれば、伯母さんは当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らした。

 元よりわたしに拒否権なんてない。わたしの拒否権はこの家に来てから、こんな生活に耐えられない、と一足先に逃げ出してしまった。わたしはただ黙ってそれを見つめていた。

 そしてしばらくの間は勉強に専念して。
 三月には志望校――伯母さんの志望校への入学が決まった。

 このときばかりは伯母さんもわたしをぎゅっと抱きしめて、よくやったと褒めてくれた。
 それはここに来てから初めて、本当に初めてわたしに見せてくれた笑顔だった。

 あともう少し早くこうしてくれていたら。そうしたらわたしも少しは喜んでいたかもしれない。伯母さんがわたしを恨んでいることを差し置いても、心が軽くなっていたかもしれない。

 だけどもう、遅かった。息苦しいなと思うだけで、なにも感じなかった。

 こうしてわたしはまた帰る家を失った。