俺達が滞在しているガルン町から前線までには王都よりも数倍の距離がある。
ルリくんが前線に着くまでの間、王都で俺達に接触したいというビズリオ・ジークラム様の対応をする事にした。
最初にルナちゃんに手紙を運ばせたら、意外にもその日に手紙の返事が返って来た。
俺達の手紙は、用件を尋ねる事だったので、きっとその返事が書かれているのだろう。
ルナちゃんが安全な宿屋に戻ったので、手紙を読み上げて貰う。
【此度の応答に感謝する。事前に告げていたように、俺はインペリアルナイトの一人、ビズリオと言う。先日接触した者は今まで出会った暗殺者の中でも群を抜いて強さを感じた。その事でお前達が遥か高みに至っている暗殺者ギルドという事で話を進めよう。俺が依頼するのは暗殺ではなく、諜報の依頼がしたい。それ相応の報酬も支払うつもりだ。内容に関しては依頼を受けて貰える時に伝えよう。では、良い返答を待っている――――――以上だよ。ソラお兄ちゃん】
ルナちゃんが手紙を読み上げてくれた。
最初に斬り掛かって来なかった時点で、こちらを戦力に加えたいと予想していたミリシャさんの言う通りになった。
「俺としては、ここでインペリアルナイトの一人と繋がりを持てるのはいいと思う。それに――――」
「それに?」
「…………今までならハレイン様に恩義を感じていたし、今も恩義を感じている。でも、もし俺達を戦争の種にしたのであれば、ハレイン様への恩義は十分返した事になると思う」
「それは私も同意」
フィリアの同意で、他のメンバーも大きく頷き同意してくれる。
ハレイン様からはとても大きな恩義を受けている。
それを裏切りたくはない。
ただ…………戦争により、多くの人が傷つくのは事実だ。
そんな戦争を起こさせる為に、俺達を利用したのなら、報いとは言わないが、これ以上俺達はハレイン様の言いなりにはなりたくはない。
それは皆も同じ思いのようで良かった。
「ソラくん。恐らくだけど、ビズリオ様はハレイン様の件で私達を雇いたいんだと思う」
「ハレイン様の件……ですか?」
「ええ。王城の警備もあるだろうけど、真っ先にルナちゃんに駆けつけて声を掛けたって事は、現在の保守派には優秀な諜報員がいないと見える。もし優秀な諜報員がいるのなら、そもそも戦争が起きるまでに私達『銀朱の蒼穹』に接触してきてもおかしくないからね」
なるほど……ミリシャさんの言う事はとても信憑性が高そうだ。
「もしかしたら、ルナちゃんに働いて貰わないといけないかも知れませんね」
【私なら大丈夫! ビズリオ様に見つかった時も、余裕を持って逃げられたから問題ないよ!】
俺達のこの会話は念話も通しているので、ルナちゃんにもルリくんにも聞こえている。
「では、ルナちゃんには予定外に働いて貰う事になるけど、ビズリオ様に接触します」
「「「はい!」」」
そして、一通の手紙を持ったルナちゃんに直接持って貰う事にした。
◇
ビズリオの執務室。
――ガチャッ
執務室にある大きな窓の鍵が開く音が響いた。
既に音が聞こえる前に、ビズリオはその手に愛剣を手にしている。
ゆっくりと開いた窓から、一つの影が部屋の中に入って来る。
影の塊から、一人の黒い装束の女性が姿を現した。
「初めまして、ビズリオ様。わたくしは『シュベスタ』と申します。主から手紙をお持ちしました」
『シュベスタ』と名乗った女性は、ゆっくり立ち上がり、一斉の殺気や敵意一つ見せず、手に持った手紙を優しく机の上に運んだ。
その間、ビズリオは常に警戒している。
もしも、この相手があの男の策略かも知れない為、警戒は緩めない。
手紙を置いた女性は、現れた窓の近くに移動して、跪いた。
彼女が如何に強くとも、この距離で暗殺はもう無理だろう。
そう判断したビズリオは、彼女が持って来た手紙に目を移した。
「此度、我々『シュルト』を指名して頂きありがとうございます。先日は部下に大変失礼をしました。この場を借り、団長であるわたくし『ヒンメル』が謝罪申し上げます。さて、先日ビズリオ様の手紙にて我々に諜報を依頼したいとの事でしたので、是非とも受けさせて頂きたく、目の前にいる『シュベスタ』に何なりとお申し付けください。彼女には既にこの手紙の内容も伝えております」
手紙を読んだビズリオは考え込んだ。
この手紙がここに来るのに掛かった時間はたったの数時間。
夕方前に指定された場所に手紙を置いた。
なのに、その返事が返ってくるまで、数時間しか経っていない。
つまりこれは、元々自分を狙った行為だったのか。
事前に予想を立てて、この手紙を先回りして作っておいて、彼女に運ばせた可能性が高い。
何故なら、この王都にここまでハイレベルな暗殺者はいないからだ。
更に『シュルト』という集団の名前も初めて聞く。
もしかしたら、王国の集団ではなく、隣国、もしくは帝国…………いや、現在戦争中を考えれば、その真逆にいる『アポローン王国』の可能性が一番高いだろう。
「ひとまず了承してくれた事に感謝しよう。シュベスタと言ったな?」
「はっ」
「では、これから指定する場所に向かって貰おう。出来れば物証を手にして来てくれ」
ビズリオは、目の前のシュベスタにある場所に潜み、とある物を盗み出して来て欲しいと依頼をした。
ルリくんが前線に着くまでの間、王都で俺達に接触したいというビズリオ・ジークラム様の対応をする事にした。
最初にルナちゃんに手紙を運ばせたら、意外にもその日に手紙の返事が返って来た。
俺達の手紙は、用件を尋ねる事だったので、きっとその返事が書かれているのだろう。
ルナちゃんが安全な宿屋に戻ったので、手紙を読み上げて貰う。
【此度の応答に感謝する。事前に告げていたように、俺はインペリアルナイトの一人、ビズリオと言う。先日接触した者は今まで出会った暗殺者の中でも群を抜いて強さを感じた。その事でお前達が遥か高みに至っている暗殺者ギルドという事で話を進めよう。俺が依頼するのは暗殺ではなく、諜報の依頼がしたい。それ相応の報酬も支払うつもりだ。内容に関しては依頼を受けて貰える時に伝えよう。では、良い返答を待っている――――――以上だよ。ソラお兄ちゃん】
ルナちゃんが手紙を読み上げてくれた。
最初に斬り掛かって来なかった時点で、こちらを戦力に加えたいと予想していたミリシャさんの言う通りになった。
「俺としては、ここでインペリアルナイトの一人と繋がりを持てるのはいいと思う。それに――――」
「それに?」
「…………今までならハレイン様に恩義を感じていたし、今も恩義を感じている。でも、もし俺達を戦争の種にしたのであれば、ハレイン様への恩義は十分返した事になると思う」
「それは私も同意」
フィリアの同意で、他のメンバーも大きく頷き同意してくれる。
ハレイン様からはとても大きな恩義を受けている。
それを裏切りたくはない。
ただ…………戦争により、多くの人が傷つくのは事実だ。
そんな戦争を起こさせる為に、俺達を利用したのなら、報いとは言わないが、これ以上俺達はハレイン様の言いなりにはなりたくはない。
それは皆も同じ思いのようで良かった。
「ソラくん。恐らくだけど、ビズリオ様はハレイン様の件で私達を雇いたいんだと思う」
「ハレイン様の件……ですか?」
「ええ。王城の警備もあるだろうけど、真っ先にルナちゃんに駆けつけて声を掛けたって事は、現在の保守派には優秀な諜報員がいないと見える。もし優秀な諜報員がいるのなら、そもそも戦争が起きるまでに私達『銀朱の蒼穹』に接触してきてもおかしくないからね」
なるほど……ミリシャさんの言う事はとても信憑性が高そうだ。
「もしかしたら、ルナちゃんに働いて貰わないといけないかも知れませんね」
【私なら大丈夫! ビズリオ様に見つかった時も、余裕を持って逃げられたから問題ないよ!】
俺達のこの会話は念話も通しているので、ルナちゃんにもルリくんにも聞こえている。
「では、ルナちゃんには予定外に働いて貰う事になるけど、ビズリオ様に接触します」
「「「はい!」」」
そして、一通の手紙を持ったルナちゃんに直接持って貰う事にした。
◇
ビズリオの執務室。
――ガチャッ
執務室にある大きな窓の鍵が開く音が響いた。
既に音が聞こえる前に、ビズリオはその手に愛剣を手にしている。
ゆっくりと開いた窓から、一つの影が部屋の中に入って来る。
影の塊から、一人の黒い装束の女性が姿を現した。
「初めまして、ビズリオ様。わたくしは『シュベスタ』と申します。主から手紙をお持ちしました」
『シュベスタ』と名乗った女性は、ゆっくり立ち上がり、一斉の殺気や敵意一つ見せず、手に持った手紙を優しく机の上に運んだ。
その間、ビズリオは常に警戒している。
もしも、この相手があの男の策略かも知れない為、警戒は緩めない。
手紙を置いた女性は、現れた窓の近くに移動して、跪いた。
彼女が如何に強くとも、この距離で暗殺はもう無理だろう。
そう判断したビズリオは、彼女が持って来た手紙に目を移した。
「此度、我々『シュルト』を指名して頂きありがとうございます。先日は部下に大変失礼をしました。この場を借り、団長であるわたくし『ヒンメル』が謝罪申し上げます。さて、先日ビズリオ様の手紙にて我々に諜報を依頼したいとの事でしたので、是非とも受けさせて頂きたく、目の前にいる『シュベスタ』に何なりとお申し付けください。彼女には既にこの手紙の内容も伝えております」
手紙を読んだビズリオは考え込んだ。
この手紙がここに来るのに掛かった時間はたったの数時間。
夕方前に指定された場所に手紙を置いた。
なのに、その返事が返ってくるまで、数時間しか経っていない。
つまりこれは、元々自分を狙った行為だったのか。
事前に予想を立てて、この手紙を先回りして作っておいて、彼女に運ばせた可能性が高い。
何故なら、この王都にここまでハイレベルな暗殺者はいないからだ。
更に『シュルト』という集団の名前も初めて聞く。
もしかしたら、王国の集団ではなく、隣国、もしくは帝国…………いや、現在戦争中を考えれば、その真逆にいる『アポローン王国』の可能性が一番高いだろう。
「ひとまず了承してくれた事に感謝しよう。シュベスタと言ったな?」
「はっ」
「では、これから指定する場所に向かって貰おう。出来れば物証を手にして来てくれ」
ビズリオは、目の前のシュベスタにある場所に潜み、とある物を盗み出して来て欲しいと依頼をした。