冬の寒空の下でも、公園に遊びに来た園児たちは楽しそうに追いかけっこや遊具に夢中になっている。鼻先や頬が赤くなってくる頃には、保育士の号令で集まって列になって園に戻っていく。
 賑やかで微笑ましい様子を横目に、穂香と敷島は入れ替わるようにして公園に入っていった。
「ガキって公園で遊ぶんだな」
「え? 普通でしょ?」
「ちょっと前まで外出禁止だっただろ」
「ああ、そっか。でも友達と会えなかった分、外で遊べることが楽しいんじゃないかな」
 静まった公園には、遊んだまま残された砂の山や、ブランコが不規則に揺れている。
 近くのベンチに横並びで座ると、穂香はリュックからランチバッグを取り出す。敷島も、道中にあったコンビニで買ったおにぎりとお湯の入ったスープカップをそっと置くと、一度手を合わせてから食べ始めた。ビニール袋には梅と鮭のおにぎりがそれぞれ入っており、少し迷ってから梅のほうを取って食べ始める。途端に顔をすぼめたので、梅の酸っぱさに驚いた様子だった。
穂香もスープジャーの蓋を開けて、湯気の立つスープをすくった。今日は珍しく洋食にしたこともあって、具材がたっぷり入ったミネストローネに、ペンネパスタを加えてある。ボリュームもあり、おにぎりを作る手間が省けるので重宝している。
「藤宮って、旨そうに食うよな」
「へっ⁉」
「つか、毎日作ってんの?」
「う、うん。汁物は朝ごはんと一緒だから、大体味噌汁だけど」
「十分だろ。俺はいつもコンビニだし。……それにしても、ひどいよな。昼飯を食わせてから追い出せばいいのに」
「でも敷島くん、購買で買う予定だったんでしょう?」
「まぁな。確かに、一度コンビニに行かせるくらいなら帰したほうが学校側は楽か」
 悪態をつきながら、おにぎりの包装を器用にはがして一気にかぶりついた。
 学校で騒ぎを起こした森崎はその後、教師数名がかりで抑え込み、警察に連行されていった。
 半年前、藤宮穂香に取材をしたいと言ってきた記者らに対し、学校側は名刺をすべてもらって一覧表を作り、すぐ追い返せるように準備をしていた。
 それを懸念していたのだろうか、今回取材と評して入校を許可した事務員によると、偽名で伝えられていたことから、半年前に突撃してきたジャーナリストの一人と気付かなかったという。
 顔写真でも撮っておけば防げた可能性はあると、保健室にやってきた葉山先生は穂香に頭を下げ、学校の指示で二人はそのまま早退することになった。