高校卒業から数年後。
 大学もそろそろ卒業の時期。
「就職かぁ~……」
 今まで考えたこともなかったこと。
「なにそんなにため息ついてるの?」
 俊君にじっと見つめられる。
「いやー、どこで働きたいとかなくて困り中」
 そういうと俊君はにやっと笑った。
「なに言ってるの?俺の奥さんなんだから働かなくてもいいのに」
 ぶわっと熱が顔に集まる。
 私は先日俊君にプロ―ポーズされたばかり。
「え、えと……そ、そういうわけにはいかないし……」
 恥ずかしさで俯くとクイッと顎を持たれ、俊君とばっちり目が合った。
「なんで?いいじゃん、そーやって俺に甘やかされてれば」
 なんでこんなに甘々なのか。
 甘すぎて溺れそうになる。
「ぅ……っ。も、もうっ!」
 私は恥ずかしさに耐え切れずテレビをつける。
 そんな私を見て俊君はクスクスと笑っている。
『今日はモデルの朱里さん、ファッションデザイナーの鬼頭美月さんに来ていただきましたー!』
 テレビには大好きな友達二人が映っている。
 高校を卒業し、それぞれの道に向かって走って行った朱里ちゃんと美月。
 朱里ちゃんは数々の仕事をこなし、今は人気の若手モデル。
 美月は広い年齢層に似合う服をつくり、自分のブランドを立ち上げた。
「美月も朱里も今やテレビ出演なんて珍しくないよね」
 俊君が食いついた。
「ね。すごいよね、身近な人が世界を視野にがんばってるなんて」
「桜井は今なにしてるの?」
 そういえば。
「新菜ちゃん、まさかの葵斗君と付き合ってるんだって!葵斗君に愛されて大変らしいよ。お仕事は美月の会社に勤めるんだって、推しと働けるならいくらでも頑張るって言ってた」
 推しの力は偉大だな。
「メアリは最近連絡取れてなくて……俊君知ってたりする?」
「もちろん。メアリは親の会社の後を継ぐんだって。意外と大企業だからね」
 メアリも頑張っているみたい。
「まあ、芽唯は俺に溺れてればいいの」
 そんなふうにずっと言われ続ける日々。
「──もうっ!ママの話何回聞いたかわからないってば!あ、俊哉(しゅんや)ー、ノート見せて」
「なんでよ、学校に忘れたの?芽瑠(める)はもっとしっかりしてよ、パパとママの子供なんだからしっかりしてると思ったのに」
「はぁ⁉あたししっかり者だしー!俊哉はパパみたいにもっと甘々でいいの!」
「あれはママに対して甘々すぎるだけでしょ。僕たちにも甘いけどママがいつも顔真っ赤にしちゃうくらい甘いもんね」
 私たちの家は少し騒がしくなった。
「……ただいまー」
 愛おしくてたまらない人の声が聞こえる。
「パパ!おかえり」
 大学を卒業してすぐに子供ができた。
 育児は疲れることが多かったけれど、とてもかわいい子が生まれた。
 俊哉と芽瑠は双子の兄妹で二人を見ていると魔性の双子、鬼頭家の双子を思い出す。
「おかえり、俊君」
「ただいま、芽唯」
 俊君は子供の前でもおかまいなしにたくさんのキスを落とす。
「うわぁ、ママとパパ甘いね~」
 芽瑠の一言に俊君はどや顔で言った。
「芽唯が可愛すぎるのが悪い」