鬼のイケメン同級生は私を溺愛したい 二

 次の日、葵斗君とばったり会った。
 まあ、学校内だから会うのは当たり前か。
「あれ、芽唯ちゃん昨日、俊君大丈夫そうだった?昨日僕にメールが届いてさ危うく殺されるところだったよ」
 ははっと笑う葵斗君だがそれは本当に大丈夫だろうか。
「う、うん。大丈夫、でも、私もこれ以上俊君を嫉妬させたら──」
 私が話し始めると葵斗君は少し寂しそうな顔をした。
「もう、めめちゃんは僕のことなんて覚えてないよね──」
「え──?」
 『めめちゃん』と呼ぶ子は一人しかいなかった。
 まだ、お母さんが生きていて元気な頃に公園に連れて行ってもらった。
 七海たちが家に来たのは私が小学校に入学するタイミングだから、それより一年ほど前の話だ。
 お母さんが連れて行ってくれた公園は大きい公園ではなかった。
 小さくて人も全然いなかった。
 そんな中、一人の男の子が私に話しかけてくれた。
『──いっしょにあそばない?』
 とても綺麗な顔をした男の子だった。
 お母さんを見れば女神のような笑顔で。
『遊んであげたら?……この子と遊んでくれるの?』
 お母さんはその男の子に聞いた。
『うん!もちろん』
 そう言われ私は自然と足が前に出た。
 その後、男の子とお話した。
『あなたのおなまえはなぁに?』
 拙い私の言葉に男の子は笑顔で答えてくれた。
『あおだよ。そっちは?』
『めいだよ!よろしくね、あおくん!』
 そうだ。その男の子はあおくんと言っていた。
『めいちゃん……じゃあ、めめちゃんってよんでいい?』
『めめちゃん⁉いいよ、あおくんはおもしろいね!……』
 その後もずっと遊んでいたのだが、小学校入学を前にお母さんは亡くなってしまった。
 辛くてあおくんに会いたくて公園に行ったらあおくんはいつも通り遊んでいた。
 でも、そのあおくんの顔はすごく泣きそうだった。
『あおくん……?』
『め、めめちゃん……』
 あおくんは真剣な顔で私に近づいてきた。
『ねぇ、めめちゃん。ぼくとめめちゃんがあうのも、これでさいごなんだって』
 お母さんが亡くなったというのに、大好きだったあおくんにも会えなくなるなんて私はもう大泣きした。
『なっ、なんでぇ……?』
『ひっこすっておとうさんがいってた。ごめんね、めめちゃんとあそぶのたのしかったよ』
『ねぇ、めめちゃん。いつかまたあえたらこれを……こうかんしよ』
 そう言って渡されたのはユリの花が彫刻された綺麗なネックレス。
『なにこれ~?プリンセスみたーい!』
『これは、いつかあえたらわたすね。……バイバイ、めめちゃん』
 この時、気が付いた。
 私の初恋を奪ったのはあおくんだったんだと。
 そして、今私の目の前にいるのは葵斗君。
 葵斗君は私を見て、金色に輝くネックレスを見せた。
「そのネックレス……」
「そうだよ、めめちゃん」
「葵斗君は……あの時のあおくんだったの?」
「久しぶりだね、めめちゃん。僕のこと覚えてくれてたんだね……」
 葵斗君がつけている金色のネックレスは私につけてくれた。
 そして、私がつけていた銀色に輝くネックレスは葵斗君に渡した。
「葵斗君は……私が公園で遊んでた子って気づいてたの?」
「うん。僕がめめちゃんのことを忘れたことなんて一度もないよ」
 今思えば、超人気者である葵斗君が私に話しかけることなんてきっとなかったはず。
「そ、そっか……」
「めめちゃんは……僕のことを恨んでないの?」
「どうして?恨むことなんて何もないよ?」
「だって……めめちゃんとお別れした日、めめちゃんはとても悲しそうな顔をして僕に会って、それからすぐにお別れなんて……すごく残酷じゃないか」
 葵斗君は昔から優しい。
「あの時ね、お母さんが病気で死んじゃったの。お母さんと来た公園に行けばあおくんもいるし、お母さんとの過ごした日々が思い出せるかなって思って公園に行ったの」
 葵斗君はすごく驚いた顔をしていた。
「そうだったんだ。ごめんね、辛い時に一緒にいられないくて」
「あおくんは何も悪くない……!私はあおくんと遊べてとっても嬉しかったの」
 私は自然と笑みが零れた。
「よかった。もうこんな時間だ。また明日ね、めめちゃん」
「うん。バイバイ」
 温かい気持ちで家に帰った。
 家に帰ると俊君が待っていた。
「おかえり、芽唯」
「ただいま」
 すると俊君は私の首元を見て、ムッとした顔をした。
「どうかした?」
 私が聞けばすぐさま俊君は私を抱き寄せた。
「うぇ⁉な、なに?」
「……ネックレス、色変わってるのはなんで?それ、今売ってない物なはず」
 ああ。そういうことか。
「……そうだね、俊君の言う通り、これはもう売ってない」
「じゃあ、なんで芽唯が持ってるの?ずっと前に聞いた時は銀色の方しか持ってないって言ってたのに」
 私ってばなにをしているのだろう。
 あおくんが片方を持っているというのに。
「話せるとこまででいいけど、聞いてもいい?」
 私は覚悟を決め、俊君に全てを話した。
 私と葵斗君が幼馴染みだということ、このネックレスは元々葵斗君がくれた物だということ。
 全て話すと俊君は固まっていた。
「そうだったんだ」
 事情を知った俊君は私と葵斗君が話すのを少しは許してくれた。
「許したわけじゃないよ」
「えっ。許すって言ったじゃん!」
「葵斗と関わらせたくないが正直なところだよ」
 俊君の溺愛は止まりそうにない。
 新菜ちゃんと休み時間を過ごしているとふわりと甘い匂いがした。
「あれって……」
 新菜ちゃんが不思議がって廊下を見ていた。
 私もつられて見るとそこには見たことある顔の少女がいた。
「……新堀(しんぼり)さん?」
 そう。廊下で人目を集めていたのは新堀夏奈(かな)だった。
 彼女は学年三大美女の一人。
 美月とメアリに並ぶ美しさを持っている。
 誰かを探すかのように目をキョロキョロとしていた。
「……あっ!芽唯ちゃん!ちょっといい?」
 まさかの私を見てそう言った。
「あの、私またなにかしちゃった?」
 不安でたまらなくそう聞くと。
「あっ、全然違うの!……もう、あんなことはしないから……っ」
 前に私は誘拐されたことがある。
 その犯人を裏で操っていたのが新堀さんだ。
「そう、なら全然いいの。それでなにか用があって呼んだんでしょ?」
 その後、放課後に一緒にお茶でも飲みに行こうと誘われた。
 そして放課後。
「ご、ごめんね。急に。あと、夏奈でいいから」
 夏奈ちゃんは眉を下げて笑った。
「ううん。それよりなにかあったの?」
「うーん。なにかあったというより、聞きたいことがあって」
 粗相をしてしまった訳ではないようなので少し安心した。
「……自分の話になっちゃうんだけどね、憧れのモデルさんがいてその人みたいになりたくて芸能界に入ったの……この人」
 そう言ってスマホで写真を見せてくれた。
「この人……知ってるかな?」
 私は静かに頷く。
夏奈葉(かなは)。元々は親がファンでそこから名前をとって夏奈になったの」
 夏奈葉。彼女は言わずと知れた大人気モデルでバラエティー番組やニュース番組など幅広く活躍した。
 けれど、夏奈葉は人気絶頂の時、突然芸能界を引退したのだ。
 それには日本中が驚き、大ニュースとなった。
「芽唯ちゃんを初めて見た時に思ったの……夏奈、この子どこかで見たことある気がするって」
 私はよくわからず首を傾げた。
 新堀さんとは今年初めて会ったというのに。 
「本当のことを教えてよ。芽唯ちゃんは夏奈葉と関係あるんでしょ?」
 なにを突然と言いたかったが、夏奈葉の名前を出すのも納得だ。 
「私が夏奈葉の娘だって気づくなんて……」
「やっぱり。そうだと思ったけれど、本当に夏奈葉の娘なの?いつからって言われても疑問に思ったのは最近なの」
 そう。私は正真正銘夏奈葉の娘だ。
 証拠として小さいときに撮った家族写真を見せた。
「本当なんだね……見間違えるはずがないの。夏奈が夏奈葉を……」 
 夏奈葉ことお母さんが芸能界を引退した理由はいたってシンプル。
 妊娠したからだ。
 けれど、それを表には公表せず世間では体調不良と噂となり仕事のさせすぎと会社側が叩かれたそう。
 お父さんから聞いた話がある。
『芽唯、お母さんはすごいんだよ』
『なにがすごいの?』
『お母さんはすごいモデルさんだったんだ』
『ふ~ん』
 その時はなにもわからなかった。
 お父さんはカメラマンだった。
 お母さんの専属カメラマンだったそう。
『お母さんは綺麗だけじゃなかった。本当に努力家だった……って芽唯はまだわからないか』
 お父さんは笑った。
 お母さんのことを自慢げに話すお父さんは幸せそうだった。
「夏奈がキッズモデルとして撮影してたときにある方がいらしていたの」
 大人たちはあえて言わなかったそう。
「その時に芽唯ちゃんがいたの」
 お母さんは光の原石である夏奈ちゃんを一目見たくて撮影現場に行ったとのこと。
 その時に私を連れて行っていたという。
「そうだったんだ……」
 私は驚きでそれしか言えなかった。
「まあ、本題は夏奈葉のことじゃなの。本題は──芽唯ちゃんに一日モデルになってもらおうと思って!」
「え、えぇぇー⁉わ、私が⁉無理無理!」
「大丈夫!夏奈がいるもん!それに、夏奈葉の娘の芽唯ちゃんはかなりスターの原石の雰囲気が漂ってるの」
 それは嬉しいことなのか。
「まあ、とにかく。スタジオ行こっ?」
 これは逃げられない気がする。
「私でいいなら……」
 そう答えると夏奈ちゃんは目をキラキラさせた。
「こんにちは~!」
 夏奈ちゃんがスタジオにいる大人たちに挨拶をする。
「おっ。夏奈ちゃん。その子は?」
 カメラマンらしき人が首を傾げる。
「夏奈葉の娘さん。芽唯ちゃんです。夏奈のお友達」
 夏奈ちゃんは私の背中を押し、カメラマンの前に立つ。
「さ、斎藤芽唯です。お願いします」
 スタジオにいる大人たちは目を点にした。
「夏奈ちゃん。……夏奈葉って、あの夏奈葉?」
「そうですよ。あの夏奈葉です。夏奈の憧れ」
 夏奈ちゃんは言った。
「今日は芽唯ちゃんも一緒に撮影してもらってもいいですか?」
「ああ。わかったよ」
 カメラマンは大きく頷いた。
「新堀夏奈ちゃん入りまーす!」
「……斎藤芽唯ちゃん入りまーす!」
 夏奈ちゃんの次に私が呼ばれた。
「わぁ!芽唯ちゃんかわいい!」
 少し恥ずかしかったが、すごく可愛い服を着せてもらった。
 撮影が始まり、緊張が増してきた。
「芽唯ちゃん、リラックスしてー」
 カメラマンさんが言った。
「ふふっ。芽唯ちゃん、大丈夫だよ?安心して?」
「あ、安心できないよ~!」
 こんな状況で冷静でいられる方がすごいと思う。
 撮影が終了し、制服にまた着替え、控室を出たところで夏奈ちゃんが待っていた。
「芽唯ちゃん今日はありがとね」
「ううん。私こそ」
 私の少し前を歩いていた夏奈ちゃんは私の方にくるっと顔を向けた。
「あ、このこと鬼頭君には内緒だよ?」
 夏奈ちゃんは唇に人差し指を当てた。
「どうして?」
 私が聞くと夏奈ちゃんは少し首を傾げた。
「なんでって……おもしろそうだから?」
 私はため息をついた。
 家に帰ると俊君の顔が見えた。
「ただいま」
「……遅かったけど、男?」
 なぜすぐにそうなるのか。
「違うよ。夏奈ちゃんと遊んでいたの」
 夏奈ちゃんの名前を出すと俊君は目を見開いていた。
「新堀と?なにもされてない?」
「大丈夫だよ?夏奈ちゃんいい子だし」
 俊君はため息をついた。
「あんなことされておいて?」
「確かにあれはやりすぎだったと思うけど、仲良くなったら可愛くていい子だったよ?」
 俊君をそっと見上げると「わかった」と言って、夕食の準備をしに行った。
 後日、休日珍しく俊君がゆっくりしていたのでリビングで一緒にいると俊君のスマホから通知音が鳴った。
 俊君はスマホを見るなりすぐに家を飛び出した。
「え、ちょ、俊君⁉」
 数分して家の扉が開いた。
「どこに行っていたの?」
 俊君に聞くと、俊君は息を切らしてなぜかティーン向け雑誌を抱えていた。
「なに?それ」
「……芽唯。俺はなにも聞いてないけど?」
 なんのことかと首を傾げると、俊君は雑誌を見せてきた。
「……夏奈のお気に入り、斎藤芽唯ちゃん……って、は⁉」
 雑誌には先日夏奈ちゃんと撮った写真が載っていた。
「芽唯、どういうこと?さっき、新堀から連絡が来て急いで買ってきた」
「な、なんか夏奈ちゃんに誘われて……私が夏奈葉の娘だって気づいてたみたいで……」
 私がさらっと夏奈葉の名前を出すと俊君は驚いて口をパクパクと動かしていて少し面白かった。
「夏奈葉の娘って?夏奈葉ってあの有名なモデル?」
 俊君の質問が次々とやってくる。
「そうだよ……──」
 私は俊君に事情を説明した。
 すると俊君は納得の表情を見せた。
「わかったけど……全国に俺の芽唯が晒された」
 そう言って少し不機嫌になっていた。
 俊君が不機嫌になると対応が困るのであまり不機嫌になってほしくないのが本音だが、今はそんなことを言っていられない。
 もう春が来た。
 暖かな日差しが私を包み込む。
 桜の花びらが舞っている。
「芽唯ちゃーん!」
 新菜ちゃんが手を振っている。
「新菜ちゃん!私たち同じクラス?」
 今日は始業式。
 とうとう受験生になったのだ。
「うっ。それが……」
「えぇー。新菜ちゃんと同じが良かったな。最後だってのに」
「もうっ。せんせー空気読んでよー」
 新菜ちゃんが腰に手を当てて不貞腐れている。
「鬼頭君とは?同じクラスなの?」
「あっ。どうだろう、まだ見てないんだよね」
 クラス一覧表を見ると私のクラスに鬼頭の名はなかった。
「えー……違うのか。あ、メアリは一緒だ!」
 メアリがいることが唯一の救いだ。
「あのね!私美月様と同じクラスなの~!推しと一緒とか最高過ぎて倒れちゃう~!」
 また新菜ちゃんのオタクが発動している。
 クラスに向かうとメアリと目が合った。
「よかった。芽唯と一緒で。あなたはそうでもなさそうだけど?」
 呆れた笑いでこちらを見て来る。
「うっ……だって、新菜ちゃんも美月も俊君もいないんだよ⁉」
「確かに俊くんいないのは寂しいわね。私じゃ不満?」
 メアリが残念そうに言う。
「不満なはずないよ!」
「そう」
 メアリは安心したように言った。
 私とメアリが四組、俊君と朱里ちゃんが六組。新菜ちゃん、美月が一組。
 美月はどこにいるのかと教室に行くと。
「きゃ~!美月様ー!」
「こっち見たわ!」
「やばっ。お美しい……」
 いつも通りの様子で少し安心した。
「ところで俊君は……」
 今日は俊君、やることがあったみたいで先に学校に行ってしまったため、まだ会っていない。
「呼んだ?」
 そこには大好きな人の姿があった。
「俊君!」
 名前を呼ぶと俊君は私を抱き寄せた。
 俊君の人気も健在で。
 そこから卒業まではあっという間で。
「うわ~ん!もう芽唯ちゃんに会えないの~⁉」
 新菜ちゃんが卒業式前だというのに泣きわめいていた。
「そんなことないよ。また会えるし遊びに行こ?」
 私の言葉に新菜ちゃんが大きく頷いた。
「芽唯に会ったのはもう二年前なのね。最初会った時はどこのお嬢様かと思ったわ?ねぇ、メアリ?」
 美月の言葉にメアリは笑った。
「そうね。最初は俊くんが取られちゃうと思って焦ったんだから」
「私も芽唯ちゃんと会えてよかった……」
 朱里ちゃんが言う。
「朱里はまたフランスに戻るのよね?」
 美月が言う。
「うん。ママと約束してたの。私もモデルになるって」
 朱里ちゃんはきっと活躍するだろう。
「そっか。朱里は朱姫の血が濃いのね。きっと活躍できるわよ」
 メアリが朱里ちゃんに言った。
「あっ、そろそろだね!」
 新菜ちゃんが整列する皆を見て涙を拭いた。
 卒業式では新菜ちゃんは大泣き。
 鬼頭家の双子は大人気。
 保護者まで虜にしてしまう魔性の双子。
「はぁ……やっと終わったー」
 意外とずっと座っているということはストレスがたまる。
「芽唯、こっち来て」
 俊君に言われ、屋上に来た。
「卒業しちゃうんだ……」
 色々あった三年間。
 きっと今まで生きてきて一番疲れ、楽しかった時間。
 こんなに幸せになれたのは初めてだ。
「そうだね。でも、俺と芽唯はずっと離れないから」
「うん、そうだね」
「……ねぇ芽唯」
「ん?」
「──これからも俺と一緒にいてくれる?」
 きっと俊君は私が知らないだけでたくさんの重圧を背負っているのだろう。
 これから先、一緒にいるとなるとそれを思い知るだろう。
 それでも私は。
「うん、当たり前じゃん!私はっ……俊君のことが大好きだからっ!」
「ありがとう。俺は芽唯と出逢えて世界一……いや、宇宙一幸せ者だね」
 そう言うと俊君は優しくキスをした。








 ~【完】~

 高校卒業から数年後。
 大学もそろそろ卒業の時期。
「就職かぁ~……」
 今まで考えたこともなかったこと。
「なにそんなにため息ついてるの?」
 俊君にじっと見つめられる。
「いやー、どこで働きたいとかなくて困り中」
 そういうと俊君はにやっと笑った。
「なに言ってるの?俺の奥さんなんだから働かなくてもいいのに」
 ぶわっと熱が顔に集まる。
 私は先日俊君にプロ―ポーズされたばかり。
「え、えと……そ、そういうわけにはいかないし……」
 恥ずかしさで俯くとクイッと顎を持たれ、俊君とばっちり目が合った。
「なんで?いいじゃん、そーやって俺に甘やかされてれば」
 なんでこんなに甘々なのか。
 甘すぎて溺れそうになる。
「ぅ……っ。も、もうっ!」
 私は恥ずかしさに耐え切れずテレビをつける。
 そんな私を見て俊君はクスクスと笑っている。
『今日はモデルの朱里さん、ファッションデザイナーの鬼頭美月さんに来ていただきましたー!』
 テレビには大好きな友達二人が映っている。
 高校を卒業し、それぞれの道に向かって走って行った朱里ちゃんと美月。
 朱里ちゃんは数々の仕事をこなし、今は人気の若手モデル。
 美月は広い年齢層に似合う服をつくり、自分のブランドを立ち上げた。
「美月も朱里も今やテレビ出演なんて珍しくないよね」
 俊君が食いついた。
「ね。すごいよね、身近な人が世界を視野にがんばってるなんて」
「桜井は今なにしてるの?」
 そういえば。
「新菜ちゃん、まさかの葵斗君と付き合ってるんだって!葵斗君に愛されて大変らしいよ。お仕事は美月の会社に勤めるんだって、推しと働けるならいくらでも頑張るって言ってた」
 推しの力は偉大だな。
「メアリは最近連絡取れてなくて……俊君知ってたりする?」
「もちろん。メアリは親の会社の後を継ぐんだって。意外と大企業だからね」
 メアリも頑張っているみたい。
「まあ、芽唯は俺に溺れてればいいの」
 そんなふうにずっと言われ続ける日々。
「──もうっ!ママの話何回聞いたかわからないってば!あ、俊哉(しゅんや)ー、ノート見せて」
「なんでよ、学校に忘れたの?芽瑠(める)はもっとしっかりしてよ、パパとママの子供なんだからしっかりしてると思ったのに」
「はぁ⁉あたししっかり者だしー!俊哉はパパみたいにもっと甘々でいいの!」
「あれはママに対して甘々すぎるだけでしょ。僕たちにも甘いけどママがいつも顔真っ赤にしちゃうくらい甘いもんね」
 私たちの家は少し騒がしくなった。
「……ただいまー」
 愛おしくてたまらない人の声が聞こえる。
「パパ!おかえり」
 大学を卒業してすぐに子供ができた。
 育児は疲れることが多かったけれど、とてもかわいい子が生まれた。
 俊哉と芽瑠は双子の兄妹で二人を見ていると魔性の双子、鬼頭家の双子を思い出す。
「おかえり、俊君」
「ただいま、芽唯」
 俊君は子供の前でもおかまいなしにたくさんのキスを落とす。
「うわぁ、ママとパパ甘いね~」
 芽瑠の一言に俊君はどや顔で言った。
「芽唯が可愛すぎるのが悪い」
     
 今日は俊哉と芽瑠を俊君のお母さん──真彩さんに預けて俊君と出かける。
『今日おばあさまのとこにいけるの⁉』
 朝からはしゃいでいた芽瑠。
『芽瑠うるさいってば』
 それを叱る俊哉。
『だってだって、ありすちゃんにも会えるしおばあさまに会えるんだよ⁉』
 愛梨珠ちゃんは俊君の妹。
 ノリがよくて芽瑠は大好きらしい。
「いってらっしゃい、俊哉、芽瑠。迷惑かけちゃダメだよ?」
「はーい、心配しないでよー!パパとママ楽しんでね」
 芽瑠は自信満々に自分の胸を叩いた。
「いってきます。芽瑠は僕がどうにか抑えるから心配しないで楽しんでね」
 俊哉はしっかり者に育った。
「うん、ありがとね」
 二人が鬼頭家の使用人の人に誘導されて車に乗った。
「……なんか、静かなのって久しぶりだね」
 俊君が言った。
「確かに。芽瑠と俊哉はいつもおしゃべりだもんね」
 芽瑠は予想がつくけれど、俊哉も意外とお喋りで。
 夕飯のときは二人の学校の話を聞く。
 例えば芽瑠なら。
『ねぇママ聞いて。今日ね長距離走があったの、もう脚パンパン!むくんじゃう』
 なんて、少し大人びている会話を繰り広げる。
『そう、マッサージしないとね。……俊哉は?学校どうだった?』
 黙々と食事を進める俊哉。
『あー……そういえば、今日新しい能力を使えるようになったんだ。僕と友達で異能を使っての模擬戦をしたんだよ』
 模擬戦なんて普段聞かない言葉。
『模擬戦って……危ないじゃない、大丈夫なの?』
 不安になって聞くと芽瑠と俊哉は目を合わせた。
『ママ、安心して?授業内の話だから。授業で異能の練習みたいな感じの実技があって、その中でも能力のコントロールが上手な子が選ばれて模擬戦を行うの』
 さすが俊君の子供、能力には優れているよう。
 俊哉はいつも模擬戦で選ばれているらしい。
 もちろん、すごいのは俊哉だけでない。
 芽瑠も能力に優れていて、芽瑠のことを知っている人は皆『可愛すぎる女帝』と呼ばれている。
「そうだね。芽唯は話聞くのに精いっぱいだもん」
 俊君はクスクス笑っている。
「いやっ、模擬戦とか聞きなれない単語すぎてっ!」
「確かに、あやかしと関わりないと聞かないよね……って、もう時間やばいね」
「ほ、ホントだ!早く行こ!」
 私たちは車に乗ってレストランに行った。
 そのレストランは全部屋個室。
「──あ、やっと来た」
「久しぶり~!」
「昔と変わってないようね」
 そこにはメアリ、新菜ちゃん、美月がいた。
「みんな……っ!」
 感動的な再開。
 メアリに関しては高校卒業から今まで会えていなかった。
 美月と新菜ちゃんは芽瑠と俊哉が生まれてから何度か会っている。
「メアリ、本当に久しぶり!」
「本当に何年ぶりかしら。芽唯、子供生まれたんでしょ?祝いの言葉も遅くなっちゃって……ホントにごめんね、今更だけどおめでとう」
 メアリは私に抱きついた。
「わわっ!ありがとね、忙しかったんでしょ?仕方ないよ~」
 そこからはもうパーティーのように騒がしくて。
「芽瑠ちゃんと俊哉くんって今何歳なの~?」
 新菜ちゃんが質問攻めしてきたり。
「えっと、今小四だよ」
「甘々な生活なんでしょうね」
「もう全て想像できますわ」
 メアリと美月は口をそろえて言った。
「ええっ、ま、まあ……あながち間違ってはないんだけど……」
 自分で言っておいて恥ずかしくなる。
「なに顔真っ赤にしてるのよ」
 メアリが冷静に言う。
 クスッと美月が笑った。
「俊は芽唯が可愛くて仕方ないようですわね」
 美月の言葉に大きく頷いた。
 これからも甘い生活は続いていくのが想像できてしまう。
 私もたくさん俊君に愛を返せるように頑張らないと。

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