棺の中に入っていたのは10歳にも満たぬ少女だった。顔に生気はなく、目を瞑ったまま微動だにしない。仮死状態とのことだが、死を思わせるような負の印象はまったくない。むしろ、生命感がないがゆえに、女神をかたどった彫像を思わせるような美しさすら感じた。

 似ている……。

 そして何より、タフトはその顔にあの姉妹の……ヴェルとリーサの面影を見た。この少女の冷たい身体が、クロイスの部下に刺され、みるみるうちに暖かさを失ったヴェルのそれをに重なる。

「どうしたのだ、伯爵……?」

 タフトは不意に目頭を押さえ、その場に立ち尽くす。その様子を不審に思ってか、リュディス=オルスが声をかけてきた。
 
「いえ、なんでもありません。……術式を開始しましょう」

 古城の地下には、生成されたホムンクルス体が一体だけ保管されている。いつか、魂を移し替える技術を確立するその日のために、この古城を去るときに残してきたものだ。
 それを運び出し、少女の棺の横に寝かせる。

「この女性が、ホムンクルス……」
「はい。私の血液から生成したホムンクルスは、どういうわけか皆同じ顔となります。恐らく、私が取り込んだ皇族の血が、歴代皇帝のどなたかの姿を再現しているのでしょう」

 ホムンクルスは必ず、2種類の顔どちらかになる。金髪でやや幼い印象を受ける顔か、黒髪できれば我の目を持つ顔だ。今ベッドに横たわらせたのは前者のタイプで、これは必ず女性の肉体を持つ。もう一方は男性の肉体を持つ傾向が高いが、女性の姿も確認されている。

「妹君の持つ魔法は"憑依"と仰せでしたな?」
「ああ、そうだ。リュディスの血の中でも極めて珍しい魔法らしい」
「私もその力については存じ上げませんでした。一体どのようなものなのでしょう?」
「妹は元々双子だったのだ……」
「双子?」

 そういえば……と、タフトは記憶を掘り起こす。リュディス5世の政変以前の皇族の血統に双子の人間は存在しない。だが、侍従や女官の日記など調べていると、どう考えても双子の世話をしていると思しき記述が出てくることがあるのだ。そしてそれらの記述は必ず一方が病弱で、しばらくすると何事もなかったかのように1人の若君や姫について書かれたものとなる。タフトは最初、これらは宮廷特有の権力争いに起因する悲劇で、詳細を残すことがはばかられたため曖昧な書かれ方になったのだと思った。が、同様の例がいくつも頻出していたので不審に感じていたのだ。

「皇族の双子は、必ず"憑依"の力を持って生まれる。これは複数の肉体がひとつの魂を共有する力だ」
「共有……?」
「そう。肉体は双子だが、魂はひとつ。魂は自分の意志で器となる肉体を選び、移動することができる。過去には一方の肉体を影武者として窮地を脱した皇帝や、政を行いつつ、前線で兵を率いた皇子もいたという」
「なるほど……」

 確かに、その力を持つ妹君ならばあるいは……。タフトは、フラスコに生成したばかりのエリクサーを注ぎ入れた。

 * * *