きっと、私は、とても運がよかったのだと思う。
 先生と二年間、一緒にいられたから。先生に二年間教えてもらうことができたから。
 先生は綺麗な人だった。優しかった。私の、憧れだった。ずっと、一緒にいられると思っていた。ずっと、先生の下で教えられるのだと思った。
 だから。
 だから、先生と離れたとき、嫉妬した。先生の学生でなくなった時、先生の元教え子となった時、どうしようもなく悲しかった。
 一つ上の学年に上がって、廊下で先生が今の教え子達と笑っているのを見かける日が多くなって辛かった。私と同じ先生の元教え子達は、躊躇いもなく今の教え子達の輪に入って、楽しそうに笑っているに、あの輪に入る勇気が私にはなかった。
 だって、先生は今、あの子達の先生でしょう?私みたいな元教え子が輪に入ったら、あの子達が、かわいそうでしょう?
 昔、先生の元教え子達が来たとき、先生はもうアンタ達の先生じゃないから、もう来ないでよ、と思ったことがあった。だから、きっとあの子達も私達と同じようなことを思っているはずだ。 
 いくら、私達がほかの学年の子達と違って先生に二年教えてもらったのだとしても。
 先生が、今の教え子達と楽しそうに喋っているのを見ると、あそこは私の場所だったのに、と少しだけ嫉妬する。嫉妬なんてしたくなかったから先生を避けるようになった。
 廊下ですれ違っても、下を向いて、足早に先生の群れから離れる。
 でも、ある時、先生は。周りに生徒がいないときに、
「笑愛、元気?」と、聞いてくれた。
「元気だから、学校に来ているんですぅ」
 いつも通り、いつも通り答えたつもりだった。けれど、先生は私を抱きしめてから、
「笑愛に会いたいな」って言ってくれた。
「頑張ったね」って言ってくれた。
 もう会って、喋っているでしょ?なんて、言えなかった。一体私は何を頑張ったというの?なんて、言えなかった。だって、嬉しかったから。だって、先生は私のことを忘れているのかと思っていたから。先生が、温かかったから。