男女比1:99!?男性の少ない異世界は貞操逆転していた。スキルランクSS「スキルブースター」持ちの俺は、女性に襲われて大変なことに!?~冒険者や王女、エルフ女性たちにモテモテ。成り上がってしまいました

 村に向かう途中で同席していた二人の冒険者は降りた。

 急に空気がピリッとする。

「メヌ、交代制」

 鋭い眼光でヘイリーさんが睨んでいた。
 俺の下半身を触っていた手が止まる。

「どうしても?」
「この場にいる全員を敵に回すつもり?」
「……わかった。30分の交代制にしようか」

 メヌさんは俺の体を持ち上げると、ヘイリーさんの膝の上に置いた。頭をなでられて心地よく文句はないのだが、疑問は残る。本人の意思確認がなかったのだ。

 普通はいいか聞くよな!?

 出会った頃と違って、どんどん遠慮がなくなってきている。

 別に嫌じゃないから良いんだけど、どこかでちゃんと自分の意思をはっきりと伝えなければいけないと思う。状況に流されるだけでは、大切なものを見失ってしまいそうだから。

「ルールも決まったことだし、初めて依頼を受けるイオちゃんに基本情報を伝えるね」

 無知な俺にレベッタさんが色々と教えてくれるようだ。

 先ほど浮かんだ考えは頭の片隅に追いやって、話を聞くことに集中しよう。

「まずパーティー間で覚えているスキルの情報を共有して、戦いの役割を決めます」

 人差し指を立てながら、機嫌良く説明を続ける。

「私は視力強化。遠くを見れるようになるスキルだね。ヘイリーは動体視力強化で相手の動きを予測するのが得意で、メヌは鍛冶スキル。武具や道具を作るときに補正がかかるらしい。この三つはスキルランクBだよ」

 武器がハンマーだったこともあって、メヌさんは肉体や筋肉を強化するスキルだと思い込んでいた。まさか鍛冶とは。単純に種族特性として力が強かったのか。

「で、アグラエルは氷魔法でランクはA。暑いときには便利なスキルだね」

 ついに魔法を使える人に出会えた! スキルランクがAということは高度なこともできそうである。そんなすごいスキルをクーラー扱いするとは。もっと高度なこともできるだろうに。

 好奇心が止まらず、アグラエルさんの顔を見る。照れているのか頬がやや赤くなっていた。

「ヘイリーとメヌが接近戦、私が斥候や遠距離からの単体攻撃、アグラエルは範囲攻撃を担当していたんだ。そこに今回からイオちゃんが入ってくる。もう何をしてもらうか決まっているんだけど、わかるかな?」

 ついこの間まで日本に住んでいたのだ。残念ながら接近戦闘するような技術はないし、遠距離の武器も使えない。できることとしたら一つだけ。

「スキルで支援、ですね」
「正解」

 なぜかヘイリーさんが答えてくれた。良いところを取られてレベッタさんは頬を膨らませてすねているが、すぐに元に戻った。話を進めようと割り切ったのだろう。

「イオちゃんは決して敵には近づかず、一人で行動しない。私たちの誰かがいれば絶対に守れるからね」

 俺のスキルは強力だが他者がいなければ効果を発揮しない。レベッタさんの意見は真っ当で、方針に異論はなかった。

「他に注意して欲しいことは、人前ではスキルを使わないぐらいかな」
「気をつけます」
「良い子だね」

 頭を撫でながらレベッタさんは話を続ける。

「それと、スキルブースターのことがばれないよう、しばらくは雑用係として使っている形にするけど、いいかな?」

 プライドの高い男であれば激怒したかもしれないが、俺からすれば逆に「いいんですか?」と聞き返したくなるほど待遇が良い。俺のことだけを考えて計画してくれたんだろうなという、形跡が見えるからだ。

「もちろんです。異論なんてありませんよ」
「よかったーっ!」

 緊張から解き放たれたようで、レベッタさんに抱き着かれてしまった。そのままの状態でヘイリーさんから奪い取り、膝の上に乗せられてしまう。

 交代制と聞いていたので別に構わないが、もう少し優しく移動させてほしいところであった。

* * *

 村に着いたのは夕方だった。雨は止むどころか強まっている。木々が大きく揺れるほど風が吹いていて、嵐が来ているのかもしれない。

 パーティを代表してレベッタさんが村長の家に入り、依頼を受けたと説明すると、空き家を一軒貸してもらった。家具なんてないが雨風をしのげるだけでもありがたい。

 俺たちは空き家に入ると、ガタガタと音を立てている家の暖炉に火をつけ、干し肉を食べながら腹を満たしている。

「疲れてそうだな」

 アグラエルさんの声が聞こえたものの、顔を上げることは出来なかった。

 俺は干し肉を口にくわえながら頭を前後に動かし、眠気と戦っている。思っていたよりも体力を使っていたようで、空腹よりも睡眠欲が勝っているようだ。

「これを飲むんだ。ぐっすり眠れるぞ」

 コップを目の前に出されたが、意思に反して腕は動かない。

「ふむ。これは仕方がないな」

 何もしてないのにコップが口についた。アグラエルさんがやってくれたのだろう。生暖かい液体が流れてきたので反射的に飲み込んでしまった。注意深くコップを傾けているので、せき込むようなことはない。

「お休み」

 優しい笑みを浮かべているアグラエルさんが印象的だった。小さいころ、母さんが優しくしてくれていた時を思いだすのと同時に、あのときに感じた多幸感が俺を包んでいることに気づく。

 もっとこの感覚を味わっていたと思っていたが、眠気が頂点に達する。
 目の前が真っ暗になって、全身から力が抜けた。
 イオちゃん、いやイオ君が睡眠薬入りの水を飲んで寝てしまった。

 私が近くに居るのでメヌのセクハラからも守れる。うむ、安全だ。

 私の尻尾を枕にして穏やかな顔をしている。同族からは美しいと言われている自慢の鱗なので、寝心地が良いのだろう。美しい顔を見ていると守り、世話をしてあげたいと思ってしまう。男性を世話する方法は何冊もの本を読んで学んでいるから、ちゃんとできる自信はある。

 男の姿になると恥ずかしくで話すことすらままならないが、私の伴侶になってくれる方だ。じっくりと時間をかけて慣れていけば良いだろう。急ぐ必要はない。

「第一回、イオ君どうするか会議開催ー!」

 レベッタが勝手に開催を宣言していた。何を話すかなんて聞いていない。

 パーティのリーダーとしては優秀なんだが、男が絡むと知能指数が大きく下がってしまうのは何とかして欲しい。イオディプス君は私の夫なのだから、どうするかなんて話し合う必要はなのに。

「何を話す?」

 冷静な反応をしたのはヘイリーだ。普段は静かだが、キレるとぶっ飛んだ行動をするし、男絡みでだと犯罪に手を染めることも珍しくはない。予兆なく暴れるタイプなので恐ろしい。

「イオ君を敵から守る方法だね」

 今回戦うメスゴブリンだけじゃない。スキルや子種目的で近づく女や、拉致もしくは殺害しようとする敵国の存在も含まれている。スカーテ王女の側近からは、一緒にいたいのであれば命を賭けてでも守れと命令されている。

 もちろん、私たちは即座に同意した。

 あんな女どもに言われるまでもない。

「私たちが全員殺せばいい」
「もちろん。それができたら良いんだけど、Sランクスキル持ちに襲われたら難しいし、スカーテ王女が派遣した護衛だって万能じゃない」

 私たちは冒険者の中なかだと中の上ぐらいで、軍やSランクスキルには勝てないのが、イオ君を狙う敵に限って、そういう上位のやつらが狙っている。工夫が必要だな。

「じゃ、どうするの?」
「戦いに慣れてもらうんだよっっっっ!!」

 私の疑問に対してレベッタは、ぐっと握りこぶしを作りながら宣言した。

 今のうちだと思ったのかメヌがイオ君に近づいてきたので、氷の矢を放って床に刺し、警告しておく。ちゃんと話を聞いておけ。

「スキルの習熟度が上がれば効果は高まるし、イオ君が戦いに慣れれば私たちを見捨てる冷徹な判断もできるようになるでしょ」

 スキルの習熟度なんて、私たちからすればおまけでしかない。本命は、防衛能力を超える敵が襲ってきた場合、即座に逃げる判断ができるよう、非情な考えができるようになること。イオ君は優しすぎるので、軍人みたいな冷静さを身につけて欲しいと思う。

 他国、特にボルーツ王国に攫われたら、男性器を元気にさせる薬を使われ、奴隷のような生活をさせられるだろうからな。

「その意見は賛成だが具体的にどうするつもりだ?」
「私に任せてッ!」

 自信があるところから具体的な計画も考えているのだろう。一応、聞いてやるか。

「メスゴブリンとの戦いでケガした振りをして、イオ君だけ先に逃がす作戦!!」

 ダメだコイツ。作戦の内容がずさんすぎる。いきなり仲間を見捨てて逃げる判断なんてできないだろっ!

 しかもメスゴブリン数匹じゃ私たちがピンチになる、なんて状況を作ること自体が難しい。演技だとバレてしまう。

「却下」

 ヘイリーも同じ考えだったようだ。即否定されて、レベッタは落ち込んでいる。

 可哀想だから少しはフォローしてやるか。

「けど考えは悪くない」
「だよね!」
「もし私たちがピンチになるような状況になったら、みんなでイオ君を逃がすように動こう」
「うん。そうしよう! じゃ、会議は終了ーーー!」

 それでいいのかと思うのだが、誰も突っ込まない。面倒だからな。

 結局、寝ている男の前で真面目な会議なんてできないんだよ。みんな早く話を切り上げたくて仕方がなかったのだ。

「話が終わったなら寝る」

 すーっと立ち上がったヘイリーは、こちらに近寄っている。イオ君の隣に来るつもりだ。

「止まって」
「なぜ?」
「何をつもりだ」

 スキルを使って周囲に氷の矢を浮かべた。実際に攻撃するつもりはない。ただの脅しである。

「添い寝するだけ。みんなもそうでしょ?」

 様子をうかがっていたレベッタとメヌが反応した。

「そうだね。一緒に寝ようよ!」
「夜は寒いから密着する必要があるよね」

 ちっ。二人を仲間にしやがった。自慢げな顔をしているのがムカつく。

「アグラエルはどうする?」

 頷かなければ私だけのけ者にされてしまう。それは嫌だ。ヘイリーの思い通りに動くのはムカつくが、従うしかなさそうだ。

「みんなの言う通りだ。間違いない」

 浮かべてた氷の矢を消すと、ヘイリーはイオ君の右腕を枕にして横になった。レベッタは左腕で、メヌは股の部分を枕にしている。私が動けないからといって勝手にポジションを決めやがって。

 フツフツと怒りが湧いてくる。

「母さん……」

 イオ君の寝言だ。目に涙を浮かべている。男性が母を求めるなんて珍しい。普通は大きくなったら嫌悪するようになるのだが。女に優しいし、周りから聞いていた普通の男性とはまったく違う。絶対に手放したくないと感じてしまう。

 独占欲がムクムクと湧き上がってきたので気持ちを抑えながら、指で涙を拭ってあげると舌で舐める。しょっぱいが美味しい。私の全身が喜んでいた。
 外は嵐で物音が激しかったのに、一度も起きることなく熟睡してしまった。思っていた以上に移動で疲れていたようだ。

 目覚めるとレベッタさんたちが抱き付いていたのは驚いたが、襲われてなかったから良しとしておこう。彼女たちは、たまに暴走することはあるが自制心はある。今後も大きな問題が起きることはない……はずだよな?

 誰も起こさないように慎重に動いて立ち上がると、外に出る。もわっとした湿度の高い空気と青臭い匂いが俺を包み込んだ。上を見ると青空が広がっている。晴天だ。今日からゴブリン探しはできそうである。

 家から一歩踏み出すと地面が沈んで足跡が付く。雨のせいで柔らかくなっているのか。これなら足跡を探すのも楽できそうだ。

 みんなが来る前に、近くの井戸で体や顔を洗ってから柔軟体操をしていると、村人たちは鍬をもって外に出てきた。女性しかいない村だからか、上半身は胸に布を巻いただけの姿。半裸だ。農業でほどよく引き締まった筋肉が健康的で、美しさすら感じる。俺は今、女性の姿をしているんだし、遠慮なく見させてもらおう。

「イオちゃんは、ああいう人が好きなの?」

 女性達が歩きながら談笑している姿を見ていると、レベッタさんが声をかけてきた。

「そうですね、健康的で美しいと思います」
「だったら私は?」
「え?」

 予想していなかった反応をされたので、驚きながら振り返る。

 下着姿だった。上半身は村人達と同じで胸に布を巻いているだけ。下半身は薄い生地のパンツだ。よーく見れば生地の下に頭髪と同系色のアレも見える。

「な、なんて姿しているんですかッ!」
「感想を聞かせてもらえないかな」

 今まで女性といえば母さんという狭い世界で生きていた俺に、なんて難易度の高いお願いをしてくるんだよッ!

 そりゃぁさ。俺だって健全な男子だ。胸も大きいし、魅力的だと感じるよ。そりゃぁ下半身だって元気になるさ!

「言わないとダメですか?」
「無理にとはいわないけど、教えてもらえると嬉しいな」

 女性にここまで言わせて何もしなかったら男が廃る。恥ずかしいのはお互い様だし、きっちりと言うべきか。

 深く息を吸って吐いて覚悟を決めると口を開く。

「うっすらと割れた筋肉に大きな胸、スラリと伸びた長い足。この光景を独り占めしたいと思うぐらい、全てが美しいです」

 レベッタさんの顔が一瞬にして真っ赤になった。口をパクパクと動かしているが声は出ていない。なんかパンツがしめって……。

「もう、食べちゃうからっっ!!」

 両手を広げてレベッタさんが跳躍したと思ったら、俺の目の前に氷の壁が出現した。ガンと痛そうな音と共に衝突する。

「ったく、油断も隙もない。イオちゃんを襲うなんて百年早いんだよ」

 腕を組んで苛立っているアグラエルさんが魔法を使ったみたいだ。

 周囲から冷気を放っているようで、足元の地面に霜が降りている。さすがスキルランクAの氷魔法。型にはまらない応用力があるな。

「イオちゃんから離れろ」

 普段の倍ぐらい冷たい声で、ヘイリーさんがレベッタさんを引きずっていく。全身が泥だらけだ。下着も茶色く汚れてしまっているので、体を洗って着替えなければいけない。

「大丈夫だったーー!?」

 短い足を必死に動かしながらメヌさんは近寄ってきたが、アグラエルさんの尻尾が絡みつき、持ち上げられてしまった。

 さっきまで優しそうな顔をしていたメヌさんの表情が一変して、険しくなる。

「なんで邪魔するの?」
「これから仕事だからだ」
「だからこそ、イオちゃん要素の充電が必要だと思わない?」
「そんなもんはないから、さっさと準備してこい」

 尻尾を振ってメヌさんを投げ捨ててしまった。ドアは開きっぱなしだったので、そのまま家の中へ入ってしまう。何かにぶつかった音が聞こえた。

 仲間だというのに酷い扱いだった。

「大丈夫なんですか?」
「ドワーフは頑丈だからこの程度では、ケガすらしない。それよりも……」

 最後まで残っていたアグラエルさんが、ゆっくりと歩いて俺の前に立つ。

「その、怖い思いをさせて申し訳なかった。気分が優れないのであれば、今日は休んでても良いからな」
「ありがとうございます。でも、全く気にしてないので大丈夫ですよ」

 面識のない女性に襲われたらショックを受けていたかもしれないが、レベッタさんは恩人で、素敵な女性だと思っている。飛びかかられたぐらいで傷つくことなんて絶対にない。むしろ良い光景を見せてくれたことにお礼を言いたいぐらいだ。

 ま、実際には恥ずかしくて何も言えないだけど。

「そうか。なら良かった。アイツらの準備が終わったらすぐに出るから、軽く何か食べておいてくれ」
「わかりました。アグラエルさんも食べます?」
「嬉しいお誘いだが、私は彼女たちと話し合わなければいけないので時間がない。また今度、お願いするよ」

 あっさりとフラれてしまった。

 モテ期が来たかなと思っていたが、勘違いだったのかもしれない。危うく出会う女性全てが俺に好意を持っているなんて痛い考えをするところだったな。

 しっかりと朝食を食べた後、俺たちは村を出てメスゴブリンの目撃証言がある森に入った。

 間伐をしているようで、適度に明るく歩きやすい。村人たちが山菜や薬草の採取で定期的に入っていると聞いているので、ちゃんと管理しているのだろう。

 先頭を歩くレベッタさんは、弓を持ちながら地面を見ている。
 痕跡を探しているみたいだ。

「止まって」

 レベッタさんが腕を上げると、膝をついて指で土を触りだした。

 俺たちは安全を確保するために周囲を警戒する。

 遠くに猪が見えたものの近寄っては来なかった。警戒しているのだろう。そういえばまだ肉食動物は見かけていない。ここは比較的安全なのかもしれない。

「メスゴブリンじゃなかった。多分、兎の足跡だね」

 すぐに見つかるとは期待していなかったので、ガッカリした感じはしない。静かに立ち上がったレベッタさんが移動を再開したので、俺たちも後を付いていく。

 昨夜は嵐だったこともあって水たまりがいくつもある。土は軟らかくなっていて靴は泥だらけだ。足を持ち上げるとき、いつもより力を入れなければいけないので少しだけだが疲れてきた。

「休む?」

 服がふれあうほど近くにいるヘイリーさんの提案に、首を横に降って答えた。探索を始めてそんなに時間は経ってないのだ。休む前にもっと進もう。

「そう。もう少しで目的地に着くから」
「行く場所が決まっているんですか?」

 そういえば今回のメスゴブリン退治について詳細を聞いてなかった。冒険者として失格だ。意識が低かったことを反省しながら、ヘイリーさんの話を聞く。

「洞窟が三つある。どこかにいるらしい」

 いる、というのはメスゴブリンのことだ。寝床が分かっているのであれば、時間をかけずに退治できるかもしれない。と、楽観的な考えをしてしまうのは経験が浅いからだろうか。

 油断をすれば死ぬかもしれない。

 自分の頬を叩いて気合いを入れ直してから、まっすぐ前を見る。

「適度に力を抜くんだよ」

 俺の尻をひと撫でしたメヌさんのアドバイスだ。

 あなたは気を抜きすぎなんじゃないですかと思いつつも、何も言わなかった。

「絶対に守るから」

 ヘイリーさんの気持ちはありがたいが、守られてばかりではダメだ。俺だって役に立つところを見せて、かっこつけたい。

 今自分にできることを完璧にこなし、少しだけ無理をする。そんな感じで成長できたら良いなと思った。


 しばらく歩くと森の中に小さな山が出てきた。一度休憩を入れてから周囲を歩いていると、レベッタさんが急に立ち止まる。

「入り口が埋もれているね」

 大小様々な岩が積み重なっていた。この先に洞窟があるのだろう。

「昨日の嵐で落ちてきたのか?」
「みたいだね」

 アグラエルさんの疑問に答えると、レベッタさんが埋もれてしまった洞窟の入り口に近づき、地面を調べる。

「消えかかっているけど、メスゴブリンの足跡が残っている。ここを寝床にしていた可能性は高いね」

 三人の視線がメヌさんに集まった。何を期待しているのか経験の浅い俺でもわかる。力業で岩を排除しようと考えているのだ。

「私がやるより魔法の方が早いんじゃない?」
「念のため温存しておきたい」
「メスゴブリンごときに温存する必要はない思うけど……」
「イオちゃんがいるんだぞ?」
「それ言われたら反対できないじゃん。ズルい」

 なんて言いながらメヌさんは、手に持っているハンマーをブンブンと音を立てながら振り回し、岩で入り口が塞がっている洞窟に近づいた。

「よーし。私の良いところでも見せちゃおっかなっ!!」

 腰を落としてひねり、ハンマーを地面に水平にした。体のねじりが大きくなって力を溜めているようだ。普段から力の強いメヌさんが本気を出したら、どうなるのか。

 その結果が目の前で起こった。

 爆発音と間違えてしまうほどの大きな音とともに、入り口を塞いでいた岩が散弾銃を撃ったように吹き飛んだのだ。山全体が揺れたのではと思うほどの威力である。

 たった一度、ハンマーを振るっただけで入り口の半分が見えるようになった。俺の常識を越える力に驚愕して言葉が出ない。

「中を見てくる」

 ランタンを片手に持ったレベッタさんが、洞窟の中に入っていった。ヘイリーさんも後に続く。誰かが指示を出さなくても己の役割を全うする姿は、彼女たちが優秀な冒険者だと物語っていた。

「私たちも中に入るよ」

 時間を空けて俺とアグラエルさんも洞窟に入る。最後尾はメヌさんだ。戦闘をしない俺がランタンをもって奥に進む。

 戦闘音はしないが、所々に緑色の肌をした小人が倒れていた。顔をみると鷲鼻と鋭い黄色い牙があった。

「メスゴブリンだね。外傷はないけどレベッタが倒したのか? いや、この様子だと違うか」

 発見したメスゴブリンは手で喉を押さえているだけで、剣や矢による傷はなさそうだ。

 何が起こったんだ。一瞬、毒ガスかと思ったが、もしそうなら俺たちも倒れているはず。恐らく入り口が完全に密閉されていたことで酸欠にでもなったんだろう。

「洞窟内の様子がおかしいのは確かです。急いでレベッタさんと合流しましょう」

 止めようとした二人を置いて急いで走り出す。

 洞窟内部は、さほど大きくなかったようで、すぐに奥へ到着した。

 先に入っていた二人は無事なようで俺の方を見ている。

 元気なようで安心した。声をかけようと口を開く。

 洞窟内が大きく揺れて膝をついてしまった。
「出口を確認しないとっ!」

 最後尾にいたメヌさんが走り出した。足が短いので後から動いたレベッタさんに抜かれてしまう。

 俺も皆を追いかけて洞窟の出口まではしてみたが、完全に塞がっていた。今回は岩ではなく土のようだ。土砂崩れが起きたのだろう。

「また吹き飛ばすっ!」

 メヌさんがハンマーを大きく振るって叩いたが、一部が吹き飛んだだけですぐに新しい土が落ちてきてしまう。先ほどとは違って簡単には排除できそうにないが、諦めるわけにはいかない。もう一度ハンマーを叩きつけようとして、メヌさんが構える。

「ぐっ」

 膝から崩れ落ちてしまった。駆け寄ろうとしたレベッタさんやヘイリーさんも力が抜けたように倒れる。

 俺も頭が痛く、呼吸が苦しくなってしまい、足だけでは立っていられず壁により掛かってしまう。

 下を見たら地面に新しい割れ目がいくつもあった。シューッと不気味な音をだしている。

 何らかのガスがでて酸素濃度が著しく減っているのかもしれない。早く出口を開けなければいけないのだが、メヌさんは動けない。

 無事なのは竜人のアグラエルさんだけ。
 彼女が特別なのか、それとも種族特性なのだろうか。

「スキルブースターを……つかい……」

 呼吸が苦しくて最後まではいえなかったが、俺の声と意志は届いたはず。スキルを使うとアグラエルは驚いた顔をした。

「これならいける!」

 攻撃的な笑みを浮かべると、氷でできた塊が浮かび、出口を塞いでる土に衝突した。

 土埃が舞って視界は悪くなるが、新鮮な空気が入った気配はない。

 衝突音は、さらに二度、三度と発生した。洞窟全体が大きく揺れていて、このまま続いたら生き埋めになってしまうんじゃないかって想像してしまうほどである。

「土がなくならない。こうなったら固めてやるっ!!」

 周囲の気温が下がった。地面が凍りついている。

 また衝突音がした。今度は上手くいったようで、新鮮な空気が洞窟内に入ってきた。

 頭は痛いままだが、呼吸は楽になった気がする。

「イオちゃん! 大丈夫!」
「俺は大丈夫ですから」

 安全を確保したアグラエルさんが駆け寄ってきそうだったので、手を前に出して止めた。

 俺を優先する気持ちはわかるが、倒れてしまっているメヌさんが心配なのだ。息が止まっているのであれば、人工呼吸をしなければいけない。たしか、呼吸が止まって数分以内に酸素を送らないと、脳に大きな障害が残ってしまうんだけっけな。

 手で頭を押さえながらメヌさんに近づいて、胸を触る。

 よかった。上下に動いている。なんとか呼吸はできているようだ。

 上半身を抱きかかえるように起こすと、メヌさんの頬を軽く叩く。

「大丈夫ですか? 目を覚ましてください!」

 瞼がピクピクと痙攣すると、ゆっくりと持ち上がった。

「うっ、うん……私、生きてる?」

 よし、意識も戻ったぞ。レベッタさんやヘイリーさんも無事なようだし、トラブルは乗り切ったようだ。

 早く危険な洞窟から逃げよう。

 動けないメヌさんを抱きかかえようとするが、重くて持ち上がらない。小柄なのに俺よりも体重が重いみたいだ。防具を着けているからといって、これはないだろ。自分の非力さを嘆いてしまう。

「私がもつよ」

 俺が全力を出しても動かせなかったのに、レベッタさんは軽く抱き上げてしまった。

 ……俺は無力だな、なんて悲しむのは後回しだ。

 四人は先に出てしまったので、頭の痛みに耐えながら俺も出口に足を踏み込む。地面や天井、壁が凍っていた。土を排除しても出てくるから、固めてしまったのだろう。一刻を争う状態でこの判断ができたのは、さすが有名な冒険者と言える。

 途中で崩れることなく俺も無事に外に出られた。

 新鮮な空気が美味しい! 太陽の光が眩しくて目を細める。無事に生還できたという実感が湧いたのだが、それも一瞬だけ。

「敵だ!」

 レベッタさんの警告によって、俺に迫っている危険がまだ続いていると気づいた。

 明るさに慣れて周囲がハッキリと見えるようになる。数百メートル先にメスゴブリンの集団が見えた。数は五十ぐらいだろうか。

「あいつら先発部隊だったのかっっ!」

 メスゴブリンは集団でオスを探す場合もあると、アグラエルさんの言葉を思い出していた。

 洞窟で死んでいたのは先発隊だったのであれば、目の前に居る集団が後発の部隊なのだろう。別働隊もいる可能性は残っているから油断してはいけない。

「アグラエル! スキルでまとめて倒せる?」
「さっき派手に使ったから難しいね……」

 外に出てたから気づけたのだが、アグラエルさんの顔色が悪い。スキルを使い続けた影響で精神や体力が疲労しているのだろう。

「メヌは?」
「一応は、動けるよ」

 レベッタさんの腕から脱出したメヌさんは、持ってきてもらったハンマーを手に持つと何度か振るう。風を切る力強い音が聞こえた。

「私とメヌで殺し尽くす」

 剣と盾を構えながらヘイリーさんが殺意をみなぎらしている。二人とも調子は悪い状態でなのに、戦意は落ちていないようだ。頼もしい。

「イオちゃん。助けてくれる? それとも逃げる? 私はどっちを選んでも良いと思うよ」

 俺の目を見ながらレベッタさんが問いかけてきた。澄んだ瞳をしていて、本当に逃げても良いと思っていそうだ。

 馬鹿にしないで欲しい。

 背を見せて逃げるほど俺は薄情な人間ではないぞ。答え始めから決まっているのだ。

「一緒に戦うよ」

 宣言すると共にスキルブースターを使う。これで四人の能力が底上げされたはずだ。
「私が行くっ!」

 普段とは違う力強い声でヘイリーさんが駆け出した。

 メスゴブリンの集団から、数十本の矢が連続して放たれる。逃げ道なんてない密集度だが、ヘイリーさんは左手のバックラーで弾き、剣を振るってまとめて斬り落としていく。ありえないことだが、高速で動く矢を全て目で追えているようだ。

 ヘイリーさんは足を止めずに矢の雨を突っ切り、メスゴブリンの集団と接敵した。矢が止まって斬り合いが始まる。ヘイリーさんは全ての攻撃をかわし、反撃してメスゴブリンを攻撃している。一人でも勝てるんじゃないかと思ってしまいそうだが、さすがに背中に目はついてないようで、弓で背中を狙っているメスゴブリンには気づいてないようだ。

 声を出して注意しようとしたら、ヘイリーさんを狙っているゴブリンの頭に矢が刺さった。

 レベッタさんが遠距離から狙ったのだ。遠視のスキルが強化されたから、メスゴブリンが入り乱れる中から、的確に危険度の高い相手だけを選んで攻撃している。

「じゃ、私も行ってくる」

 投げキッスをして走り出したのはメヌさんだ。足が遅いのでメスゴブリンと近づくのに時間がかかっている。ヘイリーさんの時よりも本数は減ったが、数本の矢が飛んできた。

「そのまま走れっ!」

 アグラエルさんが叫びながら氷魔法のスキルを使った。メヌさんの左右に氷の壁が伸び、先端が丸まっていく。両方がくっついて一つのトンネルになった。

「これはすごい! 今なら何でもできる気がする!!」

 スキルの使用によって体力や精神力を削られたアグラエルさんは、息を切らしながら喜んでいる。スキルブースターの効果で、実力以上の魔法が使えて興奮しているのかも。

 連続して矢を放ちながらレベッタさんが援護していると、ようやくメヌさんもメスゴブリンの集団に飛び込んだ。ハンマーを振り回して吹き飛ばしている。ヘイリーさんの背中を守るように動いていて、非常によい連携ができている。慣れているみたいだ。突発的な戦闘でも優位に進めていて、さすがベテラン冒険者だと感じる。

 普段からこういった凜々しい姿を見せてくれれば、彼女たちの印象も結構かわるんだけどな。

 しばらく戦いを見守っていると、氷魔法で攻撃を続けていたアグラエルさんは膝をついてしまったが、メスゴブリンの数は減ってきたのがわかる。

 このままなら三人だけでも勝てそうだと安堵した瞬間、弓を構えているメスゴブリンが視界に入った。

 狙いはレベッタさんだ。

 ヘイリーさんの援護に忙しいようで気づけていない。

 このままでは当たるかもしれないぞッ!

「あぶないッ!!」

 考えるよりも先に体が動いていた。レベッタさんに飛びつくと、右腕に激しい痛みを感じつつ二人とも地面に転がる。

「イオ君!!」

 泣きそうな顔をしているレベッタさんが体を起こすと、俺の腕に刺さった矢を抜こうとしている。今はそんなとことをしている場合じゃない!

「俺よりも敵をッ!!」

 先ほど攻撃してきたメスゴブリンが居た場所を指さした。

 新しい矢を取り出し、第二射を放つ準備をしている。

「でも、血を止めないと死んじゃうっ!」
「死なないから! 先に敵を倒して!」
「…………ごめんね」

 ぎゅっと唇を噛むと、レベッタさんが弓を持って立ち上がる。素早く矢を取り出すと構えた。

 流れるような動作、すっと伸びた背筋、きりっとした眉、スキルを使って光る目、その全てが美しい。この一瞬だけ痛みを忘れて魅了されてしまった。

「死ね」

 メスゴブリンが第二射を放った直後、レベッタさんは深く怨みのこもった言葉と同時に弦から指を離した。

 真っ直ぐに進む二つの矢は中間地点で衝突、粉々に砕ける。レベッタさんは狙って当てたのだろう。神業だ。

 俺が心の中で感嘆の声を上げている間に、メスゴブリンの頭に矢が刺さった。

 仰向けに倒れたのを確認すると、レベッタさんは弓を投げ捨てて俺の腕を触る。

「大丈夫!?」
「こんなのかすり傷ですよ」

 心配させたくないので痛みに耐えながら笑って見せた。

 矢は防具を貫通して二の腕に刺さっている。鏃は貫通していない。骨辺りで止まっていそうだ。

「すぐ抜いてあげるからねっ!!」
「今はダメだ!」

 矢に手を伸ばしたレベッタさんを止めたのはアグラエルさんだ。

「どうして止めるのっ!」
「矢を引き抜いたら出血が悪化するからだっ! まずは止血するぞ!」

 アグラエルさんはナイフを取り出して自分のズボンを切り裂き、細長い布を三本作り、一本は俺の脇の下できつく結ぶ。二本目の布で俺の口を塞いだ。

「私が矢を抜くから、レベッタはすぐにポーションを傷口にかけて布を巻くんだ」
「うん、わがってるっ!」

 涙と鼻水を流しながらレベッタさんが返事をした。泣かせてしまったな。もっと早く気づいて動いてれば、笑顔で終われたのに。

「イオ君! 抜くよ!」

 宣言と共に矢が抜かれ、激しい痛みで頭が真っ白になる。意識を失ってはスキルブースターの効果が切れてしまうので、口に巻かれた布を強くかんで耐える。

 腹に刺さったナイフよりかはマシだ。俺は負けない、なんて思っていたら、また激しい痛みに襲われる。

「んーーーーーッ!!」

 緑色の液体をかけ終わったレベッタさんが、布で俺の腕を強く巻いているのだ。

 止血のためとはいえ、布を腕にきつく巻かれているので痛みは激しい。はず、だったのだが、時間が経つにつれて薄れてくる。今では、ほとんど感じないほどだ。

 矢を射られた腕はちゃんと動くので、麻痺したわけではなさそう。いったい何がおこったんだ。

「ポーションの効果が出てきたみたいだね」

 包帯を巻き終わったレベッタさんは、俺の口についていた布を取ってくれた。

 息苦しさからと痛みから解放されて力が抜けてしまった。

「ポーションですか?」
「傷を治す速度を速め、病気を予防。さらに痛み止めまである万能の液体だよ」

 さすが異世界。なんでもありだな。即効性を除けば完璧な薬じゃないか。一家に数本は欲しいアイテムだ。

「もう大丈夫か?」

 感心しているとアグラエルさんが声をかけてきた。

「はい。問題ありません。それよりもヘイリーさんたちの援護をしないと」

 俺が倒れたときには、まだメスゴブリンは残っていた。

 会話している時間があるなら助けに行くべき……って、なぜか戦っていたはずのヘイリーさんに抱きしめられてしまった。

 少し離れた場所では、こちらに向かって走っているメヌさんの元気な姿が見えた。

「大丈夫?」
「それは俺のセリフです。ケガはしていませんか?」
「もちろん。イオ君を狙うクソどもは、一匹残らず殺した」

 種族は違うのに俺を狙っていたのか……。この世界は男というだけで色んな生物から狙われるんだな。これからも気をつけないとは思ったが、まあ、何にせよメスゴブリンを討伐できたのだ。生き残れたのだ。

 初めての依頼にしては大変だったけど、そのぶん充実感がある。

「では依頼は完了ですね。帰ります――」

 身の毛のよだつという感覚を初めて覚え、口が止まってしまった。

 巨大なメスゴブリンが立っていたのだ。先ほど戦っていたメスゴブリンと見た目は同じなのだが、サイズは三倍近くある。筋肉は発達して盛り上がっているようだ。大きな両手剣を片手で軽々と扱っているように見えた。

 さらに悪いことは続く。取り巻きだと思われる通常のメスゴブリンが数十匹も出現したのだ。しかも全員、目が血走っている。俺を指さし、涎を垂らしていた。

「あれはゴブリンクイーンだな。ということは、集落の完全移動じゃないか……ツイてない」

 レベッタさんは危機を感じているのか、余裕はなさそうだ。

 でかいメスゴブリンはクイーンという種類らしい。完全移動というのは初めて聞くが、言葉からして全員が男を求めて移住する行為なんだろうと思う。

「アグラエルはスキル使える?」
「ごめん。ちょっとムリだ。もう少し休まないと」

 彼女は洞窟を出るときに大規模なスキルを使い、さらにメスゴブリンとの戦闘でも休むことなく氷の魔法を使い続けたのだ。肉体と精神が疲れ、動けなくなっても不思議ではない。現に顔色はすごく悪い。

「ヘイリーとメヌは?」
「時間稼ぎは出来る」
「私も」

 ということは、時間稼ぎ以上のことはできないと思って良いだろう。アグラエルさんほどではないが、ヘイリーさんたちもスキルを連続使用して疲れているはず。限界が近いのだ。

 レベッタさんはまだ戦えそうだが、矢がほとんど残っていない。クイーンどころか取り巻きのメスゴブリンを全滅させることすら出来ないだろう。

 スキルブースターだって万能じゃない。戦ってくれる女性が動けないのであれば、無価値である。

 戦えば敗北は避けられない。

「逃げましょう」

 死ぬのが分かっているのであれば撤退して、村で迎撃すればいいだけだ。疲れさえとれれば俺たちだけでも勝てるはずだから。

「その案は採用」
「じゃあ、すぐに行動を!」

 抱きついたままだったヘイリーさんの手を取って走り出そうとする。だが、動けなかった。彼女の足が止まったままなのだ。

「逃げるのはイオ君だけ」

 この意見はみんなの総意のようで、誰も反対しない。
 覚悟を決めた目をしていた。

「どうしてッ!」
「イオ君、それはね。逃げ切れないからだよ」

 レベッタさんが聞き分けのない弟を優しくなだめるように言いながら、メスゴブリンの集団を指さした。

 クイーンを中心にゆっくりと俺たちに近づいている。

 ん? 最前列にいるゴブリンは何かに乗っているな。距離が離れているので見えにくいので、目を細める。

「オオカミに乗ってる?」
「一般的にはメスゴブリンライダーと呼ばれているヤツらだね。馬と同じぐらいの速さで移動できるんだよ」

 疲れているアグラエルさんや足の短いメヌさんが真っ先に捕まってしまうだろう。

 人の足じゃ勝てない。

 だからせめて俺だけでも逃がそうとしたのか。

 まったく。四人ともお人好しだな。こんな時までも俺を優先して考えてくれる。

「俺に住む場所を与えてくれた恩人を見捨てることなんて出来ません」

 性別とスキルを明かせば、レベッタさんたちと出会わなくても生活には困らなかっただろうが、そう思えるのこの世界の知識がしっかりと入った今だから言えるだけ。

 目覚めたばかりの不安だったときに声をかけてもらい、手助けしてもらった恩を忘れて良い理由にはならないのだ。

「最後まで一緒に戦いましょう。絶対、みんな生き残るんです!」

 助けたい、その強い気持ちに呼応してくれたのか、全身から力があふれ出ているように感じる。今ならわかる。俺はスキルブースターの一部しか使えてなかったことを。

 もう負けることはない。本来の力を発揮させようじゃないかッ!

「みんなの力を解放しますッ!!」

 スキルは使うと意識した瞬間に発動する。特別なワードは必要ない。だから今回も「使う」と決め、スキルブースターの効果を発動させた。

「イオ君、目の光が強い。輝いている。どうしちゃったの!?」

 スキルを使っている間は目が光る。光の強さはスキルの強さと聞いたことがあったけど、これからやることを考えれば、レベッタさんの教えは正しかったのだろう。

「スキルブースターは親しい人のスキルを強化する」

 だからこそ想いの強さが、そのまま力に反映されるのだ。

 スキルブースターが何をすれば良いか教えてくれる。戸惑っているレベッタさんを見た。

「俺の前に来てください」
「イオ君?」
「はやくッ!」
「う、うん」

 言うとおりにしてくれたので顔を近づける。彼女たちの気持ちは充分伝わっているので、宣告なんてせずに唇を重ねた。

 初めてのキスだ。

 気持ちがたっぷり乗っていることもあって、効果は絶大だったらしい。

「え、なに!? どうしたの!?」

 レベッタさんの全身が薄く輝き出す。

「体の奥から力が湧き出てくる」

 ついに始まったのだ。スキルの進化が。

 大切な人を守りたいという気持ちが上限突破したことで、生まれてから絶対に変わることのないスキルが、別次元のスキルへと昇華している。スキルブースターは効果を高めるなんて単純なものではなく、新しい存在にスキルを作り替える機能が本質だ。

 キスをした理由は「親しい人ならそのぐらいするでしょ」と単純な発想があったから。俺の持っているスキルブースターなら、俺の考えを支持してくれるという確信があった。

「私も」

 ヘイリーさんに口づけをされてしまった。先ほどと同じように全身が淡く光り出す。別のスキルに昇華している証だ。

「これは……未来予知? ううん。これは予測。高い確率で起こりうる短期の未来がいくつも見える」

 体から放たれた光が弱くなり、代わりに目の輝きが強まる。ヘイリーさんのスキルは動体視力だったはずだが、今は未来予測のスキルに進化したのか? 彼女の目には、これから起こりうる未来がいくつも映っているのかもしれない。

「レベッタ。クイーンの左右にいるメスゴブリンシャーマン殺せる?」
「任せて。新しいスキル、天眼でバッチリ捉えているから」

 目を閉じたまま、レベッタさんは天に向けて矢を番えた。弓が大きくしなる。ギリギリと音を出しながら弦を限界まで引く。

「ヤるね」

 弦から指が離れた。矢が天に向かって伸びて、重力に従い落ちていく。レベッタさんは続けてもう一本放つと、二つの矢はゴブリンの集団の中に消えていった。

「メスゴブリンシャーマンの額を射貫いたよ」

 矢が刺さった姿なんて見えないのに、レベッタさんは殺したと確信しているようだ。

 メスゴブリンシャーマンを殺されて動揺しているゴブリンの集団だが、クイーンが大声で叫ぶと静かになる。俺に向かって指を指しているところから、言葉が通じなくても強い意志は感じ取れた。

 狼に乗ったメスゴブリンたちが、片手剣を掲げながら全力で走ってくる。後列には弓を持ったメスゴブリンもいるようだ。前衛が近づく直前で援護射撃をするのだろう。

 単体では弱いが、集団になると人間のような力を発揮する。恐るべき魔物だと感じた。

 こうなったら疲労困憊なアグラエルさんにもキスして、スキル進化させた方が良いかもしれない。早く動こう。

「大丈夫。私たちの勝ちだから」

 アグラエルさんに駆け寄る途中で、ヘイリーさんが俺の背後を指さした。

 走ってくる集団が見える。人数は百近い。

「ゴブリンの異変を察知した冒険者たちが助けに来てくれた?」
「冒険者は金にならないことしない」

 命を賭けているからこそ、金にこだわるのだろう。シビアな関係なんだな。

「あれはナイテア王国の騎士」
「ルアンナさんたちだ!」

 スカーテ王女が俺を守るために派遣した騎士たちが助けに来てくれたのだ。

 町を出て森の中にまで守ろうとする行動に、不覚にも感動してしまう。

「スキルブースター使える?」
「もちろん」

 助けに来てくれた彼女たちは間違いなく俺の味方だ。ちゃんと効果を発揮してくれた。

「魔法を放て!!」

 走りながらルアンナさんが指示を出すと、火の玉が数個、空中に浮かび、狼に乗ったメスゴブリンの集団に向かって放たれた。

 接触すると爆発する。クレーターができるほどの威力で、吹き飛んだ土の塊が周囲にいたメスゴブリン立ちにも当たり、狼から転げ落ちる。

 続けてもう一度、火の玉が放たれると、狼に乗ったメスゴブリン立ちは全滅した。

「大丈夫ですか!?」

 騎士を引き連れたルアンナさんが、俺の前に立つ。
 顔や体、腕の順番で触って動きが止まった。

「ケガをされたんですね」
「安心してください。かすり傷ですよ」

 ルアンナさんの表情がいっきに暗くなった。連れてきた騎士たちも同じだ。

「私たちの大切なイオ君が傷物にされた」

 騎士たちから殺気が放たれる。
 戦闘に疎い俺でも分かるほど強烈だ。

「全力でスキルを使え」

 瞳が強く光る。

「あのゴミどもを殺すぞ」

 無言のまま走って行く。

 騎士と言うよりも蛮族に近いと感じてしまうほどの迫力があった。

 迎撃のためにメスゴブリンから矢が放たれるが、騎士は剣を一振りするだけで弾いてしまう。

「私たちは武術系統もしくは攻撃魔法系のスキルを持っています。イオ君のおかげでクイーンですらすぐに殺せるので安心してください」
「それでも、気をつけてくださいね」
「もちろんです」

 ルアンナさんが急に跪くと、俺の手を優しく左沢って顔に近づける。

「あなたに勝利を届けます」

 柔らかい唇が俺の手の甲に当たると、彼女も全身から淡い光が出た。

 相手がキスするパターンでも効果を発揮するのか!!

 スキルブースターの効果はすごかった。

 騎士が剣を一振りするだけで複数のゴブリンが宙に舞い、背の高いゴブリンクイーンもルアンナさんが一刀で両断してしまった。圧倒的な暴力を前にして、メスゴブリンの集団は一分足らずで全滅してしまう。

 戦闘向けのスキルをもった集団の強さ、そしてスキルブースターの恐るべき力を目の当たりにした気分だ。

 確かにスキルブースターを全力で使えば、大国とだって良い勝負だができるだろう。スカーテ王女が俺に気を使っている理由が本当の意味で分かった気がした。

「すごいねぇ……」

 勝利した騎士の姿を見たレベッタさんが呟いた。

 憧れ、羨望、そういった類いの感情がこもられていたように感じる。死ぬことを覚悟した相手を数分で全滅させてしまったのだから、プライドが傷ついたはずだ。どんなに頑張ってもスキルの差は埋められないのだ。その現実が彼女を押しつぶそうとしているのかもしれない。

 何か言わなくてはいけないと思って口を開きかけたが、言葉は出なかった。

 この世界に来たばかりの俺が何を言っても、さらにレベッタさんを傷つけるだけなのだから。

「ねぇ。イオ君」

 寂しそうな顔をしたレベッタさんが、俺の方を向いた。
 目が合う。ふっと笑ったような気がした。

「お姉さんといるより、王女様達と一緒に居た方が安全だよ。だから……」

 最後まで言わせてはいけないと思って抱きしめた。

「イオ君?」
「最初に声をかけて俺を拾ったのはレベッタさんです。最後まで面倒を見る責任があると思いませんか?」
「でも今回みたいに、私たちじゃ守り切れないときがあるかもよ」
「だったら、一緒に強くなれば良いんです。スキルブースターだってもっと効率の良い使い方があるかもしれないですし、諦めるのは早いですよ」

 キスをしたらスキルブースターの効果が高まったのだ。もっと親密な関係になれば、さらに強い効果が見込めるかもしれない。一時的なスキル進化だけではなく永久的なパワーアップだって可能かもしれないのだ。可能性は無限大である。

「本当にいいの? お姉さんから離れる最後のチャンスだよ?」
「ずっといる覚悟がなければ、キスなんてしません」

 背伸びをしてレベッタさんの耳に口を近づけ、誰にも聞かせられない言葉を伝える。

「初めてだったんです。責任、取ってくださいね」

 普通は逆だろと思うのだが、この世界であれば普通かな。

 少しでも元気が出ればと考えての行動だったのが、想像以上の効果が出てしまう。なぜか肩に担がれてしまったのだ。

「うん。責任、取るね! 続きはお家でしよっ!」

 戦いで疲れているはずなのに、全力で走り出してしまった。向かう先は依頼を受けた村の方だ。

 家で何をするつもりなんだっ!!

「抜け駆け禁止!」

 すぐに動いたのはヘイリーさんだ。剣と盾を投げ捨てると陸上選手のような走り方で追ってきた。歯を食いしばって目を見開いている。普段の物静かな態度とは正反対だ。ちょっと、いや、かなり怖い。

「アグラエル! コンビ技で捕まえよ!」
「わかった!」

 メヌさんを抱きしめたアグラエルさんは背中の翼を大きくひらいた。

 まさか空を飛ぶつもりか!?

「レベッタ覚悟しろっ!」

 予想したとおりアグラエルさんが空を飛んだ。数十メートルぐらいだろ。滑空しながら近づいてくる。最小の労力で効率よく移動してると、感心してしまった。

「二人の楽園を作るんだから、みんな邪魔しないでっ!」

 何を言ってるんだ!?

 一緒にいようと言ったが、その中にはパーティメンバーも入ってるんだ。二人だけで永遠に過ごそうなんて約束をしたつもりはない!

「みんなで楽しく過ごしません!?」
「きこえなーーーーい!」

 今時の子供ですら言わないことを大人が言わないで欲しい!

 ダメだ。この人、暴走している。

「逃がさないっ!」

 背後にまで近づいたヘリイーさんが低く飛んで、腰回りを掴もうとする。

「あまいねっ!」

 真横に飛んで回避した。さすが冒険者、運動能力が高い。

 感心していると急に周囲が薄暗くなった。顔を上げるとハンマーを持ったメヌさんが落下していた。直撃したら、俺まで攻撃をくらいそうなんですがッ!!

「レベッタさん、上! 上です!!」
「はいよっ!」

 また横に飛ぶとメヌさんのハンマーを回避する。飛び散った土が口に入ったので、ペッと吐き出した。

「大丈夫!?」
「ダメです! おろしてください!」
「それは無理! 二人で世界の果てまで行こう」

 決め台詞を言った、なんて思ってそうな自慢げな顔をされてしまった。白い歯が、きらんと光っているようにも見える。

 このままだと本当に連れて行かれそうだ。

「イオ君を返せ!!」

 アグラエルさんが滑空しながら衝突した。俺を巻き込んでゴロゴロと転がる。目がグルグルと回ってしまい何が起こっているか分からない。

 勢いが止まったので、起き上がるために手に力を入れる。

 むにゅっと柔らかい感触がした。

 うん。よくわからない。もう一度揉んでみる。やっぱり柔らかい。男を癒やす魅力がある。

「イオ……君……?」

 声がした方を見るとアグラエルさんが、顔を真っ赤にさせながらプルプルと小刻みに震えていた。羞恥心に耐えているようだ。

「ありがとうございます?」

 お礼を言ったら限界に達したようだ。竜の翼を羽ばたかせて、どこかに飛んでしまった。

 風に吹き飛ばされた俺は、また地面を転がると、固い物にぶつかって止まった。

「大丈夫ですか?」
「はい……」

 ルアンナさんの足に当たっていたみたいだ。覗き込むようにして俺を見ていた。

「後始末は部下に任せるので、安全な場所に行きましょう」

 また抱きかかえられると誰にも気づかれることなく、お持ち帰りされてしまう。

 争奪戦の勝者はルアンナさんになったようだ。



========
【あとがき】
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
いったん完結となります!!

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