1
生温かい風に揺らされたカーテンが頬をくすぐる。
授業中の教室内は先生の声を除いて静まり帰っていて、誰かが雑談でも始めれば、それがどれほどの小さな声であろうと頭に響くノイズとなるだろう。けれどグラウンドではどこかのクラスが体育の授業を受けている。声援の声やバットがボールを弾く気持ちの良い音が聞こえてくるのに、不思議とそれは邪魔にならない。蝉の鳴き声や扇風機が働く音と同じ、ただの効果音だ。
聞かなくてはならない授業の内容もそう。タブレットを両手で持ち、物語の内容を読み上げる先生の低い声は思考の妨げにならず、意識は一枚のプリントに向けている。
進路希望調査。提出期限は今日。
第三志望まで書かなくてはならないそれを埋めることが出来ず、考えることを苦手とする頭はいっぱいになっていた。諦めてペンを置いて、腕を枕に突っ伏す。頭を休める時間も必要だ。
「……と……もと……榎本未羽!」
「はい!」
全身に突き刺さる声が反射的に椅子を引かせた。クスクスと笑うクラスメートを見渡すと、いたたまれない気持ちになる。ホームランを打ったらしい喜びの声がグラウンドから聞こえてきた。
「休み時間まであと十五分我慢しなさい。立ったついでに続き読んで」
寝る体勢に入っていたのだから、続きがどこだか分かるわけがない。だからこそ先生も説教を踏まえたいじわるのつもりで言ったのだろう。
読めなくとも正直に告げることは出来ず、ゆっくりとタブレットを持ち上げた。授業終わりのチャイムが今この瞬間に鳴ってくれれば私のピンチは救われるのに。
そんな不満を時計に対して抱いたときだ。二十四時間、一年中サイレントマナーモードにしているタブレットが無音でメッセージを受信した。開けずとも、その内容は小さく表示される。