「あなたの社会的な信用度は、どのくらいあると考えますか? その根拠を具体的に教えてください」
「あなたの企画商品をナガサキと共同で販売して、もし半年後に売れゆきが悪かったら、どのような巻き返し策を取りますか?」
「あなたと組むことで、ナガサキにどんなメリットがあると思いますか?」
「あなたは、今、借金がありますか?」

 厳しい質問が矢継ぎ早に飛んでくる。
 東京のナガサキ・コーポレーション本社で行われたアクセラレータ最終面接は、精神力ぎりぎりまで追い詰められる。知らない人と組むのだから、ナガサキ側も確証を得ようと必死だ。

 想定はしていたものなので、何とか一つ一つ丁寧に答えられた。
「いなべ市役所は市内全域の農業振興のために高橋さんの企画を公認し、人的支援をしていきます」
 同行してくれたツキカさんが時折、援護してくれると面接官は黙りこんだ。ありがたい。行政の信用力の強さを実感した。

「ジオラマ販売がある程度やり尽くしたら、次に打ち出す企画やプランはありますか?」
 言葉が詰まった。これは想定外だ。しかし、考えていないとは決して言えない。動揺しながら言葉を探す。

「高橋さん、あれは? でもここで言うのは早いですかね」
 ツキカさんが時間を繋ごうとしてくれている。
「もう、隠す必要もないですね」
「もったいぶらないで、教えてください」
 ついに面接官に催促される。

「あの、……野菜を使った婚活事業です」
 面接官が、吹き出した。
 これまで緊張感で包まれていた面接の雰囲気が急に緩み、笑い声が響く。

 親から言われて気にしている婚活がボクの頭から離れていなかったようだ。よくこんなテキトーなことを言えたものだ。横でツキカさんも笑っている。

「野菜で、一体どんな婚活ができるんですか?」
 面接官は笑いながら、興味は持っている。嘘でもいいから、何か言わなければならない。
「野菜で、……」
「野菜で?」
「その」
「まあ、苦しければ無理に言わなくてもいいですよ。こっちも急に意地悪なことを聞いてしまいました」
 緊張がほぐれた面接官は、優しい口調で言う。

「いえ、野菜のフードロスをなくすためにロスになりそうな食材を食べきる婚活パーティーです」
 言ってはみたものの、不安になる。
「それは面白いですね」
 面接官が、興味を持ってしまった。

「国連で採択されたSDGsの推進事業と位置づけることもできるので、うまくいけば行政とも一緒にできるかな、と」
「そうですね。いなべ市でもSDGsには積極的に取り組もうとしています」
 ツキカさんかフォローする。

「この事業に、ナガサキ・コーポレーションは、どのように関われますか?」
 そう、それを追及されると困るのだ。やっぱり、その場凌ぎの思いつきでは、ごまかせないか? もう、面接官に正直に謝ろうか。

「御社のキャラクターでこのパーティーに参加した人しか見てもらえない、動画をつくります。SDGsを啓発する内容のものだとベストです、それなら、付加価値が加わるので、高い料金設定のパーティーが実現できます」
 ツキカさんが、思いがけないアイデアを出してくれた。面接官は何度も頷き、目を閉じてイメージしている。

「なるほどねえ」
 緊張の連続だった面接は30分程で終わった。
 あとは、運を天に任せるしかない。
 もうやりきったから、どうなってもいいと思えた。ダメだったら、自力で小さくてもいいので事業化しようと考えている。

「もう、ヘトヘト」
 帰りの新幹線で、隣に座っているツキカさんは、ビールを飲みながら吐き出すように言った。

 新幹線で缶ビールを飲むイメージがなかったので、意外というか、女の人は奥が深いというか、最初は戸惑った。でも、そんな飾らないところも含めて魅力的だ。いや、この缶ビールを片手にしたツキカさんの方が人臭くていい。

「何度も、もうダメか、と諦めそうになりましたけど、ツキカさんのおかげで乗り越えられたよ。ありがとうございました」
「よく、言うよ~。全部高橋さんがやりまくってたじゃない」
 うん、少し酔っている。

「もう、面倒な女とはこれで最後だ。ラッキーって思ってるでしょ?」
「いえ、まさか」
 絡み出すと、面倒な女性(ひと)かな?

「私も勉強になりました! 今の市長に反発したり、立田だけが得すればいいなんて、もう考えません!」
「少し、声が大きいですよ、ね、ツキカさん」
「わ、説教した。高橋さんの初説教」
 まあ、気分は良さそうなのでいいか。今なら言えそうな気がした。

「え、何? 聞こえない」
 恥ずかしいから小声で話すが、ダメか。
 可能な限り大きな声でツキカさんの耳元で囁く。
「ずっと前からツキカさんのことが、好きでしたよ」

「好き? 私ことが?」
「はい。でも回りの方が戸惑うので、小声でお願いします」
「あんなに、高橋さんを利用していたのに?」
「利用されているのが分かっていたとしても、嬉しかった」

「ありがとう。でも『好きでした』って過去形じゃない」
「ボクもいい年なので、自立しなければいけないよ」
「もう、私はヤダってこと」
「嫌なのではなくて、依存から卒業したいと思ってる。別にいいでしょ。ツキカさんは若いし、いろんな男性が放っておかないから」

「そう?」
「ま、でも、男性の前では酒は控え目の方がいいかも」
「何よ、好きなくせに」
 もう、戦いは終わった。いや、終わったというより始まったというべきか。これからますます忙しくなるのだから、今夜くらいはリラックスしたい。

 あ、この面接に向けた慌ただしさの中で、大切なことを忘れていた! 仕事だけしてこの先、ボクは生きられないのだった。

 ふと、ツキカさんを見た。
「見とれてるの?」
 この人に頼っていいだろうか? まあ今回は、いいコンビネーションだったし、うーん、大丈夫かな。もう、それこそ、運を天に任せよう。

「ツキカさん」

「はい」

「もう一度だけ、アドバイスして助けてもらえませんか」

「さっき、卒業するって言ったのに、もう撤回するの?」

「ボクとしたことが忘れてた。あと一度だけ、お願いします」

「いいけど、何よ」

「今度、市役所が開催する婚活パーティーに初めて参加するけど、どうしたらうまくいくかな?」

「婚活?」

 ツキカさんは、何かを企んだ笑みを浮かべた。(了)