販売は、客足が途絶える午後4時に切り上げ、搬出する。市内にある自宅に戻って売上金や在庫状況の確認して、端末の管理データに入力する。
 ネットやふるさと納税返礼品の注文は、今日も入らなかった。

 ため息交じりで、自宅の隣にあるビニールハウスに向かう。まだ辺りが暗くなるまで2時間は作業できる。
 ビニールハウスは、販売するよりももっと暑い。夏場は、早朝か夕方しか入れたものではない。

 ミニトマトは、花の上に3本の葉が伸び、その上にまた花ができて、さらに3本の葉ができる。この循環で花が受粉して上に、上にと実ができるのだが、花と花の間に3本以上の葉やその芽があったら、ちぎり取らなければいけない。また、支柱にうまく巻き付いているかもチェックしていく。

 本当は露地栽培ができるといいのだが、ボクの住む地域は、シカやイノシン、サル、ハクビシンなどありとあらゆる獣がいる。ビニールハウスは雨を避けて気温を上げるというためというよりは、獣害を避けるためにある。

 猛暑の中、ただ地道な作業をして今日も無為の1日が終わった。
 ふいに、ケータイが鳴った。またか。1週間に1度はかけてくる。

「お母さんだけど」
「うん」
「ちゃんとごはんは食べてる? 仕事はうまくいってるの? 今度、お盆は帰ってくるの?」
 思ったことを矢継ぎ早に言う母のくせは何とかならないものか。
「まあ、元気にしてるよ。お盆は、日帰りだったら、何とかなるかなあ」

「たまには、婚活にいきなさい」
「また、その話?」
「調べたら、いなべ市では行政が楽しそうな出会いのパーティーをやってるじゃない」
「ボクみたいなおじさんは、女の人に相手してもらえないよ」
「行ってもいないのに、何で分かるの?」
「もう、説教はいいよ」

「それとも、いいと思う女性(ひと)がいるの?」
 一瞬、ツキカさんが頭に浮かんだが、すぐにかき消した。
「いない」
「じゃあ、次の婚活パーティー、行きなさい。民間主催よりは、行政主催の方を選びなさいよ」
「もう、放って置いてよ」

「私もお父さんも、もう若くないの。私たちが死んだ後のあなたの老後を思うと、心配でしようがないのよ」
 いい歳して情けないが、ボクはもう限界だった。
「ごめん、忙しいから切るよ」

 一方的に電話を切ると、またため息が出る。
 20代は会社に勤めても心が病み、職を転々とした。親ともうまくいかず、家を出て各地を転々とする中、ただ同然で家と畑を貸してくれるこの三重県いなべ市の山里にたどり着いた。地元の人たちの協力で、農業を通してここで生きられるのは、感謝している。

 だが、……ボクは親不孝だ。一人息子なのに結婚もできず、親に孫の顔を見せることも安心させることもできない。

 夜になると、また憂鬱になる。
 孤独な夜は考えなくてもいい心配事が次々浮かび、また今夜もなかなか眠れない。
 この先、今の状態で生きていけるか自信がない。体力勝負の仕事も40歳を越えてから年々厳しくなる。

 それに、深刻なのは収入だ。貧しいがゆえに、体の具合が悪くても病院にいくのを我慢してしまう。もう十年以上、健康診断を受けたことがない。受けて再検査となったから、高い検査費用が払えない。

 結婚などもう諦めている。ボクと結婚したら相手が可哀想だ。