9月24日(金)12時に八重洲口で秋谷さんと待ちわせた。4回目の密会だった。スーツケースはすでにホテルのフロントに預けてきた。事前にどこへ行きたいか聞かれていたので、ショッピングと答えておいた。

それで六本木ヒルズとミッドタウンを案内してくれることになった。今回は一人で東京へショッピングといってあるから、何か素敵な衣料を買って帰りたかった。食事は六本木のしゃれたレストランを予約しておいてくれた。

レストランで食事をしたときに彼の気持ちを聞いてみた。

「貴方の気持ちを確かめておきたいの。私のことをどう思って会ってくれているの?」

「会いたい気持ちもあるし、会ってはいけなかったと後ろめたい気持ちもある。正直、迷っている。どうしても昔別れたことが悔やまれて、君のことが頭から離れなくなっているんだ。今の気持ちを一言で表すと、浮気という言葉がしっくりこないけど、浮気と本気の間だと思う」

「私も同じ気持ちです。あの別れた時に気持ちの整理がついていたはずなんだけど、密会を重ねると、昔のことを後悔したり、会いたい気持ちは募るし、いっそ今の夫と別れてしまおうかとも考えたこともあったの。でも夫と別れることはできない。会いたいと身体が求めているような気もして、どうしたらいいのか分からなくなっています」

「俺はこのまま二人の関係を大切にしたいと思っている。だからお互いにパートナーには絶対に分からないようにして会い続けるしかないと思っている」

「私も貴方と同じように二人の関係を大切にして、このまま会い続けたいと思っています」

やはり、彼も同じ気持ちを持ってくれていた。それを確かめられて安心した。ただ、このような関係をいつまで続けられるのか不安もあった。その日も、駅のホテルで彼と一夜を共にした。

◆ ◆ ◆
10月に入って、上野公園の国立西洋美術館のフランスの印象派の絵画展があることが分かった。私はフランスの印象派の絵画が大好きで画集を何冊も持っている。どうしても見に行きたくなって秋谷さんに都合を聞いた。

10月27日(水)、28日(木)29日(金)の午後なら対応ができるとの返事だった。それで勤務の予定を調べて、28日(木)の午後に訪ねることにした。

それからスケジュールがメールで送られてきた。12時にいつもの場所で待ちあわせをして、上野の西洋美術館で絵画展を見てから、東京国立博物館か上野動物園を見学して、新橋の和食の店で夕食を予約したと書いてあった。

前回会ったのが、9月24日(金)だった。直美さんからは会う回数が多すぎるから、間隔をもっと開けるように言われていたので、間隔があいていないのが気になったが、理由が絵画展だから問題ないと思っていた。家族にもそういって出かけてきた。

10月28日(金)夜勤明けから直接駅に向かい、新幹線に乗って東京駅についた。すぐに荷物をホテルに預けて、八重洲の改札口で彼を待った。私はこのとき私をずっと監視している人がいるのに気づかなかった。

東京駅からJRに乗って上野駅まで行った。西洋美術館ではゆっくり絵画を鑑賞できた。それから、上野動物園は歩き回るのに疲れると思ったので、東京国立博物館を見学することにした。ここもゆっくり見学する時間があった。

午後5時を過ぎたころに上野をたって新橋へ向かった。和食の店は新橋駅から徒歩5分くらいのところだった。そこのボックス席で食事をした。店を出たのは8時を過ぎていた。

二人ともお酒を飲んだので、新橋駅前からタクシーに乗って駅のホテルへ向かった。それから二人はホテルで一夜を過ごした。

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10月29日(土)昼の新幹線に乗って金沢へ帰ってきた。それから直接、夜勤に入った。そして10月30日(日)朝9時過ぎに夜勤明けで家に帰ってきた。いつもなら笑顔で迎えてくれる夫の誠《まこと》がいなかったので、息子の諭《さとし》にパパのことを尋ねた。

「パパは昨日の午後5時ごろに、パパも旅行に行ってくるからとスーツケースを持って出かけていった。しばらくもどってこられないかもしれないけど心配するなと言っていたけど、どこへ行ったのかな?」

「パパの様子はどうだった」

「何か考え事をしているような感じだったけど」

「パパが旅行に出かけたことをおじいちゃんやおばあちゃんは知っているの?」

「今朝、パパはどうしたのと聞かれたから、旅行に出かけたといってある」

私は不安を感じて、彼の部屋に行った。部屋はきちんと片付けられていて、机の上に私宛の手紙が残されていた。

『多恵様 多恵がここしばらくは東京へ買い物に行くと言って家を空けることが度々なので、心配になって、28日(金)に東京までずっと後を付いていった。そうしたら見知らぬ男性と親しく会っているのが分かった。二人がタクシーに乗って駅のホテルへ入るところまで確かめて、その日のうちに戻ってきました。

多恵には好きな人がいるようだから、自分なりにどうしたらよいのかを考えてみました。それで考えた末に自分はこの家を出ることにしました。多恵と結婚して諭が生まれて跡取りはできたから、自分は役目を果たした。あとは自分も自由に生きてみたいと思う。

多恵には幸せになってほしい。諭には旅行に行くといってあるので、そのうちに君の方から話してやってほしい。 10月29日 誠 』

そして、自分の分を記入した離婚届が同封されていた。

読み終えるとその場に崩れ落ちた。大変なことになった。私は一時の安易な感傷におぼれて見境がなくなって、かけがえのない大切な人を傷つけてしまった。取り返しのつかないことになってしまった。頭の中が真白になっていた。

どうしたら戻って来てくれるのだろう。言い訳が思いつかない。言い訳なんかできるはずがないことは分かっていた。すべて私の我儘のせいだった。