9月10日(金)6時30分に約束した和食レストランに私はやってきた。場所はすぐに分かった。駅のすぐ近くのビルの6階にあった。そんなに高級ではなくてショウウィンドウにある料理もほどほどの値段だった。上野多恵さんはもう着いていてボックス席にいた。
多恵さんは誰かに悩みを聞いてほしかったみたいだった。それが私でよかったかは分からない。それは秋谷さんとの不倫の相談だった。
会食の途中で、進からメールが入った。7時を過ぎたところだった。
[1256無事到着]。
会話がとぎれたところで席をはずして返信メールを入れた。
[用事が入りましたので到着が遅れます]
彼女の話を親身になって聞いてあげた。他人ごとではないようなところもあったからだ。それから私の意見を言ってあげた。それから会っていることが露見しないための助言もしてあげた。これは私たちにも共通したことだったからだ。
彼女の話から、結構用意周到に会っている感じはしたけど、ちょっと会う頻度が多過ぎて危なっかしい感じがした。いくら理由があってもそれが毎月だったら、誰でもおかしいと思うに違いない。
多恵さんは、私に話したことで気が楽になったのだろう。少し吹っ切れたような表情を見せて帰っていった。
上野さんと秋谷さんが親の反対で別れたことは、私たちの別れよりもっと深刻なものだったに違いない。18年間も二人の間に燻っていたものがすぐになくなるとは思えないが、いずれ、時間が解決してくれるとは思う。それまでは分からないように会うしかない。
別れ際にまた相談に乗ってくれるか聞かれたが、私でよければ2~3か月に1回は帰省しているから声をかけてと答えておいた。
◆ ◆ ◆
ホテルへはすぐに着いた。でももう9時になっていた。すぐに1256号室へ向かった。私が彼の部屋に行くのは初めてだった。ドアをノックしたが、しばらく応答がない。もう一度ノックする。ようやくドアが開いた。すぐに中に入れてくれた。
「ごめん。うたたねをしていた」
「遅れてごめんなさい。急にお友達と会うことになって、二人で食事をしていました」
「僕も遅くなることがあるから気にしないで。今日は僕の部屋に来てくれたんだ」
「いつも私の部屋に来てもらっているから。でも部屋のつくりは同じだから代り映えはしないですね」
すぐに抱き合ってキスを交わす。2か月ぶりの逢瀬だから、お互いの気持ちが治まるまで抱き合っている。
「ごめんなさい。汗をかいているので、シャワーを浴びさせて下さい」
「ゆっくり使って」
私はバスルームへ入った。シャワーがとっても心地よい。ゆっくり汗を流す。今日はどんな発見があるのだろう。
私はバスタオルを身体に巻いてバスルームから出た。そしてベッドに腰かけている進のすぐそばに座った。冷やされた飲み物がテーブルに並んでいる。このまえ私が飲んでいたのと同じ缶のレモンサワーを手渡してくれた。彼らしい気配りが嬉しかった。
それを私はゆっくり飲み干した。喉を潤すと私はすぐに抱きついた。それに応えるように私を愛し始める。
◆ ◆ ◆
喉が渇いたので目が覚めた。進はずっと眠らずに考え事でもしていたのではないかと思う。
私は何回も何回も昇り詰めた。凄い凄いと何回も押し殺した声で彼にそれを伝えた。また、手を握ったり、腕をつかんだり、腰を押し付けたり、背中に腕を回してしがみついたりして、それを伝えた。私の快感を分かってもらいたくて、そうしないではいられなかった。
彼はそれに応えるかのように集中し没頭してくれた。最後は、私が腰を強く押し付けたのに合わせて、両足を絡めてより強く押し付けてきてくれた。二人が一体となったと、これまでで最も強く感じることができた瞬間だった。快感が身体を突き抜けていった。そして全身から力が抜けた。
彼はいつも私が悦びそうなことを考えてきてくれている。会うごとに新しい発見があり、毎回会うのが楽しみになっている。初めての体位を2、3試みてくれたのが分かった。私がその試みを気に入ったのをすぐに分かってくれたと思う。
彼はそっと起き上がって飲み物を取りに冷蔵庫の方へ歩いていった。
「私にも何か冷たいものを持ってきてください」
「起こしてしまったね。ぐっすり眠っていたのに」
私はミネラルウォーターを受け取ると渇いた喉を潤した。私は満ち足りた表情をしていたと思う。
「ありがとう。すごくよかった。今までで一番良かった」
「考えてきたかいがあってよかった」
「やっぱり考えてきてくれているのね。ありがとう。理系の男子は何でもシステマティックに物事を考えるのね」
「そうかな? でもテクニックにこだわるところはあるかな」
「ところで、友人から不倫の相談を受けたの。よかったらあなたの考えというか、意見を聞かせてもらえないかな?」
「普通は友人にでもそういう相談はしないものだけどね。話が漏れやすい。僕は口外しないけど大丈夫なのか?」
「地元の古くからの友人で、幼馴染といってもよい間柄だし、それに私はもう地元を離れてほかの友人と接触する機会も少ないし、だからでしょう。それに切羽詰まっているような感じがしたから」
「それでどうして僕の意見を?」
「男の人の考えを聞いてみたいから」
「それは僕と君とのことでよく分かっているはずだけど」
「違うの。彼女は私とは違っているから」
「どこが?」
「浮気じゃなくて本気に近いから。お相手は昔付き合っていた人で親の反対でしかたなく別れた人だそうです。しばらく前に再会して昔の関係に戻ってしまって、昔別れたことも後悔して悩んでいるというの。会いたい気持ちは募るし、いっそ今の夫と別れてしまおうかとも考えたそうよ」
「僕は浮気という言葉がしっくりこない。確かに浮気という言葉で片付けられるかもないが、僕は君とはもっと真剣に向き合っている。でもその本気というのとも違う。僕は君が二人の関係について冷静な考えをしているから、こうして会っている」
「それは私も分かっています」
「ところでその相手の人は独身?」
「家庭があると言っていたわ」
「それじゃダブル不倫だね。両方の家庭を壊しかねないから、もうその人とは会わない方がよさそうだね」
「だから彼女もそれで悩んでいたわ」
「そういうリスクの自覚はあるんだ。相手の気持ちを率直に聞いて確認してみたらというのが僕の意見だけど。ただ、聞き方はあるね」
「聞き方というと?」
「『私は本気だけど、あなたはどうなの?』と聞くと、普通の男なら引いてしまうだろう。そうなってしまった方がよいとは思うけど。そう聞いてくる相手とは続けるにしてもリスクが高すぎる」
「じゃあ、どう聞けばいい? 相手も友人に好意を持っているからそういう関係になったのは分かっているの。それ以上の答がほしいみたい」
「欲張りだね。それは難しい。彼女の我儘に聞こえる」
「そうね。それ以上を望むならお互いに相当な覚悟がいるわ。それで二人幸せになれる保証などどこにもないし、そういう結末って良いことはないと思う」
「もしこのまま二人の関係を大切にしたいなら、あえて駄目を詰めないで、パートナーには絶対に分からないようにして会い続けるしかないと思うけどね」
「私もそう助言しました」
彼はその友人が上野多恵さんだと思ったに違いない。でもあえてそれを確かめてこなかった。彼らしい心配りだ。多恵さんは私を信用して相談したのだから、私の信用にも関わると思ったのだろう。
でも私は秋谷さんが進の親友だと知っているので、あえて彼女のために彼に相談してみたかった。やはり答えは私と同じだった。
相談の内容が内容だけに私たちはすっかり覚めてしまっていた。彼らのことよりも自分たちの関係を大切にしたい。進はもう回復していたが、二人がそういう気持ちを取り戻すのには少し時間がかかってしまった。
多恵さんは誰かに悩みを聞いてほしかったみたいだった。それが私でよかったかは分からない。それは秋谷さんとの不倫の相談だった。
会食の途中で、進からメールが入った。7時を過ぎたところだった。
[1256無事到着]。
会話がとぎれたところで席をはずして返信メールを入れた。
[用事が入りましたので到着が遅れます]
彼女の話を親身になって聞いてあげた。他人ごとではないようなところもあったからだ。それから私の意見を言ってあげた。それから会っていることが露見しないための助言もしてあげた。これは私たちにも共通したことだったからだ。
彼女の話から、結構用意周到に会っている感じはしたけど、ちょっと会う頻度が多過ぎて危なっかしい感じがした。いくら理由があってもそれが毎月だったら、誰でもおかしいと思うに違いない。
多恵さんは、私に話したことで気が楽になったのだろう。少し吹っ切れたような表情を見せて帰っていった。
上野さんと秋谷さんが親の反対で別れたことは、私たちの別れよりもっと深刻なものだったに違いない。18年間も二人の間に燻っていたものがすぐになくなるとは思えないが、いずれ、時間が解決してくれるとは思う。それまでは分からないように会うしかない。
別れ際にまた相談に乗ってくれるか聞かれたが、私でよければ2~3か月に1回は帰省しているから声をかけてと答えておいた。
◆ ◆ ◆
ホテルへはすぐに着いた。でももう9時になっていた。すぐに1256号室へ向かった。私が彼の部屋に行くのは初めてだった。ドアをノックしたが、しばらく応答がない。もう一度ノックする。ようやくドアが開いた。すぐに中に入れてくれた。
「ごめん。うたたねをしていた」
「遅れてごめんなさい。急にお友達と会うことになって、二人で食事をしていました」
「僕も遅くなることがあるから気にしないで。今日は僕の部屋に来てくれたんだ」
「いつも私の部屋に来てもらっているから。でも部屋のつくりは同じだから代り映えはしないですね」
すぐに抱き合ってキスを交わす。2か月ぶりの逢瀬だから、お互いの気持ちが治まるまで抱き合っている。
「ごめんなさい。汗をかいているので、シャワーを浴びさせて下さい」
「ゆっくり使って」
私はバスルームへ入った。シャワーがとっても心地よい。ゆっくり汗を流す。今日はどんな発見があるのだろう。
私はバスタオルを身体に巻いてバスルームから出た。そしてベッドに腰かけている進のすぐそばに座った。冷やされた飲み物がテーブルに並んでいる。このまえ私が飲んでいたのと同じ缶のレモンサワーを手渡してくれた。彼らしい気配りが嬉しかった。
それを私はゆっくり飲み干した。喉を潤すと私はすぐに抱きついた。それに応えるように私を愛し始める。
◆ ◆ ◆
喉が渇いたので目が覚めた。進はずっと眠らずに考え事でもしていたのではないかと思う。
私は何回も何回も昇り詰めた。凄い凄いと何回も押し殺した声で彼にそれを伝えた。また、手を握ったり、腕をつかんだり、腰を押し付けたり、背中に腕を回してしがみついたりして、それを伝えた。私の快感を分かってもらいたくて、そうしないではいられなかった。
彼はそれに応えるかのように集中し没頭してくれた。最後は、私が腰を強く押し付けたのに合わせて、両足を絡めてより強く押し付けてきてくれた。二人が一体となったと、これまでで最も強く感じることができた瞬間だった。快感が身体を突き抜けていった。そして全身から力が抜けた。
彼はいつも私が悦びそうなことを考えてきてくれている。会うごとに新しい発見があり、毎回会うのが楽しみになっている。初めての体位を2、3試みてくれたのが分かった。私がその試みを気に入ったのをすぐに分かってくれたと思う。
彼はそっと起き上がって飲み物を取りに冷蔵庫の方へ歩いていった。
「私にも何か冷たいものを持ってきてください」
「起こしてしまったね。ぐっすり眠っていたのに」
私はミネラルウォーターを受け取ると渇いた喉を潤した。私は満ち足りた表情をしていたと思う。
「ありがとう。すごくよかった。今までで一番良かった」
「考えてきたかいがあってよかった」
「やっぱり考えてきてくれているのね。ありがとう。理系の男子は何でもシステマティックに物事を考えるのね」
「そうかな? でもテクニックにこだわるところはあるかな」
「ところで、友人から不倫の相談を受けたの。よかったらあなたの考えというか、意見を聞かせてもらえないかな?」
「普通は友人にでもそういう相談はしないものだけどね。話が漏れやすい。僕は口外しないけど大丈夫なのか?」
「地元の古くからの友人で、幼馴染といってもよい間柄だし、それに私はもう地元を離れてほかの友人と接触する機会も少ないし、だからでしょう。それに切羽詰まっているような感じがしたから」
「それでどうして僕の意見を?」
「男の人の考えを聞いてみたいから」
「それは僕と君とのことでよく分かっているはずだけど」
「違うの。彼女は私とは違っているから」
「どこが?」
「浮気じゃなくて本気に近いから。お相手は昔付き合っていた人で親の反対でしかたなく別れた人だそうです。しばらく前に再会して昔の関係に戻ってしまって、昔別れたことも後悔して悩んでいるというの。会いたい気持ちは募るし、いっそ今の夫と別れてしまおうかとも考えたそうよ」
「僕は浮気という言葉がしっくりこない。確かに浮気という言葉で片付けられるかもないが、僕は君とはもっと真剣に向き合っている。でもその本気というのとも違う。僕は君が二人の関係について冷静な考えをしているから、こうして会っている」
「それは私も分かっています」
「ところでその相手の人は独身?」
「家庭があると言っていたわ」
「それじゃダブル不倫だね。両方の家庭を壊しかねないから、もうその人とは会わない方がよさそうだね」
「だから彼女もそれで悩んでいたわ」
「そういうリスクの自覚はあるんだ。相手の気持ちを率直に聞いて確認してみたらというのが僕の意見だけど。ただ、聞き方はあるね」
「聞き方というと?」
「『私は本気だけど、あなたはどうなの?』と聞くと、普通の男なら引いてしまうだろう。そうなってしまった方がよいとは思うけど。そう聞いてくる相手とは続けるにしてもリスクが高すぎる」
「じゃあ、どう聞けばいい? 相手も友人に好意を持っているからそういう関係になったのは分かっているの。それ以上の答がほしいみたい」
「欲張りだね。それは難しい。彼女の我儘に聞こえる」
「そうね。それ以上を望むならお互いに相当な覚悟がいるわ。それで二人幸せになれる保証などどこにもないし、そういう結末って良いことはないと思う」
「もしこのまま二人の関係を大切にしたいなら、あえて駄目を詰めないで、パートナーには絶対に分からないようにして会い続けるしかないと思うけどね」
「私もそう助言しました」
彼はその友人が上野多恵さんだと思ったに違いない。でもあえてそれを確かめてこなかった。彼らしい心配りだ。多恵さんは私を信用して相談したのだから、私の信用にも関わると思ったのだろう。
でも私は秋谷さんが進の親友だと知っているので、あえて彼女のために彼に相談してみたかった。やはり答えは私と同じだった。
相談の内容が内容だけに私たちはすっかり覚めてしまっていた。彼らのことよりも自分たちの関係を大切にしたい。進はもう回復していたが、二人がそういう気持ちを取り戻すのには少し時間がかかってしまった。