6時に開店しているが、今日も二人ばかり夕食を食べに来てくれた。食事を目当てにくるお客は食べるとすぐに帰って行くのでまるで食堂みたいだけど、そんなお客でも時々仲間を連れて飲みに来てくれるから大切にしている。
食事が楽しみだと言ってくれる贔屓のお客さんと話していると、7時過ぎに磯村さんがキャリアウーマン風の女性を伴って店へ来てくれた。
女性は服装を見ても洗練されていて隙が無い。男からは取り入る隙が無くて近づきがたい。女は隙を見せることも必要なのにそういうことには気がついていないし、そういうことは眼中にないと思う。二人は止まり木に座った。
「いらっしゃい、随分、お早いですね」
「もうここが2次会だ。二人でお互いの後輩の仲を取りもったけど、うまくいくか心配しているところだ。とりあえず水割りを」
「それよりもお二人はどうなんですか」
「こちらは同期の野坂さん、だだの気の合う友達かな、そうだろ」
「残念ながら、そのとおりだわ」
私は名刺を渡した。
「はたから見ると似合いのカップルに見えますけど」
「このままではずっとこのまま、何か特別なきっかけでもないとね」
「きっかけは待っているものではなくて、作るものと思いますよ」
「そうかな、どう作るのかも分からないし」
「これじゃ望み薄ですね」
「いつもこの調子」
話のとおり、二人は男女の関係にないことは直感的に分かった。磯村さんは癒してくれるタイプの女性が好みだけど、彼女にはそういうところがなく男と張り合うタイプだ。友達としてはいいかもしれないけど、彼の恋愛対象にはならない。むしろ地味子ちゃんの方が好みだと思う。会話が耳に入ってくる。
「野坂さんは誰か気になる人はいないの?」
「どうもあなたを含めて同年代の人は頼りなく見えて惹かれないのよ」
「悪かったね、頼りなくて」
「年上の人はどうなの?」
「大体が妻子持ちで、変に思い詰めると不倫になっちゃうわ」
「うーん、どうしようもないね」
「今は仕事を大事にしているけど、本当に10年後はどうなっているのやら、不安はあるわ」
「そうだね、お互いにそろそろ身を固める歳に来ているからね」
「お二人とも深刻な話をしていらっしゃるのね。人生、思いっ切りが必要な時もありますよ」
「ママはそういう時があったのですか」
「何回かはありました」
「どうしました?」
「思い切ったらなんとかなりました」
「そういうものなのかね?」
「勇気をもって思い切ることです。周りのことや世間体なんか気にしないで」
「そうだね、いい助言だ、ママが言うと説得力がある。いい話を聞かせてもらった、じゃあ引き上げるか?」
「私は残る。ママともう少しお話がしたいから」
私は少し驚いた。これじゃ彼は戻ってこられない。
「じゃあ、ママお会計」
「また、きっと来てくださいね」
「ああ、きっと」
彼は店を出た。野坂さんが私と話をしたそうだったので話しかける。
「いい人なのにもったいないですね」
「ママ、磯村さんはここは長いの?」
「同期の山内さんが連れてきてくださってから、時々来ていただくようになりました」
「いい人であることは分かっているけど恋愛の対象にはならないわ。元々私は恋愛ができない女ですから」
「そんな女性なんか、誰かを好きにならない女性なんか、この世の中にいませんよ、そうでしょう」
「私はダメみたい。ずっと男と張り合ってきたから」
「もっと自分に素直になれば、いい恋ができますよ」
「そうかしら」
「きっとあなたを癒してくれる人が現れますよ」
「そういってもらえるとここに来たかいがあったわ」
「また寄って下さい。彼ができたら」
「そうさせてもらいます。その時、二人の相性がいいか見ていただける?」
「ご希望なら」
「じゃあ、ママ、お会計」
「磯村さんからもういただいています」
「そういうところが気が利いていい人なんだけど、優しさもあるし、でも男としてみたらワクワク感がなくて、私とは友達で終わりそう」
野坂さんは帰っていった。店の外で見送った。いつもお客は店の外まで見送ることにしているが、その後ろ姿を見るとその人の生活が見える気がする。
前からは隙が無くても後姿に隙がある人もいるし、後姿が明るく自信に満ちている人もいる。
彼女の後姿は少し寂しそうと言うか、店に来る40代の働き盛りの男性客の後姿に似ている。一抹の寂しさと日々の生活の疲れが感じられる。私の後姿はどう見えるのだろうか?
食事が楽しみだと言ってくれる贔屓のお客さんと話していると、7時過ぎに磯村さんがキャリアウーマン風の女性を伴って店へ来てくれた。
女性は服装を見ても洗練されていて隙が無い。男からは取り入る隙が無くて近づきがたい。女は隙を見せることも必要なのにそういうことには気がついていないし、そういうことは眼中にないと思う。二人は止まり木に座った。
「いらっしゃい、随分、お早いですね」
「もうここが2次会だ。二人でお互いの後輩の仲を取りもったけど、うまくいくか心配しているところだ。とりあえず水割りを」
「それよりもお二人はどうなんですか」
「こちらは同期の野坂さん、だだの気の合う友達かな、そうだろ」
「残念ながら、そのとおりだわ」
私は名刺を渡した。
「はたから見ると似合いのカップルに見えますけど」
「このままではずっとこのまま、何か特別なきっかけでもないとね」
「きっかけは待っているものではなくて、作るものと思いますよ」
「そうかな、どう作るのかも分からないし」
「これじゃ望み薄ですね」
「いつもこの調子」
話のとおり、二人は男女の関係にないことは直感的に分かった。磯村さんは癒してくれるタイプの女性が好みだけど、彼女にはそういうところがなく男と張り合うタイプだ。友達としてはいいかもしれないけど、彼の恋愛対象にはならない。むしろ地味子ちゃんの方が好みだと思う。会話が耳に入ってくる。
「野坂さんは誰か気になる人はいないの?」
「どうもあなたを含めて同年代の人は頼りなく見えて惹かれないのよ」
「悪かったね、頼りなくて」
「年上の人はどうなの?」
「大体が妻子持ちで、変に思い詰めると不倫になっちゃうわ」
「うーん、どうしようもないね」
「今は仕事を大事にしているけど、本当に10年後はどうなっているのやら、不安はあるわ」
「そうだね、お互いにそろそろ身を固める歳に来ているからね」
「お二人とも深刻な話をしていらっしゃるのね。人生、思いっ切りが必要な時もありますよ」
「ママはそういう時があったのですか」
「何回かはありました」
「どうしました?」
「思い切ったらなんとかなりました」
「そういうものなのかね?」
「勇気をもって思い切ることです。周りのことや世間体なんか気にしないで」
「そうだね、いい助言だ、ママが言うと説得力がある。いい話を聞かせてもらった、じゃあ引き上げるか?」
「私は残る。ママともう少しお話がしたいから」
私は少し驚いた。これじゃ彼は戻ってこられない。
「じゃあ、ママお会計」
「また、きっと来てくださいね」
「ああ、きっと」
彼は店を出た。野坂さんが私と話をしたそうだったので話しかける。
「いい人なのにもったいないですね」
「ママ、磯村さんはここは長いの?」
「同期の山内さんが連れてきてくださってから、時々来ていただくようになりました」
「いい人であることは分かっているけど恋愛の対象にはならないわ。元々私は恋愛ができない女ですから」
「そんな女性なんか、誰かを好きにならない女性なんか、この世の中にいませんよ、そうでしょう」
「私はダメみたい。ずっと男と張り合ってきたから」
「もっと自分に素直になれば、いい恋ができますよ」
「そうかしら」
「きっとあなたを癒してくれる人が現れますよ」
「そういってもらえるとここに来たかいがあったわ」
「また寄って下さい。彼ができたら」
「そうさせてもらいます。その時、二人の相性がいいか見ていただける?」
「ご希望なら」
「じゃあ、ママ、お会計」
「磯村さんからもういただいています」
「そういうところが気が利いていい人なんだけど、優しさもあるし、でも男としてみたらワクワク感がなくて、私とは友達で終わりそう」
野坂さんは帰っていった。店の外で見送った。いつもお客は店の外まで見送ることにしているが、その後ろ姿を見るとその人の生活が見える気がする。
前からは隙が無くても後姿に隙がある人もいるし、後姿が明るく自信に満ちている人もいる。
彼女の後姿は少し寂しそうと言うか、店に来る40代の働き盛りの男性客の後姿に似ている。一抹の寂しさと日々の生活の疲れが感じられる。私の後姿はどう見えるのだろうか?