懐かしい夢を見た。
 わたしがまだ小さかった頃、楓ちゃんに絵を描く楽しさを教えてくれたときの夢だ。あのときも、今と変わらず人と関わるのが苦手で、すぐに母さんのうしろに隠れてしまうような子だった。最初は、楓ちゃんが遊びに来たときも人見知りをしていて、母さんのうしろから出ようともしなかった。楓ちゃんがわたしを愛らしそうに見て「一緒に絵を描かない」と声をかけてくれた。けれどわたしは首を横に振って、より母さんから離れようとはしなくなってしまった。母さんは溜め息を吐いて「一緒にお茶淹れに行こうか」とキッチンへと連れて行った。その間に楓ちゃんはスケッチブックを取り出し、リビングのソファに座って、なんらかの絵を描き始めた。その様子をキッチンから眺めていた。楓ちゃんが絵を描いているときの姿がときてキラキラとしていて、わたしはそれに引き寄せられるように、彼女のもとへと歩いて行った。

「ねぇ、何を描いているの?」

「そうだねぇ、動物さん達の絵かな。ハルは動物さん好きかな?」

「うん大好き! わたしね、うさぎさんとかねこさんとか大好き!」

 楓ちゃんはやさしく微笑んで、わたしに描いた絵を見せてくれた。かわいらしい動物達の絵。わたしはその絵を観てパァと目を輝かせた。楓ちゃんは目を細めて「一緒に描くかい」という声かけに、わたしは元気いっぱいに「うん!」と返事をした。これが、わたしが絵を描くことが好きになったターニングポイントとなった。それからわたし達はたくさん絵を描いた。動物達の絵、お花の絵、両親の絵。たくさんの絵が床に踏み場がないくらいに散らばっていて、母さんから「少しは片づけなさい」とお叱りを受けた。わたし達は顔を見合って、ニカッと笑った。母さんは呆れた様子で「一緒に片づけるよ」と言って、わたし達は散らばった絵を片づけた。この時間がすごく楽しかった。
 わたしは定期的に楓ちゃんから絵の描き方などを教えてもらいながら、描くことを続けた。小学校の高学年に上がる頃にはコンクールで賞をもらえるようになった。楓ちゃんに報告すると、一緒になって喜んでくれていた。中学生のときにもコンクールで金賞をもらったときには、楓ちゃんが出したイラスト集を『ハル、金賞おめでとう』というメッセージカード付きで送ってくれていた。
 楓ちゃんはわたしにとって、憧れの人で、背中を追いかけて行きたい人。わたしは今、その人と一緒に暮らしている。わたしは、これからこの人のもとで、見失っていた光を再び見つけようとしている。すぐに見つけるのは難しいかもしれない。だけれど、それでいい。自分のペースで光を見つければいいのだから。その光は以前のモノよりも輝かしいモノだと思うから。