月曜日、いつものとおり、私は8時半過ぎに出社した。昨日の日曜日は一日中、岸辺さんとどのようにお付き合いすればよいか考えていた。

岸辺さんはもう席にいた。いつもと違って元気がないみたい。私になんか交際を申し込んだことを後悔しているのかもしれない。

「おはようございます」

「おはよう。土曜日はご馳走になってありがとう」

小声でお礼を言われた。もう室内は人が多くなっている。

「今日、お仕事が終わってから、お時間をいただけますか?」

「いいけど、その……例のこと?」

私は小さく頷いた。

「じゃあ、二子玉川の改札口で6時半に待ち合わせをしようか」

「分かりました」

月曜日は午後から会議が設定されていた。1時間程度で終わり、私は会議録をいつものように淡々と作った。岸辺さんは金曜の会議の事前調整にまわっている。

4時に席に戻るとできあがっていた会議録に目を通してくれた。少し修正箇所を指摘されたので、すぐに直して提出した。

5時に室長が席に戻ってきたので、岸辺さんは会議録で経過を説明して、今後の進め方を相談していた。5時半に私が先に退社した。

岸辺さんは6時半少し前に二子玉川に到着した。この時間は大勢の人でごった返している。改札口で、待っている私を見つけて手を振った。

「前に行ったことのある居酒屋へ行こうと思う。ボックス席があるし、食事もできるから」

「いいですね」

岸辺さんが先に歩いて、私は早足でついて行く。

「月曜だからお酒は控えめにしたいけど、ビール」

「私はハイサワーで」

あと、お酒のつまみになるもの3品を頼んだ。その後、夕食になるものを注文することにした。

「返事を聞かせてくれる?」

「はい、昨日一日考えました。正直、嬉しいんです。お受けしたいんです。考えたうえですが、いくつかお約束しませんか?」

「お約束?」

「お付き合いするときのお約束です。お互いのためになると思います」

「分かった。聞かせて」

「お約束1:お仕事とプライベートをはっきり分ける。お付き合いは休日のみで会社帰りにお付き合いはしない。お約束2:お付き合いにかかる費用は割勘にする。お約束3:交際していることは秘密にして決して口外しない、もし別れても」

「良い考えだと思う。僕は横山さんと上下の関係なく、対等にお付き合いしたいと思っているから」

「私も気兼ねなく振舞いたいので」

「分かった、じゃあ、お約束の乾杯」

「嬉しいです。お付き合いなんてあきらめていましたから」

「僕も同じようなものだ。また付き合ってみたい人ができるなんて思ってもみなかった」

「気楽にお願いします。楽しければいいと思っていますから」

「そうだね。ところで、今日はプライベート?」

「ボーダーライン上ですね。お勘定は勿論割り勘でお願いします」

「始めのプライベートだけど、今度の土曜日にデートしないか?」

「早速ですね。どこにしますか?」

「始めは横山さんの行きたいところでいいよ。次は僕の行きたいところにする」

「お約束の追加、いいですか?」

「いいよ」

「プライベートの時は横山さんはやめていただけませんか?」

「なんと呼べばいいの?」

「美沙でお願します。美沙と呼び捨てにするのもなんだから、美沙ちゃんで」

「岸辺さんは、潤さんでいいですか?」

「確かにその方が付き合っている感じがしていいね。そうしよう。それでどこへ行く?」

「週末からお台場の国際会議場で骨董市があるんですけど行ってみたいです」

「骨董に興味があるの?」

「古いものが好きなので、一度行ってみたくて」

「じゃあ、そうしよう。待ち合わせは?」

「場所と時間は私が調べて携帯にメールします」

「了解した。楽しみだ」

それから、いろいろ話をして、夕食を頼んで、2:1の割り勘で支払いを済ませて、居酒屋を出た。

岸辺さんは私のお約束に納得したのか安心したのかニコニコしている。私もうきうきして駅に向かう。

ここで恋人どうしなら手でもつなぐところだけど、今日はお仕事の帰り、今したばかりのお約束を思い出す。

お約束1:お仕事とプライベートをはっきり分ける。お付き合いは休日のみで会社帰りにお付き合いはしない。

ブログにはこう書き込んだ。

〖お仕事とプライベートをはっきり分けるため、お付き合いは休日のみというお約束をした〗

コメント欄
[賢明なお約束だと思う。明確に区別したほうが良い。でないと対等にお付き合いできないから。負けないで!]
[プライベートでは全くの別人になってみたら、とっても可愛く変身するとか]
[今のあなたとつきあいたいのだから、今のあなたのままでいいと思うけど]