【アリソン歴4252年】
領土拡張と革命風の解消を狙うアルフレド113世が議会へ魔王国侵攻を呼びかけるも、貴族院・平民院はともにこれを却下。
アルフレド113世、アリス・アインス・フォン・ロンダキアへ戦争正当化工作を命じる。
アリス・アインス・フォン・ロンダキア、ルキフェル王国へ冒険者として潜入。
■ ◆ ■ ◆
数日後、『魔の森』(西王国側では、『西の森』のことは未だ『魔の森』と呼ばれ続けている)を貫く『街道』が、突如として出現した。
アルフレド王国民の、この『街道』に対する意見は3つに別れた。
1つ目――休戦中なのだから、交易をして東王国の様々な魔道具を取り入れるべしという楽観論。
政治から遠い中流貴族や、比較的裕福な平民の多くはそうした反応をした。
2つ目――これは東王国からの侵略の兆しかも知れない、と怯える『恐東論』。
ロンダキア領民のうち、移動の自由を持たない農奴で耳早い者たちは、未知の恐怖におびえた。
3つ目――古くから根強く存在する、東王国へ侵攻せよという『征東論』。
これまで『征東論』者たちを悩ませていた、行軍中に魔物に襲われ消耗することへの懸念が解消されたことが、その意見をより声高にさせた。
『征東論』を形成するのは、軍務閥の貴族たちや、兵器産業界、造船業界、製鉄業界、それらにぶら下がる様々な商業圏の人々である。
ここから数日、状況は目まぐるしく移り変わる。
まず、耳の早く、失うものや怖いものが無い若手商人たちが、東王国側と交易を始めた。
西王国へは貴重なマジックバッグが大量に出回るようになり、それを使いこなさんが為に西王国は空前の魔力トレーニングブームとなった(のちに出回る『アリス書店』の魔法教本は、多少の東部訛りはあるものの平易なアルフレド語で書かれており、平民の間でも多く読まれた。同時に謎の物語本も)。
東王国へは西王国が誇る科学の製品や兵器が出回るようになるが、ロンダキア辺境伯は、銃および砲は絶対に流通させてはならない、と堅く命じた(もっとも旧式の前込め式ライフルド・マスケットは多数出回った)。
東側の状況が、ウワサ話としてロンダキア領を席巻し、それを新聞が全国に届けるようになった。
曰く、『魔の森』から貴重な回復ポーションの材料である治癒一角兎が一掃された。
曰く、そのツノが魔王国の錬金ギルドに大量納品され、大量の回復ポーションが製造されている――このウワサは、主戦論者たちを勢いづかせた。
曰く、東王国には一瞬で道を敷き、家を建てる魔法使いがいるらしい――これは、『恐東論』者たちを震えあがらせた。
曰く、風竜の死体が東の冒険者ギルドに納品された。
曰く、魔の森の東沿いには道が敷かれて街が出来上がり、大量の戦略物資――回復ポーション、水、食料が集積されつつあるらしい。
『征東論』者たちは、これは東王国の開戦準備であると騒ぎ立てた。
誰も彼もが、右や左やと様々な情報や論説に踊らされた。
そんな世論を、反東王国という形で一致させた出来事が起きた。
ロンダキア領内における水力発電量が、ある日突然、激減したのである。
原因は、西王国が領有権を主張していた北山脈の川から東王国が勝手に水を引き、その川を水源としていた発電所に十分な量の水が供給されなくなった為だった。
これにより工場は操業停止に追い込まれ、オーナーである富裕者層はもちろん、働き口を失った労働者層に至るまで、政治に興味のない農奴をのぞいた全平民が主戦派に傾いた。
無論、電力による豊かな生活を急に奪われた貴族たちも、怒りに震えた。
怒りは新聞の踊る筆跡によって、全国へと伝播していく。
状況はさらに悪化していく。
『魔の森』の東には広大な基地が出来上がり、武装した傭兵が街を闊歩し、一説には農奴を村ひとつ分まるまる拉致して、基地の為の食料を生産させているらしい。
今や東の基地は鉄の鎧で覆われ、前線病院が稼働しており、ロンダキア辺境伯が報復の為に行った、塩の密輸の締め付け――いままでは黙認していた――を行うも、東の軍基地はますます大きくなっていく。
唯一楽観的だったのは、無限の富を生み出し続ける東西交易に目の色を変えて参加している若手商人だけで、アルフレド王国の世論は、アルフレド王国から電力という目に見える力を奪った東王国への憎しみに傾いていく。
『魔の森』の東方面で魔物暴走が発生したという情報はロンダキア領民たちに『安堵』と『恐怖』と『熱狂』をもたらした。
さすがの軍基地も、魔物暴走が相手では大層傷ついただろうという『安堵』。
いやいや鉄の城壁に鎧われた軍基地は、傷ひとつついていないらしいではないか、という『恐怖』。
そして、
『東の軍基地が傷つき、魔の森の魔物が数を減らしたいまこそが、出征のときである!!』
という、怒りに震える国民たちの『熱狂』。
その数日後、驚くべきニュースが王国中を駆け巡った。
北の大山脈に、東西を貫通する巨大なトンネルが突如として現れた。
誰もが、魔王国による第二の侵攻路であると判断した。
大き過ぎる利益に目がくらみ、世論を無視して東王国を手引きしていた商人ギルドは、即日閉鎖された。
領土拡張と革命風の解消を狙うアルフレド113世が議会へ魔王国侵攻を呼びかけるも、貴族院・平民院はともにこれを却下。
アルフレド113世、アリス・アインス・フォン・ロンダキアへ戦争正当化工作を命じる。
アリス・アインス・フォン・ロンダキア、ルキフェル王国へ冒険者として潜入。
■ ◆ ■ ◆
数日後、『魔の森』(西王国側では、『西の森』のことは未だ『魔の森』と呼ばれ続けている)を貫く『街道』が、突如として出現した。
アルフレド王国民の、この『街道』に対する意見は3つに別れた。
1つ目――休戦中なのだから、交易をして東王国の様々な魔道具を取り入れるべしという楽観論。
政治から遠い中流貴族や、比較的裕福な平民の多くはそうした反応をした。
2つ目――これは東王国からの侵略の兆しかも知れない、と怯える『恐東論』。
ロンダキア領民のうち、移動の自由を持たない農奴で耳早い者たちは、未知の恐怖におびえた。
3つ目――古くから根強く存在する、東王国へ侵攻せよという『征東論』。
これまで『征東論』者たちを悩ませていた、行軍中に魔物に襲われ消耗することへの懸念が解消されたことが、その意見をより声高にさせた。
『征東論』を形成するのは、軍務閥の貴族たちや、兵器産業界、造船業界、製鉄業界、それらにぶら下がる様々な商業圏の人々である。
ここから数日、状況は目まぐるしく移り変わる。
まず、耳の早く、失うものや怖いものが無い若手商人たちが、東王国側と交易を始めた。
西王国へは貴重なマジックバッグが大量に出回るようになり、それを使いこなさんが為に西王国は空前の魔力トレーニングブームとなった(のちに出回る『アリス書店』の魔法教本は、多少の東部訛りはあるものの平易なアルフレド語で書かれており、平民の間でも多く読まれた。同時に謎の物語本も)。
東王国へは西王国が誇る科学の製品や兵器が出回るようになるが、ロンダキア辺境伯は、銃および砲は絶対に流通させてはならない、と堅く命じた(もっとも旧式の前込め式ライフルド・マスケットは多数出回った)。
東側の状況が、ウワサ話としてロンダキア領を席巻し、それを新聞が全国に届けるようになった。
曰く、『魔の森』から貴重な回復ポーションの材料である治癒一角兎が一掃された。
曰く、そのツノが魔王国の錬金ギルドに大量納品され、大量の回復ポーションが製造されている――このウワサは、主戦論者たちを勢いづかせた。
曰く、東王国には一瞬で道を敷き、家を建てる魔法使いがいるらしい――これは、『恐東論』者たちを震えあがらせた。
曰く、風竜の死体が東の冒険者ギルドに納品された。
曰く、魔の森の東沿いには道が敷かれて街が出来上がり、大量の戦略物資――回復ポーション、水、食料が集積されつつあるらしい。
『征東論』者たちは、これは東王国の開戦準備であると騒ぎ立てた。
誰も彼もが、右や左やと様々な情報や論説に踊らされた。
そんな世論を、反東王国という形で一致させた出来事が起きた。
ロンダキア領内における水力発電量が、ある日突然、激減したのである。
原因は、西王国が領有権を主張していた北山脈の川から東王国が勝手に水を引き、その川を水源としていた発電所に十分な量の水が供給されなくなった為だった。
これにより工場は操業停止に追い込まれ、オーナーである富裕者層はもちろん、働き口を失った労働者層に至るまで、政治に興味のない農奴をのぞいた全平民が主戦派に傾いた。
無論、電力による豊かな生活を急に奪われた貴族たちも、怒りに震えた。
怒りは新聞の踊る筆跡によって、全国へと伝播していく。
状況はさらに悪化していく。
『魔の森』の東には広大な基地が出来上がり、武装した傭兵が街を闊歩し、一説には農奴を村ひとつ分まるまる拉致して、基地の為の食料を生産させているらしい。
今や東の基地は鉄の鎧で覆われ、前線病院が稼働しており、ロンダキア辺境伯が報復の為に行った、塩の密輸の締め付け――いままでは黙認していた――を行うも、東の軍基地はますます大きくなっていく。
唯一楽観的だったのは、無限の富を生み出し続ける東西交易に目の色を変えて参加している若手商人だけで、アルフレド王国の世論は、アルフレド王国から電力という目に見える力を奪った東王国への憎しみに傾いていく。
『魔の森』の東方面で魔物暴走が発生したという情報はロンダキア領民たちに『安堵』と『恐怖』と『熱狂』をもたらした。
さすがの軍基地も、魔物暴走が相手では大層傷ついただろうという『安堵』。
いやいや鉄の城壁に鎧われた軍基地は、傷ひとつついていないらしいではないか、という『恐怖』。
そして、
『東の軍基地が傷つき、魔の森の魔物が数を減らしたいまこそが、出征のときである!!』
という、怒りに震える国民たちの『熱狂』。
その数日後、驚くべきニュースが王国中を駆け巡った。
北の大山脈に、東西を貫通する巨大なトンネルが突如として現れた。
誰もが、魔王国による第二の侵攻路であると判断した。
大き過ぎる利益に目がくらみ、世論を無視して東王国を手引きしていた商人ギルドは、即日閉鎖された。