どこにいても、何をしていても、いつもどこか息苦しい――こんな自分のことが大嫌いだ。
 家にいても、クラスにいても、どこか、私の居場所はないみたいで、はみ出して、余っているような感覚だった。
 まるで私の周りを、重苦しい淡水が覆ってしまっているような、身動きが取れなくなっていく感覚だ。
 息が詰まりそうで、その現実から逃げるたび、人生の、暗い、ジメジメとした道へと歩みを進めているようだ。
 宙ぶらりんになって、やり場のないこの思いを、抱えきれなくなったある日、担任に打ち明けた。
 まだ新任で、困ったような顔をした担任は、スクールカウンセラーの元へと、私を連れて行った。
 その出逢いは、まるで曼珠沙華のように、鮮やかに私の人生に咲いた。
 やや目にかかるほどの長さの前髪に、少しくたびれたような顔。白いワイシャツに、袴のようにゆったりとした黒いズボンを身につけた男性が、こちらをみていた。
「どうしたの?その子。こんなところに連れてくるのなら、君が話を聴いてあげなよ。というかね、チャップリンも言ってたけど、トラブルが起きたんだったら、そいつらが殴り合って決着をつけるべきだよ」
 職務放棄のようなその発言に、一瞬、不安になる。
「桜田さん、そんなこと言わないでくださいよ。それにチャップリンが言ってたのは、戦争をしたいのなら、政治家が直接殴り合えってことで、全く関係ないじゃないですか。ああ、それで、相談したいことがあるらしいのですけど、聞いた感じ僕より、桜田さんの方がいいと思って」
 担任が、困ったように頭を搔く。
 はぁ、と大きく息を吐くと、桜田と呼ばれた男性は、まあ、とりあえず座ってよ、と促した。
 くすんだ赤色のやぼったいソファに腰掛け、向かいに座る桜田さんを見る。
 煩雑だ、文句があるなら、考えてないで動くべきだ、と呟いている。
 じゃあ、僕はこれで、と担任が部屋を去っていき、知らない相手と二人、というどうしようもない不安に、襲われた。
「はぁ、全く。私は桜田。ここのスクールカウンセラーで、毎週火曜と金曜にこの学校に来てる。とはいえ、こんな役職、教師がやるべきだと思うんだ。よくないと思わない?職務放棄だよ。教員の主目的が、授業することみたいになってるのが解せないんだ」
 いきなり、饒舌に話しかけられて、私はおずおずと頷くことしかできない。
 ペラペラとよく舌が回るものだ。
 偏屈に話すのだが、その声はよく通り、教え諭されているような気分にさせられる不思議なものだった。
「それで、悩みっていうのは?」
 いきなり本題へと入り、ドキッとする。
「えっと、その…」
「ああ、ごめん。私作業するから、話しといてくれない?」
 そう言って、桜田さんはパソコンを開き、キーボードを叩き始めた。
 画面を睨んでは、ときどき、口を隠すように手で覆い、考え込む。
 あまりにこちらに無関心なその様子に、思わず、気が抜けた。
 張り詰めていた糸が、ほぐれていくようだ。
 仕方なしに、ぽつりぽつりと、私は悩みを打ち明けた。
 クラスにいても、家にいても、居場所がないように感じて、息苦しい。
 どこか違っていて、はみ出しているように思ってしまう。
 櫛に絡まった真っ黒な髪の毛を、一つ一つ取り出すように、ゆっくりと言葉にしていく。
 その間、桜田さんは、こちらには微塵も興味がないと言わんばかりに、無関心を貫いた。いや、どちらかというと、本当に無関心なのかもしれない。
 一通り話し終えると、終わった?と気の抜けた声が聞こえてくる。
 真剣に悩んでいるのに、軽く言われて、私は少し苛立った。
 相談事に無関心なのは、それこそ彼のいう職務放棄なのではないか。
 そんな思いが、池に投じられた餌に群がる、錦鯉のように募っていく。
 けれども、そんな苛立ちにさえ無関心なのか、
「すごいね」
 という声が聞こえてきた。
「そこまで典型的な、中学生の悩みを地でいくような人がいると思わなかった」
 心臓を、爪の長い細い指で、弄ばれているかのような、緊張と、羞恥心が、広がっていく。
 ありきたりだ、と言われることが、ここまで辛いとは思わなかった。
「まあでも、いいと思うよ。実に健全で、多分、君だから感じられる悩みだ。というかね、こんなどこの誰とも知らない、今出会ったばかりの男に、そんな繊細な悩みを打ち明けることができている段階で、だいぶすごいよ。君くらいの勇気があれば、私もちゃんと動けるんだ。間に合う」
 とりあえず、君が取れる方針は二つだ、と桜田さんは微笑んだ。
「周りが水に覆われてしまったのなら、君が魚になるか、周りの水を抜くか。まあつまり、現状に適応するか、現状を変えるかだよ」
 だからさ、調べてきてよ。君が、なんで疎外感を感じるのか、どういうときに、心臓が悲鳴を上げるのか、それを調べて、またここにきてよ。
 そう言われて、その日の面談は終わった。
 最後に名前を尋ねられ、詩音です、と答えると、面白い名前だね、と言われた。
 
 
 
 帰宅すると、夕飯の準備をしながら、母がいつもの調子で、重苦しいため息をついていた。
 質量を伴ったそれは、床を埋め尽くし、歩けなくなるほどに、私の心を圧迫した。
 お父さんは?と訊ねると、知らないわよ、あんな人、と気だるげな声が帰ってくる。
 仕方なしに自室に行き、宿題をする。
 私の父は、大手企業のコールセンターで働いていた。コールセンターといっても名ばかりで、本質は、厄介なクレームに対応する職務だ。
 どんなに理不尽で、納得のいかない文句でも、父はひたすらに謝るばかりで、そんな情けのない姿を、母は嫌っていた。
 お父さんの仕事は、朝から晩まで謝るだけなのよ、と嫌味を言っている。
 それに、しがないクレーム処理の給料は高が知れているから、そのことも、母の苛立ちに拍車をかけた。
 しばらく宿題に取り組むと、一階から、ご飯よ、と気だるげな母の声が響いてきた。
 慌てて降りていく。
 すでに席についた、父の姿が目に入る。
 母が手際よく用意を済ませて、食事が始まる。
 こぢんまりとした食卓には、大豆で傘増ししたハンバーグと、簡素なサラダが並べられている。
 会話はほとんどなく、積もっていくのは、母の重苦しいため息と、父の、疲れがに滲む吐息だけだった。
 沈黙を押し殺すように、必死にご飯を胃に押し込む。
 耐えかねたのか父が、
「学校はどうだ?」
 と話を振ってくる。
「まあまあ、だけど」
「来年は受験生だろ、勉強は順調か?」
 はぁー、と大きなため息が聞こえてきた。
「塾にだってお金がかかるのよ。何も知らずに呑気なもんね。大体、あなたがもっと頑張ってれば…」
 張り巡らされたアンテナに引っかかってしまった。
 次々と、生活に対する文句が母の口から溢れ出す。自分の言葉でさらにヒートアップしているようだ。
 それを、ただ子犬のように肩をすぼめるだけで、反論の一つもしない父の姿も、目に入る。
 がっしりとした体躯は、縮こまってしまっている。
 全身の筋肉が強張る中で、私は静かに目を閉じた。
 それは、この現実から目を背けるためでも、母の小言がこちらに飛び火しないよう神経を張り巡らせるためでもある。
 
 
 
 翌日、鬱屈としたまま、私は学校に行っていた。
 休み時間の教室は、各々の友人との楽しげな会話によって、賑わっている。
 そういうときの教室にいると、どことなく疎外感を覚える。
 周りで広がる会話の喧騒に、自分だけが混じれないような、そんな感覚だ。
 突然、大きな声が聞こえてくる。
 翔太だった。
 運動部に所属しているという話は聞かないが、少し日に焼けている。しっかりとした体格で、端正な顔立ちをしている男子で、最近、よく私に話しかけてくる。
「何読んでんだ?」
 私が手に持っている、孤独を偽装するための文庫本を指差して、訊ねてくる。
 憐れみで話しかけられているようで、情けなさと恥ずかしさが立ち込める。
 私なんて放っておいてほしい。
 そんな受け取り方をする自分も嫌だった。
 人当たりの良さそうな態度に、薄っぺらい道徳のようなものが見え隠れしていて、私は苦手だった。
 本を持っていれば、この孤独は、自分から選んで過ごしている、そう思える。
 そういうふうに思い込める。
 だから、この本に対して特に愛着も、興味もなかった。
 翔太が、机の前に屈んで、文庫本の表紙を覗き込んできていた。
「その人の本好きなの?面白い?」
「いや別に、あったから読んでるだけ…」
 僅かに、後悔に似た感情が胸を染めるが、それ以上に、嫌悪が勝った。
 無差別に襲う喧騒が、私の周りを包んでいる。
「そうなんだ。じゃあ今度、俺の好きな本読んでみてくれよ。明日にでも持ってくるからさ。すごい面白いんだよ、良ければさ———」
「いらないよ!」
 思わず、大きな声が出た。
 翔太は一瞬、驚いたような顔を見せたが、すぐに、そんなふうに言わなくてもいいだろ、と決まりが悪そうに言った。
 ああ、もう嫌だ、やめてしまいたい。
 仲良くしたくないわけじゃない。それでもなぜか、私を浸す水のせいでうまくいかないのだ。
 そんな思いだけが、募っていく。
 私の周りの水はいつだって、光を屈折させて、手が届くようで、届かないようなもどかしさを与えるらしい。
 青春なんて、とうに諦めた。
 予鈴がなって、少し気を落としながら席に着く翔太を見て、そう思った。
 
 
 
 話し終えると、桜田さんはふむと、小さく息をついた。
 手で口を隠しながら、思案する様子は、微かなあどけなさを覗かせる。
「私はプロレスが大好きで、休日はよく知り合いのジムに行ってるんだけど、君は休日何してるの?」
「え」意図が読み取れず、困惑する。
「ほら、話しづらいっていうのなら、私で試していけば?」
「あ、はい」と気の抜けた返事が出てから、「えーっと、塾でずっと勉強してます」と慌てて続けた。
「真面目だね。最近、ジムに人が増えそうなんだ。助かるよ。来年、受験生でしょ?」
「そうですね。ただ、そんなに頑張ってるわけじゃなくて、母が、もったいないっていうから、できるだけ自習室とかを使うようにしてるだけで……」
「お父さんと、お母さんの様子は周りの子は知ってるの?」
 知ってます、と答える。
 嫌な記憶だった。
 母が、父を悪く言っているのは、同級生の母親の間ではかなり有名だった。
 当然、周りのクラスメイトにも、なんとなくは知ってる、という生徒が大勢いた。
 確か、一年生になって間もない授業参観の日だ。
 なんとか合間を縫って、観にきた父を、母は嫌がっていた。
 少し離れた場所で、文句を言っているのを、目撃された。
 ああ、そういう感じか、と妙な納得をされたような気がして、その日から、私の息はつまり始めた。
 自分を造る根幹の部分が、よくない、と烙印されたような気分だ。
「私とは、普通に話せているのにね」
 記憶に潜っていた私を、いきなり引っ張り上げる声が聞こえた。
 その内容に、どきりとする。
 糾弾されているような気分になる。
「なんでなんでしょうか」
「さぁ、なんとなく見当はついてるけど、別に君にいうことじゃないからね」
 そうそう、お父さんによろしくって言っておいて、と言われて、二度目の面談は終わった。
 
 
 
 翌週金曜日、私は学校にいた。
 火曜日は面談がなく、そのまま帰された。
 最近父の帰りが遅く、いつにも増して疲れているので、母の機嫌は最高に最低だ。
 ろくな給料をもらえないくせに、一丁前に疲れたような態度をとるな、ともはやただの暴言を吐いている。
 それでも、肩をすぼめるだけで、何も言わない父が、私は妙に嫌だった。
 真剣に働き、文句の一つも漏らさない父に、こんな感情を抱く私に、私自身嫌気がさすが、それでも一度感じた嫌悪は、雨漏りのように心を浸していく。
「あのさ、ごめん。この前は」
 急に声をかけられる。
 決まりが悪そうに俯く翔太の背後には、眩しい日光が照り付けている。
「え、いや。いいよ、別に」
「自分の話したいことばっか話してさ、本当悪かった。ああ、でも、これだけは読んでみてほしいんだ。めちゃくちゃ、面白いからさ」
 一冊の本を、こちらに差し出してくる。
「え、なんで。というか、私なんてほっとけばいいのに」
 すると翔太はまた、一瞬きまりの悪そうな顔を見せて、そんなこと言うなよ、と言った。
 偽善のように見えてしまう。
 
 その日の放課後、桜田さんは珍しく楽しそうにしていた。
「君もくる?今度さ、プロレスのアマチュア大会があって、私も観に行くのだけど、割といい席を用意してもらえたんだよ」
 私が観に行っていいんですか、と訊ねると、桜田さんは嬉しそうに、きてよ、本当にかっこいいんだ、というか、くるべきだよ、と語った。
「観にくるべきって、どういうことですか?」
「いい刺激になると思うんだ。ああ、それに、翔太も来るから」
 突然出てきた、よく聞く名前に、驚く。
「所属しているんだよ、彼も。まあ、今回翔太は応援とか手伝いだけど」
 豪快に闘うプロレスラーを見れば、私にも勇気がついて現状がよくなるとでも言いたいんだろうか。桜田さんには申し訳ないが、少しだけ陳腐で、期待はずれだと思った。
 翔太がいるけど、それはまあいいか。
 
 
 
 翌日、私は電車で数十分ほどの都会にある、試合会場に向かった。
 アマチュアとは言っても、そこそこ規模があるようで、スタジアムに向かう人の間には、独特の高揚と、興奮が入り乱れていた。
 チケットをスタッフに手渡し、座席に座る。
 青いフィールドに、四隅に立つポール。そこから張り巡らされているロープは、その空間を周りから切り離して、中での闘いを守護するようだった。
 白い光に照らされ、いやに明るいスタジアムの中で、静かに試合の開始を待った。
「やあ、きてくれたんだ。よかったよ、彼も喜ぶよ」
 後ろから、桜田さんの声が聞こえてくる。
 えぇまあ、と曖昧に答える。桜田さんのいう彼とは、翔太のことだろう。
 しばらく桜田さんの話に付き合うと、やがてざわざわという浮ついた喧騒が、入り口付近の観客に立ち込め、やがて会場全体に広まっていくのがわかった。
 次の瞬間、会場の灯りが一斉に消え、辺りが真っ暗になる。
 安っぽいスポットライトが、レスラーを照らす。大柄で引き締まった肉体は、雄々しさを纏っている。派手な虎のマスクを身につけて、ゆったりと、踏みしめるように歩いている。
 アマチュアらしからず、猛々しい姿を、興奮した実況がより引き立てる。
 ついで、相手方のレスラーが歩いてくる。
 悪役のような黒い虫のようなマスクを身につけていて、こちらもまた独特の勇猛さがある。
 すごい、とシンプルに思った。
 父とは似つかない、勇猛な姿だった。
「あれ、詩音、なんでいんだ?」
 いきなり、聞き慣れた声に呼び止められる。
 翔太だ。少し照れくさそうに頭を掻いていた。
 翔太が隣の桜田さんを見て、苦い顔を浮かべる。概ね、事情は伝わったらしい。
 礼儀正しく挨拶をする彼を見て、やはり少し、胸の中を突かかれるような嫌な感じを覚える。
 バン、と突然灯りが灯る。
 大きな歓声が上がり、驚いて椅子から転げそうになった。
 視界が回り、階段上の客席から、落ちる。まずい、と思ったときには、体が空に投げ出され、地面が目の前に迫ってきたが、ドンという、大きな衝撃と共に私の体は止まった。
 背中に走る鈍い痛みに顔をしかめながら辺りを見ると、同じく顔をしかめる翔太が目に入った。
 反射的にごめん、と謝る。
「いや、大丈夫」
 爽やかに笑う彼を見て、やはり、八方美人的な苦手を覚える。
「やっぱ、お前の前だし、カッコつけさせてくれよ」
 驚くほど自然に、気をつけなければ見逃してしまうかのように、するりと出てきたその言葉に、慌てて、翔太の方を見た。
 気恥ずかしく、悔しくも、頬が熱い。
 優等生らしく、義務感で私に話しかけてきていると思っていた少年は、想像よりずっと、幼くて、私と同じなことに気付かされる。相変わらず、照れくさそうに顔を掻く翔太を見て、少しだけ、嫌な感じが薄まるような感覚がした。
「君たち、年相応に青春を謳歌していて微笑ましいけど、試合観ないの?」
 桜田さんが、呆れたようにこちらを覗いてくる。
 リングではすでに、二人のレスラーたちが闘っていた。
 闘志をむき出しにして、互いに付かず離れずを繰り返している。
 微かな均衡を保ちながら、空気を張り詰めているのがわかる。
「やっぱ、あの人すごいよな」
「まあ、元々運動やってたみたいだし、鬱憤たまってたっぽいしね。それでも、すごいけど」
 桜田さんと、翔太が話しているのが聞こえてきた。
 虎のマスクの方の話のようだ。
 ロープを使い、虎のマスクの男が、大きく助走をつけて腕を振り回す。
 荒々しくも、どこか優雅なその動きをラリアットというのだと、桜田さんが教えてくれた。
 相手の顔面に綺麗に命中する。
 ふと、虎のマスクの男に、違和感を覚える。
 本来、そこにいるはずがないのに、そこにいる。そんな違和感だ。
 慌てて、階段を降り、リングのすぐ脇に行く。
 中では、虎のマスクのレスラーが、虫のマスクのレスラーに関節技を決めて、カウントが進んでいた。
 一つ、一つ、進んでいくカウントは、さながら私に事実を伝えるタイマーのようだ。
 十を迎え、審判がレスラーの手を高々と挙げる。
 うおぉ、と咆哮が響き、いつのまに隣にいたのか、翔太が興奮した様子で、やっぱすごいよ、この人、と話している。
 さっきまでは気にも留めない褒め言葉だったのに、今は救われるような感覚でならない。
 それは、私の推測のためか、翔太にそれを言われたからなのかはわからない。
 後ろを振り向くと、桜田さんは笑っていた。
 こちらに歩いてきて、チャップリンだよ、と嬉しそうにいう。
 喜びを爆発させ、審判の制止さえ無視して、マスクを外し、咆哮する男性の姿が目に入る。
 その姿は、悔しいくらいにかっこよかった。
「お父さん……」
 周りの、私を覆っていた水が、一気に引いていったように思えた。もしかしたら、水なんてなかったのかもしれない。
 ただ、水があると思い込んで、勝手に、呼吸をやめてしまったのかも、と。
 桜田さんを見たあと、翔太の方を改めて眺めて、そう思った。
「諦めてたことなんて、お父さんみたく、いくらでも取り戻せると思うよ」
 少しだけ息がしやすくなった気がした。