「あ、狩野ちゃん」
翌日、いつものように保健室へと向かうと畑中先生と織田くんが談笑していた。
「おはよーって、もう昼やけど」
《おはよう。昨日の怪我大丈夫?》
「風呂がめっちゃ滲みてやばかった。あ、そうや。今日も飴ちゃん食べへん?今日はシュワシュワしたやつもあるで」
織田くんはそう言うと昨日と同じようにポケットから出した飴を並べる。
《また貰ってもいいの?》
「どーぞ、どーぞ、好きなだけ」
今日はそこからメロンといちごミルクを手に取った。
《ありがとう》
「こちらこそ。狩野ちゃんのおかげで軽なったわ」
《ところで、今日はどうしたの?また怪我?》
「あーちゃうちゃう。今日も狩野ちゃんおるんかなー?と思って顔出しただけ。もう行くわ」
織田くんはそう言うと、本当に保健室から出て行ってしまった。
(なんだったんだろう。そんなに飴が邪魔だったのかな?)
それから織田くんは毎日、保健室に顔を出すようになった。
毎日、必ず飴を持って。
最初はただの飴配り。
そう思ったけれど、織田くんは必ず私と会話をしてから出て行く。
飴を渡したいだけなら、畑中先生に預ければいいこと。
そもそも、友達やクラスメイトに配れば済む話だろう。
それなのに、わざわざ保健室で私を待つ理由って?
私が他の人と違うから?
ただの興味本位?
最初の頃はそう思った。
だけど、
─月曜日─
「狩野ちゃん、今日めっちゃ暑ない?」
─火曜日─
「今日は新作の飴持ってきたで」
─水曜日─
「次、英語の小テストやねん。狩野ちゃんとこはもうやった?」
─木曜日─
「さっき裏庭におった猫、俺に『何?』って話しかけてきた気がする!」
─金曜日─
「ほな、狩野ちゃんまた来週」
織田くんは初めて保健室を訪れた日から毎日、顔を出すようになった。
そして、少しだけ会話をして飴をくれると、友達のいるグラウンドへと走っていく。