「かっこ悪いところは見せたくなかったんだろうね。体調不良くらい誰にでもあるのに。ほら、あいつかっこつけだから。放課後もいると思うから、良かったら顔見に行ってあげて」
ミヤくんが優しく微笑む。
私は最後に《わかりました!ありがとうございます》とメモに書き、深く一礼した。
(もう3分前だ。早く戻らないと)
教室へと走り出した私の背中にミヤくんが「また俺らとも話そうね」と叫ぶ。
振り向くと、隣で幸太郎くんも親指を立てていた。
私は一瞬だけ立ち止まると両手を使って大きな丸を作る。
それに二人は笑顔で答えてくれた。
ミヤくんと幸太郎くんの優しさに胸がいっぱいになる。
失声症を患ってからの私は人の目が怖くて、用事がない限りは教室から出ない毎日を過ごしていた。
でも、一歩踏み出せばこんなにもあたたかい世界があったんだ。
たまたま織田くんやミヤくん、幸太郎くんが優しかっただけかもしれない。
だけど、教室にいるだけじゃ皆の優しさには気づけなかっただろう──。
私は終礼が終わると部活に向かう里菜ちゃんに手を振り、保健室へと走った。
下駄箱に並ぶ靴は一足。
多分、織田くんのもの。
ドアを開けると畑中先生は驚いたような顔で私を見た。
普段は昼休みにしか訪れない私を不思議に思ったのだろう。
《織田くんが休んでるって聞いて》
私がそうメモに書くと、畑中先生は小さな声で話し始めた。
「今、奥のベッドで寝てるわ」
《大丈夫なんですか?》