月曜日にアパートに帰ると、9時ごろに携帯が鳴った。未希からだった。今日、離婚届を提出して受理されたとのことだった。これで離婚が成立した。未希と誰はばかることなく交際できるようになった。

未希のところへこれから行っても良いかと聞いたら来てほしいと言った。ドアを開けると未希が抱きついてくる。俺は未希を抱き締める。

「良かったね、これで未希は自由だ」

「これで私を抱いて今までのように可愛がってくれますね」

「そのことを考えていたんだ。俺は未希と一からやり直したいと思っている」

「どういうことですか? すぐに今からでもやり直しができます」

「未希には俺との関係をもう一度考えてもらいたいと思っている。俺は未希が俺の元を去ってからも未希のことをずっと考えていた。でも、こんなことになろうとは思ってもみなかった」

「私をどう思ってくれているのですか?」

「未希を俺のものにしたいと今も思っている。でも離婚して100日間は結婚できない。その間を冷却期間として、俺も二人の関係をもう一度考えてみたいと思っている」

「私はどうすればいいんですか?」

「未希の仕事は見つかったのか?」

「社員食堂を運営している会社に勤めることにしました。お陰様で、調理師免許を持っていると給料はソコソコですが、求人はいくらでもあるので就職先には事欠きません。社員食堂だと休日がおじさんと一緒になるのですれ違いが無くていいと思いました。彼とあんなことになったのはすれ違いも原因の一つだったと思っています」

「それは良かった。就職先も決まったので、未希はこれで完全に自立して自由になった。俺からの借りは俺の元を去った時にすべて返し終えていると思ってほしい。だからもう俺に義理立てする必要は全くない。これからは自立したひとりの大人の女性として自由な立場から、俺と付き合ってくれればいい。俺も保護者としてではなく、ただの一人の男として未希と付き合いたい。未希と俺は10歳以上も歳が離れている。そういうこともよく考えてほしい。それでお互いがやはり必要であることが分かれば一緒になればいい。その方が長い目で見れば二人のためになると思っている」

「おじさんがそう言うのならそうします」

「それで、ひとつ頼みがあるんだが、俺のことをもうおじさんと呼ばないでくれないか? 確かに未希と年も離れていて、もう35歳のおじさんだけど、山内さんとか名前で呼んでくれないか?」

「そうします。私は今までどおり未希でいいですけど」

「大人の女性に呼び捨てもなんだから、美崎さんではどうかな?」

「それは他人行儀すぎます」

「未希さんは?」

「それもいやだなあ」

「未希ちゃん?」

「自立した大人の女性が未希ちゃんではおかしいでしょう。やはり、いままでどおり、未希でお願いします」

「それでいいのなら、そうしよう」

「でも困ったことがあったら何でも言ってくれ。力になるから」

「とてもありがたいですが、そんなことをいうのは、まだ私を自立した女性と見ていないからだと思いますけど」

「ごめん、そうか? そのとおりだ、気をつける」

「そこが、おじさん,いえ、山内さんの良いところで、好きなところです。困ったことがあったら、相談にのって下さい。頼りにしています」

やれやれ俺の方が未希から自立していないのかもしれない。俺も少し冷静になってこれからの未希とのことを考えようと思う。

次の日、山本真一に未希が離婚届を提出したと伝えた。そして、彼にシフトを聞いた。

彼が不在という水曜日にホテルに問い合わせて出勤を確認してから、未希と一緒に彼のアパートへ行って、未希の荷物を引き上げてきた。

未希はスーツケースを、俺は大きな海外旅行用のスーツケースとリュックを持って行った。衣類、アルバム、料理の本、食器、身の回りの小物などを持ち帰った。

未希は彼に置手紙をして、その上に指輪を置いていた。何と書いたのか聞いたら、今までのお礼とお詫びと元気で暮らしてほしいと書いたと言っていた。これで彼も再出発が出来るだろう。