未希が戻ってきた次の週の水曜日、いつものように8時前にアパートに着いた。3階の未希の部屋には明かりが点いていた。
毎日、アパートの外から明かりが点いているか確認して、点いているとほっとした。
お湯を沸かして、缶ビールを飲みながら弁当を食べているとドアをノックする音がする。
未希かなと思ってドアを開けた。知らない若い男が立っていた。
「山内さんでしょうか? 未希が来ていませんか?」
「どなたですか?」
「未希の夫の山本真一です」
「未希はここにはいませんが」
「未希に会わせて下さい」
「先週末にここへ訪ねてきましたが、もうここにはいません。未希から話を聞いています。どうぞ入って下さい」
テーブルに座ってもらって、コーヒーを入れる。彼は部屋の中に未希がいないことが分かって落ち着いてきた。
「未希はどこにいるんですか? 会わせてください」
「未希はあなたにはもう会わない、会いたくないと言っていました。別れたいとも言っていました」
「もう一度会わせて下さい」
「未希は以前にもこういうことが度々あって、もう一緒に暮らすことは無理だと言っていました。あなたは未希に暴力を振うでしょう。あざがありました」
「僕は未希を今も愛しています。未希もそのはずです」
「未希に聞いてみますが、答えは同じだと思います。私ももう一度やり直したらと勧めましたがだめでした」
「山内さんと未希はどういう関係ですか?」
「未希から聞いていると思いますが、未希の保護者でした。未希が高校生のころ、父親からDVを受けて家出しているところを保護していました。父親はそれからしばらくして事故で亡くなりましたので、高校を卒業して、調理師の学校を出るまで、ここで一緒に暮らしていました」
「未希とは身体の関係はあったのですか?」
「未希とは年が離れているので親子のような関係でした。抱き締めてやったことはありますが、それ以上は何もありません。未希は何か言っていましたか?」
「あなたと撮った写真を持っていて見せてくれました。高校卒業の時の写真です。とても大切にしていました。それに未希は初めてではありませんでした」
「未希が家出をしていたところを保護したので、それ以前のことは分かりません。それに私の元を去ってからのことも。未希にそのことについて聞きましたか?」
「聞いていませんが、あなたとのことを疑いました」
「それはあなたの誤解だ。それも喧嘩の原因ですか?」
「それもあるかもしれません」
「山本さん、どうしてここが分かりましたか?」
「未希の行方を友人に聞いて回りましたが、分かりませんでした。もしやと思い、結婚式の案内状の宛先を調べてここに来てみました」
「未希にやり直す気があるか、もう一度聞いてあげましょう。山本さんの住所と携帯の番号を教えてくれませんか?」
彼は住所と携帯の番号を残して帰って行った。未希がいないことが分かったのでもうここへは来ないだろう。同居していなくてよかった。
俺は彼を好青年だと思った。イケメンで優しそうだった。ただ、気の弱そうなところが見えた。未希が彼を好きになったのが分からなくもない。すぐに未希の携帯に電話する。
「山本真一が俺の部屋を訪ねてきた。今、帰ったところだ。アパートの周りにいないか確かめて、9時30分ごろに未希の部屋に行くけど、いいか?」
「はい、待っています」
すぐに食事を済ませて、9時30分になったので、一応アパートの周りを見て回った。誰もいなかった。
3階の未希の部屋をノックする。未希がすぐに中へ入れてくれた。部屋に入ると未希の匂いがする。テーブルに座るとコーヒーを入れてくれる。
「彼は何と言っていましたか?」
「もう一度やり直したいと言っていた。もう一度未希に聞いてみるとは言っておいた」
「そうですか」
「本当に別れたいんだね」
「もう決めました」
「分かった。それなら週末に都合を聞いて、彼に会って来よう。離婚届に署名を貰ってきて上げよう」
「お願いできますか?」
「必ず署名をしてもらってくる」
「ところで勤め先は見つかった?」
「候補が2,3か所見つかったので、面接に行っているところです。決まったら教えます」
「離婚届の用紙を区役所の出張所からもらってきて、未希の分だけ必要事項を記入しておいてほしい。俺はそれを持って彼に会いに行く」
「分かりました。準備します」
未希の決心は固かった。
毎日、アパートの外から明かりが点いているか確認して、点いているとほっとした。
お湯を沸かして、缶ビールを飲みながら弁当を食べているとドアをノックする音がする。
未希かなと思ってドアを開けた。知らない若い男が立っていた。
「山内さんでしょうか? 未希が来ていませんか?」
「どなたですか?」
「未希の夫の山本真一です」
「未希はここにはいませんが」
「未希に会わせて下さい」
「先週末にここへ訪ねてきましたが、もうここにはいません。未希から話を聞いています。どうぞ入って下さい」
テーブルに座ってもらって、コーヒーを入れる。彼は部屋の中に未希がいないことが分かって落ち着いてきた。
「未希はどこにいるんですか? 会わせてください」
「未希はあなたにはもう会わない、会いたくないと言っていました。別れたいとも言っていました」
「もう一度会わせて下さい」
「未希は以前にもこういうことが度々あって、もう一緒に暮らすことは無理だと言っていました。あなたは未希に暴力を振うでしょう。あざがありました」
「僕は未希を今も愛しています。未希もそのはずです」
「未希に聞いてみますが、答えは同じだと思います。私ももう一度やり直したらと勧めましたがだめでした」
「山内さんと未希はどういう関係ですか?」
「未希から聞いていると思いますが、未希の保護者でした。未希が高校生のころ、父親からDVを受けて家出しているところを保護していました。父親はそれからしばらくして事故で亡くなりましたので、高校を卒業して、調理師の学校を出るまで、ここで一緒に暮らしていました」
「未希とは身体の関係はあったのですか?」
「未希とは年が離れているので親子のような関係でした。抱き締めてやったことはありますが、それ以上は何もありません。未希は何か言っていましたか?」
「あなたと撮った写真を持っていて見せてくれました。高校卒業の時の写真です。とても大切にしていました。それに未希は初めてではありませんでした」
「未希が家出をしていたところを保護したので、それ以前のことは分かりません。それに私の元を去ってからのことも。未希にそのことについて聞きましたか?」
「聞いていませんが、あなたとのことを疑いました」
「それはあなたの誤解だ。それも喧嘩の原因ですか?」
「それもあるかもしれません」
「山本さん、どうしてここが分かりましたか?」
「未希の行方を友人に聞いて回りましたが、分かりませんでした。もしやと思い、結婚式の案内状の宛先を調べてここに来てみました」
「未希にやり直す気があるか、もう一度聞いてあげましょう。山本さんの住所と携帯の番号を教えてくれませんか?」
彼は住所と携帯の番号を残して帰って行った。未希がいないことが分かったのでもうここへは来ないだろう。同居していなくてよかった。
俺は彼を好青年だと思った。イケメンで優しそうだった。ただ、気の弱そうなところが見えた。未希が彼を好きになったのが分からなくもない。すぐに未希の携帯に電話する。
「山本真一が俺の部屋を訪ねてきた。今、帰ったところだ。アパートの周りにいないか確かめて、9時30分ごろに未希の部屋に行くけど、いいか?」
「はい、待っています」
すぐに食事を済ませて、9時30分になったので、一応アパートの周りを見て回った。誰もいなかった。
3階の未希の部屋をノックする。未希がすぐに中へ入れてくれた。部屋に入ると未希の匂いがする。テーブルに座るとコーヒーを入れてくれる。
「彼は何と言っていましたか?」
「もう一度やり直したいと言っていた。もう一度未希に聞いてみるとは言っておいた」
「そうですか」
「本当に別れたいんだね」
「もう決めました」
「分かった。それなら週末に都合を聞いて、彼に会って来よう。離婚届に署名を貰ってきて上げよう」
「お願いできますか?」
「必ず署名をしてもらってくる」
「ところで勤め先は見つかった?」
「候補が2,3か所見つかったので、面接に行っているところです。決まったら教えます」
「離婚届の用紙を区役所の出張所からもらってきて、未希の分だけ必要事項を記入しておいてほしい。俺はそれを持って彼に会いに行く」
「分かりました。準備します」
未希の決心は固かった。