12月1日、今日は未希がここへ来て丁度2年目だ。帰りが遅れて9時になっていた。玄関のドアを開けると、いつものように未希が出迎えてくれる。今日はいつもと少し違っている。

「おかえりなさい」

「ごめん、遅くなった。未希は夕ご飯食べたか?」

メールで帰りが遅くなるから先に食べてくれとは伝えていた。

「まだ。待っていた」

「そうか、ありがとう、一緒に食べようか」

テーブルに着くと、未希が夕食を給仕してくれる。今日の献立は白身魚のムニエルだった。

「今日は何の日か覚えている?」

「ああ、未希がここへ来た日だ、丁度2年前」

「あれから、2年もお世話になっています。早いものです」

「高校の1年間も早かったが、調理師学校の1年間も早そうだね、もうあと4か月で卒業だ」

「おじさん、私のことをどう思っているんですか?」

「どう思うって?」

「はっきり聞いておきたいんです。好きかどうかを?」

「好きにきまっているじゃないか。だから一緒に暮らしているし、未希を抱き締めて眠っている」

「じゃあ、調理師学校を卒業して自立したら、お嫁さんにしてくれますか?」

突然のことで驚いて応えられなかった。ここのところ、未希とのことをずっと考えていたが、自分自身、結論が出ていなかった。

「未希はまだ19歳だ。結婚を考えるのはまだ早いのではないか?」

「でも、すぐに20歳になります。はっきりしておかないと、先のことが考えられないんです」

「未希は俺が好きか?」

「好きです」

「俺はここへ未希が来た時に、未希にとてもひどいことをしたと思っている。それでも好きか?」

「おじさんは私との約束を守っただけで、私もおじさんとの約束を守っただけ」

「未希に使ったお金を身体で返せと言った。それでも好きか?」

「おじさんは私にお金を貸してくれて、それを身体で返しただけ」

「じゃあ、好きは余分のことだと思うけど」

「おじさんも私に約束以上のことをしてくれた。学校に復学させて、勉強を教えてくれて、調理師学校への進学もさせてくれた」

「それは、未希にここに長くいてほしいと思ったからだ。そのことと好きとは別のことではないのか?」

「じゃあ、卒業してもここにおいてください」

「しばらく考えさせてほしい。今、俺は未希が抱けない。治るかどうかも分からない。このまま、ここに居させておいて、未希を幸せにしてやる自信がない。未希は抱き締められて眠るだけでいいのか?」

「それでもいいから、ずっとここに居させてください」

「未希の気持ちは分かった。考えてみよう」

未希を幸せにしてやりたい。いつまでも可愛い未希を手元に置いて抱きしめて眠りたい。でも俺はこのままでは未希を幸せにできない。

俺は未希と別れることを考え始めていた。気持ちの整理がつくまでしばらくかかるかもしれない。それまでは未希との残り少ない生活を大事にするだけと思うようになっている。