「ルイゼン領の方はどうなっていますか?」
独立し帝国を名乗りだしたルイゼン領。
そんな勝手を許さないヴァティーク王国の侵攻が夏から始まった。
そして、季節も秋に変わったというのに、ルイゼン領の奪還がなったという報告はなされないままだ。
そのことを報告するためにファウストが来てくれた。
「こちらの進行具合が鈍い……」
「例のスケルトン出現が原因ですか?」
「あぁ……」
前領主の娘であるエレナも他人ごとではないので、成り行きを心配している。
そんなエレナのためにも、早々に決着してくれるとありがたいのだが、そう上手くはいかないらしい。
幸先よく奪い取った砦に、大量のスケルトンが出現したことは国中に知れ渡っている。
参戦したストヴァルテ公爵が、それによって亡くなったのも要因の一つだろう。
その公爵も酒を飲んでいたというのが遺体から分かり、いくら王家の血を受け継いでいようと許し難しとして降爵させられるという話しだ。
襲撃を受けたのに、指揮官が酒を飲んで酔いつぶれていたなんて最悪の醜態、取り潰しを逃れただけマシだと思うべきだろう。
「砦は破壊されたとの話ですね?」
「手に入れても夜中に魔物が出現するんじゃ、持っていても意味ないからな……」
魔物を出現させる罠を仕掛けられていた砦を、そのまま利用するというのも危険でしかないため、軍はその罠ごと砦を破壊してしまうことにした。
罠の解除をおこなうという案も出たのだが、その罠の捜索や解除に時間がどれだけかかるか分からない。
先に進むためにも、そのような時間を弄している訳にはいかないための処置らしい。
「その間に敵は砦を造りまくっている状況だな」
「こっちは数週間で拠点となるような建物の建設なんて出来ないですからね」
危険な砦の放置はできないため破壊するにしたのはいいが、敵はその間に同じような砦を各地に造り上げていることが知らされて来た。
フェリーラ領からも、川の対岸に砦ができているのが確認されたそうだ。
どこの砦も短い期間で建築され、一体どうやって造られているのか知りたいところだ。
最初の砦同様、次に奪った砦も夜にスケルトンの来襲を受けたことを考えると、どこの砦にも同じ罠が仕掛けられていると考えた方が良いだろう。
「最初は様子見で送った貴族たちだったが、公爵の死によってまともになってようやく町1つの奪還って所だな」
「時間がかかっていますね……」
最初に送った兵の中で、アルドブラノたち以外は負傷して治療を受けなくてはいけない始末。
国としては、彼らでも少しは使えると思っていただけに期待外れになった。
しかし、使える人間と使えない人間は露呈した。
ちゃんとした指揮官の下、アルドブラノたちに頑張ってもらうことになりそうだ。
軍がまともになったといっても、敵の砦の建築速度には迷惑を受けている。
そのため、進軍が遅々として進まないでいて、ようやく町1つ分の領土を奪還することに至った状況らしい。
「それだけ砦を建てて進軍を遅らせるというのは、何か狙いがあるんじゃないですかね? 人員補充とか……」
「その可能性もあるかもな……」
せっかく砦を造っているというのに、どこも守る人間はかなり少ない。
数日あれば奪える程度の防備だ。
砦の奪還よりも、破壊に時間がかかっているような気がする。
それが続いていると、レオにはむしろそれが狙いのようにも感じられた。
そうやって時間を稼いで、対抗するための準備を整えているのだろう。
「でも、他国やどこの領とも分断されている状況で人員補充は無理ですよね?」
「それは分からんぞ」
「えっ?」
他領とは分断され、他国との貿易も途絶えている今、ルイゼン領は孤立状態で経済的にも痛手を負っているはずだ。
とても人員補充なんてしている余裕なんてないことだろう。
そう思っていたレオだが、ファウストから待ったがかかった。
「ルイゼン領が独立したというのはもう他国へと広がっている。他国から人員補充するということも出来るかもしれないな」
ヴァティーク王国から独立したということは、ムツィオ自身が他国に広めた。
多くの国はヴァティーク王国との関係を考えて独立宣言を無視しているが、中には王国とは深い関係でもないことからルイゼン領との貿易を開始し始めた国も出始めた。
そういった国から、人員を受け入れるという方法がとれるため、レオの言う人員補充はあり得ない話ではない。
「しかし、それでも王国相手にできるほどの人間が集まるのはいつになるか分からないな」
「そうですか……」
他国との貿易が開始されたのなら経済的には何とかなるかもしれないが、人員の補充はそうはいかない。
人を連れて来るにしても、船では何千と連れてくることも出来ないため、少しずつ増やしている間に王国軍に攻め入られかねないので得策とは言い難い。
そのため、他に時間を稼ぐ何か理由があるのかもしれない。
「あのスケルトンさえいなければな……」
愚痴りたくなるのも分かる。
奪った砦にスケルトンが出なければ、進軍速度は一気に速くなる。
全部を壊さず、1つ残した砦内に施された罠の解析もおこなっているが、それも原理が分かっていない状況。
スケルトンさえいなければ、奪いとってそのまま利用できるだけにもったいなく思えるのだろう。
「でも、時間稼ぎももうすぐ終わりじゃないですかね?」
「あぁ、ここまでは山などに囲まれて進む道は限られていた。しかし、もうすぐ平原へと変わる。敵からするとそこで止めないと、領都へ迫られることになるからな」
これまでは砦の連続で苦しめられたが、平原に抜けてしまえば領都へ攻め入ることができるようになる。
そうなれば、後はムツィオの首を獲れば良いだけの話になるため、もしも人員の補充をしているのだとしたら、平原で総力を挙げて待ち受けていることだろう。
そういった意味でも、時間稼ぎの砦攻略はもうすぐ終わりになるということだ。
「どれだけ集めたのか知らないが、王国相手に数で勝てるわけがない。ムツィオも独立なんてバカな宣言をしたものだ」
おかしな策で時間稼ぎを食らったが、所詮数で王国に勝てるとは言い難い。
ムツィオが皇帝を名乗るのも、残り数か月のことだろう。
「僕としては、先代のこともあるので出来ればムツィオを捕縛に留めてもらいたいのですが……」
「それは難しいかもな……」
エレナのことを考えれば、先代領主に何をしたかを吐かせてから死んでもらいたい。
しかし、これだけの労力を使わされて、捕まればただで済まないのはムツィオも分かっているはず。
いざとなったら自決する覚悟くらい持っていることだろう。
とても捕縛できるとは思い難い。
「とりあえず、また情報が入ったら伝えに来るよ」
「はい。お願いします」
ルイゼン領の話なので、ファウストには情報を逐一教えてもらえるように頼んでいた。
無関係ではないのでエレナにも状況を伝えるつもりだ。
命を狙われてたまたまここに逃れ着いたが、もしかしたら故郷に帰ることができるようになるかもしれない。
そうなると、レオにとっては色々と困ることになりそうだが、エレナのことを考えればこれほど喜ばしいことはないだろう。
エレナを伯爵令嬢に戻すためにも、レオはルイゼン領の奪還が完了したという情報がファウストから届けられるのを待つことにした。
「それに反して、ここはいつも通りでいいな。ここに来ると働きたくなくなるよ」
「そうですか?」
ルイゼン領では戦いが起こっているというのに、この島の人間は平常運転だ。
町には人も行き交い、昔に比べれば賑やかになったが、どことなく長閑な空気が流れている。
いい意味で田舎町といったところだろうか。
見ていると、自分もここでのんびり暮らしたくなってくる。
そう思ってファウストは純粋に思ったことを口にしたのだが、フェリーラ領から行ったり来たりさせている立場のレオは申し訳なく思いつつ返事をした。
独立し帝国を名乗りだしたルイゼン領。
そんな勝手を許さないヴァティーク王国の侵攻が夏から始まった。
そして、季節も秋に変わったというのに、ルイゼン領の奪還がなったという報告はなされないままだ。
そのことを報告するためにファウストが来てくれた。
「こちらの進行具合が鈍い……」
「例のスケルトン出現が原因ですか?」
「あぁ……」
前領主の娘であるエレナも他人ごとではないので、成り行きを心配している。
そんなエレナのためにも、早々に決着してくれるとありがたいのだが、そう上手くはいかないらしい。
幸先よく奪い取った砦に、大量のスケルトンが出現したことは国中に知れ渡っている。
参戦したストヴァルテ公爵が、それによって亡くなったのも要因の一つだろう。
その公爵も酒を飲んでいたというのが遺体から分かり、いくら王家の血を受け継いでいようと許し難しとして降爵させられるという話しだ。
襲撃を受けたのに、指揮官が酒を飲んで酔いつぶれていたなんて最悪の醜態、取り潰しを逃れただけマシだと思うべきだろう。
「砦は破壊されたとの話ですね?」
「手に入れても夜中に魔物が出現するんじゃ、持っていても意味ないからな……」
魔物を出現させる罠を仕掛けられていた砦を、そのまま利用するというのも危険でしかないため、軍はその罠ごと砦を破壊してしまうことにした。
罠の解除をおこなうという案も出たのだが、その罠の捜索や解除に時間がどれだけかかるか分からない。
先に進むためにも、そのような時間を弄している訳にはいかないための処置らしい。
「その間に敵は砦を造りまくっている状況だな」
「こっちは数週間で拠点となるような建物の建設なんて出来ないですからね」
危険な砦の放置はできないため破壊するにしたのはいいが、敵はその間に同じような砦を各地に造り上げていることが知らされて来た。
フェリーラ領からも、川の対岸に砦ができているのが確認されたそうだ。
どこの砦も短い期間で建築され、一体どうやって造られているのか知りたいところだ。
最初の砦同様、次に奪った砦も夜にスケルトンの来襲を受けたことを考えると、どこの砦にも同じ罠が仕掛けられていると考えた方が良いだろう。
「最初は様子見で送った貴族たちだったが、公爵の死によってまともになってようやく町1つの奪還って所だな」
「時間がかかっていますね……」
最初に送った兵の中で、アルドブラノたち以外は負傷して治療を受けなくてはいけない始末。
国としては、彼らでも少しは使えると思っていただけに期待外れになった。
しかし、使える人間と使えない人間は露呈した。
ちゃんとした指揮官の下、アルドブラノたちに頑張ってもらうことになりそうだ。
軍がまともになったといっても、敵の砦の建築速度には迷惑を受けている。
そのため、進軍が遅々として進まないでいて、ようやく町1つ分の領土を奪還することに至った状況らしい。
「それだけ砦を建てて進軍を遅らせるというのは、何か狙いがあるんじゃないですかね? 人員補充とか……」
「その可能性もあるかもな……」
せっかく砦を造っているというのに、どこも守る人間はかなり少ない。
数日あれば奪える程度の防備だ。
砦の奪還よりも、破壊に時間がかかっているような気がする。
それが続いていると、レオにはむしろそれが狙いのようにも感じられた。
そうやって時間を稼いで、対抗するための準備を整えているのだろう。
「でも、他国やどこの領とも分断されている状況で人員補充は無理ですよね?」
「それは分からんぞ」
「えっ?」
他領とは分断され、他国との貿易も途絶えている今、ルイゼン領は孤立状態で経済的にも痛手を負っているはずだ。
とても人員補充なんてしている余裕なんてないことだろう。
そう思っていたレオだが、ファウストから待ったがかかった。
「ルイゼン領が独立したというのはもう他国へと広がっている。他国から人員補充するということも出来るかもしれないな」
ヴァティーク王国から独立したということは、ムツィオ自身が他国に広めた。
多くの国はヴァティーク王国との関係を考えて独立宣言を無視しているが、中には王国とは深い関係でもないことからルイゼン領との貿易を開始し始めた国も出始めた。
そういった国から、人員を受け入れるという方法がとれるため、レオの言う人員補充はあり得ない話ではない。
「しかし、それでも王国相手にできるほどの人間が集まるのはいつになるか分からないな」
「そうですか……」
他国との貿易が開始されたのなら経済的には何とかなるかもしれないが、人員の補充はそうはいかない。
人を連れて来るにしても、船では何千と連れてくることも出来ないため、少しずつ増やしている間に王国軍に攻め入られかねないので得策とは言い難い。
そのため、他に時間を稼ぐ何か理由があるのかもしれない。
「あのスケルトンさえいなければな……」
愚痴りたくなるのも分かる。
奪った砦にスケルトンが出なければ、進軍速度は一気に速くなる。
全部を壊さず、1つ残した砦内に施された罠の解析もおこなっているが、それも原理が分かっていない状況。
スケルトンさえいなければ、奪いとってそのまま利用できるだけにもったいなく思えるのだろう。
「でも、時間稼ぎももうすぐ終わりじゃないですかね?」
「あぁ、ここまでは山などに囲まれて進む道は限られていた。しかし、もうすぐ平原へと変わる。敵からするとそこで止めないと、領都へ迫られることになるからな」
これまでは砦の連続で苦しめられたが、平原に抜けてしまえば領都へ攻め入ることができるようになる。
そうなれば、後はムツィオの首を獲れば良いだけの話になるため、もしも人員の補充をしているのだとしたら、平原で総力を挙げて待ち受けていることだろう。
そういった意味でも、時間稼ぎの砦攻略はもうすぐ終わりになるということだ。
「どれだけ集めたのか知らないが、王国相手に数で勝てるわけがない。ムツィオも独立なんてバカな宣言をしたものだ」
おかしな策で時間稼ぎを食らったが、所詮数で王国に勝てるとは言い難い。
ムツィオが皇帝を名乗るのも、残り数か月のことだろう。
「僕としては、先代のこともあるので出来ればムツィオを捕縛に留めてもらいたいのですが……」
「それは難しいかもな……」
エレナのことを考えれば、先代領主に何をしたかを吐かせてから死んでもらいたい。
しかし、これだけの労力を使わされて、捕まればただで済まないのはムツィオも分かっているはず。
いざとなったら自決する覚悟くらい持っていることだろう。
とても捕縛できるとは思い難い。
「とりあえず、また情報が入ったら伝えに来るよ」
「はい。お願いします」
ルイゼン領の話なので、ファウストには情報を逐一教えてもらえるように頼んでいた。
無関係ではないのでエレナにも状況を伝えるつもりだ。
命を狙われてたまたまここに逃れ着いたが、もしかしたら故郷に帰ることができるようになるかもしれない。
そうなると、レオにとっては色々と困ることになりそうだが、エレナのことを考えればこれほど喜ばしいことはないだろう。
エレナを伯爵令嬢に戻すためにも、レオはルイゼン領の奪還が完了したという情報がファウストから届けられるのを待つことにした。
「それに反して、ここはいつも通りでいいな。ここに来ると働きたくなくなるよ」
「そうですか?」
ルイゼン領では戦いが起こっているというのに、この島の人間は平常運転だ。
町には人も行き交い、昔に比べれば賑やかになったが、どことなく長閑な空気が流れている。
いい意味で田舎町といったところだろうか。
見ていると、自分もここでのんびり暮らしたくなってくる。
そう思ってファウストは純粋に思ったことを口にしたのだが、フェリーラ領から行ったり来たりさせている立場のレオは申し訳なく思いつつ返事をした。