「えっ? ルイゼン領が独立?」
「あぁ……」
いつものように湖の調査・駆除をおこなっているレオの所に、ファウストからルイゼン領が独立を宣言したこと伝えられた。
その話を聞いて、レオは驚きで固まらざるを得なかった。
あまりにも無謀な行為だからだ。
ヴァティーク王国の領地でしかないルイゼン領が、何倍もの戦力のある相手に勝てるとでも思っているのだろうか。
「ほんの僅かにそんなこともあり得るかとは思っていましたが、そんなことしても潰されるのがオチだと思って頭から外していました」
「俺も独立なんて、口に出すバカがいるとは思わなかったぜ」
こんなことをするくらいなのだから、ムツィオは以前から今回の独立を考えていたのかもしれない。
ムツィオとの関係を示す証拠は見つからなかったが、こうなってくると分断されるのを狙って盗賊を動かしていたように思える。
レオもムツィオが独立を狙っているのかもしれないと思ってはいたが、そんなことをして王国を相手に勝てるわけがない。
ファウストの言うようにバカとしか言いようがないため、その考えは放棄していた。
「ムツィオの奴、自分を唯一無二の存在だとかぬかして、ルイゼン帝国を名乗るのだそうだ」
「……何か悪い薬にでも手を出しているのですかね?」
ファウストの言葉を聞いて、レオはムツィオが何か薬物に手を出して正常な判断ができない状態なのではないかと思えてきた。
自分のことを唯一だのと宣うのは、子供かとんでもない馬鹿ぐらいだ。
ムツィオの年齢を考えると、後者が当てはまりそうだ
「当然陛下は独立なんて認める訳がない。貴族たちに兵を出すように指示なされた」
「でしょうね……」
ルイゼン領はヴァティーク王国のものだ。
当然独立なんて許す訳など無く、領地を奪い返しに行くのが普通だろう。
「うちからも出した方が良いのでしょうか?」
「いや、ルイゼン領を潰すのに大量に兵を集め過ぎれば、兵糧などで無駄に資金を使うことになる。王都周辺の貴族を中心に動かすようだ」
兵を招集しているというなら、レオたちも加わった方が良いかもしれない。
そう思って問いかけたのだが、ファウストにはあっさりと否定された。
開発が進んでいるが、所詮ヴェントレ島はまだまだ無名の領地。
兵を集めるといっても、そんな離れた地からまで兵を集めていては、時間も資金もかかって仕方がない。
今回は王都周辺の貴族だけで構成した軍でことに当たるようだ。
「フェリーラ領も招集されるのですか?」
「ルイゼンの周辺領地は盗賊騒ぎで経済的に痛手を負っている。なので、兵ではなく少しの兵糧を提供する形で済んだ」
「そうですか」
ルイゼン領に隣接する各領は被害を受けたばかりだ。
しかも、分断するための工事もおこなったばかりで、資金的に痛手を負っている。
そこへさらに兵まで出せなんて酷なこと国は言う訳もなく、多少の援護で済むことになったそうだ。
「うちからも兵を出せと言われず一安心しました。うちは兵がまだまだ少ないですから、参加するには心許ないと思っていたので……」
『……いや、お前ひとりで戦力になるだろ……』
ここヴェントレ島へ兵を出すように求められたとしても、まだまだ数が少ないため、出せても数百しか出せないだろう。
そんな人数増えた所で役に立てるとは思わないので、命令が来なくて安堵した。
しかし、レオの意見に対し、ファウストは内心ツッコミを入れていた。
数千の人形兵を用いて戦うことのできるレオがいれば、資金的にかなりの安上がりで済ませることができる。
むしろ、レオを真っ先に呼んだ方が、死人も減らせていい気がする。
「まぁ、何を根拠に独立なんて言い出したのか分からんが、いくら何でもムツィオに勝ち目はない。すぐに治まるだろ」
「そうですね。数が違い過ぎますから……」
もしも独立を前々から企んでいたとしても、戦力差を覆せるわけがない。
ファウストの言うように、すぐに王国側の勝利で終わることだろう。
王国軍によってムツィオが倒されれば、ムツィオがエレナの父を殺した証拠も見つかるかもしれない。
そうなればエレナの生存を宣言することができる。
ルイゼン領がそのままエレナに任されるかは分からないが、少なくとも貴族には戻れるだろう。
そうなるためにも、レオは今回のことがどんな結果になるかを待つことにした。
◆◆◆◆◆
「まさか3大公爵家のストヴァルテ家が名乗り出るとはな……」
ヴァティーク王国の軍として先頭を行く人間を見て、市民たちは小声で呟く。
クラウディオからの命によって集められた貴族たちは、付けている鎧こそ煌びやかだが、体型が酷い者たちばかりだった。
明らかに怠惰な生活をおこなってきているのだと分かる。
その中でも、会話に上がったストヴァルテ公爵家の者は、馬に乗っているだけで汗を掻くほど肥満な体型をしている。
「カルノ王の時は散財して、勝手に税を増やすなどをおこなっていたという話だ」
「クラウディオ陛下に目を付けられているというのが分かっているんだろうな」
クラウディオは、今回の招集に先代カルノ王の時に問題を起こしていた貴族たちを優先して集めた。
指名された貴族たちは不満もあるだろうが、クラウディオが進める悪徳貴族への冷遇策が自分に向かないようにしないといけない。
心を入れ替えたという態度を見せるための、出兵と思っているのかもしれない。
今回は相手が数で劣っていると分かっているので、負けることはないと参戦したのだろう。
「……何だ?」
「あんな砦をいつの間に作り上げたのだ?」
ルイゼン領と隣接する町に多くの兵が集まった。
ここから進軍して追い詰めていくことになるのだが、領境に作った防壁の上から遠くを眺めると、いつの間にかルイゼン領内に砦らしきものが建設されていた。
樹々に隠れていたとは言っても、見逃すような大きさではない。
いつの間にか出現したかのような砦に、集まった貴族たちは戸惑いを見せていた。
「防壁によって分断し、兵が集まるまでそれ程時間は経っていない。たった数週間であんなのができたということか?」
「バカな! 何の冗談だ?」
王都周辺からこの町へ兵が集まるまで数週間程度の時間で、あの砦が建設されたということなのかもしれない。
しかし、それはかなり荒唐無稽な話だ。
相当な数の人間でことに当たらないと、とてもではないができるような規模ではない。
彼らが信じられないというのも当然かもしれない。
「そんなことができるほど人員がいるということなのか?」
「ただの張りぼてではないのか?」
「どうだろうな……」
数週間で砦を作れるほどの人員が配備されているのかもしれない。
もしくは、こちらから見える部分だけ作り上げた張りぼてという線も考えられる。
何にしても、いきなりの砦出現に、集まった貴族たちは二の足を踏むことになった。
「フンッ! 何を慌てているのだ!」
「ストヴァルテ公爵閣下……」
砦の出現によって会議を始めた貴族たちは、まず調査をすることにした。
もしも多くの軍勢が潜んでいるとしたら、他から回り込んで挟み撃ちにするなどの策で攻めるべきだからだ。
その相談をしていたところへ、ストヴァルテ公爵が脂肪を揺らして話し合いに入ってきた。
会議の場に来なくても後で方針を伝えるつもりだったのだが、後方で指揮しているという体での参加でしかない彼が何をしに来たのか、集まっていた貴族たちは首を傾げたくなる思いだ。
「あんな砦1つに、これだけの兵がいて負けるわけがないだろ!」
「いや、しかし閣下! もう少し様子を見てからで良いのでは?」
どうやらストヴァルテは、数の有利が戦争の有利を示すものだと疑っていないようだ。
砦が出現しただけで、数で絶対的有利のこちらが負けるわけないと思っているのかもしれない。
気持ちは分からなくもないが、兵の命もかかっているのだから慎重にことを進めるべきだと誰もが思った。
ここに集まった貴族は、カルノ王の時代に難ありの烙印を押されている者たちばかりだが、根っこまで腐っていない者たちなのかもしれない。
しかし、ただ1人を除いてと言って良いかもしれない。
最悪なことに、その1人の爵位が一番高いのだからついてない。
「調査などいらん! 明日にでも即刻攻めかかるぞ! これは命令だ!」
「……か、畏まりました!」
どうなるかは分からないが、確かに負ける要素は少ない。
公爵の命令となれば従わざるを得ないため、会議をしていた者たちは渋々従うことにした。
「掛かれ!!」
ストヴァルテ公爵の指示により、ヴァティーク王国軍の攻撃が開始された。
砦の中から矢が放たれるが、予想よりも数が少ない。
何かあるのではないかと慎重にことを進めようとしていた貴族たちは、拍子抜けの感が拭えなかった。
「思った以上に抵抗がないな……」
参戦している貴族の1人であるアルドブラノ子爵が、難なく開けることに成功した門を見て呟く。
砦内の兵数は500程といったところだろうか。
3万近くの兵で挑むには少々過剰な兵力差だ。
何故この程度の人数でこれほどの砦を守らせているのか、不思議で仕方がない。
短期間で造ったにしては守りが薄すぎる。
「がっはっは!! やはりワシのいった通りだ!!」
多くの貴族が違和感を抱いたのだが、爵位上指揮官の役割になっているストヴァルテ公爵だけが無駄に付いた腹の脂肪を揺らせて上機嫌でいた。
慎重論など無視した強行が成功してしまい、他の貴族たちは何とも言えない状況だ。
「短期間で砦を作る技術はあっても、人まで集められるわけがないのだ!!」
「……そのようですね」
ストヴァルテ公爵の高笑いに、他の貴族たちはいまいち納得できないでいるが、結果を考えると頷くしかない。
本来なら他の者たちが言うように砦の調査をおこなってから攻め入るべきだ。
この結果は、ただ運が良かっただけの話でしかない。
指揮官がそれに気付いていないようでは、先が思いやられるところだ。
「どうやら砦内が制圧できたようだな」
「えぇ……」
門を開けるまでの間に放たれた矢と、砦内に進入した時の抵抗によって数人の兵が怪我を負った。
重傷者が出ても死人が出ずに済み、意気揚々と砦内へと攻め入った兵によりヴァティーク王国の国旗が掲げられ始めた。
それを見て、ストヴァルテ公爵はゆっくりと砦内へと入って行く。
他の貴族たちも、それに付き従うように砦内へと向かうことにした。
「……突貫で作られたにしてはしっかりしている」
「これなら多くの兵を置いて守った方が良かったんじゃないか?」
「敵は何を考えているんだ?」
中に入った貴族たちは、入ってすぐに砦の調査を開始する。
短期間で造り上げたことから、何か特別な工事がされたのかと考えていたのだが、特におかしなところはないように感じる。
奪っておきながら言うのはおかしいが、これだけの砦を何で敵は兵を揃えて守ろうとしなかったのだろうか。
「貴殿らは何をしているのだ? まずは幸先のいい勝利を祝おうではないか」
「……ハッ!」
上機嫌のストヴァルテ公爵は、兵たちに自分の指示により砦を奪えたと言いたげな態度をしている。
運が良かっただけに過ぎないのだが、確かに彼の指示で砦を奪えたのだから特に文句はいえない。
彼の言葉が砦内に広がり、兵たちは豪勢な食事と酒で勝利を祝うことにした。
「閣下! 我々は報告と今後の進軍方向を確認するため、1度グーリオの町へと戻ります」
「あぁ、分かった」
特に慎重論を唱えていた貴族たちは、今後のことを考えて1度グーリオの町へと戻ることを公爵に告げた。
それを聞いて、いつの間にか酒が入っていた公爵は赤ら顔で頷きを返した。
酔って思考がしっかり働いているのか怪しいところだ。
「その間ここをお願いたします」
「任せておけ!」
砦に掲げられた国旗を見れば、敵も砦が奪われたことは分かるはずだ。
奪われたら取り返しに攻めて来るかもしれない。
そのことを考えると、酔っているのは完全に問題行動なのだが、爵位の関係上彼らが文句を言うことは難しい。
諫言を告げても機嫌を損なうだけなので、彼らは放置することにした。
了承は得られたので、彼らは兵を連れて一旦出陣したグーリオの町へと戻ることにした。
「……何故戻るなどと仰ったのですか?」
砦内の廊下を歩いている時、ヴィスティノ男爵が先程の発言の疑問を問いかけてきた。
はっきり言って町に戻る理由なんて何もない。
ここからどのように進軍するかなんて、現場の人間が決めればいいことだ。
「どう考えてもおかしい」
「……というと?」
問いかけられたアルドブラノ子爵は、その問いに対して答えになっていないようなことを呟いた。
まだ話の続きがあるのだろうと、ヴィスティノ男爵は続きを促した。
「こんなちゃんとした砦を造ったというのに、何で敵はあんな少数で守らせていたんだ?」
「ストヴァルテ公爵の言うように、人を集められなかった……というのはあり得ませんね」
王国が国を挙げて攻めて来ると分かっているのに、こんな少数で守りきれると思う人間はいないはず。
むしろ本当に守り切れると思っている人間がいたのだったら、ムツィオの側近はどれだけ馬鹿ばかりなのだろうか。
さすがにそれはあり得ないことだということは分かるので、子爵の男性は何か策の1つなのではないかと考える。
それに対し、ガリエラ男爵が付け足すように発言する。
「確かにおかしいですね……」
「何かの策という可能性が高いですね……」
アルドブラノの考えに、他の2人も頷きを返す。
罠でもあるのではと思いつつ攻め入ったのだが、そういった類のものは感じられなかった。
恐らく、敵はこの後何かしらの行動を取ってくることだろう。
「その策がどんなものかは分からないため、我々がもしもの時の戦力としてグーリオの町に戻るのだ」
「なるほど、あそこからなら何か起きても駆け付けられる距離ですからな……」
アルドブラノの考えに、他の者も納得の表情へと変わる。
きっと近いうちに敵が何かしてくることは間違いない。
その時のことを考えて、あらかじめ対抗するための用意をしておこうという考えだ。
これなら、もしも砦を包囲されても救出に向かえる。
「公爵閣下にこのことは?」
「今の閣下には何を言っても無駄だ。だから言わないでおく」
何の警戒心もなく、酒を煽るような人間だ。
あれが公爵かと思うと、ヴァティーク王国は大丈夫なのか心配になって来る。
王家としても、元をたどれば血のつながりのある公爵家を、問題があるからと簡単に潰すわけにはいかない。
今回参戦を命じたのも、戦いで流れ矢でも食らって欲しいのではないか。
「大丈夫でしょうか?」
「ちゃんとした貴族も数人残るんだ。流石に全滅になることはないだろう」
ガリエラの疑問も分からなくはない。
あんなトップで、敵の攻撃を止めることができるのか不安に思えるのだろう。
アルドブラノもその心配が無いわけではない。
しかし、仲の良い他の貴族には自分の考えを伝えてある。
もしもの時は助けに来ると分かっていれば、砦内に閉じこもるという策も選べる。
無謀に打って出るなどのことを起こさなければ、全滅することはないだろう。
「あの閣下では、打って出るという策も命じかねないような……」
「「…………」」
今回の指揮もあって、ストヴァルテ公爵は爵位以外に信用できないことが分かった。
そのため、ヴィスティノは公爵がその最悪の選択をする可能性を感じていた。
その言葉を聞いて、2人もそんなことになりそうな、嫌な予感がしてきた。
「……閣下の代わりとなるような指揮官も進言しておこう」
「そうですね……」
王や宰相も、公爵の地位にいる者が、太ってはいても思考まで鈍っているとは思っていなかったのかもしれない。
蓋を開けたらダメだったと、早いうちに気付けたのは良かったのではないだろうか。
今ならまだ被害も少ない状況なので、他にちゃんとした指揮官が来れば問題ない。
アルドブラノたちはグーリオの町に戻るついでに、王都へストヴァルテ公爵のことを知らせる文を送ることにしたのだった。
「アルドブラノ様!!」
グーリオの町に戻り、今回の戦闘の経緯と結果を記した手紙を王城へと送ったアルドブラノ子爵。
一緒に戻って来ていたヴァスティノ男爵とガリエラ男爵と共に、いつでも出撃できるようにしつつも体を休めていた。
夜になり、突如として部下がアルドブラノを起こしに来た。
その慌てた様子に跳び起きると、そのまま部下に治療室へと案内された。
「っ!! 君は公爵家の………」
治療室のベッドに目を向けると、傷だらけの兵士が治療を受けていた。
アルドブラノは、その兵の顔に見覚えがあった。
公爵家に仕える兵で、当然彼もストヴァルテ公爵と共に砦にいるはずの人間だ。
「どうした!? 砦に何かあったのか!?」
怪我もしているし、砦にいるはずの彼がこんなところにいるということは、砦で何か起きたということだろう。
怪我の治療中ではあっても緊急事態だ。
砦へ向かうにしても、何があったのか知りたい。
「魔物が……突如…現れ…………」
「クッ! 気を失ったか!?」
怪我をしている兵は、何とか起きたことを報告しようと口を動かす。
しかし、話を最後まで話すことができずに、そのまま気を失ってしまった。
魔物により何かが起きたということは分かったが、どうせならどんな魔物によって被害を受けたのかも知らせてほしいところだった。
大怪我をしているが、とりあえず彼は命に別状はないとの話だ。
「皆に知らせろ! 砦が魔物によって何かしらの被害を受けているようだ!!」
「ハッ!」
呼びに来た部下に対し、アルドブラノはそのまま皆に知らせることを指示する。
指示を受けた部下の男は、すぐさま仲間の兵に知らせに向かった。
その報告はヴァスティノとガリエラの両男爵にも伝えられた。
「「アルドブラノ殿!」」
「お二人とも準備は宜しいですかな?」
「「えぇ!」」
彼らも急な召集になったが、最初から何かが起こる可能性を考えていたので、たいして時間のかからないうちに準備を整えたようだ。
兵たちも集まり、後は指示を待つばかりといったところだ。
「では、砦へ向けて進め!!」
「「「「「おぉー!!」」」」」
何の魔物かは分からないが、砦に被害を及ぼしているということだ。
酒を飲んでいた公爵には期待しないが、他の貴族たちのことが気になる。
彼らを救出するべく、アルドブラノたちはすぐさま砦へ向けて進軍することになった。
「スケルトン!?」
砦へ近付くにつれて、何の魔物から被害を受けていたのか分かった。
魔物と聞いていたが、アンデッド系の魔物であるスケルトンの大群だった。
砦の門が開かれており、スケルトンたちが砦内へ入って行っている。
「スケルトンを蹴散らし、生存者を救出するぞ!!」
「「「「「ハッ!」」」」」
動く人骨スケルトン。
持っている武器は、ただの木の棒のようだ。
動きは遅いが、囲まれてしまうと袋叩きにあってしまう。
まず、アルドブラノたちは、砦の門へと向かうスケルトンたちを駆逐することにした。
避難経路を作り、生存者を避難させるためだ。
「「「「「ハァー!!」」」」」
指示に従い、アルドブラノの兵たちはスケルトンへと襲い掛かっていく。
兵たちは連携して戦い、スケルトンたちを破壊していく。
そして、段々と門の周辺にいるスケルトンたちが減り、砦内の様子が見えるようになってきた。
「どうやら全滅はしていないようだな……」
部下が切り開いた道を抜けてアルドブラノが砦内へ入ると、ここに残してきた他の貴族の兵たちはスケルトンと戦っていた。
しかし、その姿は軽装。
寝ている所を突如襲われたのかもしれない。
「アルドブラノ子爵だ!! 窮地と聞き救援に来た!!」
「「「「「おぉ! アルドブラノ様!!」」」」」
戦っている者も、怪我を負い動けないでいる者もいる。
彼らを安心させるためにも、アルドブラノは砦内に響くように大きな声で叫んだ。
救援が来たことに気が付いた者たちにより、戦っていた兵たちからは喜びの反応が広がっていった。
アルドブラノたちの兵と生存していた兵たちは、協力してスケルトンたちを蹴散らし始めた。
「怪我人を一ヵ所に集めろ!!」
「兵たちは治療班の護衛をしろ!!」
アルドブラノだけでなく、ヴァスティノとガリエラの男爵たちも行動を指示する。
怪我人たちを治療するべく、兵たちの一部が2人の指示に従い行動を起こす。
一緒に来ていた治療班が、集められた怪我人たちの治療を始めた。
スケルトンたちの武器が木の棒だったのが功を奏したのか、怪我人は多いが死人は少ないようだ。
アルドブラノたちが来たことにより、砦内のスケルトンは段々減っていき、ようやく一段落がついてきた。
「他にも怪我人がいないか探すぞ!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
残ったスケルトンを相手しつつ、アルドブラノは部下たちと共に砦内の生存者捜索に向かった。
階数が上がっていくと、貴族たちの生存者が見つかっていく。
異変に気付いて抵抗できた者たちほど軽傷で済んでいるようだ。
「……公爵閣下は?」
「……さぁ?」
ほとんどの貴族を救出し終え、他に残された者がいないか見渡した。
すると、この戦いでトップに立つべきストヴァルテ公爵の姿が見えない。
そのため、軽傷で済んだ貴族の一人に公爵の行方を問いかけたのだが、彼も戦うことに必死で公爵を気にかけている余裕がなかったらしく、アルドブラノの問いに首を傾げた。
「閣下!! 公爵閣下!!」
公爵の行方を捜し、アルドブラノと兵たちは砦内の部屋を捜索していく。
そして、アルドブラノがある部屋の扉を開くと、一人の人間が大量の血を流して横たわっているのを発見した。
丸々と肥え太った体型からいって、すぐにストヴァルテ公爵だと理解したアルドブラノは、すぐに駆け寄り生存確認を始めた。
「っ!! 死んでいる……」
脈を計ってみると、全く感じることができない。
どうやら息絶えているようだ。
高位貴族の死に驚きはしたが、アルドブラノは部屋の中を見てすぐにしょうがないことだと判断した。
少し飲むだけだと思っていたが、公爵は酔いつぶれるまで飲んだらしく、空いた酒瓶が数本テーブルの上に立っていたからだ。
そう思うと、公爵の死に対して何とも思わなくなり、むしろ無謀な指揮をとられることがなくなったと内心では安堵した。
「スケルトンが急に砦内に出現した?」
「はい……」
亡くなった者たちの遺体は魔法の指輪に収納し、アルドブラノはここに残っていた兵たちにどうしてこのような状況になったのかを尋ねると、多くの者たちがこのように荒唐無稽のようなことを言ってきた。
スケルトンが攻めてきたのではなく、湧き出るように出現したのだそうだ。
「……本当でしょうか?」
「信じがたいが、多くの者が同じようなことを言うのだからそうなのだろう」
聞いたことも無いような現象の報告に、ヴァスティノもすぐに受け入れられる心境ではない。
疑いの気持ちが捨てきれないでいるヴァスティノに対し、ガリエラは渋々といった感じでそのことを受け入れるつもりのようだ。
「ここはそのように魔物を出現させる細工がされているのかもしれない」
「なるほど。夜に発動するようにしかけられていれば、もしかしたら……」
スケルトンが出現した時の状況を知らないため、3人は本当なのか確定するものが何もない。
しかし、何かを出現させるという細工は、魔法陣を設置しておけばできないことではない。
犯人特定や現象を真似されないよう、発動後に消えるようにしているだろうから、証拠は見つからないだろう。
「まだ発動していない魔法陣があるかもしれない。念のため全員この砦から退避しろ!!」
「りょ、了解しました!!」
用意したトラップが一つだけとは限らない。
安心した所に第2陣ということになられては面倒だ。
そのため、アルドブラノは兵たちに退避の命令を飛ばした。
怪我人を連れた者を先頭に、アルドブラノたちは砦を捨てて一旦グーリオの町へと退避することにしたのだった。
◆◆◆◆◆
「冷たくて気持ちいい……」
ルイゼン領奪還戦が最初から苦戦しているのを知らず、前領主の娘のエレナは湖に足を付けて喜んでいた。
レオの人形体のお陰で、ようやく湖の魔物駆除が終了したのだ。
話に聞いていた湖に来ることをずっと楽しみにしていたエレナは、ようやく来られることになり嬉しいのだろう。
「まだ泳げるようにしていないから、膝より下を浸けるだけにしておいてね」
「はい! 分かりました!」
魔物は退治したが、湖底の整備はされていない。
もしも深いところで足がハマったりしたら危険なため、レオはエレナに忠告する。
エレナもここに来る前に何度も注意を受けているので、ちゃんと理解している。
『まぁ、多少何かあっても大丈夫な備えはしてあるけど……』
エレナが湖に行きたいというので、レオは他のみんなに相談した。
そうしたら、ガイオやドナートとヴィートが護衛でついて行くと言うし、女性の手が必要になるかもしれないと、ガイオの部下で女性部隊隊長のイメルダも付いてくることになった。
エレナが出かけるなら当然といった感じでセバスティアーノもいるし、過剰ともいえるような警護体制がとられている。
とは言っても、一番警護に気を使っているのはレオで、ロイたちの部隊を配置し、イルカ型人形たちも湖の中に潜ませている。
更に、戦力補充とも言うように人形兵に周囲を警戒させている。
よっぽど危険な魔物でも出ない限り、エレナに危険が及ぶことはないだろう。
「綺麗ですね……」
「気にいってもらえたかな?」
「はい!」
湖の水で涼んだ後、エレナはセバスティアーノが用意したお茶を飲んでみんなとこの場所の景色を眺めていた。
森と湖の景色に感動しているエレナに、レオは連れて来て正解だったと思った。
やはりエレナは笑っている方が似合っている。
そう思ったレオは、ファウストが言っていたようにこの場所の開発を行うことを前向きに考えることにした。
「ルイゼン領の方はどうなっていますか?」
独立し帝国を名乗りだしたルイゼン領。
そんな勝手を許さないヴァティーク王国の侵攻が夏から始まった。
そして、季節も秋に変わったというのに、ルイゼン領の奪還がなったという報告はなされないままだ。
そのことを報告するためにファウストが来てくれた。
「こちらの進行具合が鈍い……」
「例のスケルトン出現が原因ですか?」
「あぁ……」
前領主の娘であるエレナも他人ごとではないので、成り行きを心配している。
そんなエレナのためにも、早々に決着してくれるとありがたいのだが、そう上手くはいかないらしい。
幸先よく奪い取った砦に、大量のスケルトンが出現したことは国中に知れ渡っている。
参戦したストヴァルテ公爵が、それによって亡くなったのも要因の一つだろう。
その公爵も酒を飲んでいたというのが遺体から分かり、いくら王家の血を受け継いでいようと許し難しとして降爵させられるという話しだ。
襲撃を受けたのに、指揮官が酒を飲んで酔いつぶれていたなんて最悪の醜態、取り潰しを逃れただけマシだと思うべきだろう。
「砦は破壊されたとの話ですね?」
「手に入れても夜中に魔物が出現するんじゃ、持っていても意味ないからな……」
魔物を出現させる罠を仕掛けられていた砦を、そのまま利用するというのも危険でしかないため、軍はその罠ごと砦を破壊してしまうことにした。
罠の解除をおこなうという案も出たのだが、その罠の捜索や解除に時間がどれだけかかるか分からない。
先に進むためにも、そのような時間を弄している訳にはいかないための処置らしい。
「その間に敵は砦を造りまくっている状況だな」
「こっちは数週間で拠点となるような建物の建設なんて出来ないですからね」
危険な砦の放置はできないため破壊するにしたのはいいが、敵はその間に同じような砦を各地に造り上げていることが知らされて来た。
フェリーラ領からも、川の対岸に砦ができているのが確認されたそうだ。
どこの砦も短い期間で建築され、一体どうやって造られているのか知りたいところだ。
最初の砦同様、次に奪った砦も夜にスケルトンの来襲を受けたことを考えると、どこの砦にも同じ罠が仕掛けられていると考えた方が良いだろう。
「最初は様子見で送った貴族たちだったが、公爵の死によってまともになってようやく町1つの奪還って所だな」
「時間がかかっていますね……」
最初に送った兵の中で、アルドブラノたち以外は負傷して治療を受けなくてはいけない始末。
国としては、彼らでも少しは使えると思っていただけに期待外れになった。
しかし、使える人間と使えない人間は露呈した。
ちゃんとした指揮官の下、アルドブラノたちに頑張ってもらうことになりそうだ。
軍がまともになったといっても、敵の砦の建築速度には迷惑を受けている。
そのため、進軍が遅々として進まないでいて、ようやく町1つ分の領土を奪還することに至った状況らしい。
「それだけ砦を建てて進軍を遅らせるというのは、何か狙いがあるんじゃないですかね? 人員補充とか……」
「その可能性もあるかもな……」
せっかく砦を造っているというのに、どこも守る人間はかなり少ない。
数日あれば奪える程度の防備だ。
砦の奪還よりも、破壊に時間がかかっているような気がする。
それが続いていると、レオにはむしろそれが狙いのようにも感じられた。
そうやって時間を稼いで、対抗するための準備を整えているのだろう。
「でも、他国やどこの領とも分断されている状況で人員補充は無理ですよね?」
「それは分からんぞ」
「えっ?」
他領とは分断され、他国との貿易も途絶えている今、ルイゼン領は孤立状態で経済的にも痛手を負っているはずだ。
とても人員補充なんてしている余裕なんてないことだろう。
そう思っていたレオだが、ファウストから待ったがかかった。
「ルイゼン領が独立したというのはもう他国へと広がっている。他国から人員補充するということも出来るかもしれないな」
ヴァティーク王国から独立したということは、ムツィオ自身が他国に広めた。
多くの国はヴァティーク王国との関係を考えて独立宣言を無視しているが、中には王国とは深い関係でもないことからルイゼン領との貿易を開始し始めた国も出始めた。
そういった国から、人員を受け入れるという方法がとれるため、レオの言う人員補充はあり得ない話ではない。
「しかし、それでも王国相手にできるほどの人間が集まるのはいつになるか分からないな」
「そうですか……」
他国との貿易が開始されたのなら経済的には何とかなるかもしれないが、人員の補充はそうはいかない。
人を連れて来るにしても、船では何千と連れてくることも出来ないため、少しずつ増やしている間に王国軍に攻め入られかねないので得策とは言い難い。
そのため、他に時間を稼ぐ何か理由があるのかもしれない。
「あのスケルトンさえいなければな……」
愚痴りたくなるのも分かる。
奪った砦にスケルトンが出なければ、進軍速度は一気に速くなる。
全部を壊さず、1つ残した砦内に施された罠の解析もおこなっているが、それも原理が分かっていない状況。
スケルトンさえいなければ、奪いとってそのまま利用できるだけにもったいなく思えるのだろう。
「でも、時間稼ぎももうすぐ終わりじゃないですかね?」
「あぁ、ここまでは山などに囲まれて進む道は限られていた。しかし、もうすぐ平原へと変わる。敵からするとそこで止めないと、領都へ迫られることになるからな」
これまでは砦の連続で苦しめられたが、平原に抜けてしまえば領都へ攻め入ることができるようになる。
そうなれば、後はムツィオの首を獲れば良いだけの話になるため、もしも人員の補充をしているのだとしたら、平原で総力を挙げて待ち受けていることだろう。
そういった意味でも、時間稼ぎの砦攻略はもうすぐ終わりになるということだ。
「どれだけ集めたのか知らないが、王国相手に数で勝てるわけがない。ムツィオも独立なんてバカな宣言をしたものだ」
おかしな策で時間稼ぎを食らったが、所詮数で王国に勝てるとは言い難い。
ムツィオが皇帝を名乗るのも、残り数か月のことだろう。
「僕としては、先代のこともあるので出来ればムツィオを捕縛に留めてもらいたいのですが……」
「それは難しいかもな……」
エレナのことを考えれば、先代領主に何をしたかを吐かせてから死んでもらいたい。
しかし、これだけの労力を使わされて、捕まればただで済まないのはムツィオも分かっているはず。
いざとなったら自決する覚悟くらい持っていることだろう。
とても捕縛できるとは思い難い。
「とりあえず、また情報が入ったら伝えに来るよ」
「はい。お願いします」
ルイゼン領の話なので、ファウストには情報を逐一教えてもらえるように頼んでいた。
無関係ではないのでエレナにも状況を伝えるつもりだ。
命を狙われてたまたまここに逃れ着いたが、もしかしたら故郷に帰ることができるようになるかもしれない。
そうなると、レオにとっては色々と困ることになりそうだが、エレナのことを考えればこれほど喜ばしいことはないだろう。
エレナを伯爵令嬢に戻すためにも、レオはルイゼン領の奪還が完了したという情報がファウストから届けられるのを待つことにした。
「それに反して、ここはいつも通りでいいな。ここに来ると働きたくなくなるよ」
「そうですか?」
ルイゼン領では戦いが起こっているというのに、この島の人間は平常運転だ。
町には人も行き交い、昔に比べれば賑やかになったが、どことなく長閑な空気が流れている。
いい意味で田舎町といったところだろうか。
見ていると、自分もここでのんびり暮らしたくなってくる。
そう思ってファウストは純粋に思ったことを口にしたのだが、フェリーラ領から行ったり来たりさせている立場のレオは申し訳なく思いつつ返事をした。
「何だ!? この数は……」
ストヴァルテ公爵の死によって、代わりに参戦したディスカラ伯爵の手によって進軍が継続された。
昔から軍に関わる人間ばかりを輩出してきた一族であり、兵の一人一人の強さには定評がある。
国の軍を指揮するゴザーガ侯爵からの期待も厚い。
しかし、今回の進軍は今までに経験したことがないような進軍になった。
砦は奪えてもスケルトンの出現に手を焼かされ、一気に領都へと向かうことが出来なかった。
そして領都へとつながる平原へ来てみれば、敵が大量の兵を配備していた。
そのため、思わず驚きの言葉を呟いてしまった。
「何万の人間がいるんだ?」
兵たちの中にも動揺が広がる。
元々王国の一領地にしては考えられないくらいの兵が、敵側に集まっていたからだ。
王国側も兵数だけなら4万近くの兵を平原での戦いのために招集していた。
しかし、それと同等以上の数が揃っているのだから、仕方がない。
「狼狽えるな! よく見てみろ! 敵の多くは武器を持っただけで装備なんて着けていない!」
遠くに見える敵の兵を見て、動揺している兵にディスカラが声を張り上げる。
ディスカラの言うように、敵の最前線に位置する兵たちは各々武器を持ってはいるが、鎧などの装備を付けていない。
敵は人を集められても、装備までは集められなかったのだということだ。
その事が分かり、兵たちの動揺も自然と治まっていった。
「もしかして平民がそのまま参戦しているのか?」
「そうかもしれないですね」
装備をしていない敵兵をよく見てみると、若者から老人までもが参戦している。
その姿は、その辺を歩く平民を連れてきたと言っているかのように思えた。
そのディスカラの独り言のような疑問に、1人の貴族が同意する。
ディスカラと共に参戦したローデラ男爵だ。
同じ騎士学校を卒業した先輩後輩であり、統治する領も近いことからディスカラと共に行動している。
「なら、恐れるに足らずだ!」
「えぇ!」
平民を集めたことで兵の数の上ではやや敵の方が上でも、質の部分ではこちらの方に分があるとディスカラは踏んだ。
ローデラも同じ考えに至り頷きを返す。
「数が多くても戦闘訓練もしていないような平民を相手に我らが負けるはずがない!!」
敵の兵が平民を集めただけだということは、王国の兵も広がっていった。
それにより、冷静さを取り戻した兵たちは、ディスカラの言葉で闘争心が湧いたようだ。
こちらは訓練をおこなってきた戦闘のプロとも言うような集団で、訓練をおこなっていないような者たちに負けるはずがない。
数さえ揃えればどうにかなるかと思っている敵に対し、目に物を見せてやろうと多くの者が思っているようだ。
「攻めかかれ!!」
「「「「「おぉ!!」」」」」
敵の進軍が開始されたのを見て、ディスカラは戦闘開始の合図を送る。
合図を受けた兵たちは、統率された列を組んで敵へと攻めかかって行った。
「ぐあっ!!」「ぎゃっ!!」
ディスカラの予想通り、敵は訓練を受けていないために兵たちの相手にはならない。
王国側の兵たちの槍や剣によって、多くが仕留められていく。
「中央が崩れた! 敵の大将首目掛けて攻めかかるぞ!」
「「「「「おぉ!」」」」」
中央の敵が倒され、敵の主軸が集まる陣が丸見えになった。
そこを突くべく、ローデラが馬を走らせ部下たちと攻めかかって行った。
「なっ!?」
本陣を突こうとしたローデラを止めようと、突如平民の数人が武器を捨てて一斉に飛び掛かってきた。
数人は斬り倒したが、全員とはいかずにローデラは馬から落とされてしまう。
「ローデラ様!!」
「大丈夫だ! お前らは進め!!」
「了解しました!」
落馬したがどこにも怪我はしていない。
部下にはこのまま本陣へ攻めさせることにし、ローデラはしがみついた敵の平民兵を引きはがした。
「ぐあっ!!」
平民を引きはがしたと同時に、ローデラは左右から槍による攻撃を両足に受けた。
周囲に敵は居なくなったはずなのに、どうして自分が攻撃を受けたのか分からない。
攻撃をしてきた右側を見てみると、そこには骸骨が槍を持って立っていた。
左側を見てみても、同じく骸骨が立っている。
スケルトンはいつの間にか戦場に大量に出現していた。
「ローデラ!!」
ローデラが怪我を負ったのを、戦場後方にいたディスカラが心配そうに声をあげる。
助けに行きたいところだが、スケルトンの出現でそうはいかなくなった。
「何で…スケルトンが……」
今回の戦いにおいて、砦内の罠として出現したスケルトンが、何故かこの場にも出現したのだ。
しかも、ローデラを追い抜いていった部下たちも同じようにスケルトンに襲われ、剣や槍による攻撃を受けている。
それはまだしも、何故かスケルトンは敵の兵には攻撃しない。
王国の人間にのみ攻撃を開始している。
なんとかスケルトンの槍から抜け出したが、苦痛で歪むローデラの思考はそのことが理解できないでいた。
「おぉ! 貴族の首発見!!」
足に攻撃を受けたローデラがその場から動けないでいると、その場に顔の上半分を隠すような仮面をつけた人間がにやけた口元をして向かってきた。
着けている鎧や衣装などの豪華さから考えるに、敵の中でも地位の高い人間なのだろう。
しかし、敵の総大将であるムツィオにこんな側近がいるということは聞いたことがない。
「ぐっ! き、貴様……名を名乗れ!!」
その男は剣を抜き、すぐさま動けないでいるローデラへ向かって斬りかかってきた。
膝をついた状態のローデラは、その剣を何とか防ぐ事に成功する。
そして、その仮面の男に名を名乗るように叫ぶ。
「男爵風情が舐めた口を利くな!!」
「貴様!! まさか……」
ローデラはその声には聞き覚えがあった。
昔から関わりたくない貴族として覚えていたので間違いない。
しかし、この場に何故いるのかが分からないでいた。
「ディステ家の人間は他国に逃げたのではなかったのか!?」
「チッ! 声だけでバレるなんてな……」
正体があっさりとバレてしまったことで、仮面の男は舌打ちした。
そして、バレたならもうこの仮面は必要ないだろうと、その仮面を脱ぎ取った。
「あいつは!!」
「確かディステ家のカロージェロだ!!」
その顔を見たディスカラが表情を歪める。
兵たちの中にもその顔を覚えていた者がいたようで、顔を見た瞬間大きな声で叫んでいた。
ローデラ同様、同年代の貴族の中でも特に評判が悪かったため、関わらないようにあの顔を覚えていた。
案の定、内乱罪で国内中指名手配されて他国へ逃げたと思ったが、ムツィオが匿っていたようだ。
「悪党同士で手を組みやがったか……」
「王国に追われることになったのでな。仕方がないのでこの国で成り上がるつもりだ」
スケルトンに加えて、まさかの人間の出現で王国兵たちは慌て始める。
それにより、段々と後退させられていき、戦場中央にはローデラだけが残される形となってしまった。
「まずはお前の首をもらい受ける」
「おのれ!! 恥知らずの愚物が!!」
足の怪我を我慢して、ローデラは無理やり立ち上がる。
そして、罪を犯しておいて自分勝手なことを言うカロージェロに、剣を向けて罵倒した。
「うるせえよ!!」
「ぐふっ!!」
カロージェロとの一騎打ちを意識していたのだが、相手にはそんなことをする気もないらしく、ローデラは背後からの攻撃を受けて血反吐を吐く。
いつの間にか他の人間が背後に回っていたのだ。
崩れ行くローデラの目には、カロージェロが付けていたのと同じ仮面をした男が映っていた。
「殺れるときに殺っとかないとな……」
その男は、背後からローデラの体を突き抜いた剣を引き抜くと、仮面を取りつつ一言呟き、ローデラの首目掛けて振り抜いた。
「ローデラ男爵の首!! イルミナートが打ち取った!!」
「「「「「おぉ!!」」」」」
斬り落としたローデラの首を高々と掲げ、イルミナートが戦場に響くような大きな声をあげた。
それにより、敵の兵たちは活力を取り戻したかのように雄叫びを上げた。
「ローデラ!!」
「いけません! ディスカラ殿!!」
「止めるな!!」
仲の良い後輩を殺されて一気に血が上ったディスカラは、敵を討とうとカロージェロたちの所へ向かおうとした。
それを、近くにいたアルドブラノが止める。
あんなところに向かったらディスカラまでもが命を絶たれる。
アルドブラノの好判断に、他の貴族たちも抑えにかかった。
「スケルトンのこともあります! 一旦引いて対策を練るべきです!!」
「……くそっ!! 全軍一旦引け!! 引け!!」
アルドブラノの助言に、熱くなった思考も僅かに治まる。
またもスケルトンの出現に足をすくわれる形になり、王国軍は一時撤退を余儀なくされたのだった。
「戦闘をおこなったことで分かったことを報告します」
「あぁ」
予想外のことばかり続き、ローデラ男爵の隊がやられてしまった。
スケルトンや市民兵が多く集まった敵の軍に押され、王国の軍は拠点となる場所へと一時撤退した。
貴族たちが集まり、今回の戦いで得た情報がアルドブラノから報告されることになった。
「今回戦っていた平民らしき軽装の者たちは、恐らく一部もしくは全員が奴隷とされていた可能性があります」
戦っている最中、兵の中には平民兵の背中を斬りつけた者が何人かいた。
そして、その背中には奴隷紋が付けられていることが確認できた。
そのことから推察すると、あれだけの人間を集められた理由が想像できた。
「奴隷!? あれだけの数の奴隷をどうやって集めたのだ?」
「……犯罪奴隷などではないと思われます」
「強制奴隷ということか……」
報告を受け、ディスカラは驚きの表情に変わる。
万を超える人間を集めていて、そのほとんどが奴隷などと言うはずがない。
ヴァティーク王国の奴隷は犯罪奴隷しか存在しない。
国中の奴隷を集めてもそれほどの人数に達するはずがない。
しかし、その疑問もすぐに解消されることになった。
犯罪奴隷でないなら強制的に奴隷にしたということになる。
盗賊騒ぎの事件のこともあって、ルイゼン領内で多くの人間が強制奴隷にされている可能性が高いということが分かっている。
それを踏まえて考えると、奴隷を集めたというよりも集めた人間を奴隷化したと考えるのが正解だろう。
「元ディステ家の親子もいたことで、可能性は高いと思われます」
「あのクソ親子が!!」
盗賊事件で首謀者の存在は最後までつかめなかったが、仮面の親子という情報だけは入っていた。
それは恐らく、元ディステ家の親子のことを言っていたのだと王国側は判断した。
その2人を匿っていたムツィオも無関係ではないはずだ。
仮面をしていたのも、独立宣言がされるまで王国側に知られないための物だったのかもしれない。
市民を奴隷にして無理やり従わせる所業と共に、ローデラを殺した存在ということもあって、ディスカラは怒りで拳を強く握った。
「次にスケルトンのことですが……」
「そうだ! 何であのスケルトンは敵に襲い掛からないんだ?」
市民兵のことも問題だが、もっと厄介なのは大量のスケルトン集団の方だ。
1対1体の強さはそこまで強くなくても、どこから出現するかも分からず、しかも数による攻撃は面倒極まりない。
しかも、アンデッドの魔物であるはずのスケルトンが、敵には全く攻撃をしようとしていなかった点も疑問に感じる。
「……全部が従魔ということでしょうか?」
「アンデッドを従魔?」
「そんなことをする人間がいるのか?」
集まっている貴族たちは、各々疑問をぶつけ合うようにしてざわつく。
確かに従魔である可能性もある。
従魔なら主人の命に従い、敵のみに襲い掛かるようにできるかもしれない。
しかし、アンデッドを従魔にする人間がいるかという話だ。
アンデッドなんて、普通は気味悪がって近付きたくもない存在だ。
それに、従魔だとしても、あれほどのスケルトンをどうやって集めたのかということが疑問に残る。
「……気になることと言えばもう1つ」
「何だ?」
「戦った兵士たちからの報告では、そのスケルトンには魔石が存在していませんでした」
スケルトンがどうやって集められたのかは、敵に聞かなければ分からない。
なので、ひとまず置いて置くとして、他にも報告に上がっている疑問があった。
それが、アルドブラノの言った魔石の存在だ。
「どういうことだ? 従魔だろうと魔石のない魔物なんていないはずだ!」
魔物には魔石が存在するというのはアンデッドも同じはずだ。
にもかかわらず、魔石がないスケルトンが大量に出現し、こちらに襲い掛かってきていた。
ディスカラの言うように、魔石がないのにどうして動いているのか分からない。
「分かりませんが、通常のスケルトンと同様に強さはそこまででなく、頭部を破壊すれば行動が不能となることは変わらないようです」
普通のスケルトンは、魔石が頭部に隠されている。
そのため、頭部を破壊して魔石を取ってしまえば倒せる相手だ。
今回出現しているスケルトンたちも、頭部を破壊すると動けなくなるのは証明されている。
それに関しては朗報といえるだろう。
「倒せるのは分かったが、数が問題だ……」
奴隷化した市民と敵の本体と言うべき兵を合わせただけでこちらよりも兵数が多いというのに、さらに万を超えるスケルトンまで相手にしないといけないかと思うと、数的に不利な状況だ。
市民兵とスケルトンがそこまで強くないとは言っても、兵は敵に囲まれた状況で戦わなければいけないようになってしまう。
相当腕の立つ人間でない限り、その状況で無傷というのはあり得ない。
こちらも覚悟を持って戦わないと、勝利を得るのは難しい状況だ。
「砦に出現したスケルトンも同様に魔石が存在していませんでした。もしかしたら敵は何かスケルトンを作り出せる方法があるのではないでしょうか?」
「作り出す? そんなバカな……」
アルドブラノの考えに、ディスカラは信じられないと言ったように呟く。
敵の造り出した砦から出現したスケルトンと戦った経験で、アルドブラノは魔石が存在しないことを前もって報告していたが、その理由が解明されないままでいた。
しかし、今回の戦いで大量にスケルトンが出現したのを見て、もしかしたらという考えが浮かんだのだ。
そう考えれば、スケルトンの大量出現させることも出来るのではないだろうか。
「砦自体もあの大量のスケルトンたちの力を借りれば、急造することも不可能ではありません」
「確かに、あれだけのスケルトンがいれば可能かもな……」
スケルトンなら人間の労働者とは違い、疲労も文句も言うことはないだろう。
それが大量にいれば、砦の建築を急ピッチで作り上げることも出来るはずだ。
ここに来てようやく砦の乱立の謎が解けた気がした。
「敵がスケルトンを作り出す方法があるとしても、あれだけの数に対抗するにはこちらも対抗処置を取らないと……」
「そうだな……」
会議に加わる貴族の1人から尤もな意見が出る。
敵がスケルトンや市民の強制奴隷で人数を増やせるとなると、今の数で攻め込むのはまた返り討ちに遭う可能性がある。
同数とは言わないが、近い数の兵がこちらにも必要といってもいい。
「……陛下に進言してみよう」
今回の情報を知れば、本腰を上げてことに当たらないとルイゼン領の奪還は難しいということが分かってもらえる。
そうすれば、王であるクラウディオからの何かしらの援護があるはずだ。
「兵の徴集をですか?」
「いや、そうしたいところだが、人が増えれば出費も嵩む」
ディスカラとしても一番望むのは多くの兵だ。
兵数が近ければ、敵の本体に迫ることができるはずだ。
しかし、兵1人を何日も養うには金がかかる。
盗賊事件で疲弊しているルイゼン領周辺の領に兵を出せというのは酷な状況だ。
そのため、兵の徴集は難しい。
「国中の精鋭を集めてことに当たる!」
「少数精鋭で挑むということですか?」
「あぁ!」
多くの兵を集めるよりも、国民の中から精鋭を集めてことに当たった方が資金面では安く済ませることができる。
当然相当な戦闘力のある人間でなくてはならないが、国の中には強力な魔物とも戦える人間が何人もいる。
そういった者たちなら、きっと数による攻撃にも対応可能なはずだ。
せめてスケルトンと市民兵を一掃できるだけの力を持った人間を集めてもらおうと、ディスカラはクラウディオへ向けて文を送ることにした。
「それで……、何で僕も呼ばれているんですか?」
数に対抗して、王室は質で勝負するという考えに出た。
それにより、各領から実力のある戦士を徴収することになった。
騎士爵のレオの所にもその話が来たのだが、ヴェントレ島の招集書には何故かレオが指名されていた。
その理由が分からず、レオは招集書を持って来たファウストに理由を尋ねた。
「……カロージェロとイルミナートがルイゼン領にいやがった」
「っ!! 他国に逃げたんじゃなかったのですか!?」
「あぁ……」
ファウストの思わぬ答えに、レオは目を見開く。
度重なる領地の経営失敗に加え、レオに暗殺者を仕向けたことで指名手配されることになった父と兄。
てっきり、国の追っ手が来る前にどこかの国に逃げてしまったと思っていた。
それがよりにもよってルイゼン領にいるなんて思いもしなかった。
「奪還戦にその姿を現し、参加していたローデラ男爵を殺害したそうだ」
「くっ! そうですか……」
そもそも罪を犯しておいて逃げ出したこと自体国に迷惑をかけているというのに、貴族の一人を手にかけるなんてどれだけふざけた奴らなのだ。
余計なことをしないで、さっさとこちら側に捕まって欲しいものだ。
「でも、父たちが現れたからといって、なんで僕が?」
父たちが他国に逃げていなかったのは分かったが、だからといって自分が呼ばれる理由が分かった訳ではない。
自分のスキルは、フェリーラ領の領主のメルクリオの協力を得て、フェリーラ領以外に広がらないようにしている。
そのため、レオの戦闘力が知られているということはないと思われる。
なのに、招集されたのはどういうことなのだろうか。
「さあ? お前を使って誘き出そうって考えなのかもな……」
「……囮ですか?」
「かもしれないな……」
父たちが国から逃げ出そうとしたのは、レオの暗殺を失敗したことによる所もある。
もしもレオの姿を見つければ、カロージェロたちが何かしらの反応を示すかもしれない。
そのために呼び寄せたとなると、ただの囮として利用するつもりなのかもしれない。
あくまでもファウストの考えなので正解とは言い切れないが、たしかにそう考えることも出来る。
「いくらあの2人の頭がおかしいといっても、そんな手に乗るとは思いませんが?」
「……辛辣だな」
腐っていても一応は自分の父親たちのことを、レオはやんわりバカ呼ばわりする。
いつも穏やかな気性のレオがそういうのだから、相当2人のことを嫌っているのだろう。
むしろいつも穏やかな人間の方が、怒りが爆発した時の恐ろしさは上なのかもしれない。
そう感じたファウストは、戦場でレオが人形を使ってカロージェロたちをボコボコにしている映像が頭に浮かんできて、冷たい汗が背中を伝った。
「まぁ、正確な理由は分からないが、国に呼ばれた以上行くしかないだろう」
「困りましたね……」
レオとしては行きたくないが、たしかに国からの通達を断れる理由が存在しない。
そもそも、直々に指名されての招集なので、断ることなんて出来る訳がない。
断りようものなら、陛下への印象が最悪なことになりそうだ。
そうなるのだけは勘弁願いたい。
「こんな事なら強い人間を出せと言われた方が良かったかもしれないですね……」
領内の精鋭を出せと言うなら、この島には強い人間がいる。
特にガイオはかなりの強さを誇っているため、文句はないはずだ。
「……いや、どっちにしろお前が行くことになったんじゃねえか?」
「……そういえば、そうですね……」
ファウストに言われてよく考えたら、ガイオを送るのは無理だとレオは思いなおした。
ガイオをルイゼン領に送ってムツィオにその姿を見られてしまったら、エレナが生きているということがバレてしまうかもしれない。
そうなったら、王国軍相手にそんな暇はないとは思うが、ムツィオからエレナ暗殺の刺客を送られてくるかもしれない。
そんなことされるのは面倒臭いことこの上ないため、ガイオを送ることは最初から無理だった。
やっぱり、レオが行くことになっていたかもしれない。
「俺から忠告をするなら、お前の能力はなるべくなら使わないようにしろよ」
大量の人形を使った大軍勢。
それが1人の人間のスキルによって形成されているということを知ったら、最前線での戦闘をさせられることになるだろう。
しかも、それは今回だけでなく、今後何かある度に招集されることになるかもしれない。
そうなったら、レオ1人が功を得ることになり、他の貴族たちからどう思われるか分からない。
中には妬みや嫉みで、レオに八つ当たりをしてくるかもしれない。
それが少数ならまだしも、多数になったらレオの排除を仕掛けてくるかもしれない。
そうならないためにも、ファウストとしては大量の人形による戦闘を回避して欲しいところだ。
「しかし、ルイゼン領を奪還しないとエレナがいつまでも貴族に戻ることができないですし、もしもこの能力を知られた時にどうして使わなかったかと言われるかもしれないですから……」
「そうか……」
国としてはルイゼン領奪還を済ませ、内乱のようなこの状況を早々に収束したいところだ。
そのために精鋭を集めての戦闘を起こそうとしているのだ。
ここでレオが活躍すれば、エレナをルイゼン領に戻すように王に進言することも出来るようになるかもしれない。
エレナと、彼女を守ろうと島へと逃れてきた者たちも大勢いる。
もしもエレナが貴族に戻れるようになったら、彼らも一緒に島を去るかもしれない。
それでも、みんなの幸せを考えるなら仕方のないことだと思っている。
そうなったらそうなったで、レオはまた地道に島を発展させていけば良いだけだと思っている。
「それにしても、平民を奴隷にしたりスケルトンを操るなんて、ムツィオは父以上にとんでもない奴ですね……」
「全くだ」
招集に従い、レオがルイゼン領へ向かわなければならないのは分かった。
そのため、ルイゼン領の状況を聞いたレオは、またも腹を立てることになった。
領民を強制的に奴隷にして戦わせるなんて、ムツィオはどういう神経をしているのだろうか。
父のカロージェロも領民のことを考えない政策ばかりをして領地をダメにした人間だが、ムツィオはそれ以上に領民のことを考えないやり方をしている。
「領民あっての領主でしょう!」
「……そうだな」
レオは昔から受け入れた領民を大切にしてきたし、ファウストもそれを近くで見てきた。
多くの人間がヴェントレ島に移ってきて幸せに暮らしている。
ここの領民は良い領主に恵まれている。
ファウストは、若いながらにちゃんとした考えを持っているレオを感心したように頷いた。
「それにしても、領民の奴隷も問題ですが、スケルトンのことが気になりますね……」
「というと?」
ファウストも、ムツィオ側が万に近いスケルトンを操るということを聞いて気になっていた。
何かしらの方法でスケルトンを生み出しているというのが、王国側の考えになっている。
従魔にしては多すぎるし、どうやって集めたのか気になる。
「もしかしたら……」
「んっ?」
少し考えた後、レオは何か思いついたように呟く。
何を思いついたのかは分からないが、なんとなく顏色が青くなっているようにも感じた。
「僕と似たスキルを持っている人間がいるのかもしれません」
「っ!! まさか!!」
レオの思いついた考えを聞いて、ファウストも顔を青くした。
1人で大軍勢を率いることのできるレオのスキル。
こんなとんでもないのが他にいるなんて考えたこともなかった。
しかし、そう考えるとなんとなく納得できるところがある。
魔石がない所、大軍勢を率いている所。
自分たちの考えが当たりのような気がした2人は、悪寒がして少しの間なんの言葉が思いつかない状況に陥ったのだった。
「おぉ! カロージェロ、イルミナート頭を上げよ!」
「ただいま戻りました。ムツィオ…陛下!」
王国側が大量のスケルトンと奴隷化した市民兵によって後退せざるを得ない状況になるなか、元はルイゼン領の領主邸を改築した王城の玉座の間に、カロージェロとイルミナートの親子が入室してきた。
玉座に座るムツィオから少し離れた位置で止まり、2人は片膝をついて頭を下げる。
2人に対して、ムツィオは鷹揚な態度で対応する。
それに挨拶を返すカロージェロだが、ムツィオのことを陛下呼びすることになれていないのか、危うく殿と言いそうになった。
「今回の戦いでの働きご苦労であった。イルミナートは男爵位の者の首を獲ったというではないか……」
「いえ、ちょうど目の前にいた兎を狩ったまでです」
「ハハハ、そうか……」
中央をわざと開けて誘い込み、あらかじめ設置しておいたスケルトンを出現させての攻撃。
最初の戦いにおいて、王国側がまんまとこの策にハマってくれた。
欲を言えばもう一人くらい貴族位の者を潰しておきたかったが、撤退させることができたのだからとりあえずは良しとしておこう。
策のお陰だというのにもかかわらず、イルミナートはしたり顔で返事をする。
それに対し、ムツィオは表面上では笑って済ませる。
「陛下! 以前交わした約束の方は……」
「大丈夫だ。ちゃんと履行する」
カロージェロの言葉に、ムツィオは僅かな笑顔を崩すことなく答えを返す。
しかし、毎度のように確認してくるのには些かうんざりしている。
「今回の戦いで王国の領地を奪えたら、その中から好きな領を与えよう」
「おぉ! ありがとう存じます」
両者で交わした約束とは、ルイゼン側が王国軍を追い返して逆に攻め込んだ時、奪いとった領地をカロージェロたちに与えるというものだ。
まだ初戦を有利に運べただけで、先は長いというのに気の早い話だ。
元は伯爵位で大きな領地を持っていたカロージェロたちからすると、以前同様に領地を得ることがここに来た目的の1つなのだろう。
これからの策などは後々話すとして、カロージェロたちは今回の報告だけをしてこの部屋から去っていった。
「……宜しいのですか? 陛下……」
カロージェロたちが部屋から退室すると、どこからともなく1人の男が姿を現す。
フードを深くかぶり表情の方は良く見えないが、引き締まった腕をして黒い装束を身に纏っている。
さっき出て行った2人が鈍感なのかもしれないが、気付かれずにずっと部屋に潜んでいたようである。
「あんな約束をしたことか?」
「えぇ」
「もしかしたら陛下のことも狙っているかもしれません」
その男は、ムツィオがカロージェロたちと交わした先程の約束のことが気がかりのようだ。
依頼と金次第で誰にでもつくようなこの男だが、受けた依頼はキッチリとやり遂げることで有名な組織の者だ。
多くの雇い主に従ってきた彼からすると、カロージェロたちのような者たちは野心ばかりが立派で、こちらに置いておいてもたいして利にならないことが多い。
むしろ、こちらの邪魔にならないか悩まされるような存在だ。
今はまだしも、もしも国として認められるようになった時、皇帝の地位すらも狙ってくる可能性すら考えられるような人間だ。
領地を与えられただけでおとなしくなるかは、いまいち信用できない。
「カロージェロの奴は裏の人間とのパイプがあった。それを利用するために王国から匿ってやったが、あんなのでもまだ使い道はある」
カロージェロたちを拾う前から、ムツィオには独立計画が存在していた。
しかし、王国相手に戦うには色々と手駒を増やす必要があった。
その1つが、今目の前にいる男のように裏の組織との繋がりだ。
彼らとの契約により、王国内に存在している仲間によって色々と情報を収集できる。
場合によっては、暗殺も依頼できる。
カロージェロを拾ったのは、彼ら裏組織とのつながりを持つためというのが目的だった。
しかし、それも済んだ今、男の言うようにあの2人は邪魔な存在になり得るが、ムツィオには2人の使い道があるようだ。
「最終的にこの国が多くの国に認められれば、市民にはあいつらが奴隷兵を主導したということにして罪を着せられる」
「……なるほど」
奴隷兵を作り出していることは、ムツィオによる考えだ。
しかし、その奴隷を指揮しているのはカロージェロたち親子ということになっている。
ここが国として認められるようになった時、市民が知ったら反乱がおこる可能性が高い。
そうなった時に自分たちは知らぬ存ぜぬで通すために、カロージェロたちの首を市民に晒して収めようと考えているのだ。
「スケルトン軍団が増えれば奴隷もその内必要なくなる。それまでは奴らに働いてもらわないとな……」
奴隷兵を作り出したのは、数の不利を減らすための策だった。
王国の考えたように、ルイゼン側にはスケルトンを増やす方法が存在している。
それによって、数年で万に近い数を増やすことに成功した。
そして、スケルトンの量産はまだまだ続けている。
市民兵を作り出すのも王国の兵数に対抗するためで、その内大量のスケルトン軍団が王国を蹂躙する日が来ると、ムツィオは考えている。
「そう言えば、奴らの末息子が参戦するとか言う話を聞いたが?」
「……えぇ」
王国内には、この男の組織の人間が潜んでいる。
その者からの情報により、カロージェロの末の息子が参戦することが決まったとのことだ。
当時の貴族内の噂だと、カロージェロたちが送り込んだ暗殺者を何度も跳ね返した者だという話だ。
他人のことなので、その話はムツィオも面白そうだと興味があった。
「その息子はどんな奴だ?」
「呼んだ意図は分かりませんが、あの父親から生まれたのが不思議な存在ですね。市民を思いやり、領地開拓に定評があるようです。あの者以外の血がそうさせたのかもしれないですね」
「フッ! あれは人としておかしいからな……」
参戦するとなると、戦力として使えると読んでなのか、知略家としてなのか気になる所だ。
そのため、その息子のことを聞いてみると、男からは称賛の言葉が続いた。
戦力としてなのかは分からないが、人としては優秀な人間のようだ。
それにしても、確かに領民思いなんてカロージェロたちとは真逆に感じる人間だ。
ムツィオも自分のことは棚に上げて、思わず吹き出してしまった。
「その息子のことで気になることが……」
「何だ?」
面白い話が聞けたと笑みを浮かべているが、ムツィオは男の次の言葉で表情を一変することになる。
「エレナ嬢の生存が考えられます」
「何っ!!」
その言葉に、ムツィオは驚きと共に玉座から立ち上がった。
さっきの笑みなど完全に吹き飛んだようだ。
「おのれ!! 生きていた上に匿われていたのか!? 何としても始末せねば……」
「あくまでも確証のない話ですし、陛下が前領主を始末したといっても、証拠もないのだから放っておいて良いのではないですか?」
エレナが生存している可能性を聞いて、ムツィオは男が思っている以上に慌てだす。
当時、王国の人間が証拠探しをしていたが、結局は見つからずじまいだった。
今となっては、ムツィオを強制隷属させて吐かせる以外に証拠を得られることもないだろう。
証拠もなしに強制隷属なんて出来る訳もないし、そもそも前領主の娘が生きていようと何か出来る訳もない。
男の言うように、放っておいて良いような存在でしかないように思える。
「放っておいては後々まずい。始末するのが一番だ。暗殺をおこなうことは可能か?」
「……今は王国の情報収集の方が重要です。暗殺に人を割くわけにはいきません」
「クッ!!」
何でそこまでムツィオが慌てているのか、男には疑問でしょうがない。
暗殺を送ることはできるが、今は王国と睨み合っている状況で、そんなことしている場合じゃない。
そのため、男はムツィオの言うことに従う訳にはいかなかった。
ムツィオもそれが分かっているので、玉座に座って親指の爪を噛むことしか出来なかった。
「……成功するかは分かりませんが、1人送ってみましょうか?」
「そうか!? 頼む!!」
「分かりました……」
自分たちの組織も危ないのだから、王国の情報収集に注視するのが最善に思える。
しかし、何だか切羽詰まるようなムツィオに、何かあるのだと思った男はとりあえず提案してみる。
その提案に、ムツィオは食い気味に反応してきた。
その態度で更に訝しく思いつつ、男はエレナの暗殺を指示することになったのだった。
「お前がレオポルドか?」
「はい! レオポルド・ディ・ヴェントレと申します」
呼び出されたレオは、いつものようにベンヴェヌートに島のことを任せ、指示通り前線へと向かうことになった。
今回招集された者たちと共に1つの部屋で待っていると、参戦している貴族たちが入室してきた。
ここにいる者がどういう経緯で呼ばれたかの説明や、敵の勢力についての説明がおこなわれて行く。
説明が終了すると、周りの者たちと比べて弱そうなことが判断材料になったのか、1人の貴族が歩み寄ってきた。
名前も名乗らずに問いかけて来てと思わなくもないが、レオはひとまず返答をした。
「そうか。お前が……」
相手の貴族は180cm近くの身長があるため、170cm位しかないレオを見下ろす形になっている。
レオの返答を聞くと、その貴族の目付きは険しいものに変わっていく。
この貴族のことは知らないため、どうして睨みつけられているのかレオには分からない。
他の貴族たちも眉をひそめているのが見えるので、どうせ父のカロージェロと因縁でもあるのだろうと、レオはたいして気にすることなく次の言葉を待った。
「先程も説明したように、我々は敵の数に押されて拠点の後退を余儀なくされている。せめてカロージェロの率いる市民兵を潰して数を減らしたいと思っている」
「はい……」
初戦で撤退を余儀なくされた王国軍は、戦うたびに増えるスケルトンの相手に手こずり、そのままズルズルと後退を続けるしかなかった。
それが続き、いつの間にか国境付近にまで押し戻されてきてしまった。
このままでは他の領に侵攻されてしまうだけでなく、王都に近付けてしまうことになる。
何としてもここで抑えておきたいため、まず市民兵を指揮しているカロージェロとイルミナートの親子を仕留めたい。
そのために呼び寄せたのがここにいる精鋭たちだが、レオだけが異質な感じになっている。
「そこで、お前には父と兄の意識を集中するために協力してもらいたい」
「……失礼ながら、あの者がそれに乗るかは分かりませんが?」
遠回しに言っているが、明らかに囮になれと言っているのだと分かる。
それは予想されたことだったので驚きはしないが、カロージェロがそんな誘いに乗るのか疑問だ。
2人は市民兵の後方に待機し、命令しているだけという話だ。
自ら危険な所へ出てくるとは考えにくい。
「それはお前がどこまで奴らに迫れるかにかかっている。指示に従え!」
「……分かりました」
暗殺を失敗して内乱罪で王国内に指名手配されたこともあり、カロージェロたちは自分のことを恨んでいるだろう。
なので、もしかしたら自分を狙ってくる可能性もあるが、ビビりで有名な2人が本当に出てくるかはレオの中では微妙に思える。
今回この貴族の男が自分を呼んだのは、捨て駒になっても良いという考えなのかもしれない。
関係ないといっても血のつながった親兄弟には変わりがない。
所詮爵位の低い者なのだから、この貴族の中ではどうなっても構わないのだろう。
結局名すら名乗らないこの貴族の態度が気に入らないが、元々囮になることは想定していたのでレオはこの指示を受け入れるしかなかった。
「では、決行日まで皆この部屋での待機を命ずる!」
そう言うと、この貴族を筆頭にして他の貴族たちも出ていくことになった。
中には何か言いたそうな表情をしている貴族の者もいたが、先頭の男の顔色を窺ってか、口をつぐんで出て行ってしまった。
「チッ! あの貴族の野郎態度でけえな……」
「……あまり大きな声で言わない方がいいですよ」
貴族たちが全員出ていくと、レオの側に1人の男性が近寄ってきて先程の貴族の態度に立腹していた。
どうやらあの貴族は、貴族以外を下に見る傾向が強いようだ。
レオの場合は、貴族であってもカロージェロの息子だからという理由なのかもしれない。
そんな貴族主義者に文句を言おうものなら、不敬罪で処罰されかねない。
そのため、レオは分かっていているとは思いつつも、男性に形ばかりの忠告をした。
「へっ! こっちは陛下からの要請でもあるんだ。文句言ったくらいで不敬罪とか言うなら、そのまま陛下に言えって話だ!」
「そうですね……」
状況の悪さから、あの貴族が陛下に嘆願したのだろう。
王都への侵入を防ぐため、精鋭を集めさせてくれとでも言ったのかもしれない。
国としても王都に侵入されては困るので了承したのだろうが、人選までは関わらなかったのだろうか。
もしも王が自分を囮に使うことを許したというのであれば、不信感が湧いてくる。
どうにか生き残って真意を尋ねたいところだ。
「……同じ貴族でも、お前はあいつとは色々違うみてえだな?」
「所詮ギリギリ貴族の騎士爵ですから……」
さっきのやり取りで、レオが家名を名乗ったところから貴族だということは理解できているはず。
それなのに、初対面でしかもため口で話している男。
そんな事をしたら喚きそうなさっきの貴族と違い咎めたりしないため、レオが貴族っぽくないという印象を受けたのだろう。
敬語を使われないことなんて島ではよくあることなので、文句なんて言うつもりはない。
同じ貴族でも騎士爵は平民同然という者がいるのも知っているため、レオは自嘲気味に言葉を返した。
「それにしても囮にされて何で文句言わねんだ?」
「いい機会だと思いまして……」
「……いい機会?」
さっきの貴族の態度からすると、直接言わないまでも囮だということはみんな分かっている。
それを分かった上で、レオがそれを受け入れたことにこの男性は疑問に思ったのだろう。
別に隠しておくことでもないので、レオは男性の質問に対し自分が思っていることを言うことにした。
しかし、レオの言葉に男性は首を傾げる。
「父と兄が他国に逃げたと聞いた時は、悔しい思いをしていました。今回のことで出来れば王国軍には捕縛してもらいたいです」
「捕縛? 殺害ではなく?」
「えぇ! 大衆の面前で断罪されて確実に死んだという結果が無いと、僕は安心できない小心者なので……」
父と兄がルイゼン側についていると知った時、レオは驚いた。
それと同時に、今度こそ捕まえるいい機会だと思った。
男性の言うように殺害の方がいいように思えるが、戦場で死んだと聞いていた者が生きていたとか言うことは起こり得ることだ。
そんな可能性すらもないように、2人を捕まえてキッチリ処刑したとならないとレオの中ではスッキリしないと感じていたのだ。
「……ハハッ! 面白い奴だなお前」
「そうですか?」
いくら敵に与したとは言っても血のつながった親と兄だ。
捕縛と言って、何か温情でも願う甘ちゃんなのかと思っていたが違ったようだ。
この少年は、2人がどこかでのうのうと生きていられることが許せないのだろう。
かなり冷徹なことを言ったというのに、男性は何だかおかしそうに笑みを浮かべた。
笑う要素があっただろうかと、レオは首を傾げた。
「俺はスパーノだ。よろしくな!」
「レオポルドです。よろしくお願いします!」
理由はともかく、気に入られたのは良かった。
スパーノと名乗った男性が握手を求めてきたので、レオも名乗って握手に応じた。
「レオは、俺が守ってやるよ。だから親父たちをどうにか捕まえろ」
「……はい。頑張ります」
見た目の印象なのだろう。
スパーノもレオが戦う力が無いと思っているようだ。
たしかにここに集まった精鋭たちと、スキル無しの剣術勝負となったら勝てると言い切れない所だが、スキルさえ使用できれば戦えない訳ではないと思っている。
色々奥の手も用意しているし、囮としてカロージェロたちに近付ける。
2人を捕縛するために、この機を利用するのは自分の方だ。
スパーノには悪いが、後々なるべく頼られないようにしたいため、レオは自分の能力は黙っておくことにした。