「あからさま過ぎたのでしょうか?」
兵を退いているのを分かりやすく見せることで盗賊が攻め込んでくるかと思ったのだが、なかなか姿を現さないでいた。
あからさま過ぎて罠だと慎重になっているのだろうか。
町の人や兵たちの不安を考えると、出来ればさっさと攻め込んできてもらいたいところだ。
「かもしれないが、攻めてこないのはこっちには都合がいい」
「えぇ」
盗賊が攻めて来てくれれば返り討ちにできると思うのだが、それまでの間にレオたちのやることがある。
それは潜入者の捜索だ。
これまでの襲撃で、盗賊たちは兵の配置を知っているかのような攻撃をおこなって来ていた。
そのため、確実にこの町の中に進入しているはずだ。
なので、レオはその捜索をすることを買って出たのだ。
「……見つけられるか?」
「大丈夫です」
兵の中に入っている可能性も考え、まずはその方向で探りを入れてみたが、どうやら兵の中にはいないのが確認できた。
セラフィーノには、兵の行動を探ることは告げている。
彼自身侵入者の捜索をしたいところだが、仲間の兵を疑いたくない気持ちが強く、出来ないでいたようだ。
その気持ちが分かるが、さすがに捜索をしない訳にはいかなかった。
結局、兵の中にはいなかったのだから良かったと言って良い。
「犯人らしき人間に、ある程度当たりを付けました」
「もうか? 早いな……」
「スパイにはスパイをといったところですね」
まだ到着して1週間。
なのに、兵の調査をした後に始めた住民の調査がもう済んでいるというのはかなりの早さだ。
そのため、ファウストは驚きの表情でレオのことを見つめた。
それに対し、レオは笑みを浮かべつつ答えを返した。
顔や体は大人になっても、まだ子供の気持ちは抜けていないような表情だ。
「そんな能力まで使いこなせるようになっていたのか?」
「いいえ。昔から使えたのですが、使うことがあるとは思いませんでした」
スキルを得た時、レオは幾つかの実験をおこなっていた。
その時に試したものの1つは、こういった侵入者の捜索を得意とする能力だった。
それを今回使うことになり、かなり早い段階で捜索できることになった。
色々試しておいて正解だった。
「ファウストさんの名前を広めたのが良かったかもしれませんね」
「役に立って何よりだ……」
レオの言葉に、何もしていないファウストは苦笑する。
セラフィーノも含めて、町にいる人間にはファウストが盗賊を捕まえる何かを持ち込んだと噂を流してある。
そのため、潜入者がいるとすれば、必ずファウストの側で聞き耳を立てていると考えていた。
つまり、ファウストに何度も近付く人間が潜入者である可能性が高いと思って罠を張っていたら、思った通り何度もファウストへ近付く人間がいた。
その人間が潜入者であるとは思うが、さすがに証拠もなく捕まえることも出来ない。
盗賊側の方も、ファウストがどんな罠を仕掛けているか分かるまで攻め込んで来ないつもりかもしれないため、膠着状態といった感じになっている。
「今夜出歩いてみる。そこを狙って来てくれたらいいんだが……」
「分かりました」
この膠着状態を解消するには、潜入者の捕獲が重要になって来る。
なので、ファウストは囮としての役割を果たそうと、単独行動を起こすつもりだ。
そのフォローをレオがする予定だ。
ファウストが単独行動をしている時に、その潜入者が関わってくれることを期待しながら、2人は夜を待つことにした。
「うぃ~……おかわり!」
「ちょっと旦那! 飲み過ぎですぜ!」
本当に囮になるために酔っているのだろうか。
酒場にいるファウストは、かなりの量の酒を飲んで顔を赤くしていた。
さすがに飲みすぎな気がした酒場の店主は、ファウストのおかわりの言葉に注意の言葉をかける。
「大丈夫! まだ酔っちゃいねえよ!」
「……酔ってんでしょうが」
誰がどう見ても酔っぱらっているというのに、ファウストは大きな声で嘯く。
あからさまな嘘に、店主は思わずツッコんだ。
「お客さんが噂のギルド員だろ? 明日にでも盗賊が来たら二日酔いで戦うことになるぞ」
「……しょうがねえ、今日は帰るか」
たしかにこれ以上飲もうものなら、明日は二日酔いになること間違いなしだ。
酒場の店主にも自分の名前と顔が知られているのでは、飲み過ぎて盗賊の襲撃から被害を阻止できなかったとなれば他の兵にも評価が落ちて迷惑がかかる。
仕方ないと判断したファウストは、代金を支払って酒場を後にすることにした。
「う~ん。どこかでもう少し飲んで行こうかな……」
店を出たファウストは、若干心許ない足取りをして歩き出す。
しかし、まだ飲み足りない気がしてならないのか、他の酒場へ行こうと考える。
そして、他の酒場へと向かうために、狭い通路を通ったその時。
「んっ? 何だ? お前たち……」
狭い通路でファウストの前後を挟むようにして、全身真っ黒の衣装に身を纏った人間が2人現れた。
夜の闇に呑まれ、顔も分からない状況だ。
「死ね!!」
「っ!!」
どこから取り出したのか、その2人は短刀を取り出してファウストへと襲い掛かった。
スキルに短剣術でも持っているのか、その攻撃はかなり速い。
こんな狭いところで戦うとなると、剣術スキルのファウストでは危険かもしれない。
しかし、抵抗しない訳にもいかないため、ファウストは腰の剣を抜いて敵の接近に身構える。
「ヌン!!」
「っ!!」
敵の接近に対し、対応するかのようにファウストは剣を振る。
前から来た敵を剣で退かせ、後方から迫っていた敵に蹴りを放つ。
その剣撃と蹴りを躱すため、迫っていた2人は元の場所へと後退することになった。
狭くて横に振りまわせなくても、縦には振れるし突きもできる。
それに姉との戦いでスキルはなくてもある程度身を守るくらいはできるはず。
攻撃の選択肢が減ってしまったが、これで抵抗をするしかない。
「やはり全員でかかった方が良いな……」
「何……?」
小さな呟きだったが、前に立ち塞がる敵が言った言葉にファウストは警戒感を高めた。
その言葉が、まるで他にも仲間が来ているかのような口ぶりだ。
1、2人程度の潜入者は予想できたが、それ以上が入り込んでいるとは思わなかった。
「チッ! 5人も潜入してやがったか……」
更に3人がファウストを囲むことに加わり、ファウストは思わず舌打をした。
これだけの人数が潜入している所を見ると、盗賊の襲撃が始まる前から入っていたのかもしれない。
やはり、盗賊はこの町に狙いを付けて攻めることを計画していたようだ。
「殺るぞ!」
「「「「おうっ!」」」」
1人の言葉を合図にするように、前後にいる敵全員が武器を構え、ファウストとの距離をジリジリと狭め始めた。
挟まれている状態ではどうしようもなく、ファウストは何もできずに死が近付いてきた。
「ここまでだな……」
「諦め……」
もう少しで敵が一気に襲い掛かれる距離に入った所で、ファウストは笑みを浮かべて剣をしまった。
その行為に、生を諦めたと判断した敵の1人が首を傾げて話しかけようとした。
「「「「「っ!?」」」」」
言葉の途中だったが、敵は急に体が動かなくなったことに驚く。
その足は何かに掴まれているように重く、あと少しで届くはずのファウストに近付くことができないでいた。
しかも、動けず驚いていると、いつの間にか追撃となる糸によって全身を縛り上げられてしまった。
「ニャッ!」“スッ!”
「遅えよクオーレ! エトーレ!」
夜の闇から浮き出るように姿を現したのは、レオの従魔のクオーレとエトーレだ。
敵の捕縛をするならこの2匹のコンビネーションが一番使い勝手がいい。
しかし、結構危ない所まで来ていたので、前足を上げて挨拶をした2匹に対しファウストは文句を言った。
「すいません。敵が全員そろうまで待っていたので……」
「危なかっただろうが! レオ!」
全員の捕縛が可能になったことで、2匹の主人であるレオも申し訳なさそうに姿を現す。
そもそも主人のレオがクオーレたちを動かす合図を送るのだから、大元の原因はレオになる。
そのため、ファウストはレオへも文句を言った。
「後はセラフィーノさんたちに任せましょう」
「そうだな……」
恨みがましい目付きで睨んでくるのを躱すため、レオは話を他に向ける。
それに対し、半眼で睨みながらもファウストは頷きを返した。
酔った振りして敵をおびき寄せたというのに、ヒヤッとする思いをさせられた事になんとなく納得できないが、捕まえた敵はレオの言うように兵たちに任せることにした。
兵を退いているのを分かりやすく見せることで盗賊が攻め込んでくるかと思ったのだが、なかなか姿を現さないでいた。
あからさま過ぎて罠だと慎重になっているのだろうか。
町の人や兵たちの不安を考えると、出来ればさっさと攻め込んできてもらいたいところだ。
「かもしれないが、攻めてこないのはこっちには都合がいい」
「えぇ」
盗賊が攻めて来てくれれば返り討ちにできると思うのだが、それまでの間にレオたちのやることがある。
それは潜入者の捜索だ。
これまでの襲撃で、盗賊たちは兵の配置を知っているかのような攻撃をおこなって来ていた。
そのため、確実にこの町の中に進入しているはずだ。
なので、レオはその捜索をすることを買って出たのだ。
「……見つけられるか?」
「大丈夫です」
兵の中に入っている可能性も考え、まずはその方向で探りを入れてみたが、どうやら兵の中にはいないのが確認できた。
セラフィーノには、兵の行動を探ることは告げている。
彼自身侵入者の捜索をしたいところだが、仲間の兵を疑いたくない気持ちが強く、出来ないでいたようだ。
その気持ちが分かるが、さすがに捜索をしない訳にはいかなかった。
結局、兵の中にはいなかったのだから良かったと言って良い。
「犯人らしき人間に、ある程度当たりを付けました」
「もうか? 早いな……」
「スパイにはスパイをといったところですね」
まだ到着して1週間。
なのに、兵の調査をした後に始めた住民の調査がもう済んでいるというのはかなりの早さだ。
そのため、ファウストは驚きの表情でレオのことを見つめた。
それに対し、レオは笑みを浮かべつつ答えを返した。
顔や体は大人になっても、まだ子供の気持ちは抜けていないような表情だ。
「そんな能力まで使いこなせるようになっていたのか?」
「いいえ。昔から使えたのですが、使うことがあるとは思いませんでした」
スキルを得た時、レオは幾つかの実験をおこなっていた。
その時に試したものの1つは、こういった侵入者の捜索を得意とする能力だった。
それを今回使うことになり、かなり早い段階で捜索できることになった。
色々試しておいて正解だった。
「ファウストさんの名前を広めたのが良かったかもしれませんね」
「役に立って何よりだ……」
レオの言葉に、何もしていないファウストは苦笑する。
セラフィーノも含めて、町にいる人間にはファウストが盗賊を捕まえる何かを持ち込んだと噂を流してある。
そのため、潜入者がいるとすれば、必ずファウストの側で聞き耳を立てていると考えていた。
つまり、ファウストに何度も近付く人間が潜入者である可能性が高いと思って罠を張っていたら、思った通り何度もファウストへ近付く人間がいた。
その人間が潜入者であるとは思うが、さすがに証拠もなく捕まえることも出来ない。
盗賊側の方も、ファウストがどんな罠を仕掛けているか分かるまで攻め込んで来ないつもりかもしれないため、膠着状態といった感じになっている。
「今夜出歩いてみる。そこを狙って来てくれたらいいんだが……」
「分かりました」
この膠着状態を解消するには、潜入者の捕獲が重要になって来る。
なので、ファウストは囮としての役割を果たそうと、単独行動を起こすつもりだ。
そのフォローをレオがする予定だ。
ファウストが単独行動をしている時に、その潜入者が関わってくれることを期待しながら、2人は夜を待つことにした。
「うぃ~……おかわり!」
「ちょっと旦那! 飲み過ぎですぜ!」
本当に囮になるために酔っているのだろうか。
酒場にいるファウストは、かなりの量の酒を飲んで顔を赤くしていた。
さすがに飲みすぎな気がした酒場の店主は、ファウストのおかわりの言葉に注意の言葉をかける。
「大丈夫! まだ酔っちゃいねえよ!」
「……酔ってんでしょうが」
誰がどう見ても酔っぱらっているというのに、ファウストは大きな声で嘯く。
あからさまな嘘に、店主は思わずツッコんだ。
「お客さんが噂のギルド員だろ? 明日にでも盗賊が来たら二日酔いで戦うことになるぞ」
「……しょうがねえ、今日は帰るか」
たしかにこれ以上飲もうものなら、明日は二日酔いになること間違いなしだ。
酒場の店主にも自分の名前と顔が知られているのでは、飲み過ぎて盗賊の襲撃から被害を阻止できなかったとなれば他の兵にも評価が落ちて迷惑がかかる。
仕方ないと判断したファウストは、代金を支払って酒場を後にすることにした。
「う~ん。どこかでもう少し飲んで行こうかな……」
店を出たファウストは、若干心許ない足取りをして歩き出す。
しかし、まだ飲み足りない気がしてならないのか、他の酒場へ行こうと考える。
そして、他の酒場へと向かうために、狭い通路を通ったその時。
「んっ? 何だ? お前たち……」
狭い通路でファウストの前後を挟むようにして、全身真っ黒の衣装に身を纏った人間が2人現れた。
夜の闇に呑まれ、顔も分からない状況だ。
「死ね!!」
「っ!!」
どこから取り出したのか、その2人は短刀を取り出してファウストへと襲い掛かった。
スキルに短剣術でも持っているのか、その攻撃はかなり速い。
こんな狭いところで戦うとなると、剣術スキルのファウストでは危険かもしれない。
しかし、抵抗しない訳にもいかないため、ファウストは腰の剣を抜いて敵の接近に身構える。
「ヌン!!」
「っ!!」
敵の接近に対し、対応するかのようにファウストは剣を振る。
前から来た敵を剣で退かせ、後方から迫っていた敵に蹴りを放つ。
その剣撃と蹴りを躱すため、迫っていた2人は元の場所へと後退することになった。
狭くて横に振りまわせなくても、縦には振れるし突きもできる。
それに姉との戦いでスキルはなくてもある程度身を守るくらいはできるはず。
攻撃の選択肢が減ってしまったが、これで抵抗をするしかない。
「やはり全員でかかった方が良いな……」
「何……?」
小さな呟きだったが、前に立ち塞がる敵が言った言葉にファウストは警戒感を高めた。
その言葉が、まるで他にも仲間が来ているかのような口ぶりだ。
1、2人程度の潜入者は予想できたが、それ以上が入り込んでいるとは思わなかった。
「チッ! 5人も潜入してやがったか……」
更に3人がファウストを囲むことに加わり、ファウストは思わず舌打をした。
これだけの人数が潜入している所を見ると、盗賊の襲撃が始まる前から入っていたのかもしれない。
やはり、盗賊はこの町に狙いを付けて攻めることを計画していたようだ。
「殺るぞ!」
「「「「おうっ!」」」」
1人の言葉を合図にするように、前後にいる敵全員が武器を構え、ファウストとの距離をジリジリと狭め始めた。
挟まれている状態ではどうしようもなく、ファウストは何もできずに死が近付いてきた。
「ここまでだな……」
「諦め……」
もう少しで敵が一気に襲い掛かれる距離に入った所で、ファウストは笑みを浮かべて剣をしまった。
その行為に、生を諦めたと判断した敵の1人が首を傾げて話しかけようとした。
「「「「「っ!?」」」」」
言葉の途中だったが、敵は急に体が動かなくなったことに驚く。
その足は何かに掴まれているように重く、あと少しで届くはずのファウストに近付くことができないでいた。
しかも、動けず驚いていると、いつの間にか追撃となる糸によって全身を縛り上げられてしまった。
「ニャッ!」“スッ!”
「遅えよクオーレ! エトーレ!」
夜の闇から浮き出るように姿を現したのは、レオの従魔のクオーレとエトーレだ。
敵の捕縛をするならこの2匹のコンビネーションが一番使い勝手がいい。
しかし、結構危ない所まで来ていたので、前足を上げて挨拶をした2匹に対しファウストは文句を言った。
「すいません。敵が全員そろうまで待っていたので……」
「危なかっただろうが! レオ!」
全員の捕縛が可能になったことで、2匹の主人であるレオも申し訳なさそうに姿を現す。
そもそも主人のレオがクオーレたちを動かす合図を送るのだから、大元の原因はレオになる。
そのため、ファウストはレオへも文句を言った。
「後はセラフィーノさんたちに任せましょう」
「そうだな……」
恨みがましい目付きで睨んでくるのを躱すため、レオは話を他に向ける。
それに対し、半眼で睨みながらもファウストは頷きを返した。
酔った振りして敵をおびき寄せたというのに、ヒヤッとする思いをさせられた事になんとなく納得できないが、捕まえた敵はレオの言うように兵たちに任せることにした。