捨てられ貴族の無人島のびのび開拓記〜ようやく自由を手に入れたので、もふもふたちと気まぐれスローライフを満喫します~

「あの馬鹿が!!」

 レオたちが侵入者の捕獲に成功したのは、敵である闇の者たちも知ることになった。
 その情報を得た隊長の男は、怒り心頭に発していた。
 他の者が集まるまでの1日、2日の待機もできず、仲間に更なる負担をかけた男に殺意しか湧かない。

「攻め込む場所が増えてしまったではないか!!」

 ただでさえ今回は失敗が続き、多くの仲間が命を落としているというのに、冒険者の集まるギルドや治安維持をおこなう兵の施設に乗り込まなければならなくなってしまった。
 しかも、時間的猶予を考えると、どちらも早々に攻め込まなければならない状況だ。
 そして、どちらも失敗は許されない。

「隊長! どうしましょう……?」

 この状況に、隊員たちが決断を求めるような問いを口にする。
 どうするとは、片方を先に攻め込むか、もしくは両方を同時に攻め込むかという判断だ。
 どちらを選ぶかで状況が変わってくる。
 まず、片方を攻め込むということを選んだとしても、更にギルドと治安施設のどちらを攻め込むかという話になって来る。
 ギルドも治安施設も忍び込むにはかなりの難易度だし、見つかった場合かなりの人数の損失を覚悟しないといけない。
 片方成功しても、人数の減った状態でもう片方へと侵入しないといけない。
 しかも、片方がやられたことを知り、警戒を強めた状態の中を攻め込むという難易度の高さだ。
 両方を攻め込むという選択をした場合、人数が分散するので難易度的に大差はない。
 そのため、隊員たちはどういう選択をするかを隊長に委ねることにした。

「……ギルドだ!」

「……理由を窺ってもよろしいでしょうか?」

 隊長の男が長考して出した答えは、レオを匿うギルドの方だった。
 選択を委ねたのは自分たちのため文句を言うつもりはないが、その選択をした理由が気になった者が問いかける。

「依頼者の最初からの指示である標的の始末と共に、可能なら仲間を救出する!」

「始末、ではなく救出ですか?」

「あぁ!」

 隊長の男の考えは、ギルドを攻めることで標的を潰し、仲間を救出するというものだ。
 今回何度も失敗させられた憎しみも相まってか、標的であるレオを何としても始末したいという思いに駆られているようだ。
 他の隊員もその気持ちは分からない訳でもない。
 これだけ大きな失敗が続いては、依頼主からの心象は最悪。
 他の組織へと鞍替えされても仕方がない状況だ。
 標的の暗殺は理解できるが、捕まった仲間の始末でなく救出という方が気になる。
 救出するよりも、始末する方が手っ取り早く済む。
 そのため、隊員たちは仲間の救出をする理由が分からなかった。

「あくまでも、可能ならの話だ。我々が来たら命がないことは捕まった本人でも分かっているはずだ」

「では……」

「救出できたなら、その無くなったはずの命を治安施設の襲撃に利用させてもらう」

「なるほど……先陣となる自爆作戦ですね?」

「そうだ!」

 ギルドを襲った後に治安施設に乗り込むとなると、更に警戒心の高まった状態の所へ攻め込むことになる。
 そうなれば、気付かれずに施設内への侵入なんてできるとは思えないため、強硬手段を使って入り込むしかない。
 そこで自爆作戦という力技をおこない、1人が囮となり集まった多くの兵と共に自爆した隙に侵入をするという考えだ。
 常に死と隣合わせに生きている組織の者たちも、出来れば自分がその策をおこないたいとは思わない。
 そのため、仲間の救出という隊長の考えに納得したのだった。 

「明日には組織の者が全員揃う。ギルドと治安施設周辺の調査を開始しろ!」

「「「「ハッ!!」」」」

 狙いはギルドに決定したが、念のため次に攻め込むための治安施設の情報も調べておく。
 指示を受けた隊員たちは、散開して両方の施設の周辺の調査へ向かうため、この場から消えていった。





◆◆◆◆◆

「どっちを攻めるか、もしくは両方か……」

 ギルドの職員寮の調理場には、できた料理をすぐに食べられるようにと、6人分のテーブルとイスが設置されているのだが、そこには現在ファウストとリヴィオが向かい合うようにして座っていた。
 数日中に敵が攻め込んでくることが分かっているため、その対策を話し合うというのが目的だ。

「言っては何ですが、できれば治安施設を先に攻めてもらえるとありがたいですね」

「何でだ?」

 リヴィオのさきほどの呟きに、調理場で料理をしていたレオが考えを述べる。
 レオは、両方に攻め込むという選択をしないという考えのようだ。
 しかも、ギルドを先に攻め込むこと可能性が高いような口ぶりだ。
 敵に両方を狙うという選択肢を増やすために、昨日の捕縛作戦を提案した張本人の言葉が疑問に思え、ファウストはその考えの理由を問いかけた。

「そもそも、彼らの狙いは僕です。捕まった者たちは、自害する隙ができる可能性が僅かとはいってもあります。ならば標的を潰すことを優先するかと思います。治安施設を先に狙ってほしいというのは、そうなれば僕の領の問題だけではなくなりますので……」

「そうだな。治安施設の襲撃ともなれば、フェリーラ領への攻撃にもなるからな」

 今の所、フェリーラ領は関係者とは言い難い。
 ギルドの職員寮に忍び込んだ暴漢を捕まえているというだけに過ぎない。
 ただの暴漢として、強制隷属をする権利を行使することもないと判断されるかもしれない。
 しかし、暴漢の仲間が攻め込んだとなれば、完全なる反逆行為。
 フェリーラ領の領主が、指示した者の調査に本腰を入れるのは必定だ。

「ファウストさんとリヴィオさんが用意した冒険者が高ランクの人ばかりですから、分散させては無理だと判断する可能性が高いのもあります」

 元々はかなりのランクの冒険者だった、ファウストとリヴィオが集めた冒険者たちは高ランクの者たちばかりだった。
 彼らの防衛をすり抜けるのは至難の業だ。
 両方の施設の襲撃という期待はしない方が良いかもしれない。

「……もう少し弱い奴らの方が良かったか?」

「まさか! こんなに心強い人たちに守られているのに、そんなこと言う訳ないじゃないですか」

 レオの言葉を聞いて、本気で強者を集めたことが良くなかったのではないかと冗談のように口にする。
 ここまでの護衛を付けてもらっているのに、レオとしては感謝しても文句などある訳がない。
 自分が料理をして落ち着けているのも、彼らが周辺に睨みを利かせているからだ。

「後は、いつ襲って来るかだな……」

「……明日か明後日辺りですかね?」

「……そう思う理由は?」

 数日中とは言っても、いつ攻めて来るか分かれば守ることに集中しやすい。
 そのため、呟いたファウストの言葉に、またもレオが答えを出した。

「敵はディステ領の者たちです。その周辺の領に送っている者も集めるとなると、遠くてもこの町に着くのは今日の夜か明日の朝といったところでしょう。フェリーラ領の領主様の帰りを考えると、時間的に余裕はないため、揃った時点で決行するしかないですから」

 レオが断定した敵の襲撃日の理由を尋ねると、またも納得いくような答えが返ってきた。
 たしかに遠くの領土は深くかかわることはないのだから、そちらの情報は手の者を送る必要はない。
 むしろ周辺は付け入る隙があれば、自分の都合のいいように利用する事だろう。
 ディステ領の周辺で、フェリーラ領から一番遠いといったら北のキサルト領だ。
 そこからだと、どんなに急いでもレオの言うように後1、2日しないと着かないだろう。
 レオの考えが正しいかもしれない。

「……言っては何だが、本当にあの男の息子なのか?」

「残念ながら……」

 領民が逃げ続け、自分の子に刺客を送るような父親とは違い、レオは情報からみんなにとっての正解を出そうと考えている姿勢が態度で分かる。
 あの馬鹿親父と本当に血がつながっているのか、ファウストは疑わしく思えてきた。
 レオとしても、あんなのが自分の父だということに昔から嫌気がさしていた。
 しかし、それでも血が繋がっているということに、困った表情をしつつ答えを返す。

「お前は父親より祖父のアルバーノ様に似ているかもな……」

「それは嬉しいですね。祖父は僕を可愛がってくれましたから」

 髪や目の色は母に似ているため、ディステ領の前領主のアルバーノとレオが似ているという印象を持つ人間は少ないだろう。
 その困った時の表情を見たファウストは、祖父でもあるアルバーノとレオがダブっているように思えた。
 レオも祖父が好きだったため、似ているといわれて嬉しそうだ。

「話はひとまずこれくらいにして、どうぞ召し上がれ!」

「「うっしゃー!!」」

「ハハ……」

 料理を出されたファウストとリヴィオは、すぐさま料理にがっつき始めた。
 昨日レオが料理を出したことで、2人ともレオの料理にハマってしまったようだ。
 その様子を見て、話し合いよりもこっちの方が狙いだったのではないかと、レオは乾いた笑いをするしかなかった。

「そろそろか……」

「えぇ……」

 敵が攻めて来ると、レオが想定していた日の夜になった。
 そのことは、リヴィオとファウストによって冒険者たちの耳にも入れているので、彼らも準備万端で気合いが入っている。
 もうすぐ日にちが変わるというような時刻に差し掛かり、ファウストも体をほぐしていた。
 ギルドの建物周辺は冒険者たちによって守られ、レオの側で守るのがファウストの仕事だ。
 牢に閉じ込めている侵入者の方は、リヴィオが守ることになっている。

「敵襲!!」

「来たか……」

 静かに敵が来るのを待ち受けていると、外から冒険者たちの声が聞こえて来た。
 予想通り、敵が攻め込んできたようだ。
 その声により、レオとファウストも一気に警戒心を高めた。

「レオ! あいつらが優秀でも、抜けられることもあるから注意しろよ!」

「はい!」

 敵もかなりの数をぶつけてくると考えられる。
 そうなると、優秀な冒険者たちでも防ぎきれるとは限らない。
 場合によっては建物内に侵入される可能性もある。
 そうなった時のためにファウストが控えているのだが、それも人数次第ではレオへ危険が及ぶかもしれない。
 クオーレとエトーレのコンビも控えているといっても、それで防げるとは言い切れない。
 そのため、ファウストはレオへと注意を促した。

「5人が抜けたぞ!」

 優秀な冒険者たちが揃っているのにもかかわらず5人も抜けるなんて、相当な数を用意したのか、もしくは相当な侵入技術のある者たちなのか、どちらにしても危険なことに変わりはない。

「チッ! 5人も抜けてきたか……」

 予想していたことだが、思っていたよりも多い人数にファウストは眉をひそめる。
 全員がこちらに来たとしたら、ファウスト1人で止められるか分からない。

「5人とも来たらレオは逃げろ!!」

「……はい」

 抜けた敵全員が来た場合守り切れる保証ができない。
 元々この可能性も考えられたことだ。
 レオもその理由を聞いているので、ためらいつつもファウストの指示に従うことにした。

「予想以上に対応が速い! 奴ら今日を読んでいたようだ!」

 他の人間を囮にし、組織の中でも能力の高い人間のみを建物内へと侵入させた。
 隊長の男の言葉を隊員たちは黙って聞いている。
 外の厳重な警備に反し、建物内の警備は完全にスカスカで誰も配置していないようだ。
 罠も感じられないため、彼らはすぐに行動に移ることにした。

「……罠か? しかし、やるべきことに変わりはない!」

 捕縛のための罠はない。
 しかし、人員を配備していない所を見ると、逆に招かれているかのように思えてくる。
 このようなことになっているとは思わなかったが、予定通り動くしかない。

「予定通り俺たちは標的を狙う!」

「了解!!」

 彼らの狙いは、レオの暗殺と仲間の救出。
 仲間の囮も、長い時間かけていては危険なことになる。
 警戒し過ぎて時間を使う訳にはいかないため、当初の予定通り分散してことにあたる。
 隊長の男を中心とした3人はレオの暗殺へ、残りは仲間の救出へ向かうことにした。

「3人か……」

「ファウスト!?」

「っ!? そうか、カロージェロの手の者だから俺のことを知っているか……」

 職員寮へと通じる通路に顔を出した集団。
 その1人がファウストを見た瞬間に声をあげる。
 自分のことを知っているかのような口ぶりに、ファウストも一瞬訝し気な表情へと変わる。
 しかし、すぐにその理由に気が付いた。
 この敵を依頼したのはカロージェロ。
 元はディステ領のギルドマスターをしていたファウストのことを知っていても不思議はない。

「まあいい、かかってこいや!!」

「標的はあそこだ。殺るぞ!!」

「「はい!!」」

 標的のレオを殺すのが敵の狙い。
 そのためには、邪魔するものは抹殺する。
 長剣を構えたファウストに敵たちは襲い掛かった。

「っ!? 速度で撹乱か?」

 短剣を手にした敵たちは、3人がバラバラに行動を開始した。
 それぞれが移動速度を利用して、ファウストの目線を散らすように動き回る。
 その狙いを感じとったファウストは、誰に集中するともなく迫り来る敵を注視する。

「「「っ!!」」」

「これでも冒険者の時は速度自慢で通ってたんでな」

 最初に迫った男がファウストに斬りかかると、ファウストは冷静に対応する。
 長剣で短剣を弾いて敵を一旦下げさせると、今度はファウストが敵と同等の速さで斬りかかった。
 自分たちと同等の速さで動いたファウストに、敵の男たちは目を見開く。
 感情がバレては布で顔を隠している意味がないが、所詮殺してしまえばいいと思っているのだろう。
 すぐに冷静さを取り戻し、3人でファウストへと襲い掛かっていった。

「っ!!」

「まず1人だ!!」

 3人同時に攻めて来るが、ファウストは全てを剣で弾いて行く。
 防戦一方という訳でもなく、時折敵に攻撃を放ち3人の連携を崩そうとする。
 そうしているうちに、敵の1人がバランスを崩した。
 そこを見逃さず、ファウストは胴を深く斬り仕留めた。

「くっ!!」「おのれっ!!」

 1人減っても、敵はファウストへと攻撃をし続ける。
 しかし、3人で同等だったのが、1人減ったことでジワジワと後退することを余儀なくされていった。

「諦めておとなしく捕まりやがれ!!」

「フッ!」

「何がおか……」

 このまま時間をかけても、敵がファウストに勝つことは難しいということは、離れた所で見ているレオにも分かる。
 押されているのにもかかわらず、敵はファウストの言葉に対して微かに笑うような反応をした。
 その反応を意外に思ったファウストが、その笑いの理由を問いかけようとした途中で違和感に気付いた。

「チッ!! レオ逃げろ!!」

「っ!?」

 敵の策にまんまとハマってしまったことに気が付いたファウストは、気付くのに遅れた自分に怒りが湧く。
 冒険者業から離れてだいぶ経ち勘が鈍ったせいか、こんな策に引っかかるとは思いもよらなかった。
 説明する時間もないことから、ファウストはレオに逃げるように叫んだ。
 しかし、レオの方はその指示の理由が分からず、少し戸惑う反応をしてしまう。

「っ!!」

 レオが戸惑った瞬間に、ファウストに斬られて死んだと思った敵が立ち上がり、レオへと一気に接近した。
 レオを救いに行きたくても、今相手にしている2人に背を向ける訳にはいかない。
 まさかの死んだふりにより、敵の1人がファウストを出し抜くことができた。

「操り軍隊!!」

「なっ!!」

 レオも鍛えているとは言っても敵の速さに比べたら勝負にならない。
 逃げ切る前に捕まるのが目に見えている。
 自分に迫り来る敵に対し、レオは逃げるよりも迎撃を選択した。
 武器も持たないレオに対し、敵も僅かに油断がなかったとは言わない。
 しかし、レオの呟きと共に異変が起きたことに驚愕した。
 前後左右どこからともなく槍を持った人形たちが現れ、自分へと攻撃をしてきたからだ。
 それでも敵も然る者。
 突如現れた人形たちの槍攻撃を、跳び上がることで躱した。

「っ!!」

“ドドドッ!!”

 咄嗟の攻撃を躱したことは素晴らしいが、跳び上がったことは終わりを意味する。
 上空で自由に動くことのできない敵は格好の的となり、何発もの火弾魔法が襲い掛かった。
 またも突如レオの側に出現していた人形の攻撃によって、敵は火傷を負って落下する。

「ハッ!!」

「ぐふっ!」

 落下する敵に対し、最後にレオの魔法が飛来する。
 強力な水弾の直撃に、敵は吹き飛ばされて壁に衝突した。
 魔法によるものか、壁に衝突したせいか、その敵の首がおかしな方向に曲がっている。
 これなら明らかに死んだと判断できた。

「なっ……」「何が……」

「ハハ……やるじゃねえか!!」

 レオが敵を仕留めた少し後、残っていた2人は、レオのおこなったことのほとんどに戸惑い、理解できないままファウストによって斬り伏せられた。
 人形が突如現れたこと然り、その人形が攻撃してきたこと然り、更にはレオ自身の魔法の強力な威力に対してだ。
 2人を仕留め終わったファウストは、人形操作と壁を大きくへこませるような魔法を放ったレオの強さに上機嫌に笑ったのだった。

「まだ安心するなよ!」

「はい!」

 建物付近で守備をおこなっている冒険者たちの隙を抜けて、侵入してきた者たちを打ち取ったレオとファウスト。
 しかし、安心するのはまだ早い。
 外ではまだ冒険者たちが敵と戦っている。
 他にも建物に入ってくる者もいるかもしれない。
 そのため、ファウストはレオに警戒心を緩めないように忠告する。
 レオもそのことを理解し、一旦人形たちを消した。
  
「ファウストさん!! 敵の制圧終了しました!」

「おぉ! そうか……」

 外から聞こえてくる戦いの音に耳を傾けつつ、レオとファウストが警戒を続けていると、しばらくしてその音が止んでいった。
 完全に音が止んですぐ、冒険者の1人がファウストたちの所へ朗報を知らせに来てくれた。
 結局、最初に抜けてきた人間たちだけしか建物内に入ることができなかったようだ。
 その報告を受けたファウストは、ようやく肩の力を抜いたのだった。

「建物を破壊しなくて済みましたね?」

「あぁ!」

 ギルド内に護衛のための冒険者たちを入れなかった理由は、レオの言った言葉に関係する。
 敵が多く侵入し、レオ1人に狙いを付けてきた時、一番安全なのは逃げてしまうことだ。
 しかし、敵は追いかけてくるかもしれない。
 そのため、敵ごと職員寮を潰してしまおうという話になったのだ。
 いくつかの柱には爆破装置が仕掛けてあり、もしもの時はファウストの判断で爆破することになっていた。
 職員寮が潰れてもギルドの建物自体は崩れることはないため、後日の営業に問題は起こらない。
 とは言っても、とんでもない作戦のため、レオとしてはこの最終手段が実行されなくて安堵した。
「しかし、斬られたと思ったのに、どうして起き上がれたのでしょう?」

「あぁ、恐らく仕掛けがしてあったんだろう……」

「仕掛けですか?」

 侵入者の撃退も済み、レオはふと気になった。
 ここまで侵入してきた3人組の1人が、ファウストに腹を斬り裂かれたはずなのに起き上がり、レオへ襲い掛かれた原因が分からなかった。
 大量に出血していたし、回復に薬や魔法を使った素振りは見えなかった。
 その疑問にレオが首を傾げていると、ファウストがなんとなく心当たりがあるような口ぶりでレオの魔法で動かなくなった侵入者の遺体に近付いて行った。

「やっぱりな。俺も焼きが回ったぜ。まさかこんな手に引っ掛かるとは……」

「……肉ですか?」

 遺体の腹部分の服をめくり、ファウストは納得したように呟いた。
 めくった服の下には、肉と血液らしき物が袋に包まれて腹に巻かれていた。
 ファウストが斬り裂いたのは、この肉の部分だったらしい。

「細い……」

「腹を斬らせたと思わせ、実はたいしたことないっていう死んだふりだ。脂肪を削って、分かりづらくしてやがったんだ」

 腹に巻かれた肉の部分をと取り出すと、その下にはこの遺体の本来の肉体が顔を覗かせた。
 その体を見て、レオは思わず感想が口から洩れ出た。
 その説明をファウストがしてくれた。
 体を支障なく動ける範囲で体をギリギリまで絞り、そこに肉を巻くことで外から見たら普通の肉体に見えるように誤魔化していたらしい。

「……でも、ワザとにしても一か八かって感じですよね」

「確かにな。しかし、そういった訓練もしてんだろ……」

 ワザと斬られるにしても、敵に意識をさせないように斬られないとだますことなんてできない。
 今回はある意味成功したが、浅かったと思われて(とど)めでも刺されようものなら無駄死にだ。
 ただ、今回のように成功すれば一気に標的へ迫れる機会を得られる。
 時間もないことから、敵はハイリスクハイリターンの策を選択したようだ。

「こいつのことより、俺はお前の人形と魔法が恐ろしいよ。ジーノのじいさんに指導受けるとこうなんのか?」

「ジーノさんの指導が、単純に僕には合ってたというか……」

 死んだふりに引っかかり、レオへ接近することを許してしまったファウストは、自分のミスだから自分の身を犠牲にしても止めようかと思ったが、レオ自身で対応したことに感心していた。
 人形使いというのは知っていたが、いつものロイたちは今回は連れて来ていなかった。
 そのため、身を守るのは従魔のクオーレとエトーレしかいない。
 闇猫のクオーレはたしかに強いが、姿が見えていれば訓練を積んだ者ならそこまで苦にならない相手だ。
 蜘蛛のエトーレは、糸に捕まりさえしなければ対応できる魔物。
 このコンビは夜強いといっても、侵入者の強さからいって警戒すれば対応可能だったはず。
 しかし、ファウスト同様レオの秘策は知る由もなく、敵はスキルと魔法で仕留められた。
 突如出現した人形は、建物の影の部分から出現したことを考えると、クオーレの魔法で隠ぺいしていたのだろう。
 その後は魔法の指輪から出現させた人形たちの魔法攻撃でダメージを与え、レオの魔法で仕留めたといった手順だ。
 魔法の指輪から出た瞬間に魔法を放った事も驚きだが、一番驚いたのはレオの魔法の威力だ。
 戦場では、魔法で相手に怪我を負わせることはできても、死に至らしめるような威力を出せる人間は限られて来る。
 だが、レオは壁に打ち付けたとは言っても一発で仕留めた。
 ジーノの指導でこうなったのかと、ファウストは興味が湧いた。
 レオ以外の島の人間に指導しているようだが、ジーノの指導で魔法の威力が高まった人間は少ない。
 漢字を理解するのがいまいちできないでいるかもしれない。
 それに引きかえ、レオは最初から漢字を知っていたので、素直に威力が上昇させることができたと言って良い。

「あっ! リヴィオさん!」

「おぉ! 無事だったか?」

「あぁ! お前もな!」

 戦いも終わり、護衛の冒険者たちがギルド内に入って来ていた。
 そのため、地下のリヴィオにも終了の報告が行ったようだ。
 レオたちの安否を確認に来たらしく、リヴィオは2人を見て笑みを浮かべた。
 服に返り血を浴びている所を見ると、やはり牢の方に2人行ったようだ。

「もしもの時は捕虜を取り戻されるのも仕方ないと思っていたが、そうならなくて良かったぜ!」

「そうだな!」

 侵入者した5人が、全員で捕虜を解放に来るという低い可能性があった。
 その場合はリヴィオが1人で対応することになるのだが、人数次第ではリヴィオも危険なため、地下牢からの脱出路を使って逃げるという予定だった。
 こっちの捕虜を取られたからと言っても、もう1人治安施設に収容されている者もいるので、そこまで重要という訳ではなかったが、リヴィオの方に向かったのは2人も仕留めたので、そうならずに済んで喜んでいた。

「これでカロージェロは終わりだな?」

「あぁ! ざまあみろだ!」

 指示を受けた者たちは、ギルド内に攻め込んだのだ。
 王の葬儀が行われているにもかかわらず、それを血で穢すようなことをしていたということが報告されることになる。
 それを王家が黙っているはずがない。
 しかも、王位を継ぐクラウディオは、性格的にそういったことを嫌う風潮にあるというのは有名な話だ。
 ディステ領の状況を加味すれば、カロージェロの爵位剥奪、領地没収は確実と言って良いだろう。
 大嫌いなカロージェロの失墜が今から楽しみなファウストは、思わず満面の笑みを浮かべていた。

「…………」

「……っと、すまんな。お前の親父でもあったんだっけ。やっぱり悲しいか?」

 笑顔でいた自分の横で、ファウストはレオが無言でいることに気付いた。
 ファウストからすると大嫌いな人間の失敗は楽しいことだが、レオにとってカロージェロは血のつながった父親だ。
 命を狙われても父のことが気になっているのかと思い、ファウストは笑みを消した。

「いいえ。むしろ何も感じない自分が不思議に思えてました」

 側でカロージェロの失墜していくと聞いたが、実の父だというのにレオとしては何も感じなかった。
 父とは言っても、ほとんど関わり合いがなかったからだろうか。
 薄情かと思いつつも、それがレオの偽らざる思いだった。

「その後の領地がどうなるか分からないですが、領民を大切にしてくれる人だと期待します」

 レオの場合、カロージェロのことよりもディステ領の民のことが気になっていた。
 カロージェロから取り上げた後に、誰かしらの爵位持ちに渡されることになることだろう。
 その代わりの領主が、カロージェロのような人間でないことを祈るばかりだ。

「そう思うのも、お前が立派な領主になったからかもな?」

「立派は言い過ぎですよ」

 父のことより領民のことを気にする。
 レオのそんな態度と言葉に、ファウストは心身共に領主になっているのだと感じた。
 褒められたことは嬉しいが、まだまだ少数の住人しかいない島の領主の自分が立派だというのはおこがましいと、レオは照れながら否定したのだった。

「随分奮発したな……」

「しかもタダなんて……」

「島には薬草が大量に生えていましたから」

 ずっと冒険者たちと共に行動していたドナートとヴィートが、治療に当たるレオに話しかける。
 最悪の場合職員寮の建物ごと破壊するということになっていたが、その際逃げるレオの護衛をする予定だったため、職員寮付近に待機して迫る敵を相手にしていた。
 しかし、結局逃走することもなくなってしまい、少数の敵を倒しただけで終わったことで不完全燃焼といったところだろう。
 2人は全然怪我をしていないが、冒険者の半分近くが怪我を負った。
 とは言っても、重傷を負うようなことはなく、回復の魔法や薬で治る程度だった。
 自分を守ってもらうために怪我を負ってしまったのだからと、レオは自前の回復薬を無償で提供することにした。
 余計な出費をしなくて済み、冒険者たちはレオに感謝していた。

「提供するにしても、半額くらい受け取ればいいのによ……」

「自作の回復薬ですし、実は先行投資も入っています」

「……先行投資?」

 冒険者に聞こえない程度の声で、ドナートは不満げに呟く。
 それに対し、レオは無償で提供する自分の考えを答えた。
 レオの答えた先行投資という意味が分からず、ヴィートは首を傾げる。

「そのうち、うちの島にもギルドができるかもしれません。その時に、ここにいる高ランクの冒険者の方たちの誰かが来てくれるかもしれません」

「……看板になってくれるってことか?」

「はい」

 レオの目標は島にギルドの支店を作ることだ。
 ギルドがある町は発展している証拠になる。
 領地を与えられた者ならば、ギルド設置を目標にするのは当然だ。
 以前ファウストとも話したので、ギルマスは決まっている。
あとはある程度の質と数の冒険者の確保だ。
 どの町のギルドでも、実力のある高ランク冒険者を抱えていて、その高ランク冒険者に憧れた者が新しく冒険者になろうと集まってくる。
 ヴィートの言うように、高ランク冒険者はある意味新しい冒険者を集める看板のようなものだ。
 実力も欲しいが、数が多ければ突発的な魔物の大繁殖に対応することができるようになる。
 今のようにロイたちに任せなくても、冒険者に魔物を狩らせ、それで経済が回った方が人は集まるはずだ。
 レオの収入としてはその分は減るかもしれないが、住人からの少しずつ集めた税金で物事に当たればいいため、たいした問題ではない。

「なかなか腹黒いな……」

「……まぁ、可能性は低いですけどね」

 レオを守るために今夜集まってくれた冒険者たちは、ファウストとリヴィオのお陰でランクの高い者たちばかりだ。
 回復薬の提供で印象を良くして置けば、もしかしたらファウストともに島に来てくれるかもしれない。
 若干腹黒いようだが、淡い期待程度の考えなので、そこは気にしないでもらいたい。





◆◆◆◆◆

「追悼ミサも終わり、早ければ明日には領主のメルクリオ様が領都へ戻る頃だろう」

「そうですね」

 敵の襲撃を制圧してから3日経ち、王の葬儀の日を含めて5日経つ。
 ヴァティーク王国では、葬儀の日を含めて5日目に追悼のミサを行うことになっているため、貴族はこの日まで王都に滞在している。
 王都からフェリーラ領の領都フォンカンポへは馬車で1日。
 そうなると、リヴィオの言うように領主のメルクリオが帰るのは、何か都合でもない限り明日ということになる。

「捕まえた奴らを連れて領都へ向かうか……」

「はい」

 帰ったその日に面会という訳にはいかないだろうが、とりあえずフォンカンポへと捕まえた侵入者たちの輸送を開始することになった。
 そのための馬車を用意したり、護衛の冒険者を集めたりとファウストを中心として行動を開始することにした。

「領都のギルマスには連絡と協力の了承は得られている。安心してくれ」

「ありがとうございました。リヴィオさん」

 領都への移動の準備も整い、出発の日になった。
 ここオヴェストコリナのギルマスのリヴィオとは一旦お別れだ。
 リヴィオから領都にあるギルマスに連絡が行っているらしく、領主の面会日までは捕まえた者たちをそこのギルドに収容してもらうことになっている。
 手配をしてくれたリヴィオに、レオは改めて礼を述べたのだった。

「じゃあな! 行って来る」

「もしかしたら残党が馬車を襲ってくるかもしれない。警戒はしておけよ」

「あぁ……」

 馬車に乗り込む前に、ファウストはリヴィオと挨拶を交わす。
 先日の襲撃で全員倒したとは思うが、もしかしたら残党がいないとも限らない。
 そのため、リヴィオは念のため忠告するが、ファウストもそのことを予想していたため、すぐに頷きを返した。

「出発!!」

「「「「「おう!」」」」」

 馬車は5台用意され、先頭は前方を警戒するために護衛の冒険者たちが乗っている。
 2台目はレオたちが乗る馬車だ。
 レオ、ドナート、ヴィート、ファウストが乗っている。
 若干男臭い状況なのが気になるが、この面子ならかなりの実力者たちでない限りレオに危害を加えることはできないだろう。
 3、4台目は、レオが捕まえた侵入者が縛られて牢屋に入れられた状態でそれぞれ乗せられていて、冒険者もその監視に乗っている。
 5台目は、後方の警戒をする冒険者たちが乗っている。
 この配列でフォンカンポへと向かうことになった。
 御者も冒険者で構成されているので、もしもの時の警戒は万全だ。

「……フォンカンポまではどれくらいかかるんですか?」

 出発して少しすると、窓の外には人の住む家が見えなくなり、森や草原の景色が広がり始めた。
 町から離れれば当然の光景だ。
 そんな景色を眺めていたら、ヴィートはふと気になりファウストに尋ねた。

「3時間程度ってとこだな」

「まあまあきついですね……」

 ファウストの答えに、レオが思わず呟いた。
 一応街道は整備されているが、馬車が結構揺れる。
 馬車なんてあまり乗り慣れていないため、レオからするとこの振動は酔ってしまいそうで心配だ。

「フォンカンポは行ったことないので楽しみです」

「……そうか、ディステ領からだとここの領都に寄ることもないか……」

 馬車酔いは心配だが、レオは領都のことが気になっていた。
 ファウストの言うように、レオはディステ領の実家から南西に移動してオヴェストコリナの港町に着き、そのままヴェントレ島へ向かったため、フェリーラ領のやや東側に位置する領都のフォンカンポへは寄ることはなかった。
 そもそも、寝たきりで実家の町すら碌に見ていないレオは、どういった町が領民にとって良い街なのかというサンプルが少ない。
 ギリギリ村と呼べる程度になったヴェントレ島を、今後どのように発展させればいいかの計画がいまいちハッキリしていない。
 アルヴァロやリヴィオの話だと、フェリーラ領の領主であるメルクリオは善政を敷いているという印象だ。
 父のカロージェロとは真逆なのだろう。
 きっとフォンカンポも良い町に違いない。
 そのため、レオは期待が膨れ上がっていた。

「良い町だぞ。ただ……」

「ただ……?」

 期待しているレオにフォンカンポの町のことを説明しようとしたファウストだったが、すぐに言い淀むことになった。
 そのことが気になり、レオは首を傾げる。

「いや、これは俺の問題なのだが、領都のギルマスが苦手でな……」

「……怖い人なんですか?」

 話しているうちにファウストの表情が強張ってきている感じに見え、レオはそのギルマスが気難しい人間なのかと感じ始めた。
 ファウストがこんな表情をするのを見たことがなかったため、本当に協力してもらえるのかも不安になりそうだ。

「俺の姉貴だ……」

「……えっ?」

「「プッ!!」」

 別に姉がいることに驚きはしないが、かなりの戦闘力を誇るファウストが怯える人ということが意外だ。
 頭の中でファウストをそのまま女性にした姿を想像したのか、同乗しているドナートとヴィートは思わず吹き出してしまった。

「その方に会うのも楽しみです!」

「そっちは楽しみにするな!」

 ファウストを怯えさせる女性というのが気になり、町と共に会うのが楽しみになった。
 真面目そうな顔で言うレオに対し、なんとなく気分が滅入るファウストだった。

「おいっ! 本当にもうすぐ馬車が通るんだろうな?」

「あぁ!」

 侵入者を護送するため、フェリーラ領の領都フォンカンポへ向かうレオたち。
 町までもう少しと言う所まで迫って来ていた頃、ある人間が話し合っていた。
 口ぶりから、フォンカンポに向かう馬車を待ち受けているかのような会話をしている。

「もうすぐ数台の馬車が通る。そこには貴族の子息が通る」

 話している男の1人は、カロージェロからレオの暗殺を指示されていた男だ。
 依頼者に一番近い位置にいることから、レオたちを狙った組織のトップとなる男だろう。
 総力を結集してレオの暗殺に挑んだが、全員護衛の冒険者たちに制圧されてしまったが、彼1人生き残っていた。

「予定通り積んでいるお宝は、全部俺らがもらっちまって良いんだよな?」

「構わない」

 彼1人生き残ったのは、総力戦が失敗した場合でも依頼の達成を図るためだ。
 しかし、自分1人では不可能と判断した彼は、他の人間を使うことにした。
 それが隣にいる男とその仲間たちだ。

「その代わり、全員殺すことが条件だ」

「そんなの最初からそのつもりだ」

 依頼達成を図るための最後の機会はここしかない。
 最初はここで総力を尽くすという策も考えられたが、護送の時が危険なのは分かっていることなので、フェリーラ領の領主の方をオヴェストコリナの町へ呼び寄せるという可能性があった。
 そのため総力戦で挑んだのだが、それが失敗した今ではもう作戦を精査している暇も人員もいない。
 組織の人間でなくても、依頼達成を図るしかない。
 狙いは捕まった仲間を含めての皆殺し。
 その考えに同意するように、隣の男は笑みを浮かべる。

「おっ来た! 5台か……」

「赤(せき)斧(ふ)の盗賊団がまさか怖気づいていないよな?」

「ハッ! なめんじゃねえ!」

 最後の機会に組織の男が利用したのは、この周辺で名を馳せる盗賊団だった。
 赤斧とは、この盗賊団のリーダーの持つ斧のことで、返り血で真っ赤に染まった斧を表現したことによるものらしい。
 所詮は数が多いだけの盗賊の頭にすぎないため、闇の組織の彼からしたら笑ってしまいそうになる2つ名だ。
 しかし、念のため以前に顔合わせをしておいて正解だった。
 実際レオは実家とは縁を切られているので貴族ではないのだが、貴族の子なのは間違いない。
 貴族の子息が通るという情報を提供しただけで、上手く話しに乗ってくれたのは短絡的で助かった。
 今も、冒険者たちが護衛している馬車を見て躊躇うような素振りを見せたが、ちょっと煽るだけで都合よく反発してくれた。

「行くぞ!! 野郎ども!!」

「「「「「おおっ!!」」」」」

 盗賊のリーダーの言葉に、部下の男たちが返事と共に動き出した。 
 狙いは馬車の側面からの攻撃ため、街道の左右に分かれて潜む予定だ。

「何としてもここで潰す!!」

 ここで失敗すれば、組織だけでなく自分も終わりだ。
 そのため、組織の男も盗賊たちと共にレオたちの暗殺に向かった。





「「「「っ!!」」」」

「盗賊だ!!」

 いち早く馬が異変に反応して足を止めてしまった。
 急に馬車が停止したことでレオたちも驚くと、外から冒険者が叫ぶ声が聞こえてきた。 
 その声に反応し、中に居た全員が外へと飛び出した。

「レオはここにいろ!」

「クオーレ! レオを頼むぞ!」

「ニャッ!」

 馬車を挟むようにして、左右から盗賊たちらしき者たちが襲い掛かってきた。
 護衛の冒険者たちは、それに対応しようと馬車から降りて武器を構えた。
 レオと同乗していたドナートとヴィートも武器となる槍を構え、ドナートがレオに動かないように指示し、ヴィートが馬車の屋根に乗っていたクオーレにレオを守るように指示を出した。
 指示されなくても主人を守ると、クオーレはレオの側で周囲を警戒した。

「待ってください!」

「何だ!?」

 盗賊を迎え撃とうとしているファウストたちに、レオは待ったをかける。
 その声に、ファウストは理由を問いかける。

「僕も助力します!」

「何っ!?」

 盗賊たちが迫って来るが、かなりの数だ。
 連れてきた冒険者は、先日同様ファウストとリヴィオが用意した高ランクの冒険者たちだ。
 しかし、彼らでも多勢に無勢となり怪我を負ってしまうかもしれない。
 そうならないためにも、レオは数には数で対抗することを決断した。
 何をする気か分からず、ファウストは止めようとしたが、それより早くレオが動く。

「操り軍隊!!」

「「「なっ!?」」」

「行け!!」

 レオの言葉と共に、突如木製人形たちが大量に出現した。
 その出現した人形の数の多さに、ファウスト、ドナート、ヴィートは面食らう。
 左右から迫り来る盗賊の総数は約50。
 それと同数程の人形たち全員が槍を構え、レオの指示と共に迫り来る盗賊たちへと攻めかかって行った。

「「「「「何だこれはっ!?」」」」」

 自分たちが襲い掛かろうとしていた馬車の周辺にいきなり人形が出現したため、盗賊たちは慌てた。
 しかもどういう原理か分からないが、人間のように動いている。
 レオのスキルを知らない者は、初めてこれを見たら驚くのも仕方がない。

「うがっ!!」「ギャッ!!」

 迫り来る人形に驚き慌てているうちに、盗賊たちは槍の攻撃を受けて悲鳴が連鎖していった。
 それにより、この人形が危険な存在なのだと理解したのか、盗賊たちはようやく抵抗を始めた。

「冒険者の方たちは人形の援護をお願いします!!」

「……あ、あぁ!」

 盗賊たちも驚いたが、護衛の冒険者たちも人形たちの出現に驚いた。
 しかし、レオの言葉を聞いて味方なのだと分かった彼らは、戸惑いつつもその指示に従うことにした。
 盗賊の数を見た時は、怪我をする可能性が頭をよぎっていたが、これだけの人数の仲間がいれば考える必要もない。
 レオの指示通り冒険者たちは人形たちの援護をおこない、どんどん盗賊の数を減らしていった。

「ふざけんな!! 何だこの人形どもは!!」

「おっと! お前は俺が相手してやる!」

 想定外となる大量の人形に、盗賊の頭は怒りに震える。
 そして、邪魔な人形を壊そうと乱戦状態の部下たちの所へ向かおうとした。
 しかし、その盗賊の頭の前にファウストが立ち塞がった。

「お前ら赤斧の盗賊団だな?」

「だったら何だ!! 邪魔をするな!!」

 自分たちのことを知られていることはたいしたことではない。
 全員殺してしまえば関係ないからだ。
 そのため、盗賊の頭は立ち塞がったファウストに、自慢の斧で襲い掛かった。

「生死不問の懸賞首だ。小遣い稼ぎさせてもらうぜ!」

「がっ!!」

 ファウストが言葉を返すが、その頃にはもう盗賊の頭の首が体から転がり落ちていた。
 盗賊の頭の斧が振り下ろされるよりも早く、ファウストが長剣で斬り落としたのだ。
 多くの部下を率いる有名な盗賊団の頭で、その腕力はたしかにすごいだろうが、当たらなければ意味がない。
 速度自慢のファウストにとって、こういった力自慢の敵はカモでしかなかった。

『ここだ!!』

 盗賊団の頭が殺られ、その部下たちも数を減らしていくなか、レオ暗殺を企てている組織の男は動きだした。
 盗賊の相手に護衛が減ったレオを狙い、全速力で背後から攻めかかったのだ。
 思惑通り、護衛は全員盗賊に目が行き、レオの側には従魔らしき闇猫と蜘蛛しかいない。
 闇猫は夜でなければただのでかい猫、蜘蛛も糸以外は警戒する必要はないだろう。
 足音を立てずに接近しつつ武器の短剣を抜いた男は、自分の接近に気付き驚いた表情をしているレオに斬りかかった。

「「レオ!!」」

 近くにいたドナートとヴィートが気付いた時には、もう敵がレオに迫っていた。
 襲撃が盗賊だけでなかったことにようやく気が付いたのだ。
 2人は慌ててレオを守りに動くが、敵の移動速度から考えると、敵を抑えることは間に合いそうにない。

“ドサッ!!”

「「っ!!」」

 2人が間に合わずにレオと敵が交錯した。
間に合わなかったと思ったら、襲いかかった敵が崩れるように地面に倒れた。
 何が起きたのかと驚きつつも近付くと、レオの手には血に染まった剣が手に握られていた。

「……お前がやったのか?」

「えぇ……」

 ドナートとヴィートはレオに近付くと、倒れた男の生死を確認する。
 剣で腹を貫かれたのか、大量に出血して事切れていた。
 何をどうしたのか分からないが、どうやらレオが倒したらしい。

「終わったぞ!!」

 レオが襲撃者を返り討ちしてすぐに、冒険者から大きな声が上がった。
 どうやら盗賊たちを倒し終わったようだ。

 倒した盗賊たちは指名手配されている盗賊団だったらしく、全員の遺体はまとめてファウストが魔法の指輪に収納していた。
 さすが元ギルマスという所だろうか、多くの遺体を収容できる大容量の魔法の指輪を所持していた。
 生き残りが数人おり、彼らは兵に渡してアジトを聞きだしてもらうつもりだ。
 アジトにはもしかしたら捕まった人間もいるかも入れないし、これまで盗まれた金銀財宝が見つかるはずだ。

「このままアジトを捜索すればボロ儲けなんだが、本当に良いのか?」

「構いません」

 ファウストの再度の確認となる問いかけに、レオは躊躇なく頷く。
 確認したくなるのも仕方がない。
 先ほども言ったように、このまま盗賊のアジトを探れば金銀財宝が手に入る。
 こう言った場合、冒険者の間ではアジトの財宝を手に入れてから報告しても何の御咎めもない。
 ここには多くの冒険者もいることだし、アジトへ向かっても危険ではないはずだ。
 レオの言っていることは、大金を手に入れる機会を放棄するというのと同じことだ。

「冒険者の皆さんには申し訳ありません」

「いや、俺たちは依頼者の護衛と指示に従うのが契約になっているんで……」

 アジトへ向かえば全員で分けてもいい稼ぎになることが分かっている。
なので、レオの護衛の依頼に就いてくれた冒険者たちも、本当はアジトへ向かいたいところだろう。
 そんな冒険者たちに対し、レオは申し訳なさそうに頭を下げた。
 冒険者の中には完全に納得いっていない者もいるようだが、そこは後で依頼料に色を付けることで勘弁してもらう。
 そもそも、彼の言ったように余程おかしな指示でもない限り依頼者に従うことは、今回の依頼を受ける際の契約書に書かれていた。
 契約を交わしたうえで同行しているので、レオの考えに従ってもらうしかない。

「ファウストさんの言う通りだぜ。レオ」

「金を得て島の発展に使えばよかったんじゃないか?」

 みんな馬車に乗り込み再出発を始めると、ドナートとヴィートもアジトへ向かうことを放棄したレオに忠告をすることにした。
 ヴェントレ島には、僅かながら人が集まりつつある。
 冬の間は食料などの関係から招かないようにしているが、春になれば移住しようという者たちの受け入れを再開する予定だ。
 1人でも多く招き入れるために、資金はあればあるほど望ましいように思える。

「確かに、島のためにも資金があった方が良いでしょう。しかし、だからこそフェリーラ領との関係を深めておくことを優先したいんです」

「……どういうことだ?」

 島のことを考えての忠告だったのだが、レオには何か他に考えがあるようだ。
 それがどんな考えなのか分からず、ドナートは首を傾げる。

「すぐに手に入る資金よりも、メルクリオ様の後ろ盾です」

「後ろ盾……なるほど、島への助力か?」

「えぇ」

 レオの考えを聞いて、ヴィートはなんとなく納得したようだ。
 フェリーラ領の領主メルクリオと関わりを深めることで、島への助力を求めるということなのだろう。

「島は今のところ安定していますが、まだまだ魔物は大量に存在しています。もしも居住地に攻め込んでくるような事があったら、島を捨てて逃げることも考えておくべきです」

「やっと村程度になってきたって言うのにか?」

「もったいないですけどね……」

 島は魔物の氾濫がいつ起こるか分からない。
 レオは、住民の命を第1に考え、もしもの時は島を捨てることも考えている。
 ヴィートの言いたいことも分かる。
 レオ自身もったいないことは分かっている。
 しかし、住人をフェリーラ領に避難させ、一時の間だけでも保護してもらえれば先の事は何とかなるはずだ。
 そのためにも、もしもの時に受け入れてもらうための後ろ盾として、レオはメルクリオとの関係を深めておくことを選んだ。

「それが何でアジトを狙わないことに繋がるんだ?」

 ヴィートと違い、ドナートはそれとこれのつながりが分かっていないようだ。
 そのため、アジトを狙わない理由をレオに問いかけてきた。

「捕まえた盗賊を領兵に渡せば、メルクリオ様はアジトの潜入を領兵に任せることになるでしょう。そうなれば、領兵が手に入れてきた盗賊の財宝は全部フェリーラ領に入ることになります。今回の強制隷属の手土産にしては、大きすぎるほどになると思います」

「その見返りが、後ろ盾って事か?」

「はい」

 今回の強制隷属のことで、レオは最初から何とかメルクリオとの関係を深めたいと思っていた。
 それが、運が良いのか悪いのか、名のある盗賊団を壊滅することに成功した。
 これを利用しない手はないと考え、これをメルクリオへの手土産にすることに決めたのだ。
 この盗賊団は、主にフェリーラ領内で盗みを働いていたとのことなので、かなりの手土産になるはずだ。

「それと……、もしもの時にはエレナの保護を頼むつもりです」

「っ!! それはエレナ嬢の生存を教えるということか!?」

「はい!」

 続いて発せられたレオの言葉に、ドナートとヴィートは表情を変えた。
 島ではレオの下についているという形だが、根っこの部分で2人はエレナを守るガイオの部下だ。
 ガイオと共に、エレナの居場所を守るためレオに協力しているという面もなくはない。
 エレナが生きていることが広まったら、今回のように刺客を送り込まれるかもしれない。
 そんな危険なことを起こさないためにも、このままエレナはヴェントレ島内に収めておく方が良いと思える。

「もちろんメルクリオ様に会ってから決めることですが、今回のようなことが起きた時、もっと有能な刺客だった場合守り切れるかまだ疑問です。もしもの時保護してくれる貴族がいれば安心です」

「……その場合、ガイオのおやっさんや俺たちも離れることになるかもしれないぞ?」

「分かっています。そのために今回色々試しています」

 エレナが島から離れれば、島の住人の多くはもしかしたら付いて行ってしまうだろう。
 住人が増えてきているとは言っても、まだ多くは元ルイゼン領の者たちだからだ。
 そのため、エレナを避難させればみんないなくなり、島はスカスカになってしまうかもしれない。
 ほとんどが領兵のような働きをしてくれているので、いなくなれば守りが薄くなる。
 しかし、そうなる可能性も考えて、レオは今回今まで考えていた色々な策を試していた。

「あの人形の軍勢か?」

「はい」

「いつの間にか、かなりの人形を作っていたんだな?」

 レオの策の1つが、大量の人形たちによる軍隊だ。
 以前、ガイオには一般兵くらいの実力と言われたレオの人形たち。
 まだ改善の余地はあるし、強化方法も考えてはある。
 ただ、強化するには資金などの面からまだできないでいる。
 その分数で補おうと、レオは木製人形たちを量産してきた。
 今日使った人形たちは、面食らった盗賊たちを抑え込んだが、数体は一部壊れた者もいる。
 それを見て、人でも魔物でも多くの軍勢で攻め込まれた時に数で補うにはまだ時間が必要だと理解した。
 自分のスキルとガイオたちだけでエレナを守り切れるようになるまでに、もしも攻め込まれた時の間だけでも守ってもらうだけなら、ファウストたちの様子だと信頼できそうな人なので、恐らくメルクリオもエレナのことを黙っていてくれるはずだ。

「だからロイたちを置いてきたのか?」

「はい。ロイたちと同様に魔物退治に使おうか迷ったんですけど、身の安全の確保を優先しました」

 人形を作ったら作っただけ魔物の討伐に使うことも出来たが、島に1人だった時は海賊も警戒していた。
 そのため、全部を魔物に当てるのではなく、魔法の指輪内でいつでも稼働状態にして危険を察知したら使うことをレオは計画していた。

「あれだけいれば、多少の魔物相手でも逃げる時間ぐらいは稼げると思って」

「なるほど……」

 身を隠す場所は、島に着いた時にいくつか確認していた。
 時間を稼いでそのどこかに隠れれば、魔物をやり過ごすぐらいどうということはないため、その時のために使う予定だった。

「あっ! 見えてきましたね……」

 レオの考えを色々話しているうちに、フォンカンポの町が見えてきた。
 それに気付いたレオは、話をやめてどんな町かを見ることに専念することにした。

「ハァ~……、賑わってますね」

「さすが領都だな」

「あぁ……」

 フェリーラ領の領都フォンカンポに入ったレオたち。
 メイン通りを通る馬車の窓から眺めた街の景色は、多くの商店が立ち並び、みんな活気に溢れているように感じる。
 それを見て、レオは喜びと驚きが入り混じる感想を述べる。
 ドナートとヴィートも似たような感じだが、レオと違うのは時折綺麗な女性に目が行っているといったところだろう。
 ディステ領の領都に住んではいたが、病弱だったレオは町中に行くことができなかった。
 ここを見て大きな町はどういう物なのかというのを、記憶するように目を動かしていた。

「いつかヴェントレ島をここみたいに賑わう町にしたいです」

「そうか……」

「はい!」

 落ち着かない様子で町を見渡していたレオは、不意に思ったことを言葉に出していた。
 成人したてとは言ってもまだ幼さの残る子供のレオが、たった1年で村にまで発展させたことに、その手腕はかなりのものだとファウストは評価している。
 しかし、食料や島の収益などを考えると、ここから人が爆発的に増えるということはないと思える。
 フォンカンポのような町になるには、かなりの年月を必要とする事だろう。
 しかし、小さな村の領主が言うには夢物語のようだが、目指さない者が望みを叶えられるとは思えないため、ファウストは子供を見る親のように、レオの夢を否定しなかった。

「あっ! ギルドだ!」

「ぐっ……」

 さっきまでのんびりした気分でいたが、レオの言葉でファウストの表情が渋くなった。
 以前言っていたように、ここのギルマスはファウストの姉だという話だ。
 弟は姉には勝てない。
 そんなことを小さく呟いていたようだが、レオには頭のおかしい兄たちはいたが、姉はいなかったのでその言葉の真意が分からないでいた。

「いらっしゃい! ここフォンカンポのギルマス兼フェリーラ領の統括をしているデメトリアよ」

「ヴェントレ島の領主レオポルドと申します。よろしくお願いします」

 ギルドに着いてすぐ、レオはファウストと共にギルマスの部屋へと案内された。
 ドナートとヴィートは、念のため馬車の警護を冒険者たちとしている。
 表情が強張っている感じのファウストと共に部屋に入ると、待ち受けていた女性が自己紹介をしてレオに握手を求めてきた。
 レオも返すように名前を名乗り、デメトリアと握手を交わした。

「……な、何でしょうか?」

「なかなかかわいい顔しているわね」

「ハハ……、ありがとうございます」

 女性としては背の高い方なのだろうが、身長は170cm程度のレオと同じくらい。
 180cmを越えるファウストとは、頭半分ほど差がある感じだ。
 筋肉の付き方も、引き締まっているように見えるが、がっしりしたファウストには及ばない。
 顏は目の形だけが同じで、姉弟だというのに似ていない気がする。
 凛とした感じの女性と形容した方が良いかもしれない。
 たしかに纏う空気は強そうに思えるが、本当にファウストよりも強いのかいまいち判断できない。
 握手をしたままでデメトリアが手を離さないでいるので、レオは不思議に思って問いかける。
 すると、レオの顔を見て保護欲が湧き上がったのか、頭を撫でつつ褒めてきた。
 一応成人しているし、男なので可愛いと言われるのも何だか微妙で、レオは乾いた笑いを返すしかなかった。

「……久しぶりね。ファウスト」

「あぁ……久しぶり」

 レオとの挨拶も済み、デメトリアは隣のファウストに目を移す。
 少しの間目を合わせた後、挨拶を交わす姉弟。
 しかし、何だか空気が重い。

「まぁ、あんたには文句を言いたいところだけど、まずはリヴィオの報告に出ていた奴らを牢に連れて行きましょう」

「あぁ……」

 何だかこの後何か起きそうで嫌な感じだが、まずはギルド前の捕縛者の輸送が先だ。
 そのため、デメトリアの指示を受け、ファウストは素直に頷いた。





「メルクリオ様とも連絡は取り合っているわ。よっぽど失礼なことでもしない限り強制隷属をおこなってくれるはずよ」

「ありがとうございます!」

 捕縛者を牢に入れた後、レオとファウストはまたデメトリアの部屋へと招かれた。
 ソファーに対面して座り、デメトリアの言葉に協力の感謝をする。
 ドナートとヴィートは、牢の捕縛者を監視する役割を手伝うということになりこの場にいない。
 ここの牢番もいるし、冒険者にお願いすれば良いといったのだが、念には念を入れてのことだという話だ。
 レオたちは、カロージェロの手の者を全滅させたことは知らない。
 そのため、確かにまだ完全に安心できないと判断し、2人の言う通り念のための見張りをお願いすることにした。

「今日王都を出発するって話だから、この町の到着は4~5時くらいかしらね……」

「じゃあ、早くても面会は明日になりますかね?」

「そうね。メルクリオ様には全ての経緯を書いた手紙を送ってあるから、邸の方から迎えを寄越してくれるそうよ」

 王都のピサーノからフォンカンポの町までは100km程で結構近い。
 早朝出発して順調に進めば、確かに夕方ぐらいの到着になるだろう。
 少しの休憩を挟むにしても、馬車移動で疲労した状態では面会なんてしたくないはず。
 そうなると、面会は明日以降になる。
 経緯も知っているなら、そんなに待つことにはならないはずだ。

「それにしても、レオはなかなか面白い子ね。あのヴェントレ島を開拓しているなんて……」

「行ったことあるんですか?」

「えぇ、昔にね……」

 話は変わって、デメトリアはヴェントレ島の話を始めた。
 その思い出しているような口ぶりは、レオが行く前の島を知っているかのようだ。
 尋ねてみたら、案の定行ったことがあったそうだ。

「開拓と言ってもまだ東の端っこだけで、ようやく村と呼べる程度です」

「そう……。1つ忠告しておくわ。あの島は西にある山周辺に特に気を付けなさい。あそこら辺が特に危険な魔物の生息地になっているから」

「あっ、はい。助言ありがとうございます」

 島の現状を簡単に説明すると、デメトリアは真面目な顔をしてレオへ経験者としての忠告をしてきた。
 ヴェントレ島の西には火山があり、文献ではその火山の噴火によってできた島だという話だ。
 島全体的に魔物は多いが、デメトリアが行った時はその山周辺が1番危険な領域だったそうだ。

「あそこ温泉あるから行きたいんだけどね……」

「温泉ですか? う~ん観光の目玉の1つに欲しいですね。まぁ、先の話ですけど……」

「ギルドが出来て、冒険者に狩らせてからじゃないとやめといた方が良いわ」

「そうですね」

 火山の恩恵として温泉が湧いている所があるらしく、デメトリアはその湯に浸かったそうだ。
 健康にいいという話なので、レオはお風呂が好きだ。
 それもあって、温泉は興味がそそられる。
 しかし、危険な魔物が多いのだから、それをどうにかしてからでないと話にならないため、温泉は当分お預けだ。

「じゃあ、ファウスト! 訓練場行くわよ!」

「え゛っ?」

 話も終わり、デメトリアは予定通りという口調でファウストを訓練場に誘う。
 口数が減っていたファウストは、その誘いにおかしな声で反応した。
 断ることができないのか、ファウストは訓練場へと連れて行かれた。

「この馬鹿が!! 勝手にディステ領エリアのギルマスを辞めやがって!!」

「痛えな!! 拳闘スキル持ちに剣術スキルの俺が素手で勝てるわけねえだろ!!」

 レオも勉強として元高ランク冒険者同士の訓練を見せてもらうことにしたのだが、武器無し状態で戦う姉弟喧嘩といったところだろうか。
 拳闘スキルとは、その身のみで戦うことを得意とするスキルだ。
 武器無しの方がデメトリアのスキルが有利のため、ファウストが口でも拳でも終始押されていた。

「な、何だと……」

「ハッ! 組織の者との連絡が途絶えました。恐らく、作戦は失敗したものかと……」

「バカなっ!!」

 執事の男からの報告を聞いて、王都にある領邸で帰り支度をしていたカロージェロは怒りに震えていた。
 レオ暗殺失敗は、完全に自分たちディステ領の終わりを意味していた。
 それが現実のものとなり、腹を立てることにしか頭が回っていない状況だ。

「高い金を払っていたというのに、使えない奴らめ!!」

 レオを襲った組織の者たちは、裏仕事を任されていたため、結構な金額を要求していた。
 これまで多くのことに利用し成功してきたため、それを必要経費として考えていたが、この最も重要な依頼を失敗するなんて、カロージェロからしたら役立たずという評価をしても仕方がない。

「どうしましょう? 父上……」

 作戦の失敗に狼狽えているのは、今回王の葬儀参加のためについてきた長男のイルミナートも同じだ。
 自分が継ぐはずの爵位と領地がなくなることが分かっているため、顔面蒼白状態で頭を抱えている。

「…………逃げるぞ!」

「……えっ?」

 しばらく間をおいてカロージェロが小さく呟く。
 その言葉が聞きにくかったのと、その内容が信じられなかったのもあり、イルミナートは父に聞き直した。

「逃げるぞ! どこか匿ってくれる貴族の領地、もしくは他国へ」

「えっ? しかし、領地にはフィオが……」

 もう1度言われても、イルミナートは戸惑った。
 その没収されるであろう領地には、次男のフィオレンツォを残してきた。
 レオとは違い、フィオレンツォは母も同じ兄弟だ。
 自分たちが逃げるのなら、フィオレンツォのこともどうにかしないとならないはず。

「……だから何だ? フィオレンツォは次男だ。いわばお前のストックでしかない。お前が生きていれば何の問題もないではないか?」

「…………」

 父の冷酷な言葉を聞いて、イルミナートは無言になり全身に寒気が襲った。
 自分たち兄弟も、貴族として下の者にきつく当たるのは当然だとは思っている。
 それが上に立つ者の特権だからだ。
 しかし、次男とはいえ、これまで自分に尽くしてきた息子までも躊躇なく斬り捨てられる父だとは思っていなかった。

「それもそうですね」

 しかし、クズの子はクズということなのか、イルミナートはそれが正しいことなのだと受け入れた。
 さっきの寒気は、自分だけは父の特別なのだと思ったが故の歓喜のものだと、自分に都合よく解釈したのだ。
 そう思うと、弟のことなど興味が無くなり、自室に戻って身支度を整え始めたのだった。

「どちらへ向かいますか?」

「南だ!! 他国に渡るには陸路は危険だ!! 海から他国へ向かうぞ!!」

「了解しました!」

 慌てて馬車に乗り込んだカロージェロとイルミナート。
 御者の男に向かって指示を出す。
 こう言った時は知恵が働くのか、カロージェロの言うように他国へ向かうなら陸路より海路だ。
 一番近い港町は、馬車を飛ばせば王都から1日ほどで着く。
 すぐに調べさせたら、フェリーラ領の領主のメルクリオは先に領地へ出発したという話だ。
 そのため、阻止するために今から殺しを計画しても時間はない。
 今ならメルクリオからレオ暗殺指示が王家へ伝わる頃には、海の上で他国へ向かっているはず。
 2人を乗せた馬車は、ディステ領から離れるように南へと進んで行ったのだった。





◆◆◆◆◆

「お目にかかれて光栄です。メルクリオ伯爵閣下」

「初めまして、レオポルド・ディ・ディステ君……」

 フェリーラ領の領主であるメルクリオ・ディ・フェリーラ伯爵からの使いが、昼食を取って少ししたらやってきた。
 捕縛者に強制隷属をしてもらうため、レオとファウストはフォンカンポのギルマスであるデメトリアと共にメルクリオの邸へと向かった。
 案内された謁見室でレオたちが椅子に座って待っていると、メルクリオが入室して来た。
 前領主が亡くなって領主になって6年しか経っていないため、彼はそんなに老けていない。
 茶髪碧眼でなかなかのイケメン。
 剣の腕が立つと有名で、体型もスッキリしている。
 そんな彼に対し、レオたちはすぐに立ち上がり、挨拶を交わすことになった。
 握手をした時、メルクリオは若干イタズラをするかのような笑みを浮かべ、レオの昔のフルネームで呼んできた。

「……失礼ながら、ディステの名は捨てました。ただのレオポルドでお願いいたします」

「そうか。ではレオと呼ぼう」

 どういう反応をするか見定めているのだろうか。
 デメトリアによってこれまでの経緯は報告されているため、レオの素性を知っていても不思議はない。
 ただ、その家名で呼ばれるのはとても気分が悪いため、レオは困った顔をして答えを返すことしかできなかった。
 その困り顔が望みだったのか、メルクリオはすぐに優しい笑顔に変わって、3人に椅子に座るよう促してきた。

「しかし、今回は大変な目に遭ったようだね……」

「はい。何者(・・)かは分かりませんが、何としても依頼者を炙り出したいと思っております」

 依頼者は父だと分かっている。
 しかし、完全に確定していない以上、現在は平民のレオが名前を挙げる訳にはいかない。
 強制隷属をすれば確実に依頼者を突き止められるが、それができるまではあくまでレオたちが勝手に訴えているということになるからだ。
 僅かな可能性として、厳重に警備をしている現在でも捕縛した者たちが殺されるということもあり得る。
 そうなった場合、貴族に汚名を着せたとなるかもしれないからだ。

「そのために、閣下のお力をお借りしたいのです。特権である強制隷属で依頼者を聞き出していただけないでしょうか?」

「……良いのか?」

「……失礼ながら、何がでしょう?」

 メルクリオは真剣な表情でレオの話を聞いていた。
 報告を受けているので2度手間とも言えなくないが、平民の意見をちゃんと聞いてくれる人なのだとレオの中では好感度が上がっていた。
 話が終わると、メルクリオは少し考えた後、真剣な表情のまま問いかけてきた。

「恐らく君の父上が狙ったのではないか?」

「はい。その可能性は高いです」
 
「ならば、強制隷属で吐かせたら実の父を追い込むことになるぞ?」

 質問に質問を返すような形になったが、レオはその質問の意味はなんとなく分かっていた。
 自分の実の父を犯罪者として王家へ訴えるということだ。
 これまでの報告から、ヴェントレ島などと言う危険な島を領地として与えたことから、カロージェロにとってレオは邪魔な人間だといっているのだと分かる。
 しかも、僅かながらも発展してきたら、それを奪い取ろうと刺客を送り込んできたと言う話だ。
 ディステ領の現状がひどくなっているというのは、どこの領主も分かっている。
 だからと言って奪い返すなんて恥知らず、更にはそのために刺客を送り込むなんて愚の骨頂だ。
 しかし、そんな愚か者でもレオにとっては実の父。
 少ないとは思うが、父を売ったという者も出てくるかもしれない。
 メルクリオは、レオの覚悟を確認するために嫌な質問をすることにした。

「構いません。狙ったのなら自分も狙われることも覚悟しておくものです。父も失敗したのだから報復を受けるのは当然です」

「そうか……」

 まっすぐな目で答えるレオに、メルクリオは決意が固いことを読み取った。
 そして、真剣な顔から、優しい眼差しへと変わった。

「まぁ、私は全然構わん。言っては何だが、カロージェロ伯爵は嫌いだった。息子のお前に引導を渡されるんだ、多くの人間はお前に味方するはずだ」

「そうでしょうか?」

「何なら私が後ろ盾になろう!」

「えっ……? あ、ありがとうございます!」

 話していたら、いつの間にかレオの望む言葉が出てきた。
 後ろ盾になってもらいたいと、どうにかして話を持って行きたいと思っていたため、メルクリオの言葉はレオにとってありがたい。
 あまりにも急だったので、レオは僅かな時止まってしまった。
 しかし、すぐに後ろ盾になってくれるということを受け入れ、メルクリオへ感謝を述べた。

「失礼します!」

「……?」

「彼は王室調査官だ。貴族の悪事などを調査する機関の人間だ」

 話をしている所だったのだが、1人の男性がノックの後に入室してきた。
 誰だろうかとレオたちが思っていると、メルクリオが彼の簡単な紹介をしたのだった。

「初めまして。ヴェントレ島領主レオポルドと申します」

「初めまして。王室調査官のフィルミーノです」

 メルクリオに紹介された王室調査官の男性に対し、レオたちは頭を下げる。
 フィルミーノと言う名前らしく、返すようにレオたちへ礼をした。

「王室調査官の方ですか?」

「王家が管轄している貴族を対象とした調査機関で、彼らの調査報告はそのまま王へ報告されることになる」

 レオには聞いたことない機関だったため、いまいちピンときていなかった。
 それに気付いたメルクリオは、王室調査官と言う役職の説明をした。
 貴族の疑わしい事件や事故に対し、色々な手段を用いて調査するそうだ。

「私がおこなってもいいのだが、その場合もう1回王都で確認してもらわないといけなくなる。しかし、彼に調べてもらえば、王室にそのまま報告される。無駄な手間が省けていいだろ?」

「なるほど! ご配慮ありがとうございます!」

 王都にいる時、デメトリアから送られた手紙を読み、メルクリオはすぐに行動に移ったそうだ。
 5日目のミサが終わって早々であったが、宰相のサヴェリオと面会できた。
 そこでデメトリアの報告書を見せ、ディステ家の悪事を糾弾することを進言したのだ。
 捕縛者を王都へ運ぶより、然るべき者をフォンカンポへ送った方が安全だと、サヴェリオはフィルミーノの派遣を要請したのだ。
 サヴェリオのその態度などから、メルクリオはなんとなく気付いた。
 どうやら新しく即位したクラウディオ陛下は、カルノ王の時からのおこないとディステ領の現状から、どうにかしてカロージェロから領地没収や降爵などの処置ができないか考えていたようだ。
 しかし、決定的となる証拠もなく、今年のみの経済状態だけで判断するのは、他の赤字領地の貴族たちにも恐怖や嫌悪感を与えることになりかねない。
 今年の経済状況が数年続かない限り手が出せないでいたため、メルクリオが持って来た情報は渡りに船といったところなのだろう。
 今は平民である自分のことで宰相閣下にまで動いてもらったことに、レオはメルクリオに感謝し深く頭を下げた。

「気にしないで良い。だから後ろ盾になるって言ったんだ」

「……どういうことでしょう?」

 頭を下げたレオに対し、メルクリオはなんてことないように言葉をかける。
 先程も唐突に後ろ盾になってくれるといっていたが、このことが関係しているらしい。
 その理由が気になり、頭を上げたレオは思わず問いかけた。

「これで予てから面倒だった悪徳貴族が1つ潰せることになり、クラウディオ陛下への私の心証はかなり良いものとなった」

 カルノ王の生存時、いくつかの貴族が王家へ虚偽の報告や隠ぺいを図っていた。
 大体が細かい税収に関してのことだったが、中には王家の威光を利用した悪徳貴族もいた。
 新しく即位したクラウディオ王の最初の仕事は、カルノ王の時に好き勝手していた悪徳貴族を一掃することらしい。
 その仕事において、早々に大きな協力をしたのだから、王のメルクリオへの心象が良くなるのは当然のことだ。
 新しく王になったクラウディオへ、どの貴族もどうにかして近付きたいという思惑がある。
 メルクリオも同じ様に思っていた部分はある。
 それが、どの貴族よりも早く心証アップができたのだ。
 今回この案件を持ってきてくれたことに、メルクリオの方こそレオに感謝したい気分だ。

「それに、君は盗賊が盗んだ資金まで私に譲ってくれた。ここまでされたら後ろ盾くらいたいしたことではない」

「お役に立てて良かったです」

 どうやらレオの気付かない所で、メルクリオに貢献できていたようだ。
 レオの考えていた盗賊のアジトの財宝なんかよりも、これからのことを考えれば陛下からの心象が良くなる方が良いに決まっている。
 先の未来のこととして陛下への心象が良くなることに加え、すぐさま領内の経済に使える資金まで提供してもらえた。
 ここまで多くの利益を与えられ、メルクリオはレオのことが気にいった。
 最大の懸念はカロージェロの息子ということだったが、それも先程の確認で解消できた。
 そのため、メルクリオはレオの後ろ盾になることを決定したのだ。

「さて、フィルミーノ殿。早速ギルドへ向かいましょうか?」

「はい」

 陛下への報告を少しでも早くするためか、わざわざ捕縛者をこの邸に運ぶより、ギルドへ向かった方が手っ取り早い。
 そのため、メルクリオやフィルミーノがギルドへ向かうことになった。
 




「まずはこちらの者から行います」

「お願いする」

 ギルドに着いてすぐ、早速フィルミーノによる強制隷属魔法がかけられることになった。
 先にかけるのは、ヴェントレ島で捕まえた方だ。
 食事をさせると自決する可能性が高いため、拘束をした状態で点滴による栄養摂取をおこなっていた。
 そのせいか、運動不足で手足は痩せているが、レオたちを睨みつける目を見る限り健康状態は良好なようだ。

「【我に逆らうな! 我の命に従え!】」

「グッ!!」

 捕縛者の背中に手を当てると、フィルミーノは詠唱を始め、闇魔法による隷属魔法を発動させた。
 その魔法により、捕縛者は小さな呻き声を上げた。
 上半身裸の背中には、隷属完了をしめすように魔法陣が浮かび上がった。
 魔物を従える時にも用いる魔法だが、人間に用いるのは犯罪者だけにしか認められていない。
 人間に対して強制的にこの魔法を用いるのは重犯罪だが、貴族には犯罪調査の場合のみ有効となっている。
 王室調査官の彼らの多くは平民出身だが、彼らには特別にその権限が与えられている。
 この職に就く時に同意の下でおこなっているため強制的ではないのだが、そもそも王室調査官にも隷属魔法がかけられている。
 王の命に従い、嘘偽りない調査と報告をおこうための処置であり、王家直属の機関のため、法衣貴族の扱いになっている。
 
「これで拘束はしなくても大丈夫です」

「分かりました。エトーレ!」

 魔法が完了したので、自決の心配がなくなった。
 そのため、フィルミーノは拘束を解くように指示をした。
 その指示に従い、レオの合図を受けたエトーレが捕縛者を縛り付けていた糸を解いた。

「単刀直入に聞こう。お前たちにレオ殿暗殺を指示したのは誰だ?」

「……ディステ領領主、カロージェロ伯爵の指示です」

 質問に対する答えは、思った通りカロージェロの名前だった。
 続いてもう1人の捕縛者にも隷属魔法をかけたが、返ってきたのは同じ答えだった。

「決定だな……」

「はい……」

 分かっていた答えではあったが、改めて父親が息子を殺そうとしていた事が分かり、メルクリオは複雑な心境でレオの顔を見た。
 レオも若干落ち込んでいる自分に気付いた。
 とっくの昔に父のことなど何とも思わなくなっていたはずだが、ほんの僅かながらそうでないことを期待していたということなのだろうか。
 そのことが自分のことでありながら意外だった。

「これで犯人が分かって良かったです!」

 一息ついて気持ちを落ち着かせると、レオの中で何かスッキリした気分になった。
 この証言で、ようやく完全に父との縁が切れたような気がしたからだろうか。

「……この証言は私が責任を持って陛下へと報告しておきます」

「頼みます!」「お願いします!」

 レオとカロージェロの関係はフィルミーノも説明を受けている。
 そのため、表情は変わっていないが、口調からレオのことを心配しているのが分かる。
 しかし、どんなことがあろうとも、王への報告は偽らない。
 この捕縛者2人から得た証言を、フィルミーノはしっかり報告することを告げた。
 それに対し、メルクリオとレオは軽く頭を下げ、フィルミーノに任せることにしたのだった。