「……ていうのが僕の能力だよ」
「……素晴らしい!」
ずっと実家で仕えていたベンヴェヌートがこの島に住むことになったので、レオは自分のスキルのことを説明することにした。
動く人形たちを見て、やはり彼も驚いていたのが面白かった。
その後にレオが続ける説明を黙って聞いていたベンヴェヌートは、最後まで聞き終わると珍しく大きな声を出して喜んだ。
「この能力は様々に応用できるんだ」
レオの祖父である先代のディステ領主から仕えて来ていたこともあり、レオが出て行くときに付いて行くという決断ができなかったことをずっと悔やんでいた。
成人まで残り1年となり、次第にベッドに横になっている時間は減っていったが、元々の色白さゆえに健康に近付いているという印象は受けなかった。
健康状態から考えて、レオが島で生きていけるかどうかはかなり難しいと分かっていた。
それどころか、島にたどり着くかも怪しく思っていた。
それが分かっていても付いて行かなかったということは、自分も心のどこかでレオのことを諦めていた部分があったのかもしれない。
そのことに気付くと更なる後悔に苛まれた。
カロージェロの領内での失策は、そんなベンヴェヌートに見切りを付けさせることになった。
レオの死という情報は入ってこなかったこともあり、ディステ領から出たベンヴェヌートは足跡を追うことにした。
フェリーラ領に着いてギルドと接触した時、レオの生存を知って歓喜したものだ。
「この能力なら納得できますね……」
レオの能力の説明に、ベンヴェヌートは独り言のように呟いた。
生き残っていてくれたことは嬉しかったが、長い間近くにいてレオを見てきたベンヴェヌートにとっては理由が思いつかなかった。
兄たちのように戦闘訓練を積んで来た訳でもないので、魔物と戦えるとは思っていなかったからだ。
しかし、レオのスキルなら、人形たちが魔物から守ってくれる。
それがなかったら、本当に死んでいてもおかしくなかっただろう。
「それにしても、魔物による能力アップですか……」
もう1つ気になったのが、レオの健康状態だ。
小さい頃からよく風邪をひいたりしていたため、レオの体調面ではベンヴェヌートもかなり気を使ってきた。
久しぶりに会ったレオは、色白とは言っても顔色もよく、とても元気そうだ。
それが多くの魔物を倒したことにより改善されたということを聞いた時、ベンヴェヌートはいまいち信じられなかった。
ベンヴェヌートもその説は聞いていたが、眉唾物だという思いをしていた。
レオの思い込みによるものという印象を抱かずにはいられないが、言われてみるとそれ以外に改善された理由は思いつかない。
「成人する1年前くらいに発現したんだ!」
「なるほど……」
そう言われて思い返せば、成人する少し前は寝込む日が無くなっていたような気がする。
それを考えると、レオの言っていることを完全に否定することはできない。
結局のところ、レオが健康になったのならどんな理由であろうと気にすることではない。
完全には納得できないが、それならそれでいいといったところだ。
『……おや? もしかして……』
そのレオの言葉で、ベンヴェヌートはあることを思いだした。
成人する1年ほど前から魔物を倒すようになったということは、その倒した魔物はどうしたのだろうか。
本人が認識できない程度の微弱な能力上昇となると、結構な数を倒さないとレオの場合は体が良くなるとは思えない。
もしも、ただ倒してそのまま放置していたとしたら、ディステ領付近の森でアンデッドが出たのはもしかしたらレオの人形が倒した魔物なのではないだろうか。
そう考えるとアンデッドが増えた理由が解明できる。
『……まぁ、レオ様が気にする事ではないでしょう……』
アンデッドが増えたのはもしかしたらレオによるものかもしれないが、市民に被害が出たのはカロージェロのミスでしかない。
なので、わざわざいうことでもないと判断したベンヴェヌートは、アンデッドの大量出現の原因をレオには黙っておくことにした。
「畑仕事も良くしているんだよ!」
「本当にお元気になられて良かったです……」
そう言って、レオはベンヴェヌートに案内するように畑へと向かって行った。
何がどうなって今のレオがあるかなんてベンヴェヌートにはもうどうでも良い。
目の前で元気に色々と話してくれるレオに、ベンヴェヌートは込み上げてくるものを必死に我慢した。
◆◆◆◆◆
「夏野菜が沢山とれましたね?」
「だね」
ベンヴェヌートが来てから数日経ったが、特に変わったことなどはない。
これまで通りの生活が続いている。
今朝もガイオに稽古を付けてもらい、畑で野菜の手入れをしている所だ。
カゴにたくさん入った夏野菜を見て、レオとエレナは嬉しそうに微笑む。
「トマトは色々な料理に使えるし、ナスはカポナータなんていいかもね」
「いいですね!」
カポナータとは、素揚げしたナスや他の野菜を、甘めの酢で味付けしたトマトピューレで煮込んだ料理のことを言う。
ナスがメインの料理というと、レオが最初に思いつく料理だ。
「男性からすると、お肉を入れてもいいかもしれないね」
「私はパスタのソースにするのが好きですね」
「美味しいよね」
野菜をメインとしている料理なため、男性からすると物足りないと思える部分があるかもしれない。
そのため、肉を入れてボリュームアップをするのも良いし、エレナの言うようにパスタのソースとしても使える使い勝手がいい。
「オクラやキュウリはシンプルにサラダにすると美味しいだろうね」
「サラダだけは得意です!」
成長が速いので、オクラが結構採れた。
やはり、オクラというとサラダにするのが思いつく。
ネバネバが体に良いということは有名なので、最近食卓にオクラが出る頻度が増えている。
サラダと聞き、レオの手伝いでよく作っているエレナは、ジョークを含んだように胸を張る。
「トウモロコシは茹でただけでも美味しいよね」
「そうですね」
トウモロコシは嫌いな人間もなかなかいないだろうと、結構多めに作っている。
あまり手を加えないで美味しいのはありがたいものだ。
島には幾つかの果物の樹が自生していたため、住居近くにも植えて育て始めているが、採れる果実は甘さがなく物足りないものばかりだ。
甘味好きな女性たちには申し訳ないが、トウモロコシの甘みで我慢してもらっている。
その内大量に果物を採ってきて、ジャムでも作ろうかと考えている。
「枝豆はみんな好きなようだけど、お酒がないから船員の人たちは愚痴っていましたね」
「うん。お酒造りも考えた方がいいね……」
レオは成人したばかりでお酒の良さが分からないため、酒づくりなんて考えもしなかったが、船員たちに検討するように頼まれていた。
特に枝豆の塩ゆでを出した時、強く求められたのを2人は思い出した。
アルヴァロに職人を探してもらっているが、出来るのはしばらく先の事だろう。
「ゴーヤは好き嫌いがあるから料理には気を使わないと……」
「苦いですもんね……」
体が弱かった時、レオは食べたくても食べられないということが多かった。
今はそんなこともなくなり、何でも好き嫌いなく食べるようにしている。
なので、ゴーヤも作っては見たのだが、ガイオの船員たちは嫌いな人が割りと多かった。
エレナは大丈夫だが、たまにでいいというのが本音だ。
「クオーレも嫌いみたいなんだよ」
「そうなの?」
「ニャ~……」
ゴーヤが採れるようになった時、試しにゴーヤ料理をクオーレへ出してみたのだが、いつもレオの料理を残さず食べるクオーレも、ゴーヤの苦さは我慢できなかったらしく弾いていた。
それ以降、ゴーヤは苦手になったらしく、なるべく出さないようにしている。
エレナもクオーレに好き嫌いがあるとは思っていなかったらしく、意外そうにゴーヤを見せて問いかけると、クオーレは見るのも嫌だと言うかのようにそっぽを向いたのだった。
「……素晴らしい!」
ずっと実家で仕えていたベンヴェヌートがこの島に住むことになったので、レオは自分のスキルのことを説明することにした。
動く人形たちを見て、やはり彼も驚いていたのが面白かった。
その後にレオが続ける説明を黙って聞いていたベンヴェヌートは、最後まで聞き終わると珍しく大きな声を出して喜んだ。
「この能力は様々に応用できるんだ」
レオの祖父である先代のディステ領主から仕えて来ていたこともあり、レオが出て行くときに付いて行くという決断ができなかったことをずっと悔やんでいた。
成人まで残り1年となり、次第にベッドに横になっている時間は減っていったが、元々の色白さゆえに健康に近付いているという印象は受けなかった。
健康状態から考えて、レオが島で生きていけるかどうかはかなり難しいと分かっていた。
それどころか、島にたどり着くかも怪しく思っていた。
それが分かっていても付いて行かなかったということは、自分も心のどこかでレオのことを諦めていた部分があったのかもしれない。
そのことに気付くと更なる後悔に苛まれた。
カロージェロの領内での失策は、そんなベンヴェヌートに見切りを付けさせることになった。
レオの死という情報は入ってこなかったこともあり、ディステ領から出たベンヴェヌートは足跡を追うことにした。
フェリーラ領に着いてギルドと接触した時、レオの生存を知って歓喜したものだ。
「この能力なら納得できますね……」
レオの能力の説明に、ベンヴェヌートは独り言のように呟いた。
生き残っていてくれたことは嬉しかったが、長い間近くにいてレオを見てきたベンヴェヌートにとっては理由が思いつかなかった。
兄たちのように戦闘訓練を積んで来た訳でもないので、魔物と戦えるとは思っていなかったからだ。
しかし、レオのスキルなら、人形たちが魔物から守ってくれる。
それがなかったら、本当に死んでいてもおかしくなかっただろう。
「それにしても、魔物による能力アップですか……」
もう1つ気になったのが、レオの健康状態だ。
小さい頃からよく風邪をひいたりしていたため、レオの体調面ではベンヴェヌートもかなり気を使ってきた。
久しぶりに会ったレオは、色白とは言っても顔色もよく、とても元気そうだ。
それが多くの魔物を倒したことにより改善されたということを聞いた時、ベンヴェヌートはいまいち信じられなかった。
ベンヴェヌートもその説は聞いていたが、眉唾物だという思いをしていた。
レオの思い込みによるものという印象を抱かずにはいられないが、言われてみるとそれ以外に改善された理由は思いつかない。
「成人する1年前くらいに発現したんだ!」
「なるほど……」
そう言われて思い返せば、成人する少し前は寝込む日が無くなっていたような気がする。
それを考えると、レオの言っていることを完全に否定することはできない。
結局のところ、レオが健康になったのならどんな理由であろうと気にすることではない。
完全には納得できないが、それならそれでいいといったところだ。
『……おや? もしかして……』
そのレオの言葉で、ベンヴェヌートはあることを思いだした。
成人する1年ほど前から魔物を倒すようになったということは、その倒した魔物はどうしたのだろうか。
本人が認識できない程度の微弱な能力上昇となると、結構な数を倒さないとレオの場合は体が良くなるとは思えない。
もしも、ただ倒してそのまま放置していたとしたら、ディステ領付近の森でアンデッドが出たのはもしかしたらレオの人形が倒した魔物なのではないだろうか。
そう考えるとアンデッドが増えた理由が解明できる。
『……まぁ、レオ様が気にする事ではないでしょう……』
アンデッドが増えたのはもしかしたらレオによるものかもしれないが、市民に被害が出たのはカロージェロのミスでしかない。
なので、わざわざいうことでもないと判断したベンヴェヌートは、アンデッドの大量出現の原因をレオには黙っておくことにした。
「畑仕事も良くしているんだよ!」
「本当にお元気になられて良かったです……」
そう言って、レオはベンヴェヌートに案内するように畑へと向かって行った。
何がどうなって今のレオがあるかなんてベンヴェヌートにはもうどうでも良い。
目の前で元気に色々と話してくれるレオに、ベンヴェヌートは込み上げてくるものを必死に我慢した。
◆◆◆◆◆
「夏野菜が沢山とれましたね?」
「だね」
ベンヴェヌートが来てから数日経ったが、特に変わったことなどはない。
これまで通りの生活が続いている。
今朝もガイオに稽古を付けてもらい、畑で野菜の手入れをしている所だ。
カゴにたくさん入った夏野菜を見て、レオとエレナは嬉しそうに微笑む。
「トマトは色々な料理に使えるし、ナスはカポナータなんていいかもね」
「いいですね!」
カポナータとは、素揚げしたナスや他の野菜を、甘めの酢で味付けしたトマトピューレで煮込んだ料理のことを言う。
ナスがメインの料理というと、レオが最初に思いつく料理だ。
「男性からすると、お肉を入れてもいいかもしれないね」
「私はパスタのソースにするのが好きですね」
「美味しいよね」
野菜をメインとしている料理なため、男性からすると物足りないと思える部分があるかもしれない。
そのため、肉を入れてボリュームアップをするのも良いし、エレナの言うようにパスタのソースとしても使える使い勝手がいい。
「オクラやキュウリはシンプルにサラダにすると美味しいだろうね」
「サラダだけは得意です!」
成長が速いので、オクラが結構採れた。
やはり、オクラというとサラダにするのが思いつく。
ネバネバが体に良いということは有名なので、最近食卓にオクラが出る頻度が増えている。
サラダと聞き、レオの手伝いでよく作っているエレナは、ジョークを含んだように胸を張る。
「トウモロコシは茹でただけでも美味しいよね」
「そうですね」
トウモロコシは嫌いな人間もなかなかいないだろうと、結構多めに作っている。
あまり手を加えないで美味しいのはありがたいものだ。
島には幾つかの果物の樹が自生していたため、住居近くにも植えて育て始めているが、採れる果実は甘さがなく物足りないものばかりだ。
甘味好きな女性たちには申し訳ないが、トウモロコシの甘みで我慢してもらっている。
その内大量に果物を採ってきて、ジャムでも作ろうかと考えている。
「枝豆はみんな好きなようだけど、お酒がないから船員の人たちは愚痴っていましたね」
「うん。お酒造りも考えた方がいいね……」
レオは成人したばかりでお酒の良さが分からないため、酒づくりなんて考えもしなかったが、船員たちに検討するように頼まれていた。
特に枝豆の塩ゆでを出した時、強く求められたのを2人は思い出した。
アルヴァロに職人を探してもらっているが、出来るのはしばらく先の事だろう。
「ゴーヤは好き嫌いがあるから料理には気を使わないと……」
「苦いですもんね……」
体が弱かった時、レオは食べたくても食べられないということが多かった。
今はそんなこともなくなり、何でも好き嫌いなく食べるようにしている。
なので、ゴーヤも作っては見たのだが、ガイオの船員たちは嫌いな人が割りと多かった。
エレナは大丈夫だが、たまにでいいというのが本音だ。
「クオーレも嫌いみたいなんだよ」
「そうなの?」
「ニャ~……」
ゴーヤが採れるようになった時、試しにゴーヤ料理をクオーレへ出してみたのだが、いつもレオの料理を残さず食べるクオーレも、ゴーヤの苦さは我慢できなかったらしく弾いていた。
それ以降、ゴーヤは苦手になったらしく、なるべく出さないようにしている。
エレナもクオーレに好き嫌いがあるとは思っていなかったらしく、意外そうにゴーヤを見せて問いかけると、クオーレは見るのも嫌だと言うかのようにそっぽを向いたのだった。