「まさかオーガなんて大物が出るなんて……」

「あぁ……」

 オーガの死体を魔法の指輪に収納し、ようやく一息ついたレオは、安心したように呟いた。
 それに対し、ヴィートも同意し頷く。
 ロイたちには洞窟内のゴブリンの死体の処理をお願いした。
 ゴブリンから手に入る素材は小さい魔石くらいしかないが、それでも島の収入源になる。
 折角倒したのだから、手に入れておかないともったいない。
 それに、レオのスキルによって、待っているだけで手間な作業は人形たちがやってくれる。
 戦いによる緊張感が少し解け、3人は持って来た軽食をつまんで休憩を取ることにした。

「ビックリして一瞬腰が退けましたよ」

 この島に来て、体を鍛え始めていたレオだったが、こんなに多くの魔物に近付くようなことはなかった。
 オーガという強力な魔物の出現を目の当たりにし、言葉の通り腰が引け、頭が真っ白になりかけた。
 自分一人だったら、戦うなんて考えずに逃げていたかもしれない所だった。

「俺たちだって焦ってたぜ? なあ?」

「あぁ!」

「2人はすぐに反応していたじゃないですか」

 レオとしては、ドナートたちがいてくれたことに感謝している。
 海賊狩りというと対人戦闘が強いという印象が強かったが、魔物相手でもかなり活躍していた。
 本人たちも魔物よりも対人戦闘の方が慣れていると言っていたのに、オーガが出て来てからの状況判断の良さは尊敬してしまう。

「ゴブリンもオーガも鬼系統だから人間に近いからな」

「対人戦闘に近い感覚で戦えたって感じかな……」

「なるほど」

 ゴブリンやオーガは鬼系統の魔物のため、2足歩行することから動きが人間に近い。
 オーガはたしかに驚いたが、煙を吸い込んで弱っていたし、でかい人間だと思えば変わりはない。
 そのため、ドナートたちからすると他の魔物のような脅威は感じなかったようだ。

「ゴブリンが増えたのはオーガの所為だったのかもしれませんね」

「どういうことだ?」

 これだけゴブリンの数が増えていたのを考えると、ガイオたちみんなが来る少し前からオーガがあの洞窟に住み込んでいたのではないかと思える。
 オーガはゴブリンをパシリに使って食料を得て、ゴブリンはオーガの守護の下で数を増やすことができていたのだとレオは考えていた。
 いわゆる共生という状況が、ここで出来ていたということだろう。

「嫌な共生だな……」

「全くだ」

 レオの説明を受け、ドナートとヴィートは納得すると共に顔をしかめた。
 ここを放置してゴブリンの数が増えていたとしたら、それほど時間もかからずにレオたちのいる場所を見つけられていた可能性がある。
 今日とは反対のことが身に降りかかっていたかもしれないと考えると、身震いをする思いだ。

「運が良かったですね?」

「だな……」

 先にこちらから動けたのは、レオが言うように運が良かったと言って良いかもしれない。
 それと同時に、ここの島の開拓の難しさも感じていた。
 まだ島の1割にも満たない範囲なのにもかかわらず、オーガなんて危険生物が存在しているとなると、森の奥へと進んだらどんな魔物が潜んでいるか分かったものではない。
 
「とりあえず、ここまでは広げても大丈夫そうですし、ゆっくり広げていくしかないですね」

 たいした範囲内を調査したわけではないが、ここまでの範囲内の魔物はなんとかなりそうだ。
 もちろんオーガなんて魔物がまた出ないとも限らないが、開拓を進める範囲としてこの洞窟を目安にして良いかもしれない。

「帰っておやっさんに報告しようぜ」

「ハイ!」

 開拓をするにしてもみんなの協力が無いと、レオのスキルだけでは難しい。
 それに、戻ってみんなに無事討伐が終了したことを伝えて安心させたい。
 ロイたちによって集められたゴブリンの死体の焼却も済み、レオたちは拠点に戻ることにした。





◆◆◆◆◆

「だから魔石が大量にあるんですね?」

「そうなんです」

 ゴブリン討伐を成功し、無事に帰ったことでレオたちはみんなに喜ばれた。
 まさかのオーガの出現にみんなも驚いていたが、弱っていたので倒せたということを言うと、みんな安堵していた。
 オーガもゴブリン同様たいして素材として採取できる部分はないが、魔石が結構大きく、値段も高値で売れる。
 角も結構素材と使えるらしいので採取しておいた。
 魔物の討伐をすることになった経緯と、結果がどうなったかを説明し、アルヴァロは魔石の山を見て納得した。
 討伐から2日後、いつものようアルヴァロが島へ来てくれた。
 前回はガイオたちが住むことになって驚いていたが、今回はオーガを倒したということに驚いていた。

「坊ちゃんには毎回驚かされますね……」

 どんな魔物の魔石でも需要はあるので大量に手に入るのはありがたいが、オーガを相手にするなんて無謀も良いところだ。
 島には海賊狩りをしていた戦闘自慢もいるという話を聞いていたが、そんなことになるならレオには参加しないで欲しかった。

「開拓を前進させるために防壁の製作を始めました」

「そうですか!」

 ロイたち木製人形を増やして防御機能を強化するという手もあるが、それでも守り切れない場所が出て来るかもしれない。
 ドナートたちもいることだし何とかなるとは思うが、危険なことには変わりはない。
 そのため、防壁を造って簡単に魔物が侵入してこないようにすれば、異変が起きてもロイたちが対応できると思い、防壁の製作を始めることにした。
 少しでも開拓が進めば人を増やしても大丈夫になり、人が増えれば開拓の速度も上げられる。
 この島の開拓が進み、国にそれが認められれば、レオが貴族に戻ることができるようになるかもしれない。
 ディステ家の仕打ちをレオから聞いて知っているアルヴァロからすると、ざまあと言いたくなる。
 それもまだ先の事になるだろうが、レオに期待しているアルヴァロからすると開拓が進むのは嬉しいことだ。

「そう言えば、ディステ領のことですが……」

「何かありましたか?」

 レオが順調に進めていることに安心したアルヴァロは、話していた時に浮かんだディステ家のことを思い出した。
 父であるカロージェロの領主としての能力は、はっきり言ってレオには分からない。
 領主邸から外に出たこともないので、領内の経営状況とかは全く分からない。
 しかし、ギルドに見放されたなんていわれると、何をしているんだという気持ちになる。
 ガイオたちからギルドに見放されたとか言う話を聞いていたが、それ以外にまた何かあったということだろか。

「領内から全ギルドが撤退して、魔物の討伐を専門にする傭兵を雇うようになったって聞きましたが?」

「えぇ」

 父は領内で大量発生した魔物の討伐の関係でそこを統括しているギルマスと揉め、領内からギルドが撤退するということになったらしい。
 冒険者たちを統括し、魔物を狩ってくれるギルドは、領を経営するのにかなり役に立つと思える。
 こっちは何もしないでも魔物を調整してくれるのだから、平民からしてみれば暮らしを安心させてくれる存在ともいえる。
 危険な魔物などが出現した時は領主側が資金を出さなくてはならないだろうが、そんな非常時に対応するために常時傭兵を雇っているのは経済的には非効率だ。
 ギルドがなければ冒険者もいなくなってしまうだろうし、それで領内の安全を維持できるのだろうか。

「それによって冒険者もいなくなって、更には住民も減っていっているようですよ」

「……そうですか」

 アルヴァロの言葉に、自分の故郷のことを知ったレオは複雑な思いをしていた。
 案の定、ギルドが無くなったことによる問題が増えているようだ。