「おはよう! エレナ」
「おはようございます。レオさん!」
いつものように朝の畑仕事へと出たレオ。
エレナも少し遅れてやってきて、2人は朝の挨拶を交わす。
「ベンさんから聞いたんだけど、心配かけてしまったようだね?」
「い、いえ、レオさんが元気そうで良かったです」
ルイゼンの戦争地から帰って、レオは工房にこもることが多かった。
レオとしては新しい人形を思いつき、それを作ることに熱中してしまっただけなのだが、どうやらいつも以上に熱中してしまったことがエレナを心配させていたようだ。
それを執事のベンヴェヌートに言われて、ようやくレオはそのことに気が付いた。
そのことを申し訳なく思いレオが謝罪すると、エレナは明るい表情をしているレオを見て安心したのか、首を左右に振って返答した。
「新しい人形を作るのに熱中しちゃったんだ。それも完成したし、もういつも通りの日常に戻るよ」
「そうですか。安心しました」
新しい人形の製作も終了したので、もう工房にこもるようなことは減らすつもりだ。
いつも通りということは、前のように一緒にのんびり話す時間ができるということになる。
エレナはそのことが嬉しく、満面の笑みを浮かべた。
「どんな人形かお聞きしてもよろしいですか?」
「……いや、出来れば使うことがない方が良い人形だから、エレナは知らない方が良いかも」
「そうですか……」
いつも以上に熱中していた人形ということで、当然エレナはどんなものなのか気になる。
それを聞いたことによるレオの返答で、エレナはなんとなく察しがついた。
自分が知らない方が良いということは、荒事に使う人形ということだ。
しかも、レオのその口ぶりからすると、かなりの威力の人形になるのだろう。
きっと多くの人間を相手にしても大丈夫なような……。
貴族は招集されれば従うのも義務だというのは貴族の娘であるエレナにも分かっている。
しかし、エレナの勝手な印象だが、性格的にレオには戦争は似合わない気がする。
レオには、人を多く殺めるようなことにはなるべくかかわって欲しくない所だ。
◆◆◆◆◆
「陛下!」
「どうした? サヴェリオ」
いつもの様子に戻ったレオたちと違い、こちらはそうは言っていられない。
ルイゼンとの戦いも思いのほか進まず、なかなか前線を進めることができないでいた。
このままでは、ルイゼン奪還するまでどれだけの年月がかかるか分からない。
それによる国庫の資金の支出が、どれほどになるか心配なところだ。
執務室で資料の数字に目を通しているクラウディオ王の所に、宰相のサヴェリオが慌てたように入室してきた。
「ルイゼン側から書状が届きました」
「何っ?」
元々王国の領地であるルイゼン領。
そこが勝手に独立とか言うからこのように戦うことになったのだ。
当然王国側からは譲歩しようという意思はない。
自国の領土を取り返すための戦いなのだからだ。
それに対して、ルイゼン側も徹底抗戦の態度だったのだが、どういう意図なのか書状が届いたということにクラウディオは若干訝しんだ。
「ルイゼン側から……、たいしたことは書かれていないのだろう?」
「恐らくは、そうかもしれませんね……」
頭のおかしいムツィオのことだ。
きっと内容も、ふざけたことしか書かれていないのだろう。
2人ともそのように思いながら、その書状に目を通すことにした。
「んっ?」
「……何か?」
書状に目を通したクラウディオは、何か引っかかりを覚えるような反応を示した。
その書状を受け取ったサヴェリオも、何が書かれているのか目を通す。
「終戦へ向けての会談をしたいという話だ」
「なんと!」
これまで何の反応も示してこなかったというのに、何か心変わりでもあったかのような反応だ。
しかし、終戦と言ってもこちらがまたわずかずつだが押し返している状況。
時間と費用がかかるが、当然このまま進めて奪い返すのが狙いだ。
ルイゼン側に譲歩するような気は、今の所さらさらない。
それはルイゼン側も分かっているはずなのに、今さら会談などとはどういう考えなのだろうか。
「そもそも、反乱を企て、王国の一貴族でしかないものが、陛下と会談などとは傲慢な!」
「気持ちはわかるが、落ち着け!」
「申しわけありません……」
サヴェリオとしては、元伯爵風情が同じテーブルに着くという考えが気に喰わない。
そう思うと段々と腹が立って来たのか、怒りを露わにし始めた。
その様子を見て逆に冷静になれたのか、クラウディオはサヴェリオを諫める。
自分の冷静を欠いた態度を見られ、サヴェリオは少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「……さて、どうしたものか……」
相手の出方次第だが、終戦出来ると考えると聞くだけ聞いてみるというのもありかもしれない。
ルイゼン家は潰して他の人間に継がせることは当然だが、ムツィオなら平気で助命を嘆願してきそうだ。
それを認める訳にはいかないが、認めないと戦いも長引くことになる。
頭のおかしな人間が相手なだけに、何とか上手くことを収められないものか悩みどころだ。
「どんな要求してくるのか興味がある。会談を受け入れる方向で進めよう」
「畏まりました」
「もしも降伏しないとなった場合は……?」
「ならばこちらは全力を持って叩き潰すだけだ!」
王国側にはまだ兵を集めることは可能だ。
スケルトンの数も魔法でどうにか抑え込むことができている。
有利に進めている王国側が譲歩する訳にもいかないため、サヴェリオの言うように降伏しないようなら、更なる兵の増員により一気に叩き潰すという手に出るのもいいかもしれない。
身分が下の者との同等の会談というのは気に入らないが、とりあえずムツィオがどう出るのか見てみるしかない。
そう考えたクラウディオは、会談の提案を受け入れることにした。
◆◆◆◆◆
「お待たせしました。ルイゼン側の代表のご到着です」
「ようやくか……」
会談の了承と共に、王国側は場所と日時を指定した書状を返した。
それを受けたルイゼン側から、了承の返事がきた。
そして指定した会談日になったのだが、ルイゼン側の代表がなかなかこの部屋へと入って来ない。
王国側の砦による会談となり警戒する気持ちもわかるが、一貴族でしかなかった者に待たされるのは不愉快なものだ。
ムツィオ側ならやるかもしれないが、敵地に乗り込んで来た者に危害を加えるなんて、そこまで劣等な行為をおこなうようなことはしない。
敵側は無意味に待たせて、自分から冷静さを奪うのが狙いなのだろうかと勘繰りたくなる。
「失礼します!」
「「っ!?」」
謁見の間の扉が開き、1人の男性が秘書らしき男性と室内へ入ってくる。
その姿を見たクラウディオとサヴェリオは、目を見開き驚く。
「どういうことだ?」
「お初にお目にかかります。陛下」
慌てるクラウディオを余所に、ルイゼン代表の男は恭しく頭を下げて挨拶をする。
若干わざとしくも見える態度だが、それよりも気になることがある。
「ルイゼン帝国代表のジェロニモ・ディ・ルイゼンです」
秘書らしき男は知らないが、クラウディオにはその顔に見覚えがある。
ルイゼンの代表としてきたのは、ムツィオではなくその息子のジェロニモだった。
代表同士の話し合いだという話だというのに、息子のジェロニモが来たことが理解できない。
「どうぞお見知りおきを……」
戸惑っているクラウディオを嘲笑うような笑みを浮かべ、もう一度頭を下げたジェロニモはそのまま会談の席へと着いたのだった。
「おはようございます。レオさん!」
いつものように朝の畑仕事へと出たレオ。
エレナも少し遅れてやってきて、2人は朝の挨拶を交わす。
「ベンさんから聞いたんだけど、心配かけてしまったようだね?」
「い、いえ、レオさんが元気そうで良かったです」
ルイゼンの戦争地から帰って、レオは工房にこもることが多かった。
レオとしては新しい人形を思いつき、それを作ることに熱中してしまっただけなのだが、どうやらいつも以上に熱中してしまったことがエレナを心配させていたようだ。
それを執事のベンヴェヌートに言われて、ようやくレオはそのことに気が付いた。
そのことを申し訳なく思いレオが謝罪すると、エレナは明るい表情をしているレオを見て安心したのか、首を左右に振って返答した。
「新しい人形を作るのに熱中しちゃったんだ。それも完成したし、もういつも通りの日常に戻るよ」
「そうですか。安心しました」
新しい人形の製作も終了したので、もう工房にこもるようなことは減らすつもりだ。
いつも通りということは、前のように一緒にのんびり話す時間ができるということになる。
エレナはそのことが嬉しく、満面の笑みを浮かべた。
「どんな人形かお聞きしてもよろしいですか?」
「……いや、出来れば使うことがない方が良い人形だから、エレナは知らない方が良いかも」
「そうですか……」
いつも以上に熱中していた人形ということで、当然エレナはどんなものなのか気になる。
それを聞いたことによるレオの返答で、エレナはなんとなく察しがついた。
自分が知らない方が良いということは、荒事に使う人形ということだ。
しかも、レオのその口ぶりからすると、かなりの威力の人形になるのだろう。
きっと多くの人間を相手にしても大丈夫なような……。
貴族は招集されれば従うのも義務だというのは貴族の娘であるエレナにも分かっている。
しかし、エレナの勝手な印象だが、性格的にレオには戦争は似合わない気がする。
レオには、人を多く殺めるようなことにはなるべくかかわって欲しくない所だ。
◆◆◆◆◆
「陛下!」
「どうした? サヴェリオ」
いつもの様子に戻ったレオたちと違い、こちらはそうは言っていられない。
ルイゼンとの戦いも思いのほか進まず、なかなか前線を進めることができないでいた。
このままでは、ルイゼン奪還するまでどれだけの年月がかかるか分からない。
それによる国庫の資金の支出が、どれほどになるか心配なところだ。
執務室で資料の数字に目を通しているクラウディオ王の所に、宰相のサヴェリオが慌てたように入室してきた。
「ルイゼン側から書状が届きました」
「何っ?」
元々王国の領地であるルイゼン領。
そこが勝手に独立とか言うからこのように戦うことになったのだ。
当然王国側からは譲歩しようという意思はない。
自国の領土を取り返すための戦いなのだからだ。
それに対して、ルイゼン側も徹底抗戦の態度だったのだが、どういう意図なのか書状が届いたということにクラウディオは若干訝しんだ。
「ルイゼン側から……、たいしたことは書かれていないのだろう?」
「恐らくは、そうかもしれませんね……」
頭のおかしいムツィオのことだ。
きっと内容も、ふざけたことしか書かれていないのだろう。
2人ともそのように思いながら、その書状に目を通すことにした。
「んっ?」
「……何か?」
書状に目を通したクラウディオは、何か引っかかりを覚えるような反応を示した。
その書状を受け取ったサヴェリオも、何が書かれているのか目を通す。
「終戦へ向けての会談をしたいという話だ」
「なんと!」
これまで何の反応も示してこなかったというのに、何か心変わりでもあったかのような反応だ。
しかし、終戦と言ってもこちらがまたわずかずつだが押し返している状況。
時間と費用がかかるが、当然このまま進めて奪い返すのが狙いだ。
ルイゼン側に譲歩するような気は、今の所さらさらない。
それはルイゼン側も分かっているはずなのに、今さら会談などとはどういう考えなのだろうか。
「そもそも、反乱を企て、王国の一貴族でしかないものが、陛下と会談などとは傲慢な!」
「気持ちはわかるが、落ち着け!」
「申しわけありません……」
サヴェリオとしては、元伯爵風情が同じテーブルに着くという考えが気に喰わない。
そう思うと段々と腹が立って来たのか、怒りを露わにし始めた。
その様子を見て逆に冷静になれたのか、クラウディオはサヴェリオを諫める。
自分の冷静を欠いた態度を見られ、サヴェリオは少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「……さて、どうしたものか……」
相手の出方次第だが、終戦出来ると考えると聞くだけ聞いてみるというのもありかもしれない。
ルイゼン家は潰して他の人間に継がせることは当然だが、ムツィオなら平気で助命を嘆願してきそうだ。
それを認める訳にはいかないが、認めないと戦いも長引くことになる。
頭のおかしな人間が相手なだけに、何とか上手くことを収められないものか悩みどころだ。
「どんな要求してくるのか興味がある。会談を受け入れる方向で進めよう」
「畏まりました」
「もしも降伏しないとなった場合は……?」
「ならばこちらは全力を持って叩き潰すだけだ!」
王国側にはまだ兵を集めることは可能だ。
スケルトンの数も魔法でどうにか抑え込むことができている。
有利に進めている王国側が譲歩する訳にもいかないため、サヴェリオの言うように降伏しないようなら、更なる兵の増員により一気に叩き潰すという手に出るのもいいかもしれない。
身分が下の者との同等の会談というのは気に入らないが、とりあえずムツィオがどう出るのか見てみるしかない。
そう考えたクラウディオは、会談の提案を受け入れることにした。
◆◆◆◆◆
「お待たせしました。ルイゼン側の代表のご到着です」
「ようやくか……」
会談の了承と共に、王国側は場所と日時を指定した書状を返した。
それを受けたルイゼン側から、了承の返事がきた。
そして指定した会談日になったのだが、ルイゼン側の代表がなかなかこの部屋へと入って来ない。
王国側の砦による会談となり警戒する気持ちもわかるが、一貴族でしかなかった者に待たされるのは不愉快なものだ。
ムツィオ側ならやるかもしれないが、敵地に乗り込んで来た者に危害を加えるなんて、そこまで劣等な行為をおこなうようなことはしない。
敵側は無意味に待たせて、自分から冷静さを奪うのが狙いなのだろうかと勘繰りたくなる。
「失礼します!」
「「っ!?」」
謁見の間の扉が開き、1人の男性が秘書らしき男性と室内へ入ってくる。
その姿を見たクラウディオとサヴェリオは、目を見開き驚く。
「どういうことだ?」
「お初にお目にかかります。陛下」
慌てるクラウディオを余所に、ルイゼン代表の男は恭しく頭を下げて挨拶をする。
若干わざとしくも見える態度だが、それよりも気になることがある。
「ルイゼン帝国代表のジェロニモ・ディ・ルイゼンです」
秘書らしき男は知らないが、クラウディオにはその顔に見覚えがある。
ルイゼンの代表としてきたのは、ムツィオではなくその息子のジェロニモだった。
代表同士の話し合いだという話だというのに、息子のジェロニモが来たことが理解できない。
「どうぞお見知りおきを……」
戸惑っているクラウディオを嘲笑うような笑みを浮かべ、もう一度頭を下げたジェロニモはそのまま会談の席へと着いたのだった。