「まさかまた陞爵して帰ってくるなんて思いもしなかったな」
「僕もです」
島に戻ったレオは、島民の歓迎を受けた。
後日陞爵した祭りを開きたいという案が上がっているらしいので了承しておいた。
留守中の島の様子を聞くため、レオはガイオと共に領主邸に帰ることにした。
すると、開口一番ガイオはレオの出世の速さを独りごちる。
その驚きと呆れが混じったような言葉に、レオも自身のことながら同じ思いを感じている。
こうも短期間の陞爵となると、燻っている他の貴族からやっかみを受けないか不安だ。
「島では何か変わったことはありませんでしたか?」
「あぁ、そのことなんだが……」
「あっ! レオさん! おかえりなさい!」
島民たちに挨拶をしていたため後回しになってしまったが、領主邸も近くなりようやく目的の話ができるようになった。
ここまでの様子からは特に変化も無いようなので、レオはひとまず安心していた。
しかし、ガイオには先日のことがあったので、それを告げておこうと話し始めたのだが、今度はドナートとヴィートを引き連れたエレナがレオを見つけて近寄ってきたため、話が中断されることになった。
「ただいま! エレ……ナ? その子……」
返事をしたレオだったが、エレナがいつもと違ったので言葉に詰まった。
そうなってしまったのも、エレナの肩に1匹の生物が乗っかっていたからだ。
「……確か羽カワウソだよね?」
「はい! 私の従魔にしました!」
肩に乗っているのは羽の生えたカワウソで、そのまま羽カワウソと呼ばれている魔物だ。
魔物と言っても戦闘力はそれ程高くないため、単体なら全く脅威にはならないため、捕まえさえすれば従魔にできないこともない。
しかし、どういった経緯でそうなったのだろうか。
「イラーリと名付けました」
「へ~……」
「っ!! 待っ……」
肩にいた羽カワウソのイラーリを両手で抱いて、エレナは紹介するようにレオに見せてきた。
つぶらな瞳でじっと見つめているイラーリに、頭を撫でようと手を伸ばした。
しかし、そのレオの行為に、側にいたドナートが待ったをかけようとした。
「キュ~!」
「えっ? どうしました?」
ドナートの待ったが途切れたことに不思議に思い、嬉しそうな鳴き声を上げるイラーリを撫でているレオはその理由を問いかけた。
「……何でこいつレオには懐いてんだ?」
「……? どういうことですか?」
大人しく撫でられているイラーリを睨みつつ、ドナートは文句を言うように呟いた。
何か撫でてはいけない理由でもあったのだろうか。
ドナートが腹を立てている理由が分からず、レオは首を傾げた。
「こいつ人選ぶんだよ」
「俺たちが撫でようとすると嫌がって威嚇してくるんだ」
「へぇ~……」
どうやら、さっきドナートが止めようとしたのはそのせいらしい。
ドナートとヴィートが触ろうとすると、どういう訳だか威嚇してきて、それを無視して強引に捕まえようとしたら、軽く噛みつかれたそうだ。
それがあったので、もしかしたらレオにも噛みつく可能性があると感じ、ドナートは待ったをかけたようだ。
しかし、それも意味がなかった。
イラーリはすぐにレオを受け入れ、自分を撫でるレオの手に頬を摺り寄せていた。
「ガイオさんやセバスさんにはおとなしいのは分かるんだが、何でレオまで……」
「そうなんですか? こんなにおとなしいのに……」
「キュ~」
ドナートだけでなく、ヴィートもイラーリの態度が納得いかないようだ。
ガイオやセバスティアーノは自分たちよりも強いから、その強者の雰囲気に従っておとなしくしているのかと思っていた。
だが、レオにまであっさり懐いているのは少し納得いかないようだ。
たしかにスキルを使えば自分たちよりも強いかもしれないが、そのスキルで動く人形たちがいない状態のレオにどうしてイラーリが懐いているのか。
その基準が曖昧なのが納得いかない原因かもしれない。
そう言われても、レオとしては何も言えない。
レオ自身、何でイラーリに懐かれているのか分からないのだから。
「どうやって従魔にしたの?」
「オルさんにしがみついてきたのですが、大怪我をしていたので治してあげたんです。森に帰そうとしたのですが、戻ってきてしまって……」
「へ~……、さすがだね」
大怪我というが、今のイラーリには怪我をしている形跡はない。
そうなると、エレナが回復魔法をかけたということなのだろう。
島の住人でエルフの魔法使いであるジーノ。
彼は主に島の中で見込みのある若者に魔法を教えることをしているのだが、レオだけでなくエレナも指導を受けていた。
エレナの場合、攻撃的な魔法はそれ程上達しなかったが、補助系などの魔法は成長した。
その中でも回復系の魔法は合っているのか、その才はレオよりも上だった。
イラーリの大怪我というのも、エレナが回復魔法をかけたことで治ったのだろう。
魔物とはいえ、この愛らしい姿を見たエレナが治してしまいたくなったのは仕方がないかもしれない。
レオも同じようなことをしてクオーレを従魔にしたので、特になにかいうこともできないところだ。
「羽カワウソって食欲旺盛って聞いたことがあるけど?」
見た目の可愛らしさから、羽カワウソを愛玩用に従魔にする者もいるという。
それをおこなうのは貴族の人間が多いのだが、その原因が羽カワウソの食事量だ。
小さい体なのにもかかわらず、自重の何倍もの食料を毎日摂取するその食欲を満たすとなると、かなりの食費を賄えないといけない。
普通の市民では、とても養っていける従魔ではない。
「成人男性3人分といったところでしょうか?」
「かなり食べるんだね……」
「住民の皆さんが廃棄せざるを得ない食材をくれるので問題ないです」
今ルイゼン領は戦争の地と化しているが、そのうち王国軍が制圧してくれることだろう。
そうなった時、エレナには領地に戻って市民を導く希望となってもらいたい。
戻った時のためにレオの領地経営の補助をしてもらっているが、その給金を使うにしてもかなりの資金がイラーリの食事代に消えてしまうことになる。
エレナの懐具合が心配になるが、それも杞憂だったようだ。
羽カワウソを従魔にしたと聞いて、町のみんなが食料代わりに食材を提供してくれているらしい。
人気があるエレナだからできることかもしれない。
「この子たちはクオーレとエトーレで僕の従魔で家族だよ」
「ニャッ!」“スッ!”
「キュッ!」
とりあえず、エレナがイラーリを従魔にしたことは分かったので、レオは自分の従魔を紹介することにした。
レオに紹介されたクオーレは一声鳴き、エトーレは前足を片方上げて挨拶をした。
魔物同士言葉が通じているのかは分からないが、イラーリも理解したらしく鳴き声を上げて返事をした。
「それでは家で……じゃなかった。話が途中でしたね。すいません、ガイオさん」
「いや、イラーリのことも言うつもりだったから気にするな」
イラーリのことを話していたことで、ガイオとのやり取りのことを忘れてしまっていた。
このまま家に入ろうかとしていたレオは、そのことを思い出してガイオへ謝った。
ただ、ガイオの報告の1つはイラーリのことだったようで、全然気にしていなかった。
「問題が1つあった。恐らくはルイゼン側の刺客だと思うが、エレナ嬢の生存が知られてしまった」
「えっ!! ……そう、ですか……」
まさかの内容に驚いた。
ルイゼン側の諜報員は王国内に紛れているのは分かっている。
どこの領でもその諜報員の捜索をおこなっているそうだ。
自分で言うのもは気が引けるが、この島に入っても国の情報なんて手に入れられない。
その思いから、刺客を仕向けられる可能性は低いと思っていたのだが、敵側の情報収集力がかなり高かったようだ。
「知られてしまったとしても、今の現状では敵は何もできないでしょう。一応警戒しておきましょう」
「あぁ!」
ルイゼン側からすれば王国の情報収集が優先で、エレナのことは後回しにするしかない。
例え更なる刺客を送り込んで来ようとも、ガイオやセバスティアーノがいればエレナの安全は大丈夫だろう。
念のため島の警戒をしつつ様子を見るように、レオたちは普通に生活することにした。
「僕もです」
島に戻ったレオは、島民の歓迎を受けた。
後日陞爵した祭りを開きたいという案が上がっているらしいので了承しておいた。
留守中の島の様子を聞くため、レオはガイオと共に領主邸に帰ることにした。
すると、開口一番ガイオはレオの出世の速さを独りごちる。
その驚きと呆れが混じったような言葉に、レオも自身のことながら同じ思いを感じている。
こうも短期間の陞爵となると、燻っている他の貴族からやっかみを受けないか不安だ。
「島では何か変わったことはありませんでしたか?」
「あぁ、そのことなんだが……」
「あっ! レオさん! おかえりなさい!」
島民たちに挨拶をしていたため後回しになってしまったが、領主邸も近くなりようやく目的の話ができるようになった。
ここまでの様子からは特に変化も無いようなので、レオはひとまず安心していた。
しかし、ガイオには先日のことがあったので、それを告げておこうと話し始めたのだが、今度はドナートとヴィートを引き連れたエレナがレオを見つけて近寄ってきたため、話が中断されることになった。
「ただいま! エレ……ナ? その子……」
返事をしたレオだったが、エレナがいつもと違ったので言葉に詰まった。
そうなってしまったのも、エレナの肩に1匹の生物が乗っかっていたからだ。
「……確か羽カワウソだよね?」
「はい! 私の従魔にしました!」
肩に乗っているのは羽の生えたカワウソで、そのまま羽カワウソと呼ばれている魔物だ。
魔物と言っても戦闘力はそれ程高くないため、単体なら全く脅威にはならないため、捕まえさえすれば従魔にできないこともない。
しかし、どういった経緯でそうなったのだろうか。
「イラーリと名付けました」
「へ~……」
「っ!! 待っ……」
肩にいた羽カワウソのイラーリを両手で抱いて、エレナは紹介するようにレオに見せてきた。
つぶらな瞳でじっと見つめているイラーリに、頭を撫でようと手を伸ばした。
しかし、そのレオの行為に、側にいたドナートが待ったをかけようとした。
「キュ~!」
「えっ? どうしました?」
ドナートの待ったが途切れたことに不思議に思い、嬉しそうな鳴き声を上げるイラーリを撫でているレオはその理由を問いかけた。
「……何でこいつレオには懐いてんだ?」
「……? どういうことですか?」
大人しく撫でられているイラーリを睨みつつ、ドナートは文句を言うように呟いた。
何か撫でてはいけない理由でもあったのだろうか。
ドナートが腹を立てている理由が分からず、レオは首を傾げた。
「こいつ人選ぶんだよ」
「俺たちが撫でようとすると嫌がって威嚇してくるんだ」
「へぇ~……」
どうやら、さっきドナートが止めようとしたのはそのせいらしい。
ドナートとヴィートが触ろうとすると、どういう訳だか威嚇してきて、それを無視して強引に捕まえようとしたら、軽く噛みつかれたそうだ。
それがあったので、もしかしたらレオにも噛みつく可能性があると感じ、ドナートは待ったをかけたようだ。
しかし、それも意味がなかった。
イラーリはすぐにレオを受け入れ、自分を撫でるレオの手に頬を摺り寄せていた。
「ガイオさんやセバスさんにはおとなしいのは分かるんだが、何でレオまで……」
「そうなんですか? こんなにおとなしいのに……」
「キュ~」
ドナートだけでなく、ヴィートもイラーリの態度が納得いかないようだ。
ガイオやセバスティアーノは自分たちよりも強いから、その強者の雰囲気に従っておとなしくしているのかと思っていた。
だが、レオにまであっさり懐いているのは少し納得いかないようだ。
たしかにスキルを使えば自分たちよりも強いかもしれないが、そのスキルで動く人形たちがいない状態のレオにどうしてイラーリが懐いているのか。
その基準が曖昧なのが納得いかない原因かもしれない。
そう言われても、レオとしては何も言えない。
レオ自身、何でイラーリに懐かれているのか分からないのだから。
「どうやって従魔にしたの?」
「オルさんにしがみついてきたのですが、大怪我をしていたので治してあげたんです。森に帰そうとしたのですが、戻ってきてしまって……」
「へ~……、さすがだね」
大怪我というが、今のイラーリには怪我をしている形跡はない。
そうなると、エレナが回復魔法をかけたということなのだろう。
島の住人でエルフの魔法使いであるジーノ。
彼は主に島の中で見込みのある若者に魔法を教えることをしているのだが、レオだけでなくエレナも指導を受けていた。
エレナの場合、攻撃的な魔法はそれ程上達しなかったが、補助系などの魔法は成長した。
その中でも回復系の魔法は合っているのか、その才はレオよりも上だった。
イラーリの大怪我というのも、エレナが回復魔法をかけたことで治ったのだろう。
魔物とはいえ、この愛らしい姿を見たエレナが治してしまいたくなったのは仕方がないかもしれない。
レオも同じようなことをしてクオーレを従魔にしたので、特になにかいうこともできないところだ。
「羽カワウソって食欲旺盛って聞いたことがあるけど?」
見た目の可愛らしさから、羽カワウソを愛玩用に従魔にする者もいるという。
それをおこなうのは貴族の人間が多いのだが、その原因が羽カワウソの食事量だ。
小さい体なのにもかかわらず、自重の何倍もの食料を毎日摂取するその食欲を満たすとなると、かなりの食費を賄えないといけない。
普通の市民では、とても養っていける従魔ではない。
「成人男性3人分といったところでしょうか?」
「かなり食べるんだね……」
「住民の皆さんが廃棄せざるを得ない食材をくれるので問題ないです」
今ルイゼン領は戦争の地と化しているが、そのうち王国軍が制圧してくれることだろう。
そうなった時、エレナには領地に戻って市民を導く希望となってもらいたい。
戻った時のためにレオの領地経営の補助をしてもらっているが、その給金を使うにしてもかなりの資金がイラーリの食事代に消えてしまうことになる。
エレナの懐具合が心配になるが、それも杞憂だったようだ。
羽カワウソを従魔にしたと聞いて、町のみんなが食料代わりに食材を提供してくれているらしい。
人気があるエレナだからできることかもしれない。
「この子たちはクオーレとエトーレで僕の従魔で家族だよ」
「ニャッ!」“スッ!”
「キュッ!」
とりあえず、エレナがイラーリを従魔にしたことは分かったので、レオは自分の従魔を紹介することにした。
レオに紹介されたクオーレは一声鳴き、エトーレは前足を片方上げて挨拶をした。
魔物同士言葉が通じているのかは分からないが、イラーリも理解したらしく鳴き声を上げて返事をした。
「それでは家で……じゃなかった。話が途中でしたね。すいません、ガイオさん」
「いや、イラーリのことも言うつもりだったから気にするな」
イラーリのことを話していたことで、ガイオとのやり取りのことを忘れてしまっていた。
このまま家に入ろうかとしていたレオは、そのことを思い出してガイオへ謝った。
ただ、ガイオの報告の1つはイラーリのことだったようで、全然気にしていなかった。
「問題が1つあった。恐らくはルイゼン側の刺客だと思うが、エレナ嬢の生存が知られてしまった」
「えっ!! ……そう、ですか……」
まさかの内容に驚いた。
ルイゼン側の諜報員は王国内に紛れているのは分かっている。
どこの領でもその諜報員の捜索をおこなっているそうだ。
自分で言うのもは気が引けるが、この島に入っても国の情報なんて手に入れられない。
その思いから、刺客を仕向けられる可能性は低いと思っていたのだが、敵側の情報収集力がかなり高かったようだ。
「知られてしまったとしても、今の現状では敵は何もできないでしょう。一応警戒しておきましょう」
「あぁ!」
ルイゼン側からすれば王国の情報収集が優先で、エレナのことは後回しにするしかない。
例え更なる刺客を送り込んで来ようとも、ガイオやセバスティアーノがいればエレナの安全は大丈夫だろう。
念のため島の警戒をしつつ様子を見るように、レオたちは普通に生活することにした。