「本人も驚いているようでしたね?」

「あぁ、そりゃそうだろ」

 レオへ褒賞を与え終わったクラウディオは、宰相のサヴェリオと共に執務室へと向かった。
 そこで、2人だけになると先程のレオの話へとなった。
 サヴェリオが言うように、陞爵を告げた時のレオが戸惑っているのが2人には読み取れていた。
 恐らく本人は賞金などを予想していただろう。
 それが、陞爵なのだからそうなるのも仕方がない。
 クラウディオはレオの反応を当然のものだと感じていた。

「ディスカラからの報告には、今回の勝利はレオポルドの成果であるということが遠回しに書かれていた。他の貴族連中から目を付けられないためにと考えてのことだろう」

「陞爵となると、たしかに面白くないと思う者もいるかもしれませんね」

 レオの望みを受け、ディスカラはクラウディオへ勝利の報告をする時、わざと遠回しに告げて評価を得過ぎないようにしたつもりだ。
 しかし、どうやらそれはクラウディオにはバレていたようだ。
 報告内容からすると嘘でもないし、自分の成果としている素振りもない。
 そのため、文句を言うつもりもないが、クラウディオからすると気にし過ぎだ。
 勝利の立役者となった者をきちんと評価するのは、王としての重要な仕事だ。
 先代の時のように不正を働く者は潰し、真面目に成果を出す者は評価する。
 それが今クラウディオがおこなっている国の立て直しだ。
 しかし、他人が評価をされることを良く思わない者は必ずいるものだ。
 今回レオの成果は指名手配犯の捕縛と、犯罪をおこなった貴族の摘発の協力ということになっている。
 たしかに評価すべき功績ではあるが、陞爵するほどの功績かと言われると微妙なところだ。
 サヴェリオの言うように、この評価に納得できない貴族もいるかもしれない。

「先代の膿は大体処理し終わった。他人の邪魔をするより自分の実力を示すべきという私の考えが伝わったはずだ」

「そうですね。あの場で誰も文句を言う者はいませんでしたからね」

 今回の戦いの最初、クラウディオは先代の時に色々やらかしていた貴族たちを送った。
 戦場で数人でも死んでくれたらいいと思っての人選だった。
 ムツィオが独立を宣言した時、数で勝る王国が勝つとは思ってはいたが、独立を宣言するだけあって敵も何かしらの罠を用意していると考えていた。
 まさか奪還した砦にスケルトンの出現というトラップを仕掛けているとは思わなかったが、ストヴァルテ公爵が真っ先に死んでくれたのは運が良かった。
 さすがに公爵家の人間を潰すには、王としてもそれなりの理由が必要だ。
 その一番のネックだった公爵家が真っ先に潰せて、その派閥の解体が可能になった。
 今ではおかしなことをする貴族はいないはずだ。

「しかし、あのレオポルドが功労者というのは本当なのでしょうか?」

「兵の中には王室調査官の者も紛れている。その者の報告からも、ディスカラと同じような報告がされているから本当なのだろう」

 ディスカラからは方法は詳しくは書かれていなかったが、敵後方からの攻撃をおこなったということは報告されている。
 それにより勝利を得たとのことだが、問題貴族を監視する目的で、軍の中には王室調査官も紛れ込ませていた。
 その王室調査官の報告も、敵後方からの攻撃により混乱した敵を後退させるにことに成功したというものだった。
 どちらの報告にもレオの存在が見え隠れしているため、恐らくレオが何かしらの能力を有していて、その能力による勝利なのだと考えている。

「何の能力なのかを吐かせますか?」

「無理強いはしたくないな。ルイゼンのように敵対されたくない」

 敵後方からの攻撃を可能にしたことも脅威だが、それよりもどうやって敵に大打撃を与えたのかが気になる。
 その能力次第では王国にとって大いなる力をもたらしてくれることになる。
 しかし、それを好き勝手に利用して敵対されれば、ルイゼン領のように独立を宣言される可能性も考えられる。
 レオがそのような野心を持っているようには思えないが、面倒事が増えるのは避けたい。
 そのうち明かされることを期待するしかない。

「レオポルドのことも気になるが、それよりもルイゼンだ。あのスケルトンをどうにかしないとこちらも兵を増やし続けるしかないぞ」

 当初の思惑通り問題貴族たちの一掃はできたが、ルイゼン側の行動は予想外だった。
 大多数のスケルトンの軍団を相手に苦戦するのも仕方がないところだが、このままでは兵の増強をし続けることになる。
 そうなると、兵にかかる資金によって国内の経済に問題が起きかねない。
 他国とはすぐに戦争となるような仲ではないので攻め込まれる心配は少ないが、念のため国境沿いには軍を配備しておく必要はある。
 兵の増強もいつまでもできない状況だ。

「それに引きかえ、スケルトンは物を食べないですからね」

 王国は兵の食料のために出費しなくてはならない。
 それとは反対に、ルイゼン側はその費用が必要ない。
 時間がかかればかかるほど、不利になるのは王国側になるということだ。

「こんな事なら海岸防衛をさせるべきではなかったな」

「しかし、それは先々代の頃からのことですので……」

 王国側が海からではなく陸地から攻め込むのには理由がある。
 ルイゼンは貿易の観点から他国の侵略を受ける可能性があった。
 それを阻止するために、王家はエレナの祖父である先々代の領主に海岸防衛の強化を指示していた。
 そのお陰もあってか、ルイゼン領は敵国からの侵略は不可能なほどに強化されている。
 今となってはそれがネックとなり、王国側が海から攻め込むという策がとれない原因となっていて、陸地からの侵攻という手しか取れなくなっているのだ。

「スケルトン対策を思いつく限り実行するしかないな」

「そうですね……」

 問題なのはスケルトンの軍団だ。
 それさえ何とかできれば、こちらが有利に攻め込めるはずだ。
 援軍に向かった者たちには、それを意識するように告げているので、無策で挑むことはないだろう。
 クラウディオとサヴェリオからすると、何か一つでも成功することを期待するしかなかった。

「カロージェロとイルミナートの処刑はいつなさいますか?」

 レオが捕まえたカロージェロとイルミナートは、王都の牢にて以前処刑されたフィオレンツォと同じような扱いを受けている。
 死ななければ何をしても良いと兵たちには告げてあるので、きっと代わる代わる袋叩きにあっていることだろう。

「敵の情報を吐かせた後、早々に決行しろ!」

「畏まりました」

 指名手配されるような犯罪を犯しておいて、敵に協力するなど殺すのももったいないと思えるが、生かしておくのも邪魔でしかない。
 彼ら自身が指揮していた市民兵のことも気になる。
 スケルトンの数を揃えるまでの時間稼ぎとはいえ、市民を強制的に奴隷にするなどまともな神経の持ち主ではない。
 それを実行した者を突き止め、処罰しないことには後々の禍根を残すことになりかねない。
 王国へのこれまで迷惑をかけたことへの償いとして、せめて敵のスケルトンに関わる情報と共に、その情報を吐くことを期待する。
 その後は早々に処刑して、ルイゼンとの戦いに集中したいところだ。





「何故だー!! 伯爵である私が処刑などあり得ん!!」

「俺は何もしていない!! 全ての悪事は父がおこなったことだ!!」

 もう剥奪された爵位を喚き、犯罪を犯しておきながら罪を認めないカロージェロ。
 加担しておきながら、罪を父に擦り付けようとするイルミナート。
 今となっては、罪を悔いて死んだフィオレンツォの方がまだまともだったように思える。
 全ての罪を知る市民からの怒号が飛ぶ中、2人の処刑は執行された。

「…………」

 レオはその死刑執行を見届けた。
 フィオレンツォの時同様、父と兄が処刑されても何故か悲しみよりも安心した思いがあった。