伊豆下田でお互いの気持ちを確かめ合い結ばれてから、今日でほぼ2週間になる。間に生理があって、ようやく「痛い痛い」がなくなってきた。

久恵ちゃんがお風呂から上がって身繕いを終えたころを見計らって、ドアをノックする。

「今日はここに泊まってもいい?」

「嬉しい、ソファーに座って下さい」

ピンクの花柄のパジャマを着ている。化粧をしていない素顔がとても可愛い。ここのところ、日ごとに女っぽくなっている。隣に座った久恵ちゃんを抱き寄せる。

今日は決心をして久恵ちゃんの部屋を訪ねた。今までは痛がるので最後までできていなかった。無理すればできたが、大切にしたいという思いがそうさせた。

いつもよりもゆっくり久恵ちゃんを可愛がって、ようやく最後まで愛し合った。久恵ちゃんもそれが分かって「嬉しい」というのが聞こえた。

ちゃんと避妊はしている。今、久恵ちゃんが妊娠したら可哀そうだ。それよりも、もう少し二人だけの生活を楽しみたいと思っているからでもある。

久恵ちゃんはまだジッとして動かない。そっと布団をかけて、隣に横たわって、手を握った。「腰がだるい」そう言って眠ってしまった。

どのくらい時間が経過したか分からない。僕も眠っていたみたい。久恵ちゃんがトイレに立った。そして、戻ってくると、身体を滑り込ませてきて「うしろから抱いて寝て下さい」といって背をむけた。抱きながら、久恵ちゃんの耳元で話始めた。

「兄貴が死んだ時、大人になった久恵ちゃんを見て、とても愛おしく可愛いと思った。自分の手元に置いておきたいと思ったから、東京へ誘った。それからというもの、どれほど、自分のものにしてしまいたいと思ったことか。楽しい生活が続くほど、その思いが募った」

「私もパパのこと嫌いでなかったから、東京で面倒を見てくれると言ってくれたとき、とても嬉しかった。本当にあの時は一人ぼっちでとても寂しかった。これから、どう生きて行こうかと不安だった。それから学校まで行かせてくれるというので、どうお礼をしていいのかと思った。だから、愛人になってもいいと言ったのは、あれは本心から。パパのこと慰めて上げられれば、それがお礼になると思ったの。だから、始めから、いつパパが私の部屋に入ってきて私を求めても覚悟はできていたの」

「そうしてしまいたいと思うことは、確かにあった。でもそうしたら、久恵ちゃんを傷つけてしまうことになると思っていた。歳も離れているし、それは絶対にできないし、してはいけないと」

「パパが私を大切に大切にしてくれるから、どんどんとっても好きになっていったの。お部屋に入ってきて、パパのものにしてほしかったけど、パパはそっけなくて寂しかった。でも、あのキスをしてもらった時に分かったの、パパの気持ち。本当は私がほしいんだと」

やっぱりね。やりすぎたと思ったけどけどそれがよかったみたい。

「あの時は確かにとても幸せな気分だった。あんなことを言ってくるとは思いもしなかった」

「あの時のパパ、キスがとても上手だった。それに、女性の扱いにとても慣れている感じがする。パパは確か恋愛がうまくいかずに結婚できなかったと言っていたけど、なぜ?」

鋭い! やはりそこへ来たか!

「僕が結婚できなくて、憂鬱な生活を送っている時に、面倒を見てやっている後輩がソープランドへ誘ってくれた。寂しさを紛らわすために、それから度々通った。そこで、女性の扱いを学んだ。でも刹那的な関係の虚しさが募ったので、いつの間にか行かなくなった」

久恵ちゃんと同居してばれそうになったから、やめたとはとても言えない。

「そうなんだ。でも、もう絶対に行かせない。私が満足させてあげる」

独占欲が強くてやはり怖い! もう絶対に行かないし、行ったら罰《バチ》が当たる。

「分かっている。約束する」

「気になっていることがあるけど、聞いていい?」

「いいよ、何でも聞いて」

「歳の差のことなんだけど。久恵ちゃんが22歳、僕が40歳で18歳も離れている。僕が60歳の時は、まだ42歳なんだよ。それでもいいのかい?」

「両親が死んだ時に思ったの。人間いつ死ぬか分からない。それなら今日を精一杯生きればいいと。精一杯生きた今日の連続が人生だと。先のことなんか分からないから、パパとの 一日一日を大切にしたいの。それにパパが調理師免許を取らせてくれたから、いつでも仕事は見つかると思うし、住むところもここにあるから、一人でもシングルマザーでもなんとかやっていく自信ができました。ママも一人で私を育ててくれたから、私にもきっとできるはずです」

「その覚悟を聞いて安心した。でも、僕は長生きして死ぬまで久恵ちゃんを守り抜くことを誓うよ」

「ありがとう。頼りにしてます」

「うちの母親が言っていたけど、死ぬ死ぬと言っている奴に限って死んだ者はいないそうだ。将来展望も大切だよ」

あれれ! 久恵ちゃんはもう眠っている。やっぱり疲れたのかな?

今が一番良い時で今を大切にしたいと、僕と同じことを考えている。二人の気持ちが通じ合っている。そんなことを考えていると眠ってしまった。