あのときは手が震えていたと思う。うるさく鳴っていた心臓の音を今でも思い出すことができる。そんな状況でも、他に何か彼女についての情報がないか、引き出しを可能な限り調べ尽くした。一枚の写真を見つけて、それを見た瞬間、血の気が引き、手に持っていたスマホを落とした。

 写真には首から下が切断された男性の頭部(・・・・・)が写っていた。顔は血が通っていないせいか、青白く、すでに死んでいることがわかった。あれは人形なんかじゃない。間違いなく、人間だった。 

 頭がパニックになった俺は、トイレに駆け込み、吐いた。前日に食べた分まで、全て吐き出した。

 その時点で、俺は自分の身が危ないことくらいすぐにわかった。すぐに写真とスマホを持って、家を出た。彼女に出会う前に、なんとしてもこの家から離れないといけなかった。

 少し前にかかってきた電話で彼女はすぐに帰ると言った。本来であれば、彼女は夜まで帰ってこないはずなのだ。だって、夕飯を食べてから帰ると言って、今朝は家を出たのだ。
 きっと、電話中にもう一つのスマホの存在がバレたと思ったのだろう。けたたましく着信音が鳴っていたから、聞こえてしまったのだ。そして、俺が彼女の部屋にいたこともきっとバレている。

 俺が警察に駆け込んで、写真を見せても最初は悪ふざけだと掛け合ってくれなかったが、写真をよく見ると、最近行方不明で捜索中の男であることがわかり、警察はすぐに動いてくれた。彼女も状況を察して、逃亡しようとしていたところを警察に捕まえられた。

 それが四日前の話だ。

 まず彼女の本名は、佐々木由依(ささきゆい)というらしい。年齢も詐称していたようで、実年齢は27歳。大人びた印象を受けたのは、そういう理由だったのだろう。

 彼女は今までに三人を殺してきた殺人鬼で、俺のことも殺そうとしていたらしい。あと気づくのが一週間遅かったら、俺も彼らのように殺されていたと聞かされた。彼女から離れる決断をすぐにして良かったと心の底から思う。
 人体をパーツごとに切り落とし、それを写真に収め、恍惚と眺めることが趣味だったらしい。とんでもない悪趣味だ。

 彼女に殺された男性の共通点としては、ぽっちゃり体型だったらしい。俺は見事に当てはまっていたわけだ。

 今日のニュースでも彼女に関することが報道されている。彼女は俺の手の届かない、遠くへ行ってしまった。もう一生会うことはない。これから彼女は、俺も知らないような、もっともっと遠いところまで行くことになるだろうから。