僕たちは1か月後に大島さんの仲人で正式に婚約した。僕は東京へ帰ってからは毎日、紗奈恵とスカイプで話をした。午後10時の定時の連絡を欠かさなかった。

彼女は嬉しそうにそれを受けてくれた。映像が出るからきちんとした身なりでいてくれた。それに連絡を楽しみにしていてくれた。それが嬉しくて励みにもなった。

思っていることは何でも隠さずに話した。紗奈恵も何でも隠さずに話してくれた。この繋がった糸をもう二度と切れないようにしたい。僕はそう思ったし、紗奈恵もそう思っているに違いなかった。

週末に僕は必ず帰省した。僅かな時間の逢瀬だったが、とても時間が長く感じられたのはどうしてだろう。ほとんどの時間がお互いの家への訪問に費やされた。

二人きりになれたのは紗奈恵の部屋にいる短い時間だけだった。ソファーに座って抱き合ってキスしただけだったが、二人の気持ちは十分すぎるほどに満たされた。僕はそう感じていた。

結婚して紗奈恵は東京へ来ることになる。当面は僕の1LDKにそのまま住むことになった。2LDKへの引っ越しを提案したが、狭くても部屋に一緒に居た方がいいとそうなった。二人なら今のままでも住むことができる。僕もその方がよいと思った。

僕は一つだけ気になることがあった。僕の母親と紗奈恵との相性だ。智恵と母親はどうも相性が悪くて始めからぎくしゃくしていた。そしてだんだんと関係がうまくいかなくなった。いつの世も嫁姑戦争はなくならない。

当然のことながら夫婦仲にも影響する。息子である夫はどちらに着くこともできない。中立を維持するしかない。いや妻に付くべきなのかもしれない。智恵にはそうしてやるべきだった。今となってはそう思う。

紗奈恵も夫の母親とは折り合いがつかなかったと言っていた。僕の母親とはどうかと見ているが、相性は悪くはないようだ。二人とも苦い経験があるから、気を遣えるだけ遣っているようだ。僕としてはお互いにうまくやってくれることを祈るばかりだ。

でも今度は何があっても紗奈恵の味方になることに決めている。僕しか守ってやれないし、守り切る覚悟はしている。もう二度と同じ間違いは繰り返さないようにしたい。3度目はきっともうない。