誰にだって、知られたくない過去の1つや2つはある。
どんなに戻りたくても、後悔しても、同じ日を繰り返すことなどできない。
その過去を乗り越えて前に進むのか、それとも、過去に囚われ止まったままでいるのか。
過去は変えられなくとも、未来は変えられる。
そんな当たり前なことを、君は教えてくれたんだ。
 晴れ渡った空。澄み切った海。
 


   ”リーンゴーン″

  そして、優しいそよ風と一緒に聞こえてくる…


 「おーい!茜空~!」


 花嫁姿の親友である。

            「一緒に写真撮ろ!記念撮影!」

   いつもの様に少し強引に

             でも、少しそれが照れ隠しに見えるのは

                   長年一緒にいたからこそなのかもしれない。

  (まあ、本人には絶対に言わないけどね)

                    親友の幸せそうな姿。   
まさか、あんなに凸凹で息も合わなかった自分達が今では結婚式にまで呼んでらえるような関係になるとは…

       
                       「空が、広いな…」

               そういえば、あの日もこんな心地良い日だったな
 春。まだ少しだけ冷たい空気が残っているものの、どこかいつもと違う雰囲気があるのは新しい制服にそでを通し、
三月まで通っていた通学路とは違う道を緊張したような面持ちで歩いている新入生達がいるからだろうか。
桜が咲き誇り、優しい日差しが新入生を迎え入れてくれるこの季節。

私、紅野茜空(くれのあかね)
この春から桜咲高校の2年。

桜咲高校は名前の通り、この季節になると学校の周りにある桜の木達が、ずっと待ち構えていたかのように
一斉に花を咲かせる。
この学校はそんなに古くはなく、私達でちょうど50期生なのだそう。

 家からバスで10分、バスを降りて少し歩いたところで正門が見えてきた。
やはりというべきか、正門はとても混雑していた。
正門に入るとすぐに見えてくるのが体育館であり、新しいクラス掲示がされている場所でもあるのだ。

(自分のクラスは…あった、1組か。やっぱ、知らない人だらけだな)

 中に入ると、それぞれが自分のやりたいことをやっている。
しかし、教室の中には男子しかまだ来ていないのか、女子の姿は見当たらない。
男子と女子の人数までは確認していなかったため、とりあえず誰か女子が来るまで小説を読もうと座席表を確認し
自分の席に着いた。

 HRが始まるまであと5分というところで、3人組の女子が入ってきた。
何かがおかしいと思い、もう一度名前の書かれている座席表を確認してみる。

(これは…、何かの間違いとかじゃないよね?)

女子の名前と思われるものが、5つしか載っていないのだ。

 確か、1年生の後半に何かのアンケート調査を受けた記憶はあるが、まさかクラス分けに関係しているとは
微塵も考えていなかった。

女子がたったの5人しかいないとは…
そんなことを考えていると、最後の1人の女子が教室に緊張した面持ちで入ってきた。

(こんなことなら、テキトーにアンケートするんじゃなかったな…
                        あれ、あの子どこかで見たことあるような気が…)

自分の記憶を辿りながら、席へと戻ると後ろにいた3人組の一人が声を掛けてきた。

「ねえねえ、名前聞いてもいい?あ、自分は凛海|《りみ》!」

見た目は大人しそうに見えて、意外と元気なタイプの凛海に少し驚きながらも

「あ、自分は茜空、よろしく」

と、淡々とした言葉で挨拶をする。

凛海は後ろにいた二人の紹介もしてくれた。

「こっちは愛花|《まなか》。今は初対面だから大人しくしてるけど、実は一番ムードメーカーで、ギャグ線も強いの!

その隣にいるのは結菜|《ゆな》。自称清楚って言ってるけど、ヤンキーっぽいとこあるから、うちらの間では

清楚ヤンキーって呼んでる!みんな個性強いよね」

「そーいう凛海も、自称清楚って言ってるけど一番あんたがうるさいからね。」

付け加えのように、愛花が鋭い突っ込みを入れその様子を優しい微笑で見守る結菜。

この3人は1年の時からの付き合いらしい。
個性が強くても、お互いのバランスがちょうどいいのだろう。

(少し、羨ましいな…)

なんだか、この3人がまぶしく見えてそっと視線を逸らす。
すると今度は、もう一人の子と目が合った。
なんとなくこっちにおいでと手招きをしてみる。
彼女は頷いては、自分と凛海達の間に来て

「私は陽葵|《ひまり》。よろしくね。まさか、女子がこんだけしかいないなんて考えてなかったよ~」

と、話す前とはずいぶんと雰囲気が変わり人懐っこそうに話しかけてきた。
陽葵という名前を聞いた瞬間に、ピンときた。
なぜ自分がこの子と初対面ではない気がしたのか。

「もしかして、1年の時図書委員だった?」

そう尋ねると、予想的中。
彼女は不思議そうな表情で頷いた。

「やっぱり、自分も図書委員で図書館の先生の雑用よくやらされてたんだよね」

「え、そうなの?でも、あの先生優しいし、若いし、みんなのお姉さんて感じで私は好きだな~」

その気持ちはわかる。
図書館の先生、佐藤千紗|《さとうちさ》先生は学校の図書館司書として自分達と同じ代にこの学校に転勤してきたのだ。
学校の図書館司書といえば、年配の方達や親の年齢より少し上の人が多いイメージだが千紗先生はまだ30前半の先生なのだ。

自分はよく図書館に顔を出したり、1年の時には多読賞ももらうほどに本好きで、いつの間にか顔と名前を覚えられ
よく本の整理などの雑用もさせられるほど、今までのどの先生よりも一番といっていいほど仲が良いのだ。

それぞれが少し打ち解けたところで、始業のチャイムが鳴った。

それと同時に、担任らしき50代くらいの女性が教室内に入ってきた。

「なんか、思っていたより女子より男子のほうが多いけど…
              このメンバーで2年間同じクラスでやっていくから、まあ、とりあえず一年間よろしくね。」

担任の優しい微笑とともに、爽やかな風と優しい日差しが入ってきた。

自分と凛海は前後の席で、教室に入って一番奥の窓際の席。
他の3人とは結構離れており、グループ活動などの時は大変だなと思いながら
                              机に肘をつき、窓の外を眺める。

(改めてみると、本当に綺麗。やっぱ、この季節が一番好きだな…)

雲一つない空と、スタートを告げる桜が、風に揺られて舞っている。
 いつでも、何かが始まるのはこの季節から。

季節は巡り、また新しい季節、新しい環境、新しい仲間に囲まれて
                      いつの間にか、また新しいスタートラインに立っている。

いつも、同じスタートラインに立っているはずの自分が
             いつの間にか周りの子達に追い越され、上手くスタートを切れずにいる。

そんな不安を、雲一つない青空はかき消してくれる。

(まるで、何もかもを見透かしているみたい…)

これから起こることをわかっているかのような青空が恨めしい。

上手くいくわけない。

一度だって、この季節から成功したことなんてないのだから…

どんなに頑張ったって、結局みんな…

「ねえ、茜空って何かスポーツやってた?
               初めて会った気がしなくてさ」

後ろから小声で凛海が聞いてきた。

「一応、小学生の時からバレーやってるけど…」

そう答えると、凛海は「やっぱり?!見たことあると思ったら、そういうことか」

凛海は1人で納得したように呟いては

「実は、自分も小学生からバレーやってたんだよ!小学生の時はレシーバーだったよね?
                     中学生からのポジションってリベロだったでしょ、?」

と、きらきらさせた瞳でさらに話しかけてくる。「え、うん。よく覚えてるね、小学生のことなんて」

先生の話を右から左に流しながらも、凛海の話に耳を傾ける。

リベロというポジションは、特別だ。
あまり目立たないし、周りから見たらバレーでは小さい人がやるような
ポジションというイメージが強いかもしれない。

スパイクも打てなければ、サーブも打てない。

守るべきルールが多く、スパイクを打てる人がヒーロー的存在だとしたら
リベロはそれを支える、縁の下の力持ち的な地味な存在かもしれない。

けれど、自分はその誰かを支えてあげるような、影のヒーロー的役割に

『憧れた』

どんなに地味でも、頑張って、努力していれば…

きっと誰か一人にくらいは、自分の存在に気付いてもらえるだろうと信じていた。

何より、小さくても戦えるのだと証明したかった。

 そんなことを考えていると、いつの間にか担任の連絡事項は終わっており
係を決めるという話に切り替わっていた。

自分のクラスには、部活動生が多く集まっている。
級長という、目立つような係はすぐ決まるだろうと思っていた。
しかし、男子1名、女子1名という決まりらしく
男子はすぐに決まっても、女子はそんな簡単には決まらなかった。

5人で話し合った結果、陽葵が「私がやるよ」と名乗り出てくれた。

係が決まった後は特にやることもなく、自由時間となった。
 新しいクラスになって2週間があっという間に経ち、
                   それぞれがクラスに慣れきた頃

(なんでこうなるんだろう…
 いつかはこうなる時が来るかもとは覚悟してたけど…)

 今、クラスには女子が自分一人しかいないのだ。

なんでも、凛海達は風邪をひいてしまい、陽葵は謎である。
幸い、連絡先はみんな交換していたため、一応『大丈夫?教室入りにくい?』と
LINEだけでも入れてみる。

返信が来ることはあまり期待せずに。

すると、意外にもすぐに既読が付き

『大丈夫、入りにくいけど…(笑)
          二時間目から行くよ!』

と彼女らしいふわふわとした返信とともに、明るい言葉が返ってきた。

何か理由があるのだろう。
なんとなく、2週間も同じ教室で過ごしていると
お互いのことが少しずつ分かってくるもので
例えば、最初に凛海が言っていたように愛花は人見知りさえ無くなってしまえば
本当に明るくて、ムードメーカーで男子の中に居ても堂々としているような性格だった。

結菜は、その見た目通りふわふわとした優しい雰囲気をそのまま性格にしたような子で
けれど意外とノリも良く、むさ苦しい男子達の中に居たとしても違和感はなかった。

そして、凛海はみんなのまとめ役。
けれどちょっとしたお調子者でもあるが、そこがまた面白可愛く見えるのは
凛海本人の持ち前の明るさと男女関係なく話しかけられるようなフレンドリーさのおかげなのだろう。

陽葵に関してはまだあまりよくわかっていない。
けれど、彼女と自分はどこか似ている気がする。
どこが?と質問されるとまだ言葉に詰まってしまうのだが…

彼女、陽葵のことで分かっていることは物凄く朝に弱いということ。
毎日授業にはちゃんと顔は出すものの、どうしても遅刻してしまうということである。

まあ、遅刻してくるのは彼女だけではなく…

「また愛斗は遅刻か?圭吾もか?あいつら、何度言えば遅刻癖は治るのかね…」

というように、2年生は中だるみの時期に入る人が多いらしい。
     

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