「スティーブって、あのスティーブ・ムーア? 『Brilliant summer』の」
「ああ、そのスティーブだ」
裕の答えに、笑里は目を輝かせた。
「すごいじゃない! 世界的なアーティストが、レイナの歌を聞いていたなんて」
「ああ。あのときのラジオ中継の音源が、ネットで拡散されているらしい。スティーブのチームのスタッフがたまたま聞いて、スティーブに聞かせたらしいんだ。それで、『この子と歌いたい』っていう話になって、方々に連絡を取って、僕にたどり着いたと」
裕はソファに身を沈めた。
「でも、今のあの子に、ステージに立つことができるのかどうか……ミハルさんがいなくなったショックをまだ引きずってるからね」
「母親が急に消えちゃったんだもの、平気なわけないわよね。私たちだって、花音が亡くなったときに立ち直るまで数年かかったんだもの」
笑里は目を潤ませる。
「あの子をどう励ましたらいいのか、正直分からなくて……。レイナも、表面的には何でもないようにふるまってレッスンしてるけど」
「あきらかに元気ないからな」
「そうなのよね」
笑里は深いため息をつく。
「結局、見守ってあげるしかできなくて、歯がゆいのよね」
「今の僕たちにできるのは、そばにいてあげることだけだろうね。スティーブの話は、レイナが乗り気になったら進めることにしよう。無理強いはしたくない」
「スティーブ・ムーア?」
レイナはきょとんとした。
「そう。世界中で人気がある歌手なんだ。その人が、レイナに自分のステージで一緒に歌ってほしいとお願いしてきたんだ」
「ふうん? どんな曲を歌う人なの?」
裕はスティーブが歌っている動画を探して、見せてあげた。
スティーブは黒人で、体格のいいロック歌手だ。
高い音も楽々出すパワフルな歌声に、レイナは一瞬で惹きつけられた。一転して、バラードでは優しく切なく歌い上げる。
いくつかの動画を観た後で、レイナは「すごい……」と感嘆の息を漏らした。
「こんなにいろんな声が出るなんて。すごすぎる」
「そうだね。スティーブは元々声の質がいいんだと思う。でも、レイナもレッスンを続けたら、いろんな声で歌えるようになるよ」
「そうなのかなあ」
レイナは裕の顔を見た。
「そのステージって、ラジオで中継されるの?」
「ラジオで中継されるかどうかは分からないけど……スポンサーにテレビ局も入ってるから、テレビでは放送されるんじゃないかな」
「そっか。それなら、ママに見てもらえるかな」
裕はハッとした。
「ママはいつもレイナのことを見守ってるからって手紙に書いてあったでしょ? テレビでやるのなら、見てもらえるんじゃないかなって思って」
「――そうだね。きっとミハルさんもどこかで見てくれるんじゃないかな」
「それなら、私、歌いたい。スティーブさんと一緒に歌ってみたい」
「じゃあ、スティーブにそう伝えるよ。スティーブも大喜びすると思う」
レイナはコックリとうなずいた。
「それと、そのステージは大切な人たちに見に来てもらおう」
「大切な人たちって?」
「アミちゃんとかトム君とか。マサじいさんやジンおじさんだっけ? レイナがいつも話しているゴミ捨て場の人たちに来てもらおう。全員に来てもらってもいいと思う」
レイナの顔がパッと輝いた。
「ホントに!? ホントにいいの?」
「ああ。みんなに来てもらおう。レイナもみんなに会いたいだろ?」
「やったー!」
レイナは飛び跳ねて喜んだ。
レイナがここに住むようになって、初めて見る心からの笑顔だ。裕の顔に、寂しそうな色が浮かんだ。
「ああ、そのスティーブだ」
裕の答えに、笑里は目を輝かせた。
「すごいじゃない! 世界的なアーティストが、レイナの歌を聞いていたなんて」
「ああ。あのときのラジオ中継の音源が、ネットで拡散されているらしい。スティーブのチームのスタッフがたまたま聞いて、スティーブに聞かせたらしいんだ。それで、『この子と歌いたい』っていう話になって、方々に連絡を取って、僕にたどり着いたと」
裕はソファに身を沈めた。
「でも、今のあの子に、ステージに立つことができるのかどうか……ミハルさんがいなくなったショックをまだ引きずってるからね」
「母親が急に消えちゃったんだもの、平気なわけないわよね。私たちだって、花音が亡くなったときに立ち直るまで数年かかったんだもの」
笑里は目を潤ませる。
「あの子をどう励ましたらいいのか、正直分からなくて……。レイナも、表面的には何でもないようにふるまってレッスンしてるけど」
「あきらかに元気ないからな」
「そうなのよね」
笑里は深いため息をつく。
「結局、見守ってあげるしかできなくて、歯がゆいのよね」
「今の僕たちにできるのは、そばにいてあげることだけだろうね。スティーブの話は、レイナが乗り気になったら進めることにしよう。無理強いはしたくない」
「スティーブ・ムーア?」
レイナはきょとんとした。
「そう。世界中で人気がある歌手なんだ。その人が、レイナに自分のステージで一緒に歌ってほしいとお願いしてきたんだ」
「ふうん? どんな曲を歌う人なの?」
裕はスティーブが歌っている動画を探して、見せてあげた。
スティーブは黒人で、体格のいいロック歌手だ。
高い音も楽々出すパワフルな歌声に、レイナは一瞬で惹きつけられた。一転して、バラードでは優しく切なく歌い上げる。
いくつかの動画を観た後で、レイナは「すごい……」と感嘆の息を漏らした。
「こんなにいろんな声が出るなんて。すごすぎる」
「そうだね。スティーブは元々声の質がいいんだと思う。でも、レイナもレッスンを続けたら、いろんな声で歌えるようになるよ」
「そうなのかなあ」
レイナは裕の顔を見た。
「そのステージって、ラジオで中継されるの?」
「ラジオで中継されるかどうかは分からないけど……スポンサーにテレビ局も入ってるから、テレビでは放送されるんじゃないかな」
「そっか。それなら、ママに見てもらえるかな」
裕はハッとした。
「ママはいつもレイナのことを見守ってるからって手紙に書いてあったでしょ? テレビでやるのなら、見てもらえるんじゃないかなって思って」
「――そうだね。きっとミハルさんもどこかで見てくれるんじゃないかな」
「それなら、私、歌いたい。スティーブさんと一緒に歌ってみたい」
「じゃあ、スティーブにそう伝えるよ。スティーブも大喜びすると思う」
レイナはコックリとうなずいた。
「それと、そのステージは大切な人たちに見に来てもらおう」
「大切な人たちって?」
「アミちゃんとかトム君とか。マサじいさんやジンおじさんだっけ? レイナがいつも話しているゴミ捨て場の人たちに来てもらおう。全員に来てもらってもいいと思う」
レイナの顔がパッと輝いた。
「ホントに!? ホントにいいの?」
「ああ。みんなに来てもらおう。レイナもみんなに会いたいだろ?」
「やったー!」
レイナは飛び跳ねて喜んだ。
レイナがここに住むようになって、初めて見る心からの笑顔だ。裕の顔に、寂しそうな色が浮かんだ。