ただもう一度、君に会いたかった


「うん。ありがと。」
その後は、昔のことは気にせず思う存分楽しむことができた。
「あー、楽しかった!ほんとありがとね、澪。」
「それは全然いいんだけど、遥輝に伝えないの?自分の気持ち。」
「…うん。それに、まだ好きだっていう確信がもてないんだよね。」
「そっか。」
それ以降、澪がこの話をしてくることはなかった。
そうしてあっという間に夏休みも終盤。そんなある日、遥輝からメールがきた。
「明日予定空いてるか?」
「明日?空いてるよ。」
「良かった~。毎年神社の近くで上げてる花火あるじゃん?それを一緒に見に行きたいなと思って。」
「二人で?」
「そう。二人で。」
「うん!行きたい!」
「じゃあ明日の六時、神社に行く途中の坂の下集合で。」
「分かった。」
遥輝とのやり取りが終わったあと、私はどうしたらいいか分からず、澪に電話をした。
「もしもし。萌百、どうしたの?」
「澪~、どうしよう。明日遥輝と二人で花火見に行くことになった。」
「えっ!おめでとう、良かったじゃん。」
付き合ったわけではないので、澪の「おめでとう」という言葉に少し違和感を感じたが、気にしないことにした。澪も無意識だろう。
「うん。でも私そういう経験全然ないし、メイクとかもやったことないから、どうしたらいいか分からなくて。」
「メイクのことなら任せて!集合は何時なの?」
「六時。」
「じゃあ、三時頃萌百の家行くね。」
「分かった。待ってる。」
次の日の三時、澪は私の家に来てくれた。
「おじゃましま〜す。」
「ありがとう〜、澪。」
「うん。じゃあ早速はじめよっか。」
「お願いします!」
澪が手際よく手を動かしている。そして、メイクが終わると今度は髪をセットしてくれた。
「はい、できたよ。」
「わぁ〜、すごい!ありがとう。」
「どういたしまして。じゃあ遥輝と楽しんでね。私も今日はちょっと用事があるから、ばいばい。」
「うん。またね。」
集合場所になっている坂の下に私が着く頃には、もう遥輝が待っていた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん。俺も今来たところだから。じゃあ行こっか。」
「うん!」
花火が上がるまでまだ時間があるので、坂を登ったところにある出店をまわることにした。そして全ての出店をまわり終えた頃、花火が上がる時間になった。
「そろそろだな。じゃあ移動するか。」
「えっ。どこに?」
「ここの近くに花火がすごく綺麗に見えるところがあるんだけど、そこで見たいなと思って。」
「へぇー。楽しみだな〜。」
遥輝が言っていた場所はすごく見晴らしがいい場所だった。
真っ暗な夜空に火の花が咲き始めたころ、
「好きだ。」
花火が上がる音にかき消されそうな程小さな声で遥輝はそう言ったが、私の耳にはしっかり届いた。
でも、私は答えられない。なぜなら花火を見たとき、また昔の記憶が蘇って、ある人のことが頭に浮かんだから。
どうして。 もう過去の事なのに、忘れたいのに。私の心の中には、今でも彼がいる。何かきっかけがない限り、私は彼を想い続けてしまうだろう。
「ごめんなさい。」
私は遥輝にそう告げて、その場から走り出した。
頭では終わった恋だと分かっていても、心ではまだ諦められていない。そんな感情を抱いている。
プルルルル
そのとき、私の携帯に電話がかかってきた。
お母さんからだ。なんだか嫌な予感がする。なぜだろう。そう思いながらも、私は電話に出た。
「もしもし。」
「あっ。萌百?落ち着いて聞いてね。今、蓮くんのお母さんから連絡がきたんだけど、蓮くんが病気で亡くなったって。」
その後の会話は覚えていない。いや、聞こえない程ショックを受けていた。
身近にいた人が急にいなくなる。こんなことは映画や小説の中の話で、まさか自分の身に起こるなんて思ってもいなかった。
蓮と私は幼なじみで、最近は全く話していなかったけど、昔はいつも一緒にいた。私がずっと忘れられずにいる人、それは蓮だった。
私は蓮のことを何も聞かされていなかった。
どうやら、心配をかけないように蓮が私のお母さんに頼んで口止めしていたみたいだ。
「なんでもっと一緒にいなかったんだろう。なんでもっと、、、」
次から次へと襲ってくる後悔が、私の心を侵食していくよう。枯れることのない涙が溢れてくる。その夜は妙に月が綺麗で、それが余計に悲しかった。

「今すぐ、あの場所に行きたい。いや、行かなきゃいけない」
なぜだかそう思った。今思えば、蓮が亡くなったと聞かされ、ショックのせいで少しおかしくなっていたのかもしれない。
お父さんに無理を言って車を出してもらい私が向かった先は、夜の海。
ここは私にとって思い出の場所であり、とても大切な場所。
まだ小学生だった頃、蓮に誘われて蓮と私は海へ行った。
蓮から誘ってくれたので、自分が蓮にとって特別だと実感できた気がして嬉しかったのを、今でも覚えている。
私はまた、二人でここに来たいと心のどこかで願っていた。
でも、もうそれは叶わない。
「蓮、私を置いていかないでよ。蓮、、、」

私以外誰もいない静かな浜辺、砂浜に押し寄せては引いていく波の音、心地よい海風が無性に私を切なくさせた。
「蓮ともう一度話がしたい。」
「蓮の声が聴きたい。」
「もう一度、蓮に会いたい。」

何かの小説で読んだことがある。大事な人を亡くした主人公が、もう一度だけ会いたいと願ったことで,再会することができたというお話を。無駄なことだと分かっている。だけど、願わずにはいられなかった。私はほんの僅かな希望を胸に、心から願った。