ただもう一度、君に会いたかった

温泉から戻ってきて少しした後、蓮が部屋に来て、私を呼び出した。きっとこの前言っていた、「旅行の日、話がある。」という件だろう。そして旅館の外に出ると、「目、瞑って。」と言われ、蓮に手を引かれながらどこかへ向かった。
「目開けていいぞ。」
蓮の合図とともに開けると、飛び込んできたのは夕日のオレンジ色に染まり、キラキラ輝く海。
「わぁ、すごい!」
「ネットで調べてみたら、すごく綺麗だったから、萌百と二人で見たかったんだ。」
「うん。すごく綺麗。」
私たちは砂浜に肩を並べて腰を下ろし、蓮がぽつりぽつりと話し始めた。
「この前、話があるって言っただろ?」
「うん。」
しばらくの間、沈黙が流れる。蓮は何か言いにくいことを話そうとしてくれているのかもしれない。
決心したのか、俯いていた蓮が顔を上げた。
「実は俺、、、本当はもう死んでるんだ。」
「えっ。死んでるってどういうこと?」
予想外の話で、頭が追いつかず、考えがまとまらない。
「花火大会の日、俺は病気で死んだはずなのに、気づいたら一ヶ月前に戻ってて。って言っても信じて貰えないよな。」
蓮にも記憶があったんだ!私だけではなかったことに驚きつつ、嬉しいと思った。
「ううん。信じるよ。それに実はね、私も蓮が亡くなったって知ってるの。それに一ヶ月前に戻ったことも。」
「そうなのか!記憶があるのは俺だけかと思ってた。」
「私も自分だけだと思ってた。ところで、蓮が亡くなったのって病気のせいだよね?それは大丈夫なの?」
「あぁ。なぜか時間が戻った時にはもう何ともなかったんだ。お母さんたちには俺が病気だった記憶もないみたいで。」
「じゃあ、蓮は助かったってこと?」
「そういうこと、だと思う。」
時間が戻って久しぶりに蓮と会った朝、蓮が元気だと言ったのは本当のことだったんだ。
でもなぜだか一瞬、蓮が泣きそうな切なそうな顔を見せた気がした。
「そろそろ暗くなってきたし、戻るか。」
すぐにいつもの蓮になったから、気のせいだと思うことにしよう。
「うん。」
旅館までの帰り道、私はさっきから気になっていたことを聞いてみた。
「なんで蓮はさっきの話を私に話そうと思ったの?」
「時間が戻る前俺は死ぬ直前、萌百の顔が頭に浮かんで、後悔したんだ。もっと萌百と一緒にいれば良かった、せめて好きという二文字だけでも伝えれば良かったって。たったそれだけのことなのに俺は、その二文字さえ伝えられなかった。」
蓮も私と同じことを思ってくれていたのだと嬉しい気持ちになった。
「私も。お母さんから蓮が亡くなったって言われて、すごく後悔した。ずっと自分の気持ちに嘘をついて、逃げてた。」
「俺たち、似た者同士だな。」
「そうだね。」
今まで隠してきたことを吐き出すことができ、蓮も同じだったのだと知ることができて、肩の荷がおりたのか、足取りが軽くなった気がした。

部屋に戻ってくるなり、お母さんが私のところへやってきた。
「蓮くんとどこ行ってたの?」
ニヤニヤした顔で尋ねてくる。
「ヒミツ。」
相当気になっていたのか、「教えてくれてもいいのに。」と拗ねたような顔をする。
すると、お父さんまで「青春だな〜。」なんて言い出した。
「もうやめてよ。」
恥ずかしくなった私はそこで話を終わらせ、蓮たちも誘って夕食を食べる部屋に向かった。
夕食はとても豪華な和食で、たくさんの料理が用意されていて、食べ切れるか不安になった程だった。
美味しいご飯でお腹が満たされたため、部屋に戻る。

この旅館の窓から見える景色は私たちの住んでいる町とは全然違って、数え切れないほどの星を家族三人で見た。
「綺麗ね。」
お母さんがうっとりとした目で空を見つめている。
「そうだな。こう見ると、田舎も悪いもんじゃないな。」
お父さんの意見にはすごく共感した。
「うん。自然豊かでいいよね。」
私たちが住んでいる都会に比べて、不便だったり高校生が遊べるような場所はあまりないかもしれない。だけど、私はこの場所をすごく気に入った。緑がいっぱいで、まるで心が洗われるみたい。
家族や蓮とここに来ることができて本当に良かった。それに蓮とは二人の秘密を共有できて、さらに仲が深まったと思う。


目覚めると、お母さんやお父さんは寝ていた。まだ辺りは薄暗く、静かだ。新鮮な空気を吸いたくなって、少しの間外へ出ることにした。二人を起こさないようにそろりそろりと抜け出す。
昨日行った海岸へ足を運ぶと、そこには蓮がいて、「よお。」なんて言って涼しい顔をしている。
蓮の横に腰を下ろすと、コンクリートがひんやり冷たくて気持ちいい。
「萌百も同じこと考えてたんだな。」
「そうみたいだね。」
心が通じあっているみたいで、嬉しいと思った。
「田舎って空気綺麗だよな。そういうところ羨ましいって思う。」
「うん。うちらは都会育ちだから、なんか新鮮だよね。」
「でもまぁ、田舎で育った人たちは都会が羨ましいって思うんだろうけどな。」
すごく共感した。
「人間ってないものねだりだね。」
「あぁ、そうだな。」
話しているうちに段々と朝日が登っていき、海も染まっていく。昨日二人で見た夕焼けとはまた違った景色で、すごく綺麗。
「俺らの町じゃあこんなの見れない。」
「うん。ずっと見ていたいぐらい。」
ふと横を見ると、太陽に赤く照らされている蓮の横顔があった。こんなにも蓮の顔をしっかりと見たのは初めてで、なぜだか目が離せない。
この景色を見ている間、沈黙が流れる。だけど、蓮とだったら全然苦じゃない。好きな人といるってこういうことなんだろうか。
「もうすぐ朝飯じゃね。」
立ち上がった蓮が「腹減った〜。」とお腹に手を当てている。
「そうだね。行こっか。」
この美しい景色を背に私たちは歩きだした。
朝食は昨日の夕食とは違い、バイキングだったが、相変わらず豪華で普段は食べられないようなものばかり。選ぶのが大変なほど。
お腹も満たされたところで、お土産などを買いに行こうという話になったため、支度をしに一旦それぞれの部屋に戻った。明日は学校があるから、夕方にはもう家に着いていなければいけない。
「準備出来たか〜!」
お父さんが部屋のドアの近くで叫んでいる。
「出来たよ〜!」
私もお父さんに負けないぐらいの声量で返し、お父さんとお母さんのところへかけていく。
私たちが旅館の外に出ると、もう蓮たちが待っていた。
「ごめんね。待たせて。」お母さんが申し訳なかさそうに謝った。
私も蓮のいる場所まで行き、「ごめん。」と謝った。
こういう場面で「全然大丈夫。」と言って微笑んでくれる蓮がたまらなく愛おしい。
私たちに気を使ってか、「二人でまわってきていいよ。」とお母さんたちが言ってくれたので、甘えさせて貰うことにした。
後で蓮から聞いたが、蓮のお母さんたちにも付き合ってることがバレていたらしい。
お母さんたちが、親戚や友達などへのお土産を買ってくれているので、私たちは思いっきり観光を楽しむことにする。その土地ならではのスイーツなどを食べ歩いたり、風景の写真やツーショットも撮った。これは蓮との大切な思い出。一生大事にしようと、アルバムを開いているスマホを握りしめた。
「何見てるんだ?」
「なんでもないよ」
しばらくスマホを見つめていたら蓮が私のスマホを覗こうとしてきたので、慌ててとじた。
「なんだよ。見せてくれたっていいじゃん」
「ダメ〜」
楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。そんなことを改めて感じる。
「もうそろそろ時間だな」
夕日のオレンジ色に染まりつつある空を見つめながら、蓮は言った。
「うん」
二人で集合場所になっている旅館のロビーに向かう。
「今日楽しかったか?」
蓮が少し不安そうに尋ねてくる。
私がちゃんと楽しめていたのか心配しているのだろう。
「うん!すごく楽しかった!」
蓮を安心させるように明るく答えた。
でも、その気持ちに嘘なんかなかった。
本当に時間なんか忘れてしまうほど楽しかったんだ。
ああ、こんなに楽しい日々がもう終わってしまう、そう考えたらなんだか切ない気持ちになる。空気が綺麗で、緑があちらこちらに広がっている自然豊かなこの場所で、ずっと蓮と一緒にいたい。なんて願ってしまう。
そんなことを考えているうちにロビーに着く。
そこにはもうお母さんたちがいて、こちらに手を振っている。私たちも振り返し少し小走りでお母さんたちのいるところまで行った。
「楽しかった?」
お母さんが私の顔を見て聞いてきた。
「うん!」
私は満面の笑みで答える。
「よかった。楽しかったって顔に書いてある」
お母さんは少し安心したように言った。
いつまでもここにいても仕方がないし、明日学校があるので早く帰ろうという話になった。そして、また来た時と同じように、それぞれの車に乗り込む。
「萌百、朝どっか行ってたでしょ」
「えっ、気づいてたの!」
本当になんでお母さんはこんなにも勘がいいのだろう。今回のことだけじゃなく、私と蓮が付き合ってることもそうだ。お母さんには何でもお見通しということなのだろうか。
この二日間の思い出を頭の中で思い返していると、あっという間に家に到着した。
今日は蓮と色々なところをまわって、歩き疲れ、へとへとになった足でベッドまで行き、ダイブした。
少しうとうとしてき始めた時、部屋のドアが開きお母さんが顔を出す。
「萌百、お風呂にも入ってないんだからまだ寝ちゃだめでしょ。さっさと入っちゃいなさい」
「はーい」
重い体を頑張って起こし、シャワーを浴びる。
「萌百、ご飯は?」
お風呂から出てリビングを通り過ぎようとした時、お母さんが聞いてきた。
「今はいらない」
「そう、わかった」
自分に部屋に戻り、ベッドに再びダイブ。
そしていつの間にか寝てしまったようだ。
目が覚めると、外はもうすっかり暗く、窓から月明かりがさしていた。
眠ったことでだいぶ体も楽になり、体を動かし窓際に行く。
今日は満月だったみたい。月が綺麗に円を描いている。
窓を開け、夜風に吹かれながら空を眺めているとふと、もう一度蓮に会いたいと願った夜のことを思い出す。
あのときの月は泣きたいくらい綺麗で、切なくなるほど輝いていた。
私が願ったから戻れたのかどうかは分からないけど、蓮ともう一度会うことができ、話すことができている。あの夜の私にとって、こんなにも幸せなことはない。
それは私が神様って本当にいるんだなとはじめて思った出来事だった。
しばらくぼーっと夜空を眺めていたが、明日が学校だということを思い出し、慌ててベッドに入り再び眠りについた。