「この空間のもう一つの法則。
それは、なぜみんな別々の空間ごとに分けられるのか、ということに関係してきます。
ではどのように分けられているのか・・・それは“事象ごと”に分けられているのです」
“事象”とは何だろう?普段あまり使わない言葉なので、意味は分かってもピンとは来なかった。
そして、それを見かねたシイナさんはこう続けた。
「そうですね・・・。
例えば、同じ日の同時刻にA地点で交通事故があり、B地点でも別の交通事故が起きたとします。
どちらの事故でも死者が出て、そのどちらの人も、“ここ”に来る資格を所持していた場合、その二人は別々の空間に行きます。
まあ、それでさえ起きる確率はとてつもなく低いんですけどね。
・・・ですが、同時刻に同じ事象において死んだ二人がどちらもその“資格”を所持していたとなれば・・・」
ここまで来てようやく理解できた。
「・・・それが私たちなんですね?」
私がそう言うと、シイナさんは静かに頷いた。
なんかよく分からないけど、私たちは相当希少なパターンらしかった。
でもそれのどこが不都合なんだろう。
今の話だと、稀なだけで不都合はどこにもないように思えた。
「・・・あなたたちは二組目です」
シイナさんは、その疑問について今から説明してやる、とでも言うかのように唐突に言った。
本当に人の心を読んでいるのではないだろうかと思うくらい完璧なタイミングだった。
「少し昔話をさせてください。
と言っても数年前ですけど」
そう言ったシイナさんの表情は、愁いを帯びていた。
「数年前にもある男女が交通事故によって同時にこの空間に送られてきました。私はこの機関の創立からここで仕事をしていますが、そんなことは初めてでとても混乱しました。
しかし彼らはその時まだ中学生。
私なんかよりよっぽど混乱していたでしょう。
なのに彼らは泣き喚いたりせず、お互いに大丈夫だと言って励まし合っていました。
たまたま同じ場所に居合わせて、不幸にも同じ事故に巻き込まれてしまった見ず知らずの二人が手を震えさせながら支え合う姿を見て、私がしっかりしなければ、そう思いました。
いつもより入念に説明をして、出来るだけ細かいアドバイスまでして、何とかこの二人を事故から回避させてあげなければと奮闘しました」
「・・それで、どうなったんですか?」
私が先を促すと、シイナさんは悔やんでも悔やみきれないというような表情をした。
そして、何かを言おうとしてもうまく言葉が出ないようだった。
きっと口に出すのも辛いくらい嫌な思い出なんだろうな。
拳には力が入っていた。
「・・・いやー、無知って怖いですよね。
知らないことに対しては経験が全くと言っていいほど役に立たない。
前例がなかったために、法則の穴を見落としてしまったんです。
後から思えば、決して予測できないことではなかった。
ゆっくり焦らず、状況と法則を照らし合わせれば気付けたはずなんです。
なのに、私は・・っ・・気付けなかった・・・!
・・・冬野さん。
私はさっき、自分がやり直しをしていることを他の人に知られてはいけない、と言いましたよね?」
嫌な予感がした。
「・・・はい」
「・・・では、そのルールに縛られた二人が同じ空間から“やり直し”を始めたらどうなると思いますか?」
そう言われた瞬間、全身を寒気が駆け巡り現実から目を背けたくなった。
やっぱり、私の予感は当たっているらしい。
「それって・・・えっ?
つまり・・」
私が答えを言うのを躊躇っていると、シイナさんが首を縦に振りその先を言ってくれた。
「・・・はい。
どちらかの記憶が自動的に削除されます」
ほんとに、どうして悪い予感って当たるんだろう。
それは、なぜみんな別々の空間ごとに分けられるのか、ということに関係してきます。
ではどのように分けられているのか・・・それは“事象ごと”に分けられているのです」
“事象”とは何だろう?普段あまり使わない言葉なので、意味は分かってもピンとは来なかった。
そして、それを見かねたシイナさんはこう続けた。
「そうですね・・・。
例えば、同じ日の同時刻にA地点で交通事故があり、B地点でも別の交通事故が起きたとします。
どちらの事故でも死者が出て、そのどちらの人も、“ここ”に来る資格を所持していた場合、その二人は別々の空間に行きます。
まあ、それでさえ起きる確率はとてつもなく低いんですけどね。
・・・ですが、同時刻に同じ事象において死んだ二人がどちらもその“資格”を所持していたとなれば・・・」
ここまで来てようやく理解できた。
「・・・それが私たちなんですね?」
私がそう言うと、シイナさんは静かに頷いた。
なんかよく分からないけど、私たちは相当希少なパターンらしかった。
でもそれのどこが不都合なんだろう。
今の話だと、稀なだけで不都合はどこにもないように思えた。
「・・・あなたたちは二組目です」
シイナさんは、その疑問について今から説明してやる、とでも言うかのように唐突に言った。
本当に人の心を読んでいるのではないだろうかと思うくらい完璧なタイミングだった。
「少し昔話をさせてください。
と言っても数年前ですけど」
そう言ったシイナさんの表情は、愁いを帯びていた。
「数年前にもある男女が交通事故によって同時にこの空間に送られてきました。私はこの機関の創立からここで仕事をしていますが、そんなことは初めてでとても混乱しました。
しかし彼らはその時まだ中学生。
私なんかよりよっぽど混乱していたでしょう。
なのに彼らは泣き喚いたりせず、お互いに大丈夫だと言って励まし合っていました。
たまたま同じ場所に居合わせて、不幸にも同じ事故に巻き込まれてしまった見ず知らずの二人が手を震えさせながら支え合う姿を見て、私がしっかりしなければ、そう思いました。
いつもより入念に説明をして、出来るだけ細かいアドバイスまでして、何とかこの二人を事故から回避させてあげなければと奮闘しました」
「・・それで、どうなったんですか?」
私が先を促すと、シイナさんは悔やんでも悔やみきれないというような表情をした。
そして、何かを言おうとしてもうまく言葉が出ないようだった。
きっと口に出すのも辛いくらい嫌な思い出なんだろうな。
拳には力が入っていた。
「・・・いやー、無知って怖いですよね。
知らないことに対しては経験が全くと言っていいほど役に立たない。
前例がなかったために、法則の穴を見落としてしまったんです。
後から思えば、決して予測できないことではなかった。
ゆっくり焦らず、状況と法則を照らし合わせれば気付けたはずなんです。
なのに、私は・・っ・・気付けなかった・・・!
・・・冬野さん。
私はさっき、自分がやり直しをしていることを他の人に知られてはいけない、と言いましたよね?」
嫌な予感がした。
「・・・はい」
「・・・では、そのルールに縛られた二人が同じ空間から“やり直し”を始めたらどうなると思いますか?」
そう言われた瞬間、全身を寒気が駆け巡り現実から目を背けたくなった。
やっぱり、私の予感は当たっているらしい。
「それって・・・えっ?
つまり・・」
私が答えを言うのを躊躇っていると、シイナさんが首を縦に振りその先を言ってくれた。
「・・・はい。
どちらかの記憶が自動的に削除されます」
ほんとに、どうして悪い予感って当たるんだろう。