「そうですか。
・・ではそうと決まれば、今からお二人を過去に送ります。
戻る地点は、この“死ぬ未来”に樹形図が引っ張られる決定的な選択をした日です。
もちろん、そこで一周目と同じ選択をしたからと言って、それが死に直結するわけではありません。
回避する選択はその後にも沢山存在します。
ですが、その戻った日に一周目と違う選択をすれば同じ未来になる確率が格段に低くなることは確かです。
これはあくまで参考程度にしてください。
いいですね?
どのような選択をするはあなた方次第です」
シイナさんは、どうやら僕らのやり直しがうまくいくことを心から願ってくれているようだった。
まるで、旅に出る我が子が心配で仕方ない親のようなシイナさんの言葉に僕と未羅は顔を見合わせ、頬を緩ませた。
「あとは、最後にシンプルで且つ重要なルールをお伝えします。
それは、“自分がやり直ししていることを他の人に知られてはいけない”です。
これだけは絶対に守ってください。
いいですか?」
「知られた場合どうなるんですか?」
未羅が聞き返すとシイナさんは少し言いづらそうな顔をして、
「我々の存在を隠すため、あなた方の存在を“無”にせざるを得なくなってしまいます。
無というのは存在そのものだけでなく、生きてきた形跡や他の人のあなた方に関する記憶など、あなた方に関わるものすべてを無くすという意味です」と言った。
まあ、言っていることの道理は理解できた。
こんな機関が存在すると世の中に知られれば、世界の生死にかかわる概念がひっくり返ってしまうからだろう。
そうなると、ここに来たくて自殺する者や宗教化するものが出てきて、世界の行く末は火を見るより明らかだ。
「なるほど、自分の生きてきた形跡を無くされるのは確かに勘弁ですね」
僕が苦笑いしながら言うと、
「ですよね。
僕もできればそんなことしたくありません」
とシイナさんも苦笑いした。
「シイナさん、何から何までありがとうございました」
僕が深く御辞儀をすると、未羅も続いた。
「・・顔を上げてください。これが私の仕事なので、感謝されるようなことはしていません」
シイナさんはそんな模範的な回答をした後に、僕たちを二周目に送る準備を始めた。
「では、お二人とも二メートル以上間隔を開けて立ってください。
そして、腕を胸の前でクロスさせて力を抜いてください。
あとは、私の方でうまくやりますので」
そう言った後、シイナさんは目を閉じブツブツと何かを唱え始めた。
そして僕たちは、言われたとおりの配置についた。
「・・・空人君」
直前で不安になったのか二メートル隣でこっちを向いて未羅が僕の名前を呼んだ。
「・・・大丈夫だよ。
僕たちはただ事故を回避すればいい。
やることはそれだけだ。
あとは、何も変わらないまま今まで通り楽しく過ごそう。
あと、みんなにも自慢しようね」
僕が励ますように言うと、未羅は笑顔で頷いた。
「・・・なあ未羅。
僕は未羅のこと大好きだ。
未羅に、恋をしたんだ」
「うん。私も」
シイナさんの詠唱が徐々に大きくなっていく。
「その事実だけは何があっても変わらないから。
どうかそれだけは覚えておいてほしい」
「うん。わかってるよ」
徐々に自分の体が光り始めた。
「だから・・だからさ・・・何回も、何回でも!
もし、僕が君のこと――――――――」
「それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」
詠唱が終わり、僕の言葉を遮るようにシイナさんがお辞儀した。
ここで意識が途切れた。
最後に見た光景は未羅の優しい笑顔だった。
そして僕は記憶を無くし、二回目の二〇一七年九月四日の朝に戻った。
◆◇◆◇
「・・・あっつ」
・・ではそうと決まれば、今からお二人を過去に送ります。
戻る地点は、この“死ぬ未来”に樹形図が引っ張られる決定的な選択をした日です。
もちろん、そこで一周目と同じ選択をしたからと言って、それが死に直結するわけではありません。
回避する選択はその後にも沢山存在します。
ですが、その戻った日に一周目と違う選択をすれば同じ未来になる確率が格段に低くなることは確かです。
これはあくまで参考程度にしてください。
いいですね?
どのような選択をするはあなた方次第です」
シイナさんは、どうやら僕らのやり直しがうまくいくことを心から願ってくれているようだった。
まるで、旅に出る我が子が心配で仕方ない親のようなシイナさんの言葉に僕と未羅は顔を見合わせ、頬を緩ませた。
「あとは、最後にシンプルで且つ重要なルールをお伝えします。
それは、“自分がやり直ししていることを他の人に知られてはいけない”です。
これだけは絶対に守ってください。
いいですか?」
「知られた場合どうなるんですか?」
未羅が聞き返すとシイナさんは少し言いづらそうな顔をして、
「我々の存在を隠すため、あなた方の存在を“無”にせざるを得なくなってしまいます。
無というのは存在そのものだけでなく、生きてきた形跡や他の人のあなた方に関する記憶など、あなた方に関わるものすべてを無くすという意味です」と言った。
まあ、言っていることの道理は理解できた。
こんな機関が存在すると世の中に知られれば、世界の生死にかかわる概念がひっくり返ってしまうからだろう。
そうなると、ここに来たくて自殺する者や宗教化するものが出てきて、世界の行く末は火を見るより明らかだ。
「なるほど、自分の生きてきた形跡を無くされるのは確かに勘弁ですね」
僕が苦笑いしながら言うと、
「ですよね。
僕もできればそんなことしたくありません」
とシイナさんも苦笑いした。
「シイナさん、何から何までありがとうございました」
僕が深く御辞儀をすると、未羅も続いた。
「・・顔を上げてください。これが私の仕事なので、感謝されるようなことはしていません」
シイナさんはそんな模範的な回答をした後に、僕たちを二周目に送る準備を始めた。
「では、お二人とも二メートル以上間隔を開けて立ってください。
そして、腕を胸の前でクロスさせて力を抜いてください。
あとは、私の方でうまくやりますので」
そう言った後、シイナさんは目を閉じブツブツと何かを唱え始めた。
そして僕たちは、言われたとおりの配置についた。
「・・・空人君」
直前で不安になったのか二メートル隣でこっちを向いて未羅が僕の名前を呼んだ。
「・・・大丈夫だよ。
僕たちはただ事故を回避すればいい。
やることはそれだけだ。
あとは、何も変わらないまま今まで通り楽しく過ごそう。
あと、みんなにも自慢しようね」
僕が励ますように言うと、未羅は笑顔で頷いた。
「・・・なあ未羅。
僕は未羅のこと大好きだ。
未羅に、恋をしたんだ」
「うん。私も」
シイナさんの詠唱が徐々に大きくなっていく。
「その事実だけは何があっても変わらないから。
どうかそれだけは覚えておいてほしい」
「うん。わかってるよ」
徐々に自分の体が光り始めた。
「だから・・だからさ・・・何回も、何回でも!
もし、僕が君のこと――――――――」
「それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」
詠唱が終わり、僕の言葉を遮るようにシイナさんがお辞儀した。
ここで意識が途切れた。
最後に見た光景は未羅の優しい笑顔だった。
そして僕は記憶を無くし、二回目の二〇一七年九月四日の朝に戻った。
◆◇◆◇
「・・・あっつ」