「よーし、着いたぞぉ!」
「着いたねぇ」
「とりあえず、この荷物どうすっかなぁ?」
新幹線が京都に到着し、改札を抜けた二人は駅前ロータリーで立ち止まっていた。
「大きい荷物じゃないけど、ずっと持って歩くと考えたら邪魔だねぇ」
もともと連休を利用しての2泊3日の行程なので旅支度も大きなものではない。
持ち歩くには少々大きいけれど持てないサイズではない。ホテルに預けてしまうか悩むところだ。
「どうせお土産とか買うんだよねぇ。だったら預けた方が楽だよ。そのほうが身軽で回れるしぃ」
そういう茜音の提案で、宿泊するホテルに連絡を取ってみる。
チェックインにはまだ早いけど、預かってもらえるとの答えをもらい、駅前を少し外れ、15分くらい歩いたところにある観光兼ビジネスホテルに向かった。
フロントで尋ねると、荷物の預かりどころかチェックインまでできるとのことで、遠慮なく部屋に行くことにする。
「ツイン1部屋だけどいいよね?」
「もちろんそれで十分!」
ふたつのベッドが並んだ部屋に入り荷物を降ろす。
「これで身軽に行けるね」
荷物の中から手持ち品を取り出して茜音が振り返ると、菜都実がベッドに座り込んで外の風景を無表情で眺めていた。
「菜都実? 大丈夫? 少し休む?」
「おう? 平気平気。いつでも出られるぞい!」
すぐにいつもの顔に戻るけれど、しばらくぶりの遠出だ。最近の心労も重なっている親友に無理はさせられない。
「うん。今日は近場にしようよ」
駅の案内所でもらってきた観光マップを見て、これからの時間で回れそうな場所をリストアップする。佳織ほどの精度はないけれど、茜音もこれまでの経験からそれなりに行動範囲を絞り込めるようになってきていた。
二人とも中学の修学旅行で京都と奈良に来ている。そんなこともあり、寺院などの参拝は三十三間堂を本堂とする蓮華王院や、清水の舞台のある清水寺、銀閣のある東山慈照寺などを中心に必要最低限にして、学校の修学旅行当時には時間を割くことができなかった参道の土産店などをじっくり見ていくことに決めた。それには菜都実のリクエストがあったからでもある。
「すまんなぁ、本当は茜音の探索旅なのに、よけいなのがくっついてきちゃって」
結局、清水寺から三年坂をとおり祇園地区から市内の中心部の京都御所へと足を伸ばした結果、明日は金閣寺と嵐山方面を残すだけとなった。
「なんか忙しかったけど、本当ならこういう修学旅行がよかったね」
夕日も落ち、鴨川の土手の上をホテルに向かいながらのんびり歩いていく。
「あたしも、茜音と一緒にまた来れるなんて思ってなかった。そうだなぁ。あたしも修学旅行をやり直したって感じかも。茜音は大丈夫なんか?」
「ん? 疲れてないよぉ。今回は歩きまわれるように用意してきたし」
「そうなんかぁ? いつもと変わらないっつーか、寒くないの?」
1月、京都の観光としてはオフシーズンになる。冷え込みもそれなりにあるので、二人とも服装には気を付けようと事前から段取りはしていた。
それなのに、茜音の服は普段とあまり変わっていないように見えていたから。
普段あまり着衣にこだわりのない菜都実もせっかくの機会だからなのか、初めて見るグレーの厚手のコートを着ている。内側は丸襟のニットのセーターを着て下はズボンという装備だ。
そんな菜都実が寒そうと思った茜音の装備と言えば、襟にファーが付いたオフホワイトのハーフコートはよしとして、その中は確か白いブラウスに上下をあわせたベストとスカートだったはず。靴がやはりファーを付けたショートブーツだったとしても、下半身は冷え込んでしまっていてもおかしくない。
「大丈夫だよぉ。このくらいじゃ大したことないし」
「そうなん? でもそれオーバーニーじゃないでしょ?」
「うん、普通のハイソックス。その下に厚手のストッキング重ねてるから、このくらいなら全然平気」
「そっかぁ……。茜音はズボンはかないもんね」
「そうかもねぇ。小さい頃からずっとだから……」
今度は茜音がふと遠くを見るような視線をして立ち止まる。
「どうした?」
「ほぇ? なんでもなぁい。はやく帰ってごはんにしよ?」
「それ賛成だ!」
坂の上に建物の姿が見えて、二人のおなかの虫が同時になる。
思わず見詰め合って、ひとしきり笑うと坂を走り出した。