「茜音ちゃん、また謝らなくちゃね……」
「ほえ?」
本当は客用の布団も用意してくれていたのだけれど、千夏は茜音を彼女のベッドに招いた。
「だって、茜音ちゃんの話、聞けば聞くほほどすごくって……。それなのに、なにも知らないで私ったら……」
「え? 全然謝ることじゃないよ。それにわたし、自分のことをそんなふうに思ってないもん。必要なことなんだって思ってる」
「そうなの?」
「それに、連絡がとれないくらいに離れたから、わたしの気持ちが変わらなかったんだと思う……。わたしの見た目が昔から変わらないのも、そういうのがあるんだよね……」
茜音の外見は、身長こそ大きくなっているものの、服装の趣味や髪型などは当時から大きくは変えていない。
育った環境もあるけれど、やはり茜音の中では当時と変わってしまうことによって、あの日が風化してしまうことを避けたいというのが根底にある。
「そうなんだぁ。やっぱり意識してたんだぁ。そうだよねぇ……」
考え込む千夏。茜音はふと帰りがけに香澄が言い残していったことを思い出した。
「ねぇ、千夏ちゃんは和樹君との事はどうなの?」
「へっ? な、なによぉ!?」
突然自分のことに話がふられてしまい、薄明かりの中でもはっきり分かるほど千夏は動揺している。
「ごめんごめん。でも、幼なじみなんだよね……。いいなぁ……」
「そうかなぁ。いつも邪魔くさくいるから、茜音ちゃんみたいな思い出なんかないよっ」
ぷいとそっぽを向いてしまう千夏。本人が気づかないだけで、茜音には千夏の気持ちは十分に感じられた。
彼が現れてからの千夏は、本人としては周りに気づかれないようにしているものの、どこかわざとよそよそしくしている。
きっと気付かれていないと思っているのは本人だけだろう。
「わたしは……、もう幼なじみも誰も今はいない……。だから、千夏ちゃんが羨ましいな……」
「茜音ちゃん……」
さっき、自分のことを語ったときの茜音のことを思い出すと、千夏にはなにも言えなくなってしまう。
「私だって、和樹のことは気になってるよ……。でも、そう言う雰囲気じゃないんだぁ……」
「そう?」
「うん。だって幼なじみってそう言うものじゃない? 彼氏とか彼女って雰囲気にはならないもん……」
つきあいが長くなればなるほど、いわゆる恋人という雰囲気から外れていってしまうというのは良くあることで、それが幼なじみとなればなおさらかもしれない。
「そうだったなぁ。でも、お互いそれがなんとなく分かるってものだと思う。健ちゃんともそんな感じだったなぁ……。好きとか嫌いじゃなかったよ……。家族だったな……」
文字通り、突然のことで肉親を失った茜音には、彼の存在はまさしく家族だったから。
「そっか……。私も和樹とそんな感じになれればいいな……」
しばらくして千夏がそう答えたとき、早朝からの長旅だった茜音は静かな寝息を立ててしまっていた。