「さてぇ、次かぁ……」

 窓の外はずいぶん前に暗くなり、今は列車の窓からの明かりが届く範囲が見えるだけである。車内はかなり空いていて、乗り込んだときは通勤客などで座る場所も確保できなかったけれど、今では空席の方が目立つ。

 あのあと、山形新幹線で一度大宮まで戻り、その後再び北陸新幹線で北上。1時間ばかりの乗り換え時間を待ち、さらに小海線で1時間ほど揺られて目指す駅に到着した。

「ここが最後に降りる駅かぁ」

 同じ列車から降りたのは茜音ともう一人の学生の二人だけ。駅のホームを照らしている明かりの他は、周囲の家の明かりだけ。駅前の街灯が照らす範囲を外してしまうと、月明かりだけが頼りとなってしまう。

 理香の話では駅にその人物が迎えに来てくれることになっていた。しかし駅前の広場を見渡してもそれらしい人物は見あたらない。

 仕方なく駅舎の中に戻る。

 以前は有人の駅だったのだろう。今でも時々使われているような事務所の建物があり、待合室もきれいに整備されている。これまで無人地帯を渡り歩いていた頃の駅に比べれば居心地は格段にいい。

 しかし、時間は夜の8時を回っている。先ほど乗ってきた列車は、この先の清里や小淵沢に向かうための最終列車だったこともあり、もう先に進むことはできない。あと30分ほどすると、今度は小諸方面への最終列車がやってきて、午後9時にはこの駅は眠りにつくことになる。明かりはまだついているが、さすがに一人でここにいるというのは心細い。

 理香からその人物に連絡してくれているという話を信じて、そこで待つしかなかった。

 茜音が駅に到着して1時間ほどしたとき、1台の車が入ってきた。

「ごめんなさい。遅くなって。あなたが片岡さんね?」

 連絡をしてくれたという理香と同い年くらいの女性が慌てた様子で迎えに来てくれた。

「はいそうです。突然ご迷惑をおかけします」

 考えてみれば、この地に来るのを決めたのは今日の午後。しかも突然の他人宅への訪問となる。準備もあっただろうし、迎えに来てくれたことを考えたら、1時間遅れだとしてもありがたかった。

「ちょっと、予定外の用事が入っちゃって。乗って。とにかく家に行きましょう」

 彼女が乗ってきたオフロードタイプの軽自動車の助手席に乗る。その車は彼女専用なのだろう。内装も女性らしくきれいに片づけられている。

 あらためてその女性を見直す。歳は理香が同級生といったとおり、二十代半ばと言ったところか。

 ショートカットの髪は二重まぶたのぱっちりした顔によく似合っている。さっき車から降りたところでは比較的小柄な方に入るかもしれない。長袖の白いブラウスに薄いピンクのパンツ。ナチュラルメイクに抑えてあるところは、茜音のチェックからしてみれば、比較的話しやすそうなイメージに見えた。

「どうしたの? なんかついてるかなぁ?」

「はうっ、なんもないですぅ」

 彼女は茜音を見て笑った。

「理香の言ったとおり、今時珍しい、かわいくて素直な子ねぇ。これでも私だって数年前間では東京にいたんだからね」

「そうなんですかぁ」

 車は駅前を出発し、国道をすぐにそれて川を渡り、山の方へ向かった。

「本当に遅れてごめんね。私は大宮早月(さつき)って言うの。理香とは学校で同じ専攻だったから」

 彼女はそう話しながら曲がりくねった山道をあがっていく。最初はどうして軽自動車にオフロードのタイプかと思ったが、確かにこういう道を毎日通るのであれば普通自動車では心細い。

「片岡茜音です。本当に突然ですみません…」

「いいのよ。理香が訪ねてきたときはびっくりしたけどね」

 電話でも、理香たちは二人でここまでやってきて、情報を確認してくれたのだと言っていた。

「さぁ、着いたわよ。まだ主人が帰ってきていないから、家の中でもう少し待っていてね」

 早月は茜音の荷物を下ろして玄関まで持ってきてくれた。山の中にある一軒家で、庭からは村や川が見下ろせる。周囲にも明かりが少ないおかげで、夏空に星がたくさん見えた。

 玄関の中までキャリーケースを運んでもらったので、茜音もそれに続いた。