『最初から一緒に整理して見ようよ』
相手が茜音ひとりだけなら遠慮もいらない。
千夏は異変が起き始めた辺りのことからを話し始めた。
「結局、一度疑い出しちゃった私が悪いのかもしれないけど……」
小さく呟く千夏。よく考えてみれば、本当に和樹が千夏のことを裏切ったのか、その証拠となるものといえば、千夏が自分で見たあのシーンでしかない。和樹当人に事情を聞いたわけでもない。
「そっか……。千夏ちゃんの前で悪いかもしれないけど、和樹君って千夏ちゃんのことあれだけ惚れてるんだもん……。そう簡単に、しかも香澄ちゃんに心変わりするとは思えないんだよねぇ……。それだけのことができるとは思えない……」
知らない人が聞けば、和樹をけなしているようなセリフに通常はなってしまうものを、今の状況では茜音の方が和樹の性格を冷静に判断しているようにみえる。
「内容は分からないけど、香澄ちゃんに何かあったか、起きることになって、それは千夏ちゃんにはまだ話せないことで。仕方なく身近にいた和樹くんに持ちかけたって思う方がわたしには自然に思えるかなぁ……」
「香澄に……?」
顔を上げた千夏は不思議そうな顔をしてる。
「だって、和樹君と千夏ちゃんが本当にお互いを大事に付き合っているのを一番知っているのは香澄ちゃんじゃない? そんな香澄ちゃんが千夏ちゃんを目の前で裏切ることなんか出来ないと思うんだよねぇ……」
「そうか……」
香澄と千夏が出会って相当の時間が経つ。なかなか外部からの転入が少ない土地で、転校してきた当初から一緒の香澄のことを一番よく理解しているのは他ならぬ自分かもしれない。
「そうだよね……。私、二人になにも聞いていなかった……。最低だな……私……。失格だよ……」
今度は自分を責め始めてしまった千夏の肩を茜音はそっとたたく。
「それを言うなら、わたしだってどうなるか分からない……。健ちゃんのこと本当にあと半年以上も待てるのかな……。って、こんなの考えること自体最低だと思わない……?」
「でも、それは茜音ちゃんのは特別だよ……」
「うん……。そう考えてもおかしくないし、誰もそのくらいじゃ責めないよね……。それと同じ。千夏ちゃんだけが悪いわけじゃないと思うよ。でも、わたしにはどう見ても和樹君が千夏ちゃんを理由もなく見捨てるとは思えなくて……。千夏ちゃんだってそう思ってるから残してきた和樹君のことが心配なんでしょ?」
「う、それはぁ……」
不意を突かれて赤くなる千夏。
茜音に言われたとおりだ。もの場の弾みで飛び出してきたのはいいが、時が経つに連れ、千夏の頭の中には和樹のことばかりが浮かんでいる。
茜音はそんな千夏を見て微笑む。
「どんなにうまくいっているカップルだって、いつも順調とは限らないよ。時々は気まずくなったり、すれ違ったりして……、お互いのことがもっと好きになっていくんだと思うよ。以前はもっと二人とも素直だったじゃない?」
「うん……」
言われなくても分かっていた。出会ってもう十数年の付き合いとなる和樹。幼いときから不器用ながらも自分をいつも見ていてくれた。
お互いに意識しあったのはずっと後のことだったけど、その時も千夏のペースに合わせてくれていた。
和樹には浮ついた話が起きたことはなかった。つまり周囲は彼の隣に落ち着くの千夏なのだと認識していることの現れでもある。
きっと半年前の告白がなかったとしても、いつかは同じ所にたどり着いたのではないかと思っている。自分の中から彼がいなくなることは考えられない。
「うん……。もし私が悪いなら……、謝らなくちゃならないし……。もう一人になるのは嫌……」
言葉に出してあらためてはっとする。この一件が収まったら、もっと仲良くなれるかもしれない。その前にもう一度お互いの気持ちを確かめることが必要だと思う。しかし、それも怖かった。
もし、今回の一件をきっかけに一人になることを言い渡されてしまったら、自分はそれに耐えられるのだろうか……。新しい出会いを見つけるどころか、そのショックから立ち直ることすら出来ない。
これまで考えることを避け続けてきたことが頭をよぎってしまう。
千夏の心を見通して安心したように、茜音の顔から緊張感が消えた。