「千夏ちゃん、もうすぐ降りるよぉ」
隣に座っている茜音の声でハッと目が覚める。
電車の中は混雑する区間を過ぎたようで、空席も目立つほどになっていた。
「へ? いつから寝ちゃってた?」
「乗ってすぐに……」
「ごめん!」
まさかの久しぶりの再会で、電車に乗ったとたんに寝てしまったとは、せっかくせっかく迎えに来てくれた茜音に申し訳ない。
「いいよぉ。疲れたでしょぉ。夜行って緊張してたりすると、かえって眠れないもんなんだよねぇ。それと朝ごはんまだでしょ? うちで用意してもらってるから、一緒に食べよ」
電車を降り茜音の家への道を歩く。千夏は改めて親友が迎えに来てくれたことを感謝していた。通勤・通学時間を過ぎてしまえば、この辺の学校のものではないにせよ、自分の制服姿は目立ちすぎてしまう。
茜音が朝食を自宅に設定したのも、それを考えてのことだと気が付いた。それに、茜音自身もこんな時間に学校に行かないこともあるのか、目立つ大通りを避けているのが分かる。
駅から歩くこと15分ほどで、二人はマンションの前に到着した。
「ただいまぁ」
玄関を茜音が開けた瞬間、千夏は一瞬緊張した。もしかしたら、自分を連れ戻しに誰かが来ている可能性があったのをようやく気づいたからだ。
「おかえり茜音。お友達は一緒?」
しかし千夏の心配は不要で、返ってきたのは親しげな女性の声だけだった。
「いるよぉ。千夏ちゃん、早く上がって」
「お、お邪魔します……」
茜音に腕を引っ張られて、玄関から部屋に上がった。
「まぁまぁ……、遠いところお疲れさま。すぐに朝ごはんにするわね。茜音、千夏さんの着替えを用意してあげなさい」
「はぁい」
あまりにも緊張感がなく普通に友達が来客で来たときのような違和感のない会話に、逆に千夏の方が拍子抜けしてしまう。茜音の母親への挨拶もそこそこに、彼女の部屋に通された。
「狭くてごめんねぇ……。千夏ちゃんとこみたいに一軒家じゃないから……」
茜音はタンスやクローゼットの中からいくつか服を取り出している。
「茜音ちゃん、ずいぶんあちこちに行ったんだね……」
千夏は部屋を見回して言った。
机の上や棚、壁にもいくつかフレームが置かれ、その中に各地で撮ってきた写真が収まっている。
そこに一緒に写っている人物がそれぞれ違うことも、茜音が自分たちの場所に来た後にも各地を駆け回っていることが十分に分かるものだ。
「うん。でもまだ見つかってないんだぁ……。あ、とりあえず服ね。たぶんサイズ合うと思うけど……。下着は新品だから、机の上にハサミ置いておくね。合わなかったらあとで買いに行くからちょっと我慢してねぇ 。着替え終わったら朝ごはんにするよぉ」
そこまで一気に話し終えて、腕に抱えている一式をベッドの上に置くと、茜音は部屋を出て行った。