「へぇ、茜音って私服になるとお嬢様なんだねぇ」

「そ、そんなことはないよぉ」

「だって、学校の制服を着ているときとは雰囲気違うじゃない。部屋のインテリアだってみんな結構するよこれ?」

 菜都実は部屋の中を見回していた。

 あの初日のクラス発表のあと、同じ教室で再会した三人は、すぐに打ち解けた。

 もともと受験の時から茜音の受験番号を気にしていた佳織に、これまでの様子を見ていて、悪気はないけれど面白そうな子という認識でいた菜都実。

 同じ出身中学の子からも離れて独りでいた茜音には新しい友人を作れるか不安も大きかったから、二人が差し伸べた手をありがたく受け止めていた。



「はうぅ、なんか変かなぁ?」

 まだ授業が本格化する前の土曜日、自分の部屋に菜都実と佳織の二人を招き、お茶会を開くことになり、二人が彼女の部屋に入っときに発したのが冒頭の言葉だった。

 さすがに学生の身分だけあって、目が飛び出すような価格のものではないが、佳織などが見ても茜音のセンスの良さは分かった。

「いや、嫌みとかじゃなくて、こんな女の子が身近にいたんだなぁって思って」

「そっかなぁ?」

「ほら、最近フリル付きの洋服とかがいろいろ雑誌とかにも載ってるけど、本当にそれが似合う人って見たことなくてね」

「あうぅ。そっかぁ。最近流行ってるみたいだもんねぇ」


 茜音の私服を見るまでもなく、色はそれほど派手ではないがフリルやレースを使った小物が好きだとわかる。それだけでなく佳織が言ったように、無理が無く自然に身に付いている同年代を見るのは二人にとっても初めてだった。

「でも、みんなから色々言われちゃうから、他の人と一緒の時はあまり着ないようにしていたし……、もう少し大人っぽくしなきゃダメかなぁって……」

「いや、いいんじゃない? その髪型だって似合ってるし」

「ほんとぉ?」

 佳織は気づいていた。茜音の幼げとも言える独特の雰囲気というのが、彼女の髪型や言い回しから来ているものだと言うことだ。

 左右のこめかみ上辺りから細めの三つ編みにして、あとは艶のあるストレートの髪を後ろに下ろすのは、小さい女の子にはよく見かけても高校生になった同年代には見かけることは少ない。でも、茜音はそれが服装同様に自然と似合っていた。

「変えなくても大丈夫かなぁ……?」

「必要ないんじゃない? 似合ってるし」

 茜音の顔がほっとしたように見えた。やはりこの髪型には深い思い入れがあるのかもしれない。

「そんなに心配?」

 そこまで言ってもなかなか自信が持てないのは、やはり何かありそうだ。

「ねぇ、心配だったら理由を話してくれれば、ちゃんと相談に乗るよ?」

 佳織が紅茶をすすりながら促すと、茜音は急に重くなってしまった口を開き始めた。