「そうですか……、双子の妹さんを……」

 美弥はテーブルを挟んで座っている菜都実に声をかけた。

「情けない話です。そんなとき、なんもできなかった。双子なのに、姉なのに……。結局あの子の役に立てなかったんです」

 茜音と真弥の二人を見送ったあと、美弥と菜都実の二人は嵐山を回り、市内中心部に戻ってきていた。

 昼食をとりながら、お互いのことを改めて自己紹介した二人。最初に菜都実は美弥に取り乱したことを謝り、これまでのことを自分から打ち明けた。

「そんなことはないと思います。それだけ菜都実さんを慕っていたんですから、いつまでもそれを気にしすぎることはないと思うんですよ」

 自分は家族を亡くしたことはまだないけれどという前置きをした上で続けた。

「みんなそう言ってくれる。でも、あたしは由香利を旅行に連れ出してやることすらできなかった。去年のことだって、言い出したのは茜音。ほんと、茜音は凄いよ」

「私も、真弥に茜音さんのことは教わりました。最初はずいぶん凄いこと考える人だなって思って、まぁ真弥が憧れているだけなら、それはそれでいいかなって」

「それはそうだよねぇ。普通あんな企画考えついたって、テレビ局じゃないんだからまともに考える方がどうかしてるとは思うよ」

 たまたま高校で知り合い、一緒に企画を立てたからこそ、茜音の行動を無条件で応援することができるけれど、客観的に考えたら美弥のような反応が自然だ。

「茜音さんはこれまで、いろんな人と会っているかと思うんですけど、きっと他の人も同じように茜音さんを実際に見るまでは信じられないでしょうね。でも、一目見てしまうと、それまで冗談だと思っていたものがどっか行っちゃうんですよ」

「茜音はいつも誰とでもそう。不思議だよねぇ。誰とでもうち解けられるのは茜音の特技みたい。でもそんな茜音だから……、あたしも世話になりっぱなし。由香利も茜音に会えてよかったってずっと言ってた。まぁ、ちょっと遅かったけど、あたしができたせめてのことかなぁ」

 菜都実は、美弥から視線をはずし、窓の外を見やった。

「美弥さん、会ったばかりで他人で年下のあたしが言うのもなんだけど、真弥ちゃんは幸せだと思う。美弥さんも伸吾くんも大切にしてくれているのが分かるから……。それを無くさないように頑張ってね……」

 美弥は分かっているというようにうなずいた。

「真弥のいない生活なんて考えられません。あの子のことは私が守ります。私も真弥を失いかけたことは何度もあります。そのたびにあの子の存在の大きさに気づかされるんです。真弥は気づいていないかもしれないけど……」

「そうだね。正直羨ましい。あたしは結局由香利になんもできなかったのが、この後もずっと引っ張っていくと思うんだよなぁ……。あたしみたいな後悔はしないようにね」

「はい。気をつけておきます。私は由香利さんにお会いできなかったんですけど、きっと菜都実さんがお姉さんでよかったと思ってるはずです。だから、そんなに自分を責めないでくださいね。私も真弥に今でも言われ続けてるから」

「お互いダメな姉さんたちだねぇ」

「ほんとです」

 二人は軽く笑って店を出た。